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ベルソムラとデエビゴ、CYP3A4阻害薬の影響を強く受けるのはどっち?
さて今回はネタ企画です。知っていても知らなくても臨床現場ではあまり困らない内容です(笑)
ベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボレキサント)、どちらもオレキシン受容体拮抗薬の不眠症治療薬です。また両剤ともにDDI(drug-drug interaction)でCYP3A4阻害薬と併用することでCmax、AUCの上昇することは周知の事実かと思います。
では、 ベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボレキサント) 、どちらのほうがCYP3A4阻害薬との影響を強く受けるのでしょうか?
Twitterのアンケート機能を用いて、薬剤師の認識を調査してみました。
るるーしゅ
Twitterでは ベルソムラ(スボレキサント) と回答する方が多いようですが、正解なのでしょうか?
それでは、添付文書で確認していきましょう。
ベルソムラの添付文書より
それではまずベルソムラ(スボレキサント)の添付文書から、CYP3A4阻害薬との相互作用に関係しそうなところを抜粋していきます。
CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、ネルフィナビル)を投与中の患者
用法及び用量に関連する使用上の注意
CYP3Aを阻害する薬剤 (ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等) との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがあるため、これらの薬剤を併用する場合は1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
スボレキサントは主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝される。また、弱いP糖蛋白 (腸管) への阻害作用を有する。
併用禁忌
(併用しないこと)
1.
薬剤名等
**CYP3Aを強く阻害する薬剤
イトラコナゾール
イトリゾール
ポサコナゾール
ノクサフィル
ボリコナゾール
ブイフェンド
クラリスロマイシン
クラリシッド
リトナビル
ノービア
ネルフィナビル
ビラセプト
臨床症状・措置方法
本剤の作用を著しく増強させるおそれがあるため、併用しないこと。
機序・危険因子
スボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを強く阻害し、スボレキサントの血漿中濃度を顕著に上昇させる。
併用注意
(併用に注意すること)
薬剤名等
3.CYP3Aを阻害する薬剤
(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)
臨床症状・措置方法
傾眠、疲労等の本剤の副作用が増強するおそれがあるため、併用する際には1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。〔「用法及び用量に関連する使用上の注意」の項参照〕
機序・危険因子
スボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを中等度に阻害し、スボレキサントの血漿中濃度を上昇させる。〔「薬物動態」の項参照〕
4.薬剤名等
CYP3Aを強く誘導する薬剤
(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)
(2) スボレキサントの薬物動態に対する併用薬の影響
1) ケトコナゾール
本剤 (4mg単回) とCYP3Aを強く阻害するケトコナゾール (400mg 1日1回経口反復) を併用した際、スボレキサントのCmax及びAUCは23%及び179%増加した。
2) ジルチアゼム
本剤 (20mg単回) とジルチアゼム (240mg 1日1回反復) を併用した際、スボレキサントのCmax及びAUCは22%及び105%増加した。
3) リファンピシン
本剤 (40mg単回) とリファンピシン (600mg 1日1回反復) を併用した際、スボレキサントのCmax及びAUCは64%及び88%減少した。
デエビゴ(レンボレキサント)の添付文書から
デエビゴ(レンボレキサント)の添付文書から、CYP3A4阻害薬との相互作用に関係しそうなところを抜粋していきます。
用法及び用量に関連する使用上の注意
CYP3Aを阻害する薬剤との併用により、レンボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠等の副作用が増強されるおそれがある。CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)との併用は、患者の状態を慎重に観察した上で、本剤投与の可否を判断すること。なお、併用する場合は1日1回2.5mgとすること。
レンボレキサントは主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝される。
併用注意
(併用に注意すること)
薬剤名等
CYP3Aを阻害する薬剤
イトラコナゾール
クラリスロマイシン
エリスロマイシン
フルコナゾール
ベラパミル等
臨床症状・措置方法
本剤の作用を増強させるおそれがある。
機序・危険因子
レンボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを阻害し、レンボレキサントの血漿中濃度を上昇させるおそれがある。
薬剤名等
CYP3Aを誘導する薬剤
リファンピシン
フェニトイン等
臨床症状・措置方法
本剤の作用を減弱させるおそれがある。
機序・危険因子
レンボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを誘導し、レンボレキサントの血漿中濃度を低下させるおそれがある。リファンピシンとの併用により、レンボレキサントのCmax 及びAUC(0-inf)はそれぞれ92%及び97% 減少した。
薬物相互作用(外国人データ)
(1) イトラコナゾール
健康成人15例にイトラコナゾール200mgを1日1回反復投与時に本剤10mgを単回投与したときのレンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.36[1.18,1.57]及び3.70[3.18,4.31]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは36%上昇し、AUC(0-inf)は270%増加した。レンボレキサントの最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ54.4時間及び118時間であった。また、M10のCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、0.130[0.107,0.158]及び0.626[0.465, 0.844]であった。M10の最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ48.1時間及び 150時間であった。
(2) フルコナゾール
