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マスクは熱中症のリスクを高めるのか?薬剤師が調べてみた

こんにちは、薬剤師のるるーしゅです。

近年、新型コロナウイルスの感染防止対策としてマスクの着用が一般的になりましたが、その一方で「マスクをつけると熱中症になりやすいのではないか?」という疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか?

先日、SNSでは大阪府と小林製薬のコラボしたポスターが医師クラスタを中心に炎上していました。

炎上ポイント
  • マスクをつけると熱中症リスクがあがるというエビデンスないだろう
  • 熱さまシートが熱中症の予防になるなんてエビデンスないだろう

えっ、ポスター見ても熱さまシートが熱中症予防になんて書いてないような…

メガネ

メガネ

るるーしゅ

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言ってない、書いてないことを感じ取って炎上するのがツイッター

というわけで、今回は「マスクを着用することで熱中症のリスクは高まるのか?」、この疑問について薬剤師の立場で科学的な視点から解説していきたいと思います。

最後まで読むのがめんどくさい人向けにまとめるとこんな感じです。

  • 室内で20歳くらいの健常人を対象にした実験結果ではマスク直用しても、熱中症のリスクは増えなかった。
  • 熱中症のリスクが高い小児や高齢者を対象にした研究結果はなさそう
  • コロナ禍になっても、特別、熱中症が増えているというエビデンスもなさそう
るるーしゅ

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というわけで、医療者でも解釈が割れそうというのが結論です。

熱中症とは

熱中症とは、気温や湿度が高い状況下で、体温の調節機能が狂い、体内の水分や塩分のバランスが乱れ、さまざまな症状を引き起こす病気です。

具体的には、体温の上昇、めまい、頭痛、けいれんなどが主な症状として現れます。

このような状況は、急に気温が上昇したときや、身体が暑さに慣れていない初夏などによく見られます。

熱中症の症状と段階

熱中症の症状はその重症度により異なります。

初期段階では、立ちくらみや筋肉のけいれん、大量の発汗などが現れます。

これが中等症となると頭痛、吐き気、倦怠感などが加わり、さらに重症化すると意識障害や高体温などが見られます。

熱中症の予防と応急処置

熱中症を予防するためには、以下の点に気をつけることが重要です。

  1. 暑さを避ける: 日陰を歩く、帽子や日傘を使う、室内ではエアコンや扇風機で適切な温度に保つなど。
  2. 服装を工夫する: 熱を吸収しにくい、通気性の良い素材を選び、熱がこもらないようなデザインのものを選びましょう。
  3. 水分補給: のどが渇く前にこまめに水分を補給する。1日約1.2Lが目安です。
  4. 塩分補給: 汗と共に失われる塩分も忘れずに補給しましょう。

また、熱中症が疑われる場合には、すぐに涼しい場所に移動し、体を冷やし、こまめに水分を取るようにしましょう。

意識がない場合や症状が重い場合には、速やかに救急車を呼び、医療機関での治療を受けることが必要です。

マスクと熱中症について

マスクと熱中症については、”新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ”が作成した新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第 2 版)に記載があるので、そちらをまず記載しようと思います。

Q-1 マスクを着用すると体温が上がるか?

A-1 暑熱環境における 1 時間程度の軽度の運動、あるいは 20 分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用が体温に及ぼす影響はない。

香港の最も暑い時期を想定して、サージカルマスク着用によって増幅される熱ストレスを検討した研究1)では、サージカルマスク着用により生理的自覚温度(身体の蓄熱量と衣服下の内部平均放射温度に基づいて計算された熱刺激の大きさ)は5.0℃増加した。

しかし、呼吸による放熱量をモデル計算で予測した研究2,3)では、マスクを着用していない時の呼吸による放熱量は体内で作られる代謝熱の5~10%程度に過ぎなかった。

健常成人ボランティアを用いて、マスク着用と運動強度、体温上昇の関係を検討した研究がいくつか報告されており、93名の被験者を対象に、マスク非着用時と、サージカルマスクまたはN95マスクを着用して30分後の非労作時の口腔温および鼓膜温を比較した研究4)では、いずれのマスクでも口腔温および鼓膜温は上昇したが、統計学的に有意な上昇を示したのはN95マスク着用時の口腔温(平均0.27℃の上昇)のみあった。

