先日、クローズドな勉強会で、PISCSについてを教えていただき、「薬局でも活用できると思うよ」というアドバイスをいただきましたので、みんなにも使っていただきたいので、今回はPISCSについて紹介します。
目次
そもそもPISCSとはなんぞや?
PISCSとは、Pharmacokinetic Interaction Significance Classification Systemの頭文字をとったもので、DeepLで翻訳してみると、薬物動態学的相互作用意義分類体系だそうです。
薬物動態学的相互作用意義分類体系?
直訳してもよく分からないと思いますので、PISCSのしっかりした解説をのせます。
薬剤を層別化することで,網羅的に臨床的重要性を考慮して相互作用を注意喚起する方法
はい、まだいまひとつピンときませんよね・・・
私は、CYP(主に3A4)による相互作用の影響がどの程度か簡易的に予測するツールと考えています。
(専門家の間違っていたらゴメンナサイ)
CRとIRに基づく相互作用の考え方
PISCSどこいったんだ!?と思われるかもしれないが許してほしい。PISCSを紹介するには、まずこのCRとIRに基づく相互作用の考え方について知っておく必要があります。
上述の通り、PISCSはCYP(主に3A4)による相互作用の影響がどの程度か簡易的に予測するツールだと私は認識しています。そうなると、下記のふたつの薬剤情報が必要になってきますよね。
- どの程度CYPによる代謝の影響を受けるのか
- どの程度CYPを阻害するのか
CR(contribution ratio):寄与率について
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CYPの阻害を受けてしまう薬剤であっても、大きく影響を受けてしまう薬剤と、そこまで影響を受けない薬剤があります。その影響の指標としてCR(寄与率)というのがあります。
IR(inhibition ratio):阻害率について
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上記のCR同様に、IR(阻害率)もあります。CYPを阻害する薬剤でも、阻害率が強い薬剤もあれば、そこまで強くない薬剤もありますよね。また投与量によってもIRの値は変わってきます。
CRとIRから相互作用(血中濃度)の影響を予測する
相互作用を起こす二つの薬剤(基質薬と阻害薬)のCR(寄与率)、IR(阻害率)が分かったら、下記の式で血中濃度の影響を予測することができます。
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上記の式より、AUCの上昇率を予測することにより、減量したほうがいいのか、それとも中止したほうがいいのか、そのままで経過観察でいいのかなど、相互作用を起こすので注意という添付文書の記載だけだったものがより具体的になります。
CR、IRって添付文書にのってないよね?
上記で、CRとIRによる血中濃度予測について理解したかと思いますが、じゃあ基質薬のCRと阻害薬のIRってどうやったらわかるの?と思いますよね。だって、添付文書にCR=0.87とかのっていませんからね。
薬局で相互作用で問題になることが多いCYP3A4に関しては、日本医療薬学会の「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」に代表的な薬剤のCRとIRが記載されています。
代表的な基質薬のCR(CYP3A4)
基質薬 | CR(寄与率) |
---|---|
シンバスタチン | 1.00 |
ロバスタチン | 1.00 |
ブスピロン | 0.99 |
ニソルジピン | 0.96 |
トリアゾラム | 0.93 |
ミダゾラム | 0.92 |
フェロジピン | 0.89 |
シクロスポリン | 0.80 |
ニフェジピン | 0.78 |
アトルバスタチン | 0.68 |
ゾルピデム | 0.40 |
代表的な阻害薬のIR(CYP3A4)
阻害薬 | IR(阻害率) |
---|---|
ケトコナゾール (200-400mg | 1.00 |
ボリコナゾール (400mg) | 0.98 |
イトラコナゾール(100-200mg) | 0.95 |
テリスロマイシン (800mg) | 0.91 |
クラリスロマイシン (500-1000mg) | 0.88 |
サキナビル (3600mg) | 0.88 |
ネファゾドン (400mg) | 0.85 |
エリスロマイシン (1000-2000mg) | 0.82 |
ジルチアゼム (90-270mg) | 0.80 |
フルコナゾール (200mg) | 0.79 |
ベラパミル (240mg-480mg | 0.71 |
シメチジン (800-1200mg) | 0.44 |
ラニチジン (300-600mg) | 0.37 |
ロキシスロマイシン (300mg) | 0.35 |
フルボキサミン (100mg-200mg | 0.30 |
アジスロマイシン (250-500mg | 0.11 |
添付文書から計算してみる
代表的な阻害薬のIRについては、記載されていますが、影響をうける基質薬のIRについては十分ではないかと思います。
しかし、先ほどの計算式から、CRは算出することが可能です。


