BANI(バニ)という言葉をご存じですか?
Brittle(脆い)、Anxious(不安な)、Nonlinear(非線形)、Incomprehensible(理解不能)──この4つの頭文字を取った言葉で、VUCAの次世代版として使われています。「予測できない」を超えて、「システムそのものが脆くて、突然ガラッと変わる」時代を表す言葉です。
薬局業界は、まさにこのBANI時代に突入しています。
電子処方箋の導入は予定通り進まず、調剤報酬改定は年々厳しく、地域連携薬局の認定も思うように広がらない。「じわじわ変わる」のではなく、ある日突然ルールが書き換わる。そんな不安定さの中で、私たち薬剤師はどうキャリアを考えればいいのでしょうか。
私も数年前までは「今の職場が忙しいから、とりあえずここで頑張ろう」と思っていました。でも、ふと立ち止まって考えたとき、「このままで5年後、10年後も薬剤師として必要とされているのか?」という不安が頭をよぎるようになりました。
- 2025年末時点での薬局業界の現状(電子処方箋、薬局数、地域連携薬局)
- BANI時代を生き抜くための「判断軸」の持ち方
- 今の職場が成長できる環境かを確認する方法
- キャリアの不安を感じたときの相談先
目次
薬局業界が「BANI時代」である4つの理由

まず、なぜ薬局業界がBANI時代なのか、具体的に見ていきましょう。
Brittle(脆い)──処方箋依存の経営基盤
多くの薬局は、処方箋枚数と調剤報酬に収益の大部分を依存しています。でも、この基盤は思っているより脆いです。
- 2024年の調剤報酬改定で、調剤基本料+3点、地域支援体制加算-7点
- 門前薬局への評価がさらに厳格化
- 電子処方箋やマイナ保険証への対応コストが増加
「処方箋枚数が多いから大丈夫」という安心感は、制度変更一つで崩れる可能性があります。
Anxious(不安な)──先が見えない制度変更
電子処方箋は予定通り進まない。薬局数は飽和状態。AI化や自動化の話も出てくる。何が起きるかわからない不安が、現場にはあります。
正直、電子処方箋とか地域連携とか、いつまでに何をすればいいのかよくわからないんですよね…

オカメインコ

ポッポ先生
それがまさにBANI時代の特徴だね。情報が多すぎて、何を優先すべきかが見えにくい。だからこそ、自分なりの判断軸が必要になるんだ。
Nonlinear(非線形)──突然ルールが変わる
「じわじわ変わる」のではなく、ある日突然、ルールが書き換わる。これがNonlinear(非線形)です。
- 2025年3月に「全国普及」と言われていた電子処方箋が、夏に目標見直し
- 調剤報酬改定が2ヶ月後ろ倒しになった(2024年4月→6月施行)
- 後発医薬品の供給不足で、突如として対応に追われる
こういう「想定外」が、もはや日常になっています。
Incomprehensible(理解不能)──制度が複雑すぎる
地域連携薬局の認定要件、調剤報酬の点数表、電子処方箋の算定ルール……複雑すぎて、何をすればいいかわからない。
現場の薬剤師が「よくわからないから、とりあえず今まで通りやっておこう」となるのも無理はありません。でも、それがリスクになる時代でもあります。
薬局業界、いま何が起きているのか?

電子処方箋は「予定通り進んでいない」
元記事では「2020年から電子処方箋が始まる」と書かれていましたが、2025年12月現在の状況はこうです。
- 薬局の導入率:約60〜80%(2025年1月時点で63.2%、夏には概ね全薬局導入見込み)
- 医療機関の導入率:約10%(病院は3.9%、クリニックは9.9%)
- 当初の目標「2025年3月までに全国普及」は達成できず、2025年夏に新目標設定予定
え、薬局はけっこう導入してるけど、病院が全然なんですね…

