2023年7月5日に「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」が公開され、ビスホスホネート製剤と顎骨壊死について情報がアップデートされたので今回、備忘録として残しておこうと思います。
予防的休薬の是非
骨吸収抑制薬投与中の患者において、抜歯等の歯槽骨に対する歯科口腔外科手術の際に骨吸収抑制薬を休薬するか否かに関しては、質の高いエビデンスは得られていないことから、いまだ議論の的である。この件に関して一定の指針が示されないことは処方医および施術する歯科医の間で混乱が続き、患者にとってもデメリットであると考え、本委員会でシステマティックレビューを行った。その結果、抜歯に際しての休薬の利益(MRONJ 発症率の低下)を検討した論文はいくつかあったが、いずれも利益を示唆する結果は得られていなかった。
反面、抜歯等に際しての短期間の休薬(例:術前 2 か月程度〜術後)の害(骨粗鬆症関連骨折の発症率の増加、生存率の低下、SRE の増加)を検討した論文は見られず、害は不明であった。
委員からは休薬のために抜歯が延期されることによる歯性・顎骨感染の進行が懸念されるとの意見と、休薬が長期に及んだ場合明らかに骨粗鬆症性関連骨折のリスクが上昇するとの意見も出された。
これらの結果から、現状においては休薬の有用性を示すエビデンスはないことから、委員会として「原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案する」とした。なお、ハイリスク症例でのごく短期間の休薬を完全に否定し得るほどのエビデンスもなかったことを付記しておく。
るるーしゅ
ビスホスホネート製剤は抜歯前に休薬するものという古い知識がまだあるわ
忙しい薬剤師のためのまとめ
ビスホスホネート製剤は抜歯前に休薬する必要があると思っている薬剤師は多いのではないでしょうか?
しかし、実際には抜歯前に休薬することで顎骨壊死のリスクが減るというエビデンスはありませんでした。今回発表されたポジションペーパーでは、新しいエビデンスは出ていませんが、今までの背景も踏まえ、「原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案する」というメッセージを明確に出しました。
目次
ビスホスホネート製剤と顎骨壊死について
ビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬は、骨粗髭症の骨折予防や,悪性腫瘍の骨転移・多発性骨髄腫による骨関連事象の治療目的で広く用いられています。
ビスホスホネート製剤による顎骨壊死をbisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw(BRONJ)、Dmab 製剤によるものは denosumab -related osteonecrosis of the jaw(DRONJ)、この両者を合わせて antiresorptive agent-related osteonecrosis of the jaw(ARONJ)と呼ばれている。
ベバシズマブ(bevacizumab)やスニチニブ(sunitinib)を含む血管新生阻害薬等による顎骨壊死が報告され、もうめとめて、medication-related osteonecrosis of the jaw(MRONJ)でいいじゃんとなっています。
BP関連顎骨壊死 | BRONJ |
骨吸収抑制薬関連顎骨壊死 | ARONJ |
薬剤関連顎骨壊死 | MRONJ |
海外データ | 10万人あたり |
---|---|
低用量骨吸収抑制薬 | 1~69人 |
高用量骨吸収抑制薬 | 0~90人 |
ビスホスホネート製剤の抜歯前の休薬について
ビスホスホネート製剤といえば、抜歯前に休薬が必要なくすりとして覚えていた方が多いのではないかと思います。
ただ実際に、ビスホスホネート製剤を抜歯前に休薬することでMRONJを予防できるかのエビデンスは乏しいようです。
侵襲的歯科処置前の際には、骨折リスクが許容すれば 2 ヵ月前後のビスホスホネート製剤の休薬が国外の対応例として紹介されているが、休薬による顎骨壊死の予防効果は実証されていない。
山本 昌弘,内科,131巻4号 Page916-920(2023.04)より
るるーしゅ
抜歯しなければいけない歯の状態になっていることが、そもそものリスクっぽいですね
過去のポジションペーパーでは、骨粗髭症患者では骨吸収抑制薬の投与が4年以上にわたる場合や糖尿病などのリスク因子を有する場合には、抜歯前2か月程度の骨吸収抑制薬の休薬を考慮すべきことが記載されていたようです。
ただ以下の研究では、短期間の休薬しても、しなくてもMRONJの差は変わらなかったようです。
Hasegawa T, Kawakita A, Ueda N, Funahara R, Tachibana A, Kobayashi M, Kondou E, Takeda D, Kojima Y, Sato S, Yanamoto S, Komatsubara H, Umeda M, Kirita T, Kurita H, Shibuya Y, Komori T; Japanese Study Group of Cooperative Dentistry with Medicine (JCDM). A multicenter retrospective study of the risk factors associated with medication-related osteonecrosis of the jaw after tooth extraction in patients receiving oral bisphosphonate therapy: can primary wound closure and a drug holiday really prevent MRONJ? Osteoporos Int. 2017 Aug;28(8):2465-2473. doi: 10.1007/s00198-017-4063-7. Epub 2017 Apr 27. Erratum in: Osteoporos Int. 2023 Jun;34(6):1141-1144. PMID: 28451732.