健康成人14例にフルコナゾール200mgを1日1回反復投与時に本剤10mgを単回投与したときのレンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.62[1.34,1.97]及び4.17[3.83,4.55]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは62%上昇し、AUC(0-inf)は317%増加した。レンボレキサントの最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ55.4時間及び 99.5時間であった。また、M10のCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、0.580[0.513,0.657]及び2.33[1.73,3.14]であった。M10の最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ45.5時間及び78.6時間であった。
(3) リファンピシン
健康成人15例にリファンピシン600mgを1日1回反復投与時に本剤10mgを単回投与したときのレンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、0.085[0.067, 0.107]及び0.034[0.026,0.045]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは92%低下し、AUC(0-inf)は97%減少した。レンボレキサントの最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ45.6 時間及び10.8時間であった。また、M10のCmax及び AUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.00[0.884,1.13]及び0.127 [0.112,0.145]であった。M10の最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ39.4時間及び4.07時間であった。
(4) ミダゾラム
健康成人28例に本剤10mgを1日1回反復投与時にミダゾラム2mgを単回投与したときのミダゾラムのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.13[1.03,1.24]及び1.13 [1.02,1.25]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは13%上昇し、AUC(0-inf)は13%増加した。ミダゾラムの最終消失半減期(平均値)は、単独投与時及び併用時ではそれぞれ4.00時間及び4.21時間であった。
添付文書を比較してみると
ベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボレキサント)の添付文書を比較してみると、
ベルソムラ(スボレキサント)では、強力なCYP3A4阻害薬との併用は禁忌、一方デエビゴ(レンボレキサント)は禁忌ではなく併用注意のため、ベルソムラ(スボレキサント)のほうがCYP3A4阻害薬との相互作用が強いのではないかと思います。
るるーしゅ
なんちゃって…
今回のお題は理論上、CYP3A4阻害薬との相互作用の影響を強く受けるということで、添付文書上の記載が禁忌だからとかはあまり考えていません。
そのため、PISCSを使って考えてみたいと思います。
PISCSを利用して相互作用の影響を推算
PISCSって何?って思った方は、以前紹介したこの記事を読んでみてください。
AUCの上昇率は、寄与率:CR(どのくらいCYP3A4の影響を受けるか)と阻害率:IR(どのくらいCYP3A4)を阻害するかで推定することができます。
そして代表的なCYP3A4阻害薬の阻害率(IR)は分かっています。
CYP3A阻害薬 | 阻害率(IR) |
---|---|
ケトコナゾール (200-400mg) | 1.0 |
イトラコナゾール(100-200mg) | 0.95 |
クラリスロマイシン (500-1000mg) | 0.88 |
ジルチアゼム (90-270mg) | 0.80 |
フルコナゾール (200mg) | 0.79 |
ベルソムラの寄与率(CR)を計算してみる
ベルソムラ(スボレキサント)の添付文書の下記の部分から、寄与率を計算していきます。
本剤 (4mg単回) とCYP3Aを強く阻害するケトコナゾール (400mg 1日1回経口反復) を併用した際、スボレキサントのCmax及びAUCは23%及び179%増加した。
179%上昇したということは、AUC上昇率は2.79で、ケトコナゾールの阻害率は1.0なので
上記の推算式に当てはめると、2.79=1/(1-CR×1.0)となり、CR=0.64と出てきます。
もうひとつ添付文書に相互作用のデータがでていますのでこちらでも計算していきます。
本剤 (20mg単回) とジルチアゼム (240mg 1日1回反復) を併用した際、スボレキサントのCmax及びAUCは22%及び105%増加した。
AUCが105%上昇したということで、AUC上昇率は2.05、ジルチアゼムの阻害率は0.80
また推算式に当てはまると、2.05=1/(1-CR×0.80)となり、CR=0.64と出てきます
デエビゴの寄与率(CR)を計算してみる
同様にデエビゴ(レンボレキサント)も添付文書から寄与率を計算していきます。
健康成人15例にイトラコナゾール200mgを1日1回反復投与時に本剤10mgを単回投与したときのレンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.36[1.18,1.57]及び3.70[3.18,4.31]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは36%上昇し、AUC(0-inf)は270%増加した。
AUC上昇率は3.70、イトラコナゾールの阻害率は0.95、推算式に当てはめると、3.70=1/(1-CR×0.95)でCR=0.77となります。
るるーしゅ
ベルソムラ(スボレキサント)より高いですね。
もうひとつデータがありますので、そちらでも計算していきましょう。
健康成人14例にフルコナゾール200mgを1日1回反復投与時に本剤10mgを単回投与したときのレンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)の幾何平均値の比(併用時/単独投与時)とその90%信頼区間は、1.62[1.34,1.97]及び4.17[3.83,4.55]であり、単独投与時と比較して併用時では、Cmaxは62%上昇し、AUC(0-inf)は317%増加した。
AUC上昇率は4.17、フルコナゾールの阻害率は0.79、推算式に当てはめると、4.17=1/(1-CR×0.79)でCR=0.96になります。
ちなみに計算はわたしは自分で作ったこのページで計算しています。(計算ツールが表示されない場合は再読み込みしてもらうと出てきます)
結局、どっちのほうが影響強いんだい?
CR-IR法を用いて、ベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボレキサント)の寄与率(CR)を計算したところ
ベルソムラ(スボレキサント)のCR:0.64
デエビゴ(レンボレキサント)のCR:0.77~0.96
となりました。
つまり、ベルソムラ(スボレキサント)より、デエビゴ(レンボレキサント)のほうが理論上、CYP3A4阻害薬の影響を強く受けるというわけです。
デエビゴはCYP3Aを強力に阻害するくすりと禁忌ではないのは、1日10㎎まで使用できるうえで、その四分の一の2.5㎎があるためで、一方のベルソムラは1日20㎎までで、10㎎のものしかないためではないかとわたしは考えています。(また当初、ベルソムラは10㎎なかったことと、4㎎でケトコナゾールと相互作用していることも併用禁忌の理由かと思います)
るるーしゅ
薬剤師ですので、添付文書の禁忌だけではなく、こういった動態パラメータも用いて相互作用の影響も考えられるといいのではないかと思います。
今回と似たような記事も書いていますので、よかったら読んでみてください