オカメインコ

ポッポ先生
そうなんだ。医療機関側のシステム負担が大きくて進んでいない。ただ、薬局側は電子処方箋に対応できる体制を整えないと、今後の診療報酬上で不利になる可能性が高いから、準備は進めておきたいところだね。
薬局数は「飽和状態」、一部地域では減少傾向
元記事では「2040年に約3万軒になる」という予測がありましたが、2025年現在の状況はこうです。
- 薬局数:約6万〜6.2万軒(2021年度末で61,791軒、2023年で62,375軒)
- 一部の県(山口、鳥取、広島など)ではすでに減少が始まっている
- 調剤医療費は約7.7兆円だが、処方箋1枚あたりの単価は減少傾向
でも、うちの薬局は処方箋枚数も多いし、当分は大丈夫じゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
処方箋枚数が多いだけで安心はできないよ。2024年の調剤報酬改定で、門前薬局への評価がさらに厳しくなったから。「枚数をこなす」だけじゃなく、「質の高い薬学管理」ができているかが問われているんだ。
地域連携薬局の取得は「ハードルが高い」
元記事では「地域連携薬局を目指そう」という話がありましたが、現実はこうです。
- 地域連携薬局の認定数:約4,200件(2025年3月末時点)
- 専門医療機関連携薬局の認定数:約200件
- 全薬局の約7%しか取得できていない
7%って、ほとんど取れてないじゃないですか…何がそんなに難しいんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
最大のハードルは「トレーシングレポート月30件以上」だね。医療機関への情報提供実績が必要なんだけど、小規模薬局だと薬剤師の人数が足りなくて在宅対応や情報連携まで手が回らない。それに、医師側の受け入れ体制も整っていないケースが多いんだ。
ただし、地域連携薬局を取得していないとダメかというと、まだそこまでではありません。ただし、将来的に「かかりつけ薬局」として評価されるための要件になる可能性が高いです。
2024年調剤報酬改定で何が変わったか?

「対物から対人へ」がさらに加速
2024年6月の調剤報酬改定(トリプル改定)では、こんな変更がありました。
- 調剤基本料1〜3が3点アップ(賃上げ対応)
- 地域支援体制加算が7点ダウン(要件が厳格化)
- 医療DX推進体制整備加算(4点)が新設(電子処方箋・マイナ保険証対応)
- 在宅薬学総合体制加算が新設(在宅対応の評価強化)
正直、調剤報酬の細かい点数とか、現場ではあまり意識してないです…

オカメインコ

ポッポ先生
それは危ないね。調剤報酬の点数が薬局の収益に直結するから、「この加算を取るためには何をすればいいか」を理解していないと、いつの間にか経営が厳しくなっている、なんてこともあるよ。逆に言うと、そういう仕組みを理解して動ける薬剤師は、どこでも重宝されるんだ。
こういった状況を踏まえて、今どうするか?

まず確認すべき:今の職場は「成長できる環境」か?
元記事にあったチェックリストを、2025年版にアップデートしました。
- 新人・中堅・管理職向けの教育システムがある
- 学会や地域の勉強会に参加できる(業務扱い or 補助あり)
- 在宅医療に取り組んでいる(実績がある)
- 電子処方箋やマイナ保険証への対応が進んでいる
- トレーシングレポートや服薬情報等提供料の算定実績がある
- 地域連携薬局や健康サポート薬局の認定取得を目指している
- 会社の経営方針やビジョンが明確で、定期的に共有される
でも、職場の雰囲気はすごくいいんですよ。それだけじゃダメですか?

オカメインコ

ポッポ先生
雰囲気がいいのは大事だよ。ただ、「雰囲気がいい」だけで5年後、10年後も薬剤師として働けるかというと、それは別問題だと思う。従業員満足度が高い薬局は患者満足度も高いことが多いけど、逆に「成長の機会がない」のに雰囲気だけで留まっているのは、安全じゃないんだ。
「判断軸」を持つことが、キャリアを守る
ここが今回の記事で一番伝えたいことです。
薬局業界の変化は、あなたがコントロールできるものではありません。電子処方箋がいつ普及するか、薬局数がどれだけ減るか、そういうのは国や業界全体の動きです。
でも、「今の職場で成長できているか」「どんなスキルを身につけたいか」という判断軸は、あなた自身が持てます。
- 負荷(続くか):無理なく続けられる働き方か?
- 成長(何が増えるか):スキルや経験が積み上がっているか?
- 回収(時間・お金):投資した時間や労力が、将来に繋がるか?
- 安全性(リスク管理):この職場に依存しすぎていないか?
たとえば、「今の職場は忙しいけど、在宅対応のスキルが身についている」なら、それは成長に繋がっています。一方で、「処方箋をこなすだけで、新しいことに挑戦する余裕がない」なら、それは安全性の面でリスクがあるかもしれません。
「このままじゃやばいかも」と思ったら、誰に相談する?

