目次
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用がコロナに効く?
今回は、先日のyahooのトップニュースに掲載されていた葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用が新型コロナウイルス感染症の急性期症状に効果的という内容について検証していきたいと思います。
その前にニュース記事の内容についてです。(ニュース記事はリンク貼ってもすぐに消えてしまうので引用します)
コロナ急性期にあの漢方薬が有効 東北大医のチームが突き止める
新型コロナウイルス感染者の発熱緩和や重症化の抑制に漢方薬が有効であるとの研究結果を、東北大大学院医学系研究科の高山真特命教授(総合診療)らの研究チームが発表した。
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏
チームは2021年2月~22年2月、東北大病院(仙台市)など国内7病院と連携し、コロナ感染者161人を対象に調査。漢方薬の葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)を1日3回服用するグループと、症状に応じて解熱剤やせき止めを服用する通常治療のグループに分け、経過を比べた。
その結果、発症から4日以内に漢方薬を使った患者は通常治療グループの患者より回復が早く、酸素吸入を必要とする重度の呼吸不全へのリスクが低かった。
るるーしゅ
海外のニュース記事だと、ちゃんと文献のリンクも貼ってあることあるんだけど日本は相変わらずない…
このニュース記事からでは、どの程度有効なのかも見えてきませんので、このニュース記事の元となった論文を読んでいこうと思います。
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の新型コロナへの有効性を検討した論文
論文なのですが、「kakkonto covid19 ncbi」でググったらすぐに見つかりました。
早速ですがPICOでまとめていきます。
20歳以上の新型コロナ陽性で重症度が軽度~中等度Ⅰの患者161名
通常治療にツムラ葛根湯7.5g/日とツムラ小柴胡湯加桔梗石膏7.5g/日を14日間(81名)
通常治療のみ(80名)
発熱、咳、痰、疲労、息切れなどの一般的な風邪のような症状が少なくとも 1 つ軽減するまでの日数。
発熱以外はNRSスケールで2日間、2ポイント以上下がったら軽減、発熱は37℃未満の低下。
副次的評価項目は、中等度Ⅱ以上への進行(重症化)
るるーしゅ
ランダム化はされていますが、盲検化はされていません。
結果ですが、 発熱、咳、痰、疲労、息切れなどの一般的な風邪のような症状が少なくとも 1 つ軽減するまでの日数は漢方群、対照群ともに3日で有意差はありません。
副次的評価項目の重症化は漢方群7.5%、対照群12.7%で漢方群のほうが少ない傾向でした。しかし盲検化していないため、このあたりは割り引いて考えてもいいのかもしれないです。
るるーしゅ
余談ですが、この論文の要旨の最後(結論部分)はなかなかひどいです。
Kakkonto with shosaikotokakikyosekko is effective for fever relief with suppression of disease progression in COVID-19 patients.
小柴胡湯加桔梗石膏と葛根湯の併用は、新型コロナウイルス感染症患者の解熱と重症化抑制に効果があります。
主要評価項目で有意差がないのに、要旨ではいかにも有効であったかのように記載しています。これは要旨だけしか読まない情弱を誤解させようとしていますね
るるーしゅ
あ、危ないとこだったぜ
ニュース記事のに内容について
ニュース記事のタイトルで、 コロナ急性期にあの漢方薬が有効 というのは、論文を読む限りでは有効とは言い切れないと思います。
発症から4日以内に漢方薬を使った患者は通常治療グループの患者より回復が早くという内容については、この論文では、発症から来院までの日数(中央値)は6日の記載のみで4日以内のサブグループ解析の結果は見つけられませんでした。
るるーしゅ
中央値が6日なので、4日以内は30人ずつくらいの比較データっぽいですよね…尚、なぜ4日以内のデータを比べたのかの記載もないですし、都合がいいデータがでるからでは?と思ってしまいます。
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用した際の安全性は?