20名の被験者を対象に、室温25℃・湿度70%の環境下で、毎時5.6kmの歩行速度で1時間トレッドミルによる歩行を行い、サージカルマスク非着用時と着用時で深部体温を比較した研究5)では、マスク着用時は深部体温が平均0.08℃上昇したが、マスク非着用時と比較して有意差はなかった。

12名の被験者を対象に、室温35℃・湿度65%の環境下で、毎時6kmの歩行速度で30分間トレッドミルによる歩行を行い、サージカルマスク非着用時と着用時で深部体温を比較した研究6)では、深部体温はマスク着用の有無に関わらず上昇したが、2群間に有意差はなかった。

6名の被験者を対象に、室温28℃の環境下で、立位保持、歩行、ランニングを各20分行い、マスク非着用時(コントロール)、サージカルマスク着用時、スポーツマスク着用時において内服カプセル型深部体温計により深部体温を測定した研究7)では、二元配置反復測定分散分析とフリードマンの順位に基づく反復測定分散分析を行い、いずれの群でも深部体温は運動強度を上げると上昇したが(コントロール:37.4℃→38.8℃、サージカルマスク:37.2℃→38.7℃、スポーツマスク:37.3℃→38.7℃)、3群間に有意差はなかった。

以上の研究から、マスク着用が生理的自覚温度に影響を及ぼすことはあっても、暑熱環境における1時間程度の軽度の運動、あるいは20分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用自体が体温に及ぼす影響はないと考えられる。

1) Shi D, Song J, Du R, et al: Dual challenges of heat wave and protective facemask-induced thermal stress in Hong Kong. Build Environ. 2021;206:108317.

2) Chen WY, Juang YJ, Hsieh JY, et al: Estimation of respiratory heat flows in prediction of heat strain among Taiwanese steel workers. Int J Biometeorol. 2017;61(1):115-25.

3) 上野 哲: マスク着用による生理学的負担. 日本職業・災害医学会会誌. 2021;69(1):1-8.

4) Yip WL, Leung LP, Lau PF, et al: The effect of wearing a face mask on body temperature.
Hong Kong Journal of Emergency Medicine. 2005;12(1):23-7.

5) Roberge RJ, Kim JH, Benson SM: Absence of consequential changes in physiological,thermal and subjective responses from wearing a surgical mask. Respir Physiol Neurobiol.2012;181(1):29-35.

6) Kato I, Masuda Y, Nagashima K: Surgical masks do not increase the risk of heat stroke during mild exercise in hot and humid environment. Ind Health. 2021;59(5):325-33.

Q-2 マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?

A-2 健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない。

6名の若年成人被験者を対象に、室温28℃の環境下で、立位保持、歩行、ランニングを各20分行い、マスク非着用時(コントロール)、サージカルマスク着用時、スポーツマスク着用時において温度監視カプセル内服により深部体温を測定した研究7)では、運動強度を上げるといずれの群においても深部体温や呼吸数、脱水の指標となるplethvariabilityindex(PVI)は上昇し、SpO2は低下したが、3群間に有意差はなかった。8名の若年成人被験者を対象に、室温40℃・湿度20%の環境下で、KN95マスク非着用時(コントロール)と着用時で、ベースラインと45分間の軽作業後の運動認知能力、生理的指標(直腸温、皮膚温、顔面温)、知覚的指標(熱不快感、呼吸困難)を評価した研究8)では、KN95マスク着用により軽作業後に呼吸困難を訴える被験者が36%増加したが、運動認知能力や生理的指標、熱不快感はKN95マスク着用による影響を受けなかった。なお、KN95マスクは中国の規格GB2626-2006に準じて作られたマスクで、フィルタの性能的にはN95マスクと同等の基準をクリアしたとされている。

