花粉症は、季節的なアレルギーの一種であり、鼻づまり、くしゃみ、鼻水、かゆみなどの症状を引き起こします。
これらの症状を和らげるために、医師は点鼻ステロイド薬を処方することがあります。しかし、市場には様々な点鼻ステロイド薬があり、どれを選ぶべきか迷うことがあります。
この記事では、花粉症に対する点鼻ステロイド薬の比較について詳しく説明します。
本内容は動画でも閲覧可能です。
目次
点鼻ステロイド薬の種類について
花粉症の治療において、内服薬で症状がコントロールできない場合は、点鼻ステロイド薬を使用することをオススメします。
るるーしゅ
内服薬より点鼻ステロイド薬のほうが症状を抑える効果は強いです。
現在、日本では大きく5種類の点鼻ステロイド薬が販売されています。
- ベクロメタゾンプロピオン酸エステル
- フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼ®)
- デキサメタゾンシペシル酸エステル(エリザス®)
- モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物(ナゾネックス®)
- フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)
商品 | 用法 | タイプ |
---|---|---|
ベクロメタゾン点鼻液50μg | 1日4回 | 液体 |
ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg | 1日2回 | 粉末 |
フルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液27.5μg (フルナーゼ) | 1日2回 | 液体 |
エリザス点鼻粉末200μg | 1日1回 | 粉末 |
モメタゾン点鼻液50μg(ナゾネックス) | 1日1回 | 液体 |
アラミスト点鼻液27.5μg | 1日1回 | 液体 |
るるーしゅ
エリザスは、まだジェネリックは販売されていません。
どの点鼻薬が多く使用されているのか?
上記の6種類の点鼻薬のなかでどの点鼻薬が多く使用されているのか、令和2年度の処方データ(第7回NDBオープンデータ)を用いて計算してみます。
尚、点鼻薬によって1本あたり2週間分のものと4週間分のもの、1週間分のものがあるため、2週間分を1本として計算していきます。
製品名 | 処方量 |
---|---|
ベクロメタゾン点鼻液50μg | 620,269 |
ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg(先発+GE) | 483,912 |
フルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液27.5μg(先発+GE) | 2,915,020 |
エリザス点鼻粉末200μg | 1,559,678 |
モメタゾン点鼻液50μg(先発+GE) | 9,435,616 |
アラミスト点鼻液27.5μg(先発のみ) | 9,498,663 |
るるーしゅ
1日1回のアラミストとモメタゾンが人気です。
点鼻ステロイド薬の比較について
NDBオープンデータによると、多くの医師はアラミストとモメタゾンを処方しているようです。それでは本題の各点鼻ステロイド薬の有効性を、臨床研究の結果を見ながら比較していこうと思います。
モメタゾンとベタメタゾンの比較
まずはモメタゾン点鼻(ナゾネックス)とベクロメタゾン点鼻の効果を比較した研究を見ていきます。
この研究は、通年性アレルギー性鼻炎患者を対象に、1日1回の鼻スプレーであるモメタゾン点鼻の有効性と耐容性をプラセボと1日2回投与されるベクロメタゾン点鼻と比較したものです。主要評価項目は、治療開始から15日間のAMおよびPMの日記による鼻症状スコアの変化でした。
その結果、モメタゾンはプラセボよりも有効であり、ベクロメタゾンと区別できないほどでした。すべての治療法は耐容性が良好でした。この研究は、モメタゾンが通年性アレルギー性鼻炎の症状を適切にコントロールし、1日1回の治療の利点を提供し、耐容性が良好であることを示しています。
