「このままでいいのかな」と思いながら、日々の業務に追われて立ち止まれない。薬剤師として働く私たちの多くが、そんな状態ではないでしょうか。特に調剤薬局で働いている方の中には、病院薬剤師のキャリアがどうなっているのか気になる方もいるかもしれません。
実は、札幌厚生病院が行った調査から、病院薬剤師がどのようなキャリア形成を思い描いているのかが明らかになっています。この記事では、その研究結果をもとに、病院薬剤師の志向性を整理し、そこから「自分のキャリアをどう考えるか」のヒントを抽出していきます。
体系的なキャリアパスが存在しない薬剤師業界において、他の薬剤師がどう考えているかを知ることは、自分の判断軸を作る材料になります。
- 病院薬剤師の実際のキャリア志向(研究データに基づく)
- 「現在」と「将来」のギャップから自分のキャリアを考える方法
- 専門性を高める道のメリットとコスト、境界条件
- キャリアの判断軸を作るための具体的な4つの質問
目次
病院薬剤師のキャリア形成、実際どう考えているのか?
「病院薬剤師はキャリア意識が高い」というイメージを持っている方、いませんか?確かに認定薬剤師や専門薬剤師の取得率は病院のほうが高い傾向にあります。ただ、それが「全員が明確なキャリアビジョンを持っている」ことを意味するわけではありません。
でも病院って、認定取得が半ば義務みたいになってる職場もありますよね?本人の意思というより、環境の影響じゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
そこは鋭いですね。環境要因と本人の志向は分けて考える必要があります。今回の調査は「実際にどう考えているか」を聞いたものなので、その点を確認していきましょう。
研究では、病院薬剤師が「現在重視していること」と「将来重視したいこと」の両方を聞いています。ここ、実は重要なポイントです。現在と将来のギャップから、その人が何を求めているかが見えてくるからです。
研究から見える病院薬剤師の志向性

調査概要:誰が答えたのか
札幌厚生病院に勤務する薬剤師を対象としたアンケート調査(2020年発表)では、以下のような質問が投げかけられています:
- 現在、日々の業務で重視していることは何か
- 将来的に重視していきたいことは何か
- 将来のキャリアイメージがあるか
- 認定・専門薬剤師の資格取得は、自分の成長にどれくらい重要だと考えるか
対象は一つの病院に限定されているため、すべての病院薬剤師に当てはまるとは言えません。ただし、「病院という環境で働く薬剤師がどう考えているか」の一端を示す貴重なデータです。
この調査の価値は、単に「認定を取りたいか」を聞くのではなく、「なぜそう思うのか」「現在とのギャップはどこにあるのか」を浮き彫りにしている点にあります。
見えてきた3つのポイント
調査結果から浮かび上がってきたのは、以下の傾向です。
1. 多くの病院薬剤師は、将来的に認定・専門薬剤師を取得して専門性を高めたいと考えている
これは予想通りかもしれません。ただし注意したいのは、「専門性を高めたい」という志向と「実際に取得できる環境にあるか」は別問題だという点です。現場だとここで詰まりがちです。志向はあっても、時間・費用・上司の理解が揃わないと実現できません。
2. 若いうちは幅広い経験を積み、その後に専門性を深めていくという段階的なキャリア形成が理想とされている
「まず土台を作ってから、とがらせる」という考え方です。これは理にかなっています。専門領域だけに特化すると、その領域が不要になったときや、環境が変わったときに対応できなくなるリスクがあるからです。
3. 日々の業務で重視していることと、将来重視したいことにギャップがある
ここ、迷いやすいところです。現在は「目の前の業務をこなすこと」に重きを置いているが、将来的には「専門的な介入」や「チーム医療への貢献」を重視したいと考えている薬剤師が多い。つまり、「今やっていること」と「やりたいこと」にズレがあるということです。
それって、結局「今の環境では理想が実現できない」ってことですよね?だったら転職しかないんじゃ…

オカメインコ

ポッポ先生
早まらないでください。ギャップがあること自体は悪くありません。問題は、そのギャップを「なんとなく抱えたまま」にしてしまうことです。まず言語化して、小さく検証する手があります。
「現在」と「将来」のギャップから自分のキャリアを考える