A-1で示したように、マスクの着用が体温に及ぼす影響はないと考えられ、呼吸困難感に影響を及ぼすことはあっても、マスクの着用そのものが運動強度増加時の熱中症の危険因子となる根拠はない。しかし、これらの研究7,8)はいずれも健常若年成人を対象としたものであり(文献7は平均23±3歳、文献8は中間値19.5歳[四分位範囲19.0–21.0歳])、高齢者や小児においてマスクの着用が熱中症の危険因子となるか否かの報告はない。しかしながら、熱中症に対する年齢と日中最高気温の影響について検討した報告9)によると、65歳以上の高齢者や7~17歳の若年者は、18~64歳の成人と比較して熱中症になる日中最高気温が低い傾向があった。また、乳幼児は成人と比較し、呼吸筋が未発達で、解剖学的死腔が大きいため、呼吸不全のリスクが高くなることも知られている10)。既往に肺疾患がある場合は、N95マスクを着用した状態での有酸素運動は、呼気終末炭酸ガス濃度の上昇と関連すること報告されており11)、熱中症の発症との関連の報告はないが、マスクの着用に注意する必要がある。

マスク着用にかかわらず暑熱環境における運動が深部体温に及ぼす影響は大きい4-7)。マスクを着用しなかったからといっても、暑熱環境においては熱中症のリスクが十分に軽減されるわけではないと解釈して、特に暑熱環境において運動をする場合や高齢者や小児、肺疾患がある傷病者は、エアコンや水分補給などの熱中症対策は継続するべきである。

7) Sakamoto T, Narita H, Suzuki K, et al: Wearing a face mask during controlled-intensity exercise is not a risk factor for exertional heatstroke: a pilot study. Acute Med Surg.2021;8(1):e712.

8) Morris NB, Piil JF, Christiansen L, et al: Prolonged facemask use in the heat worsens dyspnea without compromising motor-cognitive performance. Temperature (Austin).2020;8(2):160-5.

9) Ueno S, Hayano D, Noguchi E, et al: Investigating age and regional effects on the relation between the incidence of heat-related ambulance transport and daily maximum temperature or WBGT. Environ Health Prev Med. 2021;26(1):116.

10) Hopkins SR, Dominelli PB, Davis CK, et al: Face Masks and the Cardiorespiratory Response to Physical Activity in Health and Disease. Ann Am Thorac Soc.2021;18(3):399-407.

11) Epstein D, Korytny A, Isenberg Y, et al: Return to training in the COVID-19 era: The physiological effects of face masks during exercise. Scand J Med Sci Sports.2021;31(1):70-5.

もとの論文を読んでみると分かりますが、研究に参加しているのは20歳くらいの大学生なんですよね。

そして気になるのは、室温35℃なので、これが屋外の35℃の状況でも同じしていいのか?

また時間も30分程度と長時間ではないため、1時間くらいいる場合にあてはめてもいいのか疑問ですよね。

るるーしゅ

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このデータから、マスクを着用しても熱中症のリスクにはならない!と強く言えるものかな…

とはいえ、マスクを着用すると、熱中症のリスクであることも示されているわけではありません。

ここまでの情報で、熱中症になりやすい小児や高齢者には、どうアドバイスしますか?

多分、正解はないですよね…

労作性熱中症の主要な危険因子

労作性熱中症の危険因子について紹介したいと思います。

内的要因

  • 熱に対する適応(熱順化)の欠如
  • 現在の発熱性疾患
  • 皮膚疾患:無汗症、日焼け、乾癬など
  • 脱水症状
  • 薬物/サプリメント(例:利尿薬、抗ヒスタミン薬、中枢神経刺激薬、抗うつ薬)
  • 睡眠不足
  • 最近のアルコール使用
  • 低い身体適応度
  • 肥満/過体重
  • 心血管疾患(例:高血圧、末梢血管疾患)
  • 悪性高熱感受性

外的要因

  • 熱く湿った環境(特にウェットバルブ温度が28°Cを超える)
  • 運動の強度
  • 適切な労働と休息の比率の欠如
  • 重い機器/衣類
  • アスリート、コーチ、医療スタッフの教育と認識の欠如
  • 熱中症を識別し、治療するための緊急計画の欠如
  • 適切なインフラ(熱順化期間、液体へのアクセス、予防的冷却戦略など)の欠如

Navarro CS, Casa DJ, Belval LN, Nye NS. Exertional Heat Stroke. Curr Sports Med Rep. 2017 Sep/Oct;16(5):304-305. doi: 10.1249/JSR.0000000000000403. PMID: 28902747.

