目次
はじめに
対物から対人へ、というのは2014年の薬局ビジョンで示され長い年月が経ちましたが、まだ道半ばです。
薬剤師が対人業務を行う上で、必要となってくるスキルとして、医師と共通の言語で話すことというのが重要だと思っています。
医療の現場での、共通の言語はエビデンスです。
日本の医師に実施したアンケート調査によると、医師が薬剤師と議論する際には、半数くらいの医師が薬剤師に大規模臨床試験の結果くらいは知った上で話してほしいと回答しています。(日本農村医学会雑誌 69.1 (2020): 29-34.)
では、薬剤師は医学論文を読んでいるのかというと、ほとんどの薬剤師は読んでいないという結果がでています。
今後、薬剤師に求められる対人業務を円滑に行うために、この記事では薬剤師なら知っておいたほうがいいと思う臨床研究の概要を紹介します。
論文の概要について
今回、紹介する論文は以下です。
ALLHAT Officers and Coordinators for the ALLHAT Collaborative Research Group. The Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial. Major outcomes in high-risk hypertensive patients randomized to angiotensin-converting enzyme inhibitor or calcium channel blocker vs diuretic: The Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial (ALLHAT). JAMA. 2002 Dec 18;288(23):2981-97. doi: 10.1001/jama.288.23.2981. Erratum in: JAMA 2003 Jan 8;289(2):178. Erratum in: JAMA. 2004 May 12;291(18):2196. PMID: 12479763.
どんな論文なのか?
ALLHAT研究は、高血圧患者において、新しい降圧薬による治療が旧来の利尿薬による治療と比較して冠動脈心疾患や心血管疾患を抑制するかどうかを検討した試験です。
ALLHAT研究は、利尿薬の有用性を示し、長期間利尿薬を使っても、心血管イベント等は他の薬に負けないことを示しました。
論文のPICO
論文のPICOは以下の通りです。
実施国:北米
実施期間:1994年2月から2002年3月
研究デザイン:ランダム化二重盲検並行群間比較試験
P:研究参加者(33,357人)
I:カルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン)群(9,048人)
C1:利尿薬(クロルタリドン)群(15,255人)
C2:ACE阻害薬(リシノプリル)群(9,054人)
O:冠動脈心臓病(CHD)や他の心血管疾患(CVD)の発症率
論文の結果
論文の結果は以下の通りです。
結果指標 | アムロジピン群 | クロルタリドン群 | リシノプリル群 |
---|---|---|---|
主要アウトカム (死亡率、非致死性心筋梗塞) | 11.3% | 11.5% | 11.4% |
全死因死亡率 | 無差違 | 基準 | 無差違 |
脳卒中 | 無差違 | 基準 | ↑1.15 |
心不全(HF) | ↑1.38 | 基準 | ↑1.19 |
合併CVD | 無差違 | 基準 | ↑1.10 |
批判的吟味
- 参加者の特徴: 参加者は55歳以上で高血圧とCHDのリスクファクターがあるため、結果はこの特定の患者集団にのみ適用可能です。
- 血圧変化: アムロジピンおよびリシノプリル群の血圧変化がクロルタリドン群と比較してわずかに異なるため、これが結果に影響を与えた可能性があります。
- 薬物の投与量: 研究で使用された薬物の投与量が患者ごとに異なり、その影響が考慮されていない可能性があります。
- 長期的な結果: 平均的なフォローアップ期間が4.9年であるため、長期的な効果や副作用に関する情報が限定的です。
- 外部の有効性: 研究は北米の患者を対象としているため、他の地域や人種、民族の患者に対する結果の適用性が不確かです。
まとめ
今回は、ALLHAT研究ついて最低限の内容を紹介しました。
本論文については、以下の内容だけ最低限知っておいていただければと思います。
- 高血圧の治療薬の中でどの薬が有効かを検討した研究で、利尿薬が優秀だったという研究
最後までお読みいただきありがとうございます。
その他にも薬剤師に知っておいてほしい医学論文を紹介していますので読んでいただければ幸いです。