キャリアコンサルタントという選択肢
元記事でも触れられていましたが、2016年に「キャリアコンサルタント」という国家資格ができました。薬剤師業界に詳しいキャリアコンサルタントに相談することで、自分の市場価値や選択肢を客観的に知ることができます。
でも、転職サイトに登録するのって、なんか転職前提みたいで抵抗があります…

オカメインコ

ポッポ先生
わかるよ。でも、「転職する・しない」を決める前に、「今の自分がどう評価されるか」を知るのは大事だと思う。薬剤師の転職サイトの中には、キャリア相談だけでも対応してくれるところがあるから、まずは情報収集として使ってみるのもありだよ。
「判断軸」を言語化してから相談する
いきなり「転職しようかな」と思っても、何を基準に選べばいいかわからないんですよね。
私ならまず、こんな質問に答えてみます。
- 今の職場で「できるようになったこと」は何か?
- 今の職場で「できないままのこと」は何か?
- 5年後、どんな薬剤師になっていたいか?
- 働き方(時間、場所、業務内容)で譲れないことは何か?
この質問に答えるだけで、自分の判断軸がだいぶクリアになります。そのうえでキャリアコンサルタントに相談すると、「あなたの場合は、こういう選択肢がありますよ」という具体的な提案がもらえるはずです。
まとめ:BANI時代だからこそ、「判断軸」を持とう

薬局業界は、確かにBANI時代に突入しています。
Brittle(脆い)経営基盤、Anxious(不安な)先行き、Nonlinear(非線形)な変化、Incomprehensible(理解不能)な制度──。どれも、私たち薬剤師がコントロールできるものではありません。
でも、だからこそ「判断軸を持つこと」が、何よりも大事だと私は思います。
- 「今の職場は成長できる環境か?」
- 「自分はどんなスキルを身につけたいか?」
- 「5年後、10年後も薬剤師として必要とされるために、今何をすべきか?」
こういう問いに、自分なりの答えを持っているかどうか。それが、BANI時代を生き抜くための武器になります。
もし今の職場で「成長の機会がない」「将来が不安」と感じているなら、まずは小さな一歩から始めてみてください。
- 職場の教育システムや研修制度について、管理薬剤師に聞いてみる
- 在宅医療や地域連携の勉強会に参加してみる
- キャリアコンサルタントに相談して、自分の市場価値を確認してみる
大事なのは、「今すぐ転職する」ことではなく、「判断軸を持って、自分のキャリアを主体的に考える」こと。そのための情報収集や相談は、早ければ早いほどいいです。

ポッポ先生
BANI時代だからこそ、一度立ち止まって、自分のキャリアを見つめ直してみよう。変化は避けられないけど、どう向き合うかは自分で決められるからね。
参考情報
最新の業界動向を知りたい方へ
- 厚生労働省「電子処方箋の現況と今後の対応」(2025年1月)
- デジタル庁「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」
【用語解説】BANI(バニ)とは?
BANI(バニ)は、2020年頃から使われ始めた、VUCAに代わる新しい時代を表す言葉です。
- Brittle(脆い):一見安定しているように見えても、ちょっとした衝撃で崩れる
- Anxious(不安な):先が見えず、何を信じればいいかわからない不安
- Nonlinear(非線形):「原因→結果」が比例せず、突然大きく変化する
- Incomprehensible(理解不能):複雑すぎて、全体像が掴めない
薬局業界は、まさにこのBANI時代の特徴を色濃く持っています。だからこそ、自分なりの判断軸を持つことが重要になるのです。