るるーしゅ

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薬物がリスク要因であったので、NEJMの文献のほうが詳しく乗っていたのでそちらも紹介します。

ベータ遮断薬、利尿薬、カルシウムチャネル遮断薬、下剤、抗コリン薬、サリチル酸塩、甲状腺作動薬、ベンズトロピン、トリフルオペラジン、ブチロフェノン、α作動薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、交感神経刺激薬、三環系抗うつ薬、SSRI

Epstein, Yoram, and Ran Yanovich. “Heatstroke.” New England Journal of Medicine 380.25 (2019): 2449-2459.

医療者でも解釈が割れそうな印象

ここまで読んで、どう思いますか?

熱中症のリスク因子で心理的要因とかもありそうなことが書いてあるので、マスク→不快→熱中症のリスク↑とかも考えられないこともないのではないかなと思ったりもします。

またマスクが熱中症のリスクになるといった記述をしている専門家もいるので紹介します。

マスクを着用すると,口周囲の空気の温度が高くなり,その空気を呼吸することで,「高体温」による熱中症を発生するリスクが高くなる。

神田 潤,【脱水症 体液管理の基礎と実践総まとめ】徹底解説!体液管理と薬物療法の実践ポイントQ&A 熱中症に注意すべき患者背景・リスク因子は?,薬局,72巻9号 Page2942-2946(2021.08)

Yip, W. L., Leung, L. P., Lau, P. F., & Tong, H. K. (2005). The Effect of Wearing a Face Mask on Body Temperature. Hong Kong Journal of Emergency Medicine, 12(1).

るるーしゅ

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上記論文なのですが、結論はあまり印象的には意味がないと書かれていてどうなんですかね…

また上記の院長コラムでは、マスクと熱中症のエビデンスはそこまで強いものはきっと出てこないだろうと言っていて、今の感染リスクよりマスク外したほうがいいんじゃない的なことをいってます。

まとめ

今回は、マスク着用と熱中症について解説しました。

わたしの読者ですと、薬剤師のかたが多いので「マスクを着用しても、熱中症のリスクはあがらない」というのを耳にして、患者さんに説明していることが多いのではないかと思います。

ただこの情報は、20歳のぴちぴちの健常人を対象に、室内で短時間での研究結果のため、どこまで一般化していいか正直、難しいと思います。

  • 室内35℃と屋外35℃は気温が同じなら、条件は同じとしていいのか?
  • 20歳で得られたデータを熱中症のリスクが高い小児や高齢者にあてはめていいのか?

もちろん、熱中症のリスクを高めるというはっきりとしたエビデンスはないので、そこは否定できます。

一方、このデータでは、「マスクを着用しても、熱中症のリスクはあがらない」とは言い切れないのではないかと思いますがいかがでしょうか?

こんなこと書いていると、マスク否定派かと思うかもしれませんが、普通に外でもマスクしてます。(外すのがめんどくさいという理由ですが)

るるーしゅ

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各団体の方針もあいまいだし、エビデンスもはっきりしないので、そんなに強く言うものでもないかなと思ったり…

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薬局薬剤師です。
若手の薬剤師教育や学会発表、論文投稿などに興味があります。
m3や雑誌への寄稿や、某大学非常勤講師歴もあります。
ファクトベースで物事を話さない(=感覚でものを言う)人は苦手です。
今後の業界の変化に対応できるように、業界情報や専門的なスキル、そして薬剤師としての働き方などについて情報発信していきます。
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