先日、厚生労働省が肥満改善薬オルリスタット(アライ)を要指導医薬品としては販売していくことを認めたそうなので、今回は薬局薬剤師の立場でオルリスタット(アライ)について有効性や安全性など解説します。
目次
オルリスタットについて
それではまずオルリスタットについて少し歴史なども踏まえて解説します。
オルリスタットは、膵リパーゼ阻害薬として世界で販売されています。1999年にロシュがオルリスタット120㎎をゼニカル(Xenical)の商品名で販売を開始、2007年以降にGSKがオルリスタット60㎎をアライ(Alli)の商品名で市販薬としては販売を開始しています。
日本では中外製薬がゼニカルを販売を試みたようですが、うまくいかなかったようです。アライのほうが2009年に大正製薬が開発・販売権を獲得していたようで、それがやっと実を結んだようです。
ざっくりと作用機序を説明するとこんな感じです。

ザックリしすぎです…

メガネ

るるーしゅ
オルリスタットは食事した油脂成分と混ざって、分解されにくくなり体に吸収されにくくなるってことが分かれば十分
以上のことから想定される用法用量などは以下の通りだと思います。
項目 | 内容 |
---|---|
肥満改善薬アライ | オルリスタット60㎎ |
用法用量 | 1日3回 食直前もしくは食直後 |
効能効果 | 腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の人における内臓脂肪および腹囲の減少 (生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る) |
朝食べないとか、脂肪分含まない食事の時は、たぶんオルリスタット飲む必要性はないと思います。また海外では脂溶性ビタミンの低下が問題視され、寝る前にマルチビタミンとるとか言われていますが、日本人のデータではいまのところ大丈夫そうです。
\ 今の職場でこれから10年働き続けられますか?/
有効性・安全性(治験データより)
今回、OTCとして販売するためにおこなった研究がこちらの二重盲検プラセボ対照のランダム化比較試験だと思います。
Shirai, K. et al. Efficacy and Safety of Lipase Inhibitor Orlistat in Japanese with Excessive Visceral Fat Accumulation: 24-Week, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study. Adv. Ther. 36, 86–100 (2019)
ざっくりと内容をPICOでまとめていきます。
腹囲男性85㎝、女性90㎝以上、平均年齢46歳くらい、男性8割、BMI27くらいの人達200人
オルリスタット60㎎が1日3回、食事と共に服用+食生活指導アドバイス(n=100)
プラセボ1日3回+食生活指導アドバイス(n=100)
ベースラインから治療の 12 週目および 24 週目までの内臓脂肪面積の変化率、およびベースラインから治療期間中の各評価までの胴囲の変化率

