武田、ルンドベックが販売する新規の抗うつ薬トリンテリックス(ボルチオキセチン)について薬剤師視点で調べましたので共有いたします。
トリンテリックス(ボルチオキセチン)の特徴
- 既存の抗うつ薬より色々な作用機序があるか、それが臨床的にどのような利点等あるのか不明
(コクランレビューで既存薬より優れているというデータはなし) - 海外で発売当初はブリンテリックス®(Brintellix)という名前で発売されていたが、アストラゼネガのブリリンタ®(Brilinta)成分名:チカグレロルと名前が紛らわしいことからトリンテリックスへ改名
- 吐き気の副作用が20-30%あるため、注意
目次
基本的事項
商品名 | トリンテリックス |
一般名 | ボルチオキセチン |
効能・効果 | うつ病・うつ状態 |
用法・用量 | 通常、成人にはボルチオキセチンとして10mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態により1日20mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。 |
備考 | セロトニン再取り込み阻害作用並びにセロトニン受容体調節作用(セロトニン3 受容体、セロトニン7 受容体及びセロトニン1D 受容体のアンタゴニスト作用、セロトニン1B 受容体部分アゴニスト作用、セロトニン1A 受容体アゴニスト作用)を有しており、セロトニンだけでなく、ノルエピネフリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンの遊離を調節するとされている。 |
るるーしゅ
武田薬品のプレリリースだと、トリンテリックスはこういった複数の薬理作用を併せ持つ初めてかつ唯一の化合物であると考えられています。と書かれているんだよね。
(あっ…薬理作用の違いが、臨床的効果の決定的な差でないことを教えてやると言いたげな顔している)
メガネ
トリンテリックスの有効性について(海外データ)
プラセボとの比較
るるーしゅ
トリンテリックスの臨床的立ち位置については、2017年のコクランでいいと思う
トリンテリックスはプラセボと比較して治療反応(response)のRR 1.35(1.22~1.49)、寛解(remission)のRR 1.32(1.15~1.53)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度の変化量は‐2.94(‐4.07~‐1.80)
るるーしゅ
全部エビデンスの質は低いみたいだけどね
既存薬との比較
トリンテリックスはSNRIsと比較して治療反応(response)のRR 0.91(0.82~1.00)、寛解(remission)のRR 0.89(0.77~1.03)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度の変化量は1.52(0.50~2.53)
るるーしゅ
うーん、新規抗うつ薬だしメカニズムが色々といっても、それが臨床的にどのような意味があるかは不明だね
トリンテリックスの有害事象について(海外データ)
トリンテリックス 5mg/日 (n=1013) |
トリンテリックス 10mg/日 (n=699) |
トリンテリックス 15mg/日 (n=449) |
トリンテリックス 20mg/日 (n=455) |
プラセボ (n=1621) |
|
吐き気 | 21% | 26% | 32% | 32% | 9% |
下痢 | 7% | 7% | 10% | 7% | 6% |
口の渇き | 7% | 7% | 6% | 8% | 6% |
嘔吐 | 3% | 5% | 6% | 6% | 3% |
鼓腸 | 1% | 3% | 2% | 1% | 1% |
めまい | 6% | 6% | 8% | 9% | 6% |
悪夢 | <1% | <1% | 2% | 3% | 1% |
かゆみ | 1% | 2% | 3% | 3% | 1% |
海外の製品情報より作成(日本のデータではない)
トリンテリックスの有効性について(国内データ)
るるーしゅ
今までのトリンテリックスの情報は海外データをもとに評価していたんだけど、今度は国内データを紹介していくよ。 正直、なかなかびっくりするデータだと思うから
国際共同第Ⅱ/第Ⅲ相試験
P:DSM-ⅣーTRにより大うつ病性障害と診断された患者(600人)
E:①トリンテリックス5mg/日(144人)
②トリンテリックス10mg/日(150人)
③トリンテリックス20mg/日(154人)
C:プラセボ(152人)
O:MADRS合計スコアのベースラインからの変化量
投与群 | 人数 | MADRS合計スコア | ベースラインからの変化量 | |
ベースライン | 8週間後 | |||
トリンテリックス5mg/日 | 142人 | 31.6±3.68 | 17.1±9.39 | -14.61±0.805 |
トリンテリックス10mg/日 | 147人 | 31.8±4.02 | 16.1±9.75 | -15.68±0.791 |
トリンテリックス20mg/日 | 149人 | 31.7±4.02 | 15.9±10.52 | -15.82±0.791 |
プラセボ | 150人 | 31.6±3.57 | 17.7±9.17 | -13.99±0.783 |
るるーしゅ
トリンテリックスすべての投与量でプラセボと有意差なし
国内第Ⅲ相試験
P:DSM-ⅣーTRにより大うつ病性障害と診断された日本人患者(366人)
E:①トリンテリックス5mg/日(119人)
②トリンテリックス10mg/日(123人)
C:プラセボ(124人)
O:MADRS合計スコアのベースラインからの変化量
投与群 | 人数 | MADRS合計スコア | ベースラインからの変化量 | |
ベースライン | 8週間後 | |||
トリンテリックス5mg/日 | 119人 | 32.2±4.81 | 16.5±10.07 | -15.84±0.885 |
トリンテリックス10mg/日 | 122人 | 32.5±4.81 | 17.6±10.32 | -14.85±0.874 |
プラセボ | 123人 | 32.5±4.52 | 18.6±9.53 | -13.81±0.870 |
るるーしゅ
トリンテリックスすべての投与量でプラセボと有意差なし
国内第Ⅲ相試験②
P:DSM-ⅣーTRにより反復性の大うつ病性障害と診断された日本人患者(493人)
E:①トリンテリックス10mg/日(165人)
②トリンテリックス20mg/日(164人)
C:プラセボ(164人)
O:MADRS合計スコアのベースラインからの変化量
投与群 | MADRS合計スコア | ベースラインからの変化量 | |
ベースライン | 8週間後 | ||
トリンテリックス10mg/日 | 30.8±3.73(165) | 15.6±9.09(153) | -15.03±0.699 |
トリンテリックス20mg/日 | 30.6±3.61(163) | 14.9±8.71(151) | -15.45±0.705 |
プラセボ | 30.6±3.86(161) | 17.6±9.48(143) | -12.37±0.714 |
るるーしゅ
トリンテリックスすべての投与量でプラセボと有意差がつきましたので医薬品として承認します…
えっ、それでいいんですか?3回、第Ⅲ相試験やって、やっと承認された医薬品ですよね…
メガネ
るるーしゅ
このあたりはモヤモヤするよね…一応、プラセボと有意差がつかなかった2回の治験はプラセボ効果が高くでたため。だから三回目はプラセボ効果がでづらい反復性のうつ病患者を集めて治験をおこなったらしい
それなら、適応も反復性のうつ病にしないとダメなのでは?
メガネ
るるーしゅ
そのあたりの評価はうつを専門としている人の評価を期待しよう。 ところでトリンテリックスの販売を武田薬品とするルンドベックって、めちゃくちゃ秘密結社な名前じゃね?
話を逸らして逃げたな…
メガネ
参考資料
FDAのトリンテリックスの製品資料
Vortioxetine for depression in adults – Koesters, M – 2017 | Cochrane Library
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