本論文では、併用した際の安全性のデータが収集されています。この情報は、結構貴重な気がしますので共有します。
イベント | 漢方群 (n=80) | 対照群 (n=79) |
---|---|---|
心窩部不快感 | 1 | 0 |
痛風 | 1 | 0 |
手湿疹 | 1 | 0 |
手足のしびれ | 5 | 1 |
浮腫 | 5 | 3 |
皮膚発疹等の アレルギー症状 | 13 | 10 |
胃の不快感 | 17 | 12 |
有意差は出ていませんが、漢方群のほうが有害事象の発生件数は多いようです。
なんでこの2種類の漢方併用しているの?
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用ですが、この2種類の組み合わせは、新興感染症の治療として有名な組み合わせのようです。
1918年のスペイン風邪が日本で猛威をふるった際に、柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)という漢方を使用し死者を出さなかったという逸話があるそうです。
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を組み合わせることで、柴葛解肌湯に近い処方になるようです。
葛根湯
- 葛根 4g
- 桂皮 2g
- 大棗 3g
- 芍薬 2g
- 麻黄 3g
- 生姜 2g
- 甘草 2g
小柴胡湯加桔梗石膏
- 石膏 10g
- 大棗 3g
- 柴胡 7g
- 人参 3g
- 半夏 5g
- 甘草 2g
- 黄芩 3g
- 生姜 1g
- 桔梗 3g
柴葛解肌湯
- 石膏 6g
- 柴胡 4g
- 葛根 4g
- 半夏 3 g
- 麻黄 2.5 g
- 桂皮 2g
- 黄芩 2g
- 芍薬 2g
- 甘草 1g
- 生姜 1g
下線をひいている生薬が柴葛解肌湯には含まれていないもの
るるーしゅ
このあたりはもう少し追記するかもしれません
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の新型コロナへの使用についてのまとめ
さて今回はニュース記事になっていた新型コロナの治療に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用した際の有効性について調べましたが、実際には有効といえるほどのデータはありませんでした。
紹介されていた研究は、発症後すぐではなく、すこし日数がたってからの漢方薬投与のため、この研究結果から発症後すぐの葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用が新型コロナの治療にたいして効果がないとは言えないですよね
小柴胡湯加桔梗石膏には重大な副作用も
さらに小柴胡湯加桔梗石膏ですが、2021年5月に重大な副作用として間質性肺炎が追加されています。
咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
るるーしゅ
初期症状では、新型コロナの悪化なのか、重大な副作用の間質性肺炎の症状なのか?、それとも新型コロナの後遺症なのか?
区別が難しい気がします
そもそもツムラの漢方薬の供給が…
そもそも論として、葛根湯および小柴胡湯加桔梗石膏ですが、現在入手が困難な商品です。小柴胡湯加桔梗石膏はツムラのエキス顆粒しかありません。
2022年12月7日時点で、ツムラの漢方製剤は23品目、限定出荷となっています。今回の記事で紹介した葛根湯および小柴胡湯加桔梗石膏も該当しています。
23品目の詳細について視覚的に見えるようにツムラの漢方製剤一覧表に供給不安定な旨の情報を追記しました。
もし調剤室や医師へ情報提供する際に印刷が必要でしたら下記のPDFをご活用いただければ幸いです。
Takayama, S. et al. Multicenter, randomized controlled trial of traditional Japanese medicine, kakkonto with shosaikotokakikyosekko, for mild and moderate coronavirus disease patients. Front. Pharmacol. 13, 1008946 (2022)
【漢方医学入門-耳鼻咽喉科で漢方薬を使いこなす】私の推奨 代表的な漢方薬の使い方 小柴胡湯加桔梗石膏を活用する 葛根湯,麻黄湯から一歩前へ、今中 政支(夢輝会いまなか耳鼻咽喉科)、耳鼻咽喉科・頭頸部外科(0914-3491)92巻12号 Page1000-1003(2020.11)
素人漢方のススメ 感染症編(第6回) (第3章)急性発熱性疾患 新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)と漢方治療、鍋島 茂樹(福岡大学病院 総合診療部)、総合診療(2188-8051)30巻6号 Page757-759(2020.06)
感染症およびがん治療に対する漢方薬の可能性、三鴨 廣繁(愛知医科大学 大学院医学研究科臨床感染症学), 産婦人科漢方研究のあゆみ(0913-865X)38号 Page1-6(2022.04)