病院薬剤師の調査結果を見て、「自分にも当てはまるかも」と思った方、どうですか?もしそうなら、同じ質問を自分に投げかけてみることをお勧めします。
自分に問いかけるべき4つの質問
以下の質問に、できれば書き出してみてください。頭の中で考えるだけだと、曖昧なまま終わります。
- 現在、日々の業務で重視していることは何ですか?
(例:正確な調剤、患者対応、在庫管理、後輩指導など) - 将来的に、日々の業務で重視していきたいことは何ですか?
(例:専門的な薬物治療への介入、チーム医療での発言、研究活動など) - その「現在」と「将来」のギャップは、今の職場で埋められそうですか?
(Yes/No ではなく、「どの程度」「どの条件なら」で考える) - そのギャップを埋めるために、自分が負担できるコスト(時間・お金・精神的負荷)はどれくらいですか?
この4つ目の質問が、実は一番重要です。「専門性を高めたい」と思っても、認定取得には数十万円と数百時間がかかります。その負荷を許容できるかどうかで、選択肢は大きく変わります。
正直、うちの薬局だとそういう話をしても「忙しいのに何言ってるの」って感じになりそうで怖いです…

オカメインコ

ポッポ先生
その反応自体が、重要な情報です。もし上司が取り合ってくれないなら、「この職場では自分の志向が実現できない」という判断材料になります。逆に、話を聞いてくれる職場なら、まず小さく試せないか相談してみましょう。
ギャップを言語化するだけで、次の一手が見える
ここ、心当たりありませんか。「なんとなくモヤモヤしている」状態のまま、日々が過ぎていく。これが一番もったいないです。
ギャップを言語化すると、「何が足りないのか」「何があれば埋まるのか」が明確になります。そうすれば、転職するにしても、今の職場で交渉するにしても、判断軸ができます。
専門性を高める道は万能ではない―境界条件を押さえる

病院薬剤師の多くが専門性志向であることは確認できました。ただし、「専門性を高める=正解」と短絡的に考えないほうが安全です。専門性を高める道にも、明確な境界条件があります。
専門性を高めることのメリットとコスト
- 特定領域での発言力・信頼性が増す
- 転職時に専門職としての選択肢が増える(がん専門薬剤師、感染制御など)
- チーム医療で明確な役割を持てる
- 取得まで数十万円〜数百万円の費用と数百時間の学習時間
- 認定・専門の更新にも継続的なコストがかかる
- 専門領域が縮小・消滅した場合、その資格の価値が下がるリスク
専門性って、いったん取ったらずっと使えるわけじゃないんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
いいえ。医療は変化します。たとえば、ある疾患の治療ガイドラインが大きく変わったり、新薬が出て治療の主流が変わることもあります。専門性は「更新し続けるもの」です。
こんな人には専門性の追求が向いていないかもしれない
以下に当てはまる場合は、専門性の追求を一度立ち止まって考えたほうがいいです
ライフイベント(出産・介護など)が数年以内に予定されていて、学習時間を確保できない
→ まずは基礎力の維持に注力し、タイミングを見計らう
今の職場が専門性を評価しない環境で、転職の予定もない
→ 資格を取っても使う場がなく、モチベーションが続かないリスク
特定領域への興味よりも、「幅広く対応できる」ことに価値を感じる
→ ジェネラリストとしての道もあります(在宅、OTC、地域連携など)
現場だとここで詰まりがちなのは、「専門性を高める=唯一の正解」という固定観念です。自分の状況と照らし合わせて、「今、何に投資するのが最適か」を考えましょう。
まとめ:小さく始める、自分の判断軸を持つ

病院薬剤師の調査から見えてきたのは、「多くの薬剤師が専門性を高める方向を志向している」という事実と、「現在と将来にギャップがある」という現実です。
このギャップをどう扱うかが、キャリア形成の分かれ道です。
次の一歩として、まずやること
- 「現在重視していること」と「将来重視したいこと」を書き出す
頭の中だけで考えず、紙またはスマホのメモに書く。これだけで整理が進みます。 - そのギャップを埋めるために必要なもの(時間・お金・環境)を洗い出す
「なんとなく無理そう」ではなく、具体的な数字で把握する。 - 小さく検証する
いきなり認定取得を目指すのではなく、まずは関連する勉強会に参加してみる、先輩に話を聞いてみる、など負荷の低いアクションから始める。 - 判断軸を持つ
「負荷は許容できるか」「成長につながるか」「リスクは管理できるか」の3軸で考えると、判断がブレにくくなります。
私としては、「完璧な答えを出してから動く」よりも、「小さく動いて修正する」ほうが現実的だと考えています。キャリアは一度決めたら変えられないものではなく、検証しながら調整していくものです。

ポッポ先生
薬剤師を取り巻く環境は変化しています。「今のままでいい」という選択肢は、実は「変化に対応しない」というリスクを取っていることになります。まずは自分の現在地を確認してみましょう。
参考文献
石塚仁保, et al. “札幌厚生病院に勤務する薬剤師におけるキャリア形成と資格取得・研究活動に関するアンケートを用いた意識調査.” 日本農村医学会雑誌 69.1 (2020): 48-56.

