目次
はじめに
対物から対人へ、というのは2014年の薬局ビジョンで示され長い年月が経ちましたが、まだ道半ばです。
薬剤師が対人業務を行う上で、必要となってくるスキルとして、医師と共通の言語で話すことというのが重要だと思っています。
医療の現場での、共通の言語はエビデンスです。
日本の医師に実施したアンケート調査によると、医師が薬剤師と議論する際には、半数くらいの医師が薬剤師に大規模臨床試験の結果くらいは知った上で話してほしいと回答しています。(日本農村医学会雑誌 69.1 (2020): 29-34.)
では、薬剤師は医学論文を読んでいるのかというと、ほとんどの薬剤師は読んでいないという結果がでています。
今後、薬剤師に求められる対人業務を円滑に行うために、この記事では薬剤師なら知っておいたほうがいいと思う臨床研究の概要を紹介します。
論文の概要について
今回、紹介する論文は以下です。
Holman RR, Paul SK, Bethel MA, Matthews DR, Neil HA. 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1577-89. doi: 10.1056/NEJMoa0806470. Epub 2008 Sep 10. PMID: 18784090.
どんな論文なのか?
UKPDS参加者において、厳密な血糖管理による微小血管障害のリスク低減が試験終了後10年間も持続するかを調査し、厳密な血糖管理が大血管障害に対して長期的な効果を持つかを検証した。これはUKPDSのpost-trial monitoring研究です。
論文のPICO
論文のPICOは以下の通りです。
実施国:イギリス
実施期間:不明
研究デザイン:ランダム化比較試験
P:新たに診断されたタイプ2糖尿病患者5102人のうち、4209人
I:集中療法(過体重患者ではメトホルミン、そうでない患者ではスルホニル尿素剤またはインスリン)
C:従来療法(食事制限)
O:糖尿病関連エンドポイント、心筋梗塞、死亡、微小血管疾患などのリスク減少
論文の結果
論文の結果は以下の通りです。
アウトカム指標 | スルホニル尿素剤・インスリン群のリスク減少 | メトホルミン群のリスク減少 |
---|---|---|
任意の糖尿病関連エンドポイント | 9% (P=0.04) | 21% (P=0.01) |
心筋梗塞 | 15% (P=0.01) | 33% (P=0.005) |
すべての原因による死亡 | 13% (P=0.007) | 27% (P=0.002) |
微小血管疾患 | 24% (P=0.001) | 不明 |
批判的吟味
- 糖化ヘモグロビン値の違いが1年後には失われたため、継続的な血糖コントロール効果の評価が難しい。
- フォローアップ期間中、元の割り当てられた治療法を維持する試みがなかったため、治療法の遵守や効果についての情報が不足している。
- 観察されたリスク減少の大部分は、10年間の追跡期間中に浮かび上がったため、追跡期間が長ければさらなる効果が観察される可能性がある。
- 微小血管疾患のリスク減少に関して、メトホルミン群のデータが不明であり、比較ができない。
- 研究の結果は新規診断された2型糖尿病患者に限定されており、すでに治療が開始されている患者に対する効果については不明である。
まとめ
今回は、UKPDS80について最低限の内容を紹介しました。
本論文については、以下の内容だけ最低限知っておいていただければと思います。
- UKPDSに参加した糖尿病患者の10年後を再調査した研究です。
- 対照群と比較して、血糖コントロールの差はなくなっていたが
最後までお読みいただきありがとうございます。
その他にも薬剤師に知っておいてほしい医学論文を紹介していますので読んでいただければ幸いです。