ただ注意しなければいけないことして、休薬してもMRONJのリスクは低下しないということだけで、リスクは高いままのようです。
骨粗髭症の場合は抜歯60人に対して1人,がんの場合は4人に対して1人の割合でMRONJが発症する。
梅田 正博,Bone Joint Nerve,11巻1号 Page135-142(2021.01)より
この記述のもととなる文献どこだろう?と調べていたら、ちゃんと上記の解説記事で紹介されていました。
ただ全文読めないので、本当かどうか裏はとれないのですが、ひとつめの文献で骨粗鬆症の患者で抜歯時に1.7%、ふたつめのがん患者の場合は25%という数字がでていたようです。
Hasegawa T, Kawakita A, Ueda N, Funahara R, Tachibana A, Kobayashi M, Kondou E, Takeda D, Kojima Y, Sato S, Yanamoto S, Komatsubara H, Umeda M, Kirita T, Kurita H, Shibuya Y, Komori T; Japanese Study Group of Cooperative Dentistry with Medicine (JCDM). A multicenter retrospective study of the risk factors associated with medication-related osteonecrosis of the jaw after tooth extraction in patients receiving oral bisphosphonate therapy: can primary wound closure and a drug holiday really prevent MRONJ? Osteoporos Int. 2017 Aug;28(8):2465-2473. doi: 10.1007/s00198-017-4063-7. Epub 2017 Apr 27. Erratum in: Osteoporos Int. 2023 Jun;34(6):1141-1144. PMID: 28451732.
Hasegawa T, Hayashida S, Kondo E, Takeda Y, Miyamoto H, Kawaoka Y, Ueda N, Iwata E, Nakahara H, Kobayashi M, Soutome S, Yamada SI, Tojyo I, Kojima Y, Umeda M, Fujita S, Kurita H, Shibuya Y, Kirita T, Komori T; Japanese Study Group of Co-operative Dentistry with Medicine (JCDM). Medication-related osteonecrosis of the jaw after tooth extraction in cancer patients: a multicenter retrospective study. Osteoporos Int. 2019 Jan;30(1):231-239. doi: 10.1007/s00198-018-4746-8. Epub 2018 Nov 7. PMID: 30406309.
ビスホスホネートと抜歯前に休薬について薬局での対応
それでは今回の内容について薬局としてどのような対応が必要になってくるか考えていきたいと思います。
まず一つ目としては、ビスホスホネート製剤が処方されても、「このおくすり飲んでいる場合、抜歯する際には休薬しなきゃいけないんですよ」といった指導をしていた場合は、対応を見直しましょう。
ただ一方で、「このおくすり飲んでいても、抜歯の時は休薬の必要性なくなったんですよ」といった指導も、もしかしたら医師側の認識が「ハイリスクだし一応休薬しよう」だった場合、よろしくないですよね。
るるーしゅ
医師や歯科医師と情報共有して、対応について確認しておくのがベターかと思います。