薬局で働く人なら、誰しもが一度は思うであろうどうでもいい疑義照会というのがあります。
どうでもいいと言うのは、問題なのかもしれませんが患者アウトカムには直結せず、いわゆる保険調剤を実施する上で不備があるようなものを指摘するといった内容ですね。
このツイートを発端に、薬剤師側から色々な意見が飛び交っています。ちなみに岩田先生は以前にも湿布薬の貼付部位の記載漏れへの疑義照会に対して苦言を呈していました。
今日のささやかな驚きその2
アレルギー性結膜炎の患者さんに点眼薬出したら薬局から「両目ですか、片目ですか」と疑義照会が来た。片目ですって言おうかなと一瞬思った。午前11:45 · 2023年3月13日
https://twitter.com/georgebest1969/status/1635109808893493248
本当はこういう本質的なところで薬剤師さんが介入すべきなんです。湿布をどこに貼るかとか、軟膏どこに塗るかなんてチェックしたって医療の質や安全が改善するわけでもあるまいし
午前11:26 · 2012年12月5日
https://twitter.com/georgebest1969/status/276150467552219136
先日もまた岩田健太郎先生が、この件について言及していて薬剤師側も色々と反応していましたので、すこし内容をまとめておこうと思います。
目次
外用薬の用法記載は義務なのか?
まず、前提として外用薬の用法記載は義務かどうか解説します。
処方箋の記載ルールでは、処方欄には、医薬品名・分量・用法・用量・外用の場合の回数、使用部位を記載するとあります。(院外処方箋の正しい書き方より)
そのため、使用部位などが記載ないと薬剤師は疑義照会の対象となります。
薬局側も厚生局からの個別指導で、この外用薬の使用部位は指摘事項として毎回あがっています。
京都府薬剤師会,最近の審査事例を中⼼に 2023.6.4(⽇)より
しかし、レセプトへの記載は省略していいことになってます。
外用薬に係るレセプトの記載において、使用部位の記載は不要なのでしょうか?
外用薬に係る用法(すなわち使用部位)については、調剤報酬明細書(以下、レセプト)の「処方」欄への記載は省略できます。
レセプトの記載要領において、以前は剤形(内服薬、頓服薬、浸煎薬、湯薬、注射薬、外用薬)にかかわらず用法を記載することとされていました。そのため、外用薬については、使用部位まで明らかにするよう求められてきたところです。しかし、これまでの審査における状況を鑑み、現在、外用薬に係る用法についてはレセプトへの記載を省略することができるようになっています。(表)
表 レセプトの「処方」欄への記載方法
所定単位(内服薬(浸煎薬及び湯薬を除く。以下同じ。)にあっては1剤1日分、湯薬にあっては内服薬に準じ1調剤ごとに1日分、内服用滴剤、屯服薬、浸煎薬、注射薬及び外用薬にあっては1調剤分)ごとに調剤した医薬品名、用量(内服薬及び湯薬については、1日用量、内服用滴剤、注射薬及び外用薬(ただし、湿布薬を除く。)については、投薬全量、屯服薬については1回用量及び投薬全量)、剤形及び用法(注射薬及び外用薬については、省略して差し支えない。)を記載し、次の行との間を線で区切ること。
平成28年度 保険調剤Q&A P72より
というわけで、保険請求する際には、外用薬の用法は記載しなくてOKです。むしろ記載すると、突合でひっかかるみたいなことが福岡県薬剤師会のニュースで記載されていました。
突合点検による保険者からの湿布薬の使用部位不一致の
申し立てについて(再周知)
標記の件につきましては、既にふくおか県薬会報 2019年9月号の審査ニュース217号でお知らせしているところですが、最近、保険者からの再審査請求が多くなっていることから、請求の際には十分注意していただきますよう再度お知らせいたします。
審査支払機関による突合点検では、レセプトで請求された同一患者に係る同一診療(調剤)月において、医科レセプトまたは歯科レセプトと調剤レセプトの組み合わせを対象とし、記載された医薬品の適応、投与量および投与日数の点検が行われています。