PMID: 8760782
るるーしゅ
モメタゾン点鼻とベクロメタゾン点鼻を比較した結果、有意な差はなし
モメタゾンとフルチカゾンプロピオン酸の比較
つづいてモメタゾン(ナゾネックス)とフルチカゾンプロピオン酸(フルナーゼ)を比較した研究結果をみていきます。
この研究は、通年性アレルギー性鼻炎患者を対象に、モメタゾン、プラセボ、フルチカゾンプロピオン酸点鼻薬の有効性と耐容性を比較しました。主要評価項目は、治療開始から15日間の朝夕の鼻症状スコアの変化でした。結果は、モメタゾンフロン酸エステルがプラセボよりも有意に効果的であり、フルチカゾンプロピオン酸と統計的に有意な差はありませんでした。
一般的に、医師評価の全鼻症状、患者評価および医師評価の全体的な状態と治療への反応についても、同様の傾向が見られました。全体的に、モメタゾンは同等の投与量でフルチカゾンプロピオン酸と少なくとも同等に効果的であり、すべての治療は耐容性が良好でした。
PMID: 9305231
るるーしゅ
モメタゾン点鼻とフルチカゾンプロピオン酸を比較した結果、有意な差はなし
エリザス点鼻とフルチカゾンプロピオン酸(FP)の比較
つづいてエリザス点鼻とフルチカゾンプロピオン酸(フルナーゼ)を比較した研究を見ていきます。
通年性アレルギー性鼻炎患者375人を対象に、エリザス点鼻400μg/日分1のFP200 μg/日分2に対する非劣性の検証及び安全性の検討を目的として、プラセボ及びFPを対照とした無作為化二重盲検と非盲検の並行群間比較試験が行われた。用法・用量は、エリザス点鼻400μgまたはプラセボ1カプセルを1日1回就寝前に専用噴霧器を用いて両鼻腔内に噴霧投与、またはFP 50μgを1日2回朝・就寝前に各鼻腔内に噴霧投与することとされ、投与期間は2週間とされた。
主要評価項目である鼻症状のベースラインから投与終了時の変化量において、エリザス点鼻群とFP群の比較において、群間差の両側95%信頼区間の上限値が非劣性限界値を下回り、本剤群のFP群に対する非劣性が検証された。また、本剤群とプラセボ群の比較でも有意差が認められた。全例がFASとされ、安全性及び有効性が主な解析対象とされ、評価日数不足等の計18例を除く388例がPPS解析対象とされた。
エリザスの第三相試験より
るるーしゅ
エリザス点鼻とフルチカゾンプロピオン酸を比較した結果、非劣性だった。だいたい同じと考えてOK
アラミストとフルチカゾンプロピオン酸(FP)の比較
最後にアラミストとフルチカゾンプロピオン酸(フルナーゼ)を比較した研究を見ていきます。
16歳以上の季節性アレルギー性鼻炎患者420例(アラミスト群140例、FP群140例、本剤プラセボ群70例、FPプラセボ群70例)を対象に、アラミスト110μg/日分1のFP200μg/日分2に対する非劣性の検証と安全性の検討を目的とした試験が実施された。無作為化二重盲検評価者単盲検並行群間比較試験で、投与期間は2週間であった。結果、アラミスト群とFP群の群間差の両側95%信頼区間の上限値が非劣性限界値である0.75を下回ったため、アラミスト群のFP群に対する非劣性が検証された。
アラミストの第三相試験より
るるーしゅ
アラミストとフルチカゾンプロピオン酸を比較した結果、非劣性だった。だいたい同じと考えてOK
結論:どの点鼻ステロイド薬が効果的か?
日本で発売されている点鼻ステロイド薬同士で有効性を比較した研究を紹介しましたが、結果としてはどれも大差はないと考えていいと思います。
この結果はUpToDateでも同様の記載だったと思います。
もし医師から、「点鼻ステロイド薬間で強弱とかあるの?」と質問されたら、どれも有効性に大差がないとの回答で問題ないです(責任はとれませんが)
るるーしゅ
効果の面で考えれば、どの点鼻ステロイドも大差なしなので、選び方としてはその他の内容で判断するのがいいと思う。
その他の選び方について
アラミストが目に効くという話について
アラミストは鼻炎症状だけでなく、眼のかゆみにも効果があるということはご存じでしょうか?
これはアラミストが発売されたとき、MRさんから説明を受けたという薬剤師も多いのではないでしょうか?