るるーしゅ
結果を踏まえてビジュアルアブストラクトにしています。一部、副次的評価項目も入ってます。


るるーしゅ
プラセボとの差が腹囲は約1%なので、腹囲90㎝だと約1㎝減少、体重は約1.5%なので体重80㎏だと1.2㎏減少ですね。
内臓脂肪面積 | -8% |
腹囲 | -1% |
体重 | -1.5% |
つづいて安全性についてですが、膵リパーゼ阻害薬では脂肪便、便失禁、下痢、排便切迫、腹痛などが知られています。ただ今回紹介した研究では各項目の詳細なデータは示されていません。
有害反応には、オルリスタットの薬理学的効果に起因すると思われる排便関連の症状が含まれ、これには油性斑点および排出を伴う放屁が含まれる [41 人の参加者 (41.0%) で 77 エピソード]。肝機能検査異常[2人の参加者(2.0%)で2回のエピソード]; 倦怠感 [1 人の参加者 (1.0%) の 1 つのエピソード]; 尿管結石症 [1 人の参加者 (1.0%) の 1 つのエピソード]; およびバラ色粃糠疹 [1 人の参加者 (1.0%) で 1 つのエピソード]。
主な副作用は、オルリスタットの薬理作用によるものと考えられる糞便油排泄による排便関連症状でした。ほとんどのエピソードは、一過性および自覚症状を伴う軽度のものであり、重篤または重度のエピソードは観察されませんでした。
脂溶性ビタミン欠乏症に関連する有害反応は観察されず、治療やビタミン補給を必要とした参加者はいなかった. ビタミンA、D、およびEのレベルは、治療期間中安定しており、顕著な変化は見られませんでした。
便失禁は軽度じゃない!と思うかもしれませんが、あくまで人体への影響としてみるとってことですからね。
その他のエビデンスについて
日本では今回がデビューになるオルリスタットも海外では20年以上前から販売されていますので面白いエビデンスがけっこうでていますので、すこし紹介します。
糖尿病の発症予防効果
Torgerson JS, Hauptman J, Boldrin MN, Sjöström L. XENical in the prevention of diabetes in obese subjects (XENDOS) study: a randomized study of orlistat as an adjunct to lifestyle changes for the prevention of type 2 diabetes in obese patients. Diabetes Care. 2004 Jan;27(1):155-61. doi: 10.2337/diacare.27.1.155. Erratum in: Diabetes Care. 2004 Mar;27(3):856. PMID: 14693982.
耐糖能が正常(NGT)な肥満症患者と耐糖能障害(IGT)をもった肥満症患者の両方を対象にオルリスタットもしくはプラセボを投与したランダム化比較試験です。
サブグループ解析ですが、耐糖能障害(IGT)をもった肥満症患者で4年間で糖尿病発症したのはオルリスタット群が8.3%、プラセボ群が14.2%でした。(糖尿病発症リスクの低減率は52%)
心血管イベントや死亡への効果
Ardissino M, Vincent M, Hines O, Amin R, Eichhorn C, Tang AR, Collins P, Moussa O, Purkayastha S. Long-term cardiovascular outcomes after orlistat therapy in patients with obesity: a nationwide, propensity-score matched cohort study. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother. 2022 Feb 16;8(2):179-186. doi: 10.1093/ehjcvp/pvaa133. PMID: 33991094.
これは大規模コホート研究で傾向スコアを一致させて心血管イベントなどをみた研究っぽいです。
オルリスタットは、全体的な重大な有害心血管イベント、新たに発症した心不全、腎不全、および死亡率の低下と関連していました.とのことです。
過量服用時の安全性について
過量服用した際の安全性についても、問題ないようです。海外で小児の誤飲事例で収集されていましたが下痢程度で問題なさそうでした。
あと5歳くらいの女の子が1000㎎くらい飲んだけど、大丈夫だった的な記載も見た気がします。
最後に

今回は、海外ではすでに発売されているけど、やっと日本でも発売が決まったオルリスタットについて解説しました。
ちなみに海外でもオルリスタットの販売は伸び悩んでいるそうです。
理由としては、以下の項目が挙げられています。
- 弱い肥満改善効果(<5%)
- 1年超えるとゆるやかにリバウンド
- QOL低下を招く副作用(便失禁はね…)
- 重篤な肝障害(4000万人中13人)

るるーしゅ
8年くらい前の資料からの情報なので、いまだともっと肥満に使える薬剤増えているので、肩身が狭そうです。
抗肥満薬と呼べるほど、有効性はあまりないかもしれませんが、悪い薬ではなさそうだと思ってます。
毎年の健康診断で、糖尿病予備軍とされているけど、病院にかかるまでもないみたいな肥満の方に需要がありそうな気がします。
ただし副作用(便失禁)が社会的に重大だと思いますので、その指導を薬剤師としてすべきではないかなと思います。
- リパーゼ阻害薬の現況と展望,糖尿病の最新治療(1884-2542)6巻2号 Page74-79(2015.02)
- リパーゼ阻害薬の基礎と臨床 リパーゼ阻害薬の基礎知識と糖・脂質代謝における意義,プラクティス(0289-4947)31巻5号 Page620-623(2014.09)