保険者が医科レセプトまたは歯科レセプトと調剤レセプトを突合点検した結果、「保険医療機関が発行した処方せんの内容」または「保険薬局の調剤」が不適切と考えられる場合、突合再審査の請求が行われます。
最近、この突合点検の結果、医科レセプトに記載された傷病名と、調剤レセプトに記載された湿布薬の使用部位が一致しないとの保険者からの突合再審査請求が多く見受けられます。現在、外用薬に係る用法(すなわち使用部位)については、レセプトの「処方」欄への記載を省略して差し支えないとなっています。しかし、個別指導において、処方箋に外用薬の使用部位の記載がない場合には、患者等から確認の上、薬剤服用歴に記載するよう指導を受けることから、レセプトの「処方」欄にも併せて記載されるケースが多いようです。
医療機関との無用なトラブルを避けるためにも、調剤レセプトに湿布薬の貼付部位を記載する際には、十分ご注意ください
ふくおか県薬会報 Vol.33 No.12(2020)より
というわけで、まとめると医師側は記載するのがルール、薬剤師側は保険請求する際には必要ないが、薬歴等に残しておかないと個別指導で指摘されるから不明瞭な場合は疑義照会が必要になるというわけですね。
形式的疑義照会と薬学的疑義照会
疑義照会については、処方せんへの記載事項の不備である「形式的疑義照会」と薬学的知識による判断を必要とする「薬学的疑義照会」の 2 つに分類することが多いです。
薬剤師法第24条
「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」
保険医療機関及び保険医療養担当規則
第二十三条 保険医は、処方箋を交付する場合には,様式第二号若しくは第二号の二又はこれらに準ずる様式の処方箋に必要な事項を記載しなければならない。
2 保険医は、その交付した処方箋に関し、保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、これに適切に対応しなければならない
以下の処方箋の記載不備については、「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」、どちらに該当すると思いますか?
Rp1 アレジオンLX点眼液1.0% 5mL
1日2回
普通に考えれば、花粉症で眼がかゆいってことでしょうから使用部位は両眼でしょう。その記載事項の不備ということで「形式的疑義照会」と言えると思います。
ただ100%そうとも言い切れないのは、患者さんが「医師はかゆいほうだけ点眼すればいいって言ってたんだけど、本当にそれでいいの?」というケースや、医療機関を受診した本人ではなく、代理人が取りに来局したケースになると、「薬学的疑義照会」にもなるのではないかと思います。
るるーしゅ
多分、医師が思っているほど、患者は医師の説明を正しく覚えていないと思う、なのでしっかりと記載してほしい
薬剤師はちゃんと疑義照会しているか?
医師に「処方箋を記載する際のルールなんだから、ちゃんと書けよ」という思いは、わたしもものすごく持っているのですが、わたし結構、こういうしょうもない疑義照会端折ってしまうことあります。(ゴメンナサイ)
ただTwitterでのアンケートでも私だけではなく、しょうもない疑義照会を実施しない薬剤師はいますよね。
るるーしゅ
ルールなんだから、必ず問い合わせろよ!って言われたら、嫌だな
疑義照会簡素化プロトコル使えばいいのでは?
今回のような、湿布の使用部位は、患者に確認すれば分かることが多いので、記載不備の確認は形式的疑義照会に該当しますよね。
このような、しょうもない疑義照会についてなんですが、疑義照会簡素化プロトコルで解決できそうですよね。
疑義照会簡素化プロトコルは、事前に合意しておけば疑義照会なしで変更が可能です。検索してみると、大きい病院などではこの簡素化プロトコルを採用しているところは多いと思います。
どのような内容が疑義照会不要なのか、文献(京大病院)で紹介されていたものを以下に示します。
- 成分名が同一の銘柄変更(先発品間でも可)
- 剤形の変更(安定性,利便性の向上のための変更に限る. 外用剤不可)
- 別規格製剤がある場合の処方規格の変更(安定性,利便性の向上のための変更に限る.)