しかし、この眼のかゆみにも効果があることはアラミスト特有のものなのかは難しいです。
このことは審査報告書の中でも審査側に突っ込まれています。
季節性アレルギー性鼻炎を対象とした、抗原対象及び地域が異なる4つの海外試験において、本剤は眼症状に対してプラセボと比べ有意な改善を示し、また、国内長期投与試験(FFR100688試験)においても通年性アレルギー性鼻炎の眼症状に対して持続的なスコアの減少を認めたことから、アレルギー性鼻炎に伴う眼症状に効果を示すことも本剤の特徴と考えられること(ここまでメーカー側の主張)
アレルギー性鼻炎に伴う眼症状にも効果を示すとする点についても、FP点鼻液等との比較データは得られておらず、必ずしも本剤に特徴的な効果とは判断し難いものと考える。(こっちがpmda側)
るるーしゅ
ちなみにモメタゾンも目のかゆみに効果があるとの論文結果は出ています。
アレルギー性鼻炎(AR)は、鼻と眼の症状が特徴である。鼻腔内コルチコステロイドはARの鼻症状を軽減することが知られているが、眼症状への影響については十分に定義されていない。今回、4つのプラセボ対照臨床試験のレトロスペクティブプール解析により、季節性ARの眼症状に対するモメタゾン点鼻薬の効果を評価した。モメタゾンを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比較して、眼症状の総スコアおよび個々の症状の減少が有意に大きかったです。これらの結果は、モメタゾン点鼻薬が季節性ARの眼症状に好影響を与えることを示唆しています。
PMID: 18434976
この研究は、季節性アレルギー性鼻炎(SAR)の被験者において、モメタゾンの全眼症状スコア(TOSS)および個々の眼症状の有効性を評価しました。その結果、モメタゾンは、瞬時および反射的TOSSおよび全鼻症状スコア(TNSS)において、プラセボに対してベースラインから有意な減少を示しました。モメタゾンに対して、反射的眼症状のすべての個別の減少と瞬時の目のかゆみ/燃える感覚および目の涙/涙の減少が観察されました。
モメタゾンにより、Rhinoconjunctivitis Quality of Life Questionnaireの総合スコアおよび個々の症状領域がプラセボに対して改善されました。この研究は、モメタゾンがSARの被験者において眼症状を有意に減少させることを示しています。
PMID: 20434199
るるーしゅ
点鼻ステロイドの目のかゆみはアラミストやモメタゾン特有なのか、それともクラスエフェクトなのかはよく分からないですね。
ただ目のかゆみには点眼薬を優先すべきだと思うので、ここをそこまで重要視しなくてもいいかもしれません。
各点鼻薬の薬価について
有効性について大きな差は見えないため、選び方としては値段がありますよね。以下に各薬剤の薬価を記載します。
基本はジェネリック医薬品の薬価を記載しています。
製品名 | 薬価 |
---|---|
ベクロメタゾン点鼻液50μg | 347.8 |
ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg | 562.5 |
フルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液27.5μg(28噴霧) | 342.2 |
フルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液27.5μg(56噴霧) | 586.8 |
エリザス点鼻粉末200μg | 1347.6 |
モメタゾン点鼻液50μg(56噴霧) | 563 |
モメタゾン点鼻液50μg(112噴霧) | 1090.7 |
アラミスト点鼻液27.5μg(56噴霧) | 1672.5 |
アラミスト点鼻液27.5μg(120噴霧) | 3513.8 |
るるーしゅ
ジェネリックの点鼻薬を使用すれば、そこまで大きな差はないですね。アラミスト、エリザスは少し高いので、モメタゾン点鼻のほうがいいと思います。
回数や液体、粉末について
選ぶポイントとしての最後は、1日の回数と液体・粉末の違いですかね。
中には複数回点鼻したいという人もいますが、基本は1日1回タイプの点鼻薬のほうがコンプライアンスはいいと思います。
また点鼻薬をすると、逆に鼻がむずむずして嫌だという人もいるので、そのような場合はエリザスやベクロメタゾンのパウダータイプのほうが鼻に刺激が少なくていいと思います。
ただ噴霧した感じがしないので、薬剤師の方は説明する際に「効いた感じしないですからね」とちゃんと指導しましょう。
るるーしゅ
私は何度かクレームの電話うけています。「全然効いた感じしないんだけど」と怒られますので注意して。
最後に
今回は花粉の時期に話題になる「どの点鼻ステロイド薬が優れているのか?」というのを臨床研究のデータを基に解説してみました。
私の結論では、どの点鼻ステロイド薬も大差はないという結論でしたが、中には経験に基づいてこっちのほうが効くという医師の方もいると思いますので、本記事内容にとらわれすぎないように柔軟に対応していってもらえたらと思います。
るるーしゅ
花粉症患者多いですが、頑張って乗り切りましょう!!
参考資料
- Once daily mometasone furoate aqueous nasal spray is as effective as twice daily beclomethasone dipropionate for treating perennial allergic rhinit… – PubMed – NCBI
- Comparison of once daily mometasone furoate (Nasonex) and fluticasone propionate aqueous nasal sprays for the treatment of perennial rhinitis. The … – PubMed – NCBI
- ナゾネックス点鼻液審査報告書
- エリザス点鼻粉末200μg28噴霧審査報告書
- アラミスト点鼻液審査報告書
- Ocular symptom reduction in patients with seasonal allergic rhinitis treated with the intranasal corticosteroid mometasone furoate. – PubMed – NCBI
- Mometasone furoate nasal spray reduces the ocular symptoms of seasonal allergic rhinitis. – PubMed – NCBI
- Are intranasal corticosteroids all equally consistent in managing ocular symptoms of seasonal allergic rhinitis? – PubMed – NCBI
- Comment on: Are intranasal corticosteroids all equally consistent in managing ocular symptoms of seasonal allergic rhinitis? – PubMed – NCBI
2 件のコメント
有効性について比較の項目が空欄??
とくさん
コメントありがとうございます。
そうですね、記載が消えてしまっていますね
時間があるときに追記いたします。