るるーしゅ
まさかの自分じゃ出来なくて、妻にやってもらいました
例題を用いて計算してみましょう。下記はナウゼリンの添付文書です。
16.7 薬物相互作用
16.7.1 イトラコナゾール
外国人健康成人15例に本剤(経口剤、20mg ) 、単回投与)とイトラコナゾール(200mg/日、5日間反復投与)を併用投与したとき、本剤のCmax及びAUC0-∞はそれぞれ2.7倍及び3.2倍増加した 。
イトリゾールのIR(阻害率)は医療薬学会の「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」より0.95、AUCの上昇率が3.2倍とのことなので、上記の計算式に当てはめてみると、CRは0.72とでます。
PISCSにもどります
CRとIRについて計算方法などを理解したと思いますので、PISCSについて戻りたいと思います。
PISCSは、CRとIRに基づく AUC 変化の早見表とAUC 変化の程度と注意喚起の程度を基質の薬物毎あるいは薬効毎に設定したもので構成されています。

例:ナウゼリンの事例でPISCS活用
さきほど、ナウゼリンがCYP3A4の基質薬としてのCRが0.74と算出されました。じゃあクラリスロマイシンと併用したときは、どの程度の影響になるのでしょうか?
残念ながら添付文書上には、CYP3A4で代謝されることは記載されていますが、どの程度影響受けるかの記載はありません。
しかし、クラリスロマイシン (500-1000mg)のIR(阻害率)は0.88とわかっていますので、上記のCRとIRに基づく AUC 変化の早見表に当てはめてみると…


るるーしゅ
このように予測することが可能ですね
更新PISCSを利用した処方事例をひとつ紹介していますので、参考にしてみてください
PISCSの注意点
今回紹介したPISCSですが、あくまでも予測ツールです。
添付文書上に併用注意で名前が挙がっているけど、どの程度の影響なのか予測もつかないといったものが、PISCSを利用することである程度予測がつくようになるといった感じです。

るるーしゅ
東大病院薬剤部副部長の大野能之先生がCRーIR法やPISCSを現場で活用する際にこんなことをいっていました
DDIの評価やマネジメントに限らず、専門家として適切な情報提供を行ううえで重要な点は、記載してあることをただ伝えるだけではなく、その情報の妥当性やlimitationも理解した上で情報提供し、さらにその先に予測される複数の事象や対応まで想像して、必要に応じて議論することである。
調剤と情報 2020年7月号より
上記のナウゼリンについても、実は添付文書上にエリスロマイシンとのデータも記載されており、そちらのデータでCRを算出するとすこし値がずれます。
また、AUCが2.8倍になることが、臨床的にどのような意味があるのかは個別に考える必要があります。
「AUCが2.8倍になります、どうしますか?」といった疑義照会をするためではなく、しっかりとその先のことまで想像して対応してほしいです。

るるーしゅ
わたしもPISCSという名前はしっていたが難しそうと思って、見て見ぬふりをしていました。
今回、友人に教えていただき、しっかりと理解できているかは怪しいですが、エビデンス同様にPISCSも海を航海する際の灯台になるのではないかなと思っています。
CR-IR法で相互作用を予測するページも作成しました(まだ量が不十分ですが)ので、よろしければご活用ください。
- 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会
- 大野 能之,【薬学的管理の質が上がる!デキる薬剤師の薬物相互作用マネジメント】基礎編 現場でCR-IR法やPISCSを運用するうえでのポイントと注意点,調剤と情報 26巻9号 Page1594-1598(2020.07)
- ナウゼリン錠添付文書