- コンプライアンス等の理由により半割,粉砕あるいは混合すること,あるいはその逆(規格追加も含む.)
- 患者希望あるいはコンプライアンス等の理由により一包化調剤すること
- 湿布薬や軟膏での規格変更に関すること(合計処方量が変わらない場合)
- 一般名処方における調剤時の類似剤形への変更(先発品類似剤形への変更を含む.)
- 薬歴上継続処方されている処方薬に残薬があるため,投与日数を調整(短縮)して調剤すること(外用剤の本数の変更も含む.)
- 服用歴のある配合剤が,単剤の組み合わせ(同一成分および含量)に変更されたと判断でき,患者が希望した時に元の配合剤へ変更すること(薬歴等に基づき,京大病院への入院により変更されていることを確認すること)
- 服用歴のある配合剤において,配合剤および含有する単剤が,京大病院(院内)で採用されていないために,配合剤の片方の成分が同効薬に変更されたと判断でき,患者が希望した時に元の配合剤へ変更すること.(薬歴等に基づき,京大病院への入院により変更されていることを確認すること)
- 薬歴等で乳酸菌製剤が継続使用されていることが確認できる場合において,抗菌薬が併用されていない場合のビオフェルミンRからビオフェルミンへの変更,またはその逆(併用期間のみビオフェルミンR を追加する場合には,ビオフェルミンとの合計日数は元のビオフェルミンの処方日数を超えないこと)
- 薬歴等で処方されるべきでない診療科からの処方であることが明確な場合における,オーダ時の警告を無視したと思われる重複処方の削除(処方期間が重なり,処方期間中に元の処方診療科を受診することが確認された場合に限る.)
- 患者の希望があった場合の消炎鎮痛外用貼付剤における,パップ剤→テープ剤,テープ剤→パップ剤への変更(成分が同じものに限る. 枚数に関しても原則同じとする.)
- ビスホスホネート製剤の週 1 回あるいは月 1 回製剤が,連日投与の他の処方薬と同一の日数で処方されている場合の処方日数の適正化(処方間違いが明確な場合)
- 外用剤の用法(適用回数,適用部位,適用タイミング等)が口頭で指示されている場合(処方せん上,用法指示が空白あるいは「医師の指示通り」が選択されている)に用法を追記すること(薬歴
上あるいは患者面談上用法が明確な場合)
櫻井香織, et al. “病院と薬局の合意に基づく院外処方せんにおける疑義照会簡素化プロトコルとその効果.” 医療薬学 42.5 (2016): 336-342.
るるーしゅ
⑮がまさにドンピシャですよね。京大病院以外でも、この外用薬の用法の簡素化プロトコルを採用しているところは多そうです。
ちなみに冒頭の岩田健太郎先生が所属する神戸大学附属病院をみてみると…
疑義照会簡素化プロトコルを採用していますね、ただ内容を見てみると外用薬の用法については記載が2023年7月時点ではありませんでした。
るるーしゅ
こちらに追記してもらえると、お互いスムーズに仕事ができるかもしれませんね
まとめ
今回は、薬局薬剤師が直面するしょうもない疑義照会について、どのようなルールになっているのかを解説するとともに、その解決策として疑義照会簡素化プロトコルを紹介しました。
保険医療なので、ルールに従うのは当たり前なのですが、無駄を省ける部分はお互い省いて効率的に仕事ができるといいなと思っています。
薬剤師側も「しょうもない疑義照会してくるな」と言われたら、疑義照会簡素化プロトコルを作ってお互い合意のうえで効率的に業務しませんか?といった対応ができるといいですね。
るるーしゅ
面ばっかりだと疑義照会簡素化プロトコルが乱立してよく分からないってこともあるようなので、その辺も研究発表しても面白いかもと思いました。