「また目標管理シートを書く時期か……」
「毎日、対人業務の強化だの、加算算定だの言われるけれど、現場は回すだけで精一杯だよ……」
正直、こんなふうに疲弊していませんか?
特に2024年の改定以降、薬剤師に求められるハードルはぐっと上がりました。30代前後の中堅層となれば、自分の業務に加え、店舗の数字管理や後輩指導まで背負わされ、「キャリアを考える時間なんてない」というのが本音ではないでしょうか。
でも、誤解されやすいので先に言うと、「目標設定」は会社のためにやるものではありません。将来、あなたが理不尽な働き方を強いられないための「防具」を作る作業です。
この記事では、会社が求める「数字」のプレッシャーをうまく利用して、ちゃっかり自分の「市場価値」も上げてしまう「現実的な目標設定」のコツをお伝えします。精神論は抜きにして、賢くキャリアを積み上げるための判断軸を整理しましょう。
目次
なぜ「添付文書を読む」だけでは評価されないのか?

まず、よくある「失敗パターン」から見ていきましょう。ここ、真面目な人ほど陥りがちです。
例えば、こんな目標を立てたとします。
- 「知識を深めるために、毎日添付文書を1つ読む」
- 「患者さんに笑顔で接し、クレームをゼロにする」
一見、素晴らしい心がけです。しかし、私ならこの目標には「待った」をかけます。
理由はシンプル。「成果(アウトカム)」が見えないからです。
厳しい言い方になりますが、今の薬局経営において「勉強しました」「頑張りました」だけでは、給与という原資を生み出せません。会社が評価したいのは、「その知識を使って、何を変えたのか?」という一点です。
「会社が欲しいもの」と「自分が欲しいもの」を重ねる
私なら、こう変換します。
- Before:「添付文書を読む」
- After:「特定薬剤管理指導加算の対象薬(ハイリスク薬)の指導ポイントをまとめ、算定件数を月5件増やす」
これなら、会社は「加算が増えた」と喜び、あなたは「ハイリスク薬の管理スキル」という職務経歴書に書ける武器が手に入ります。
「会社の利益」と「自分のスキルアップ」が重なる部分を狙うのが、賢い大人の目標設定です。
うっ…やっぱり『数字』ですか? ノルマみたいで胃が痛いです……。

オカメインコ

ポッポ先生
アレルギー反応が出ますよね、わかります。
でも、数字は『あなたを守る証拠』にもなるんです。
『頑張りました』は上司の主観で否定できますが、『フォローアップを月20件やりました』という事実は誰も否定できません。感情で評価されないために、数字を味方につけるんですよ。
評価と市場価値を両取りする「3階建て」の目標設定

では、具体的にどう書けばいいのか。
ここ、迷いやすいところですが、私は目標を「3つの階層」に分けて考えることをおすすめしています。
特に30代・中堅の方は、第3階層(市場価値・マネジメント)の比重を少しずつ増やすのがポイントです。
【第1階層】業務効率(定時で帰る技術・DX)
土台となる部分です。自分の時間を確保するために設定します。
- 判断軸:スピード、ミス防止、DXツールの活用
- 具体例(初級):「薬歴入力時間を1件平均3分に短縮するため、定型文を5つ登録する」
- 具体例(中堅):「店舗内のデッドストック(不動在庫)をリスト化し、系列店への移動や調整で廃棄金額を前年比10%削減する」
【第2階層】対人業務(加算・信頼構築)
今の薬剤師の「生命線」です。ここが弱いと、将来の転職で苦労します。
- 判断軸:フォローアップ、トレーシングレポート(服薬情報提供書)、多職種連携
- 具体例(初級):「週に3件、服薬期間中のフォローアップ(テレフォン等)を実施し、記録に残す」
- 具体例(中堅):「医師へのトレーシングレポートを月1件以上提出し、処方提案の実績を作る」
【第3階層】市場価値・マネジメント(再現性のある強み)
中堅以降はここがカギです。「自分だけでなく、周りも動かせるか」が問われます。
- 判断軸:後輩育成、店舗の指標改善、特殊スキルの獲得
- 具体例:「後輩薬剤師の『かかりつけ同意取得』をサポートし、店舗全体の同意件数を月〇件にする」
- 具体例:「在宅担当者会議に月1回参加し、ケアマネジャーとの連携フローを作成する」
| 階層 | 曖昧な目標(NG) | 具体的な目標(OK) | 得られる「武器」 |
|---|---|---|---|
| 業務効率 | 調剤ミスを減らす | 散剤監査のダブルチェック手順をマニュアル化し、ヒヤリハットを月1件以下にする | 「業務改善・リスク管理能力」 |
| 対人業務 | 服薬指導を頑張る | 糖尿病患者への指導時、シックデイの確認を徹底し、トレレポ提出を狙う | 「提案力・医師との連携力」 |
| 市場価値 | 後輩の面倒を見る | 新人教育計画を作成し、3ヶ月で一人立ちさせる(投薬件数〇件/日) | 「マネジメント経験・育成力」 |
『マネジメント』とか言われると荷が重いです…。管理薬剤師じゃない平社員でも必要ですか?

オカメインコ

ポッポ先生
必要です! というか、チャンスです。
役職がなくても『新人のマニュアルを作った』『在庫管理のルールを整えた』という事実は、『リーダーシップがある人材』として転職市場で高く評価されます。役職手当をもらう前の予行演習だと思って、小さくやってみましょう。
転職やキャリアチェンジを見据えた「強み」のタグ付け

ここからは少し視座を上げて、長期的なキャリアの話をします。
「今の職場で骨を埋めるつもりはないけれど、何をすればいいか分からない」という方へ。
「再現性」があるかを問いかける
採用担当者が中途採用(特に30代以上)で一番見ているのは、「再現性」です。
つまり、「前の職場でできたことが、うちの職場でもできそうか?」ということ。
- ×「前の薬局は忙しかったので、根性はあります」
- ○「前の薬局で『多職種連携』に力を入れ、月2回は担当者会議に参加してケアマネジャーとのパイプを作りました」
後者なら、「うちの在宅部門でも活躍してくれそうだな」と想像できますよね。
今の業務の中で、どの経験なら「他所でも使えるタグ」になりそうか、点検してみてください。
- 在宅・緩和ケアタグ:麻薬の取り扱い、ポンプ管理、看取りの経験
- 専門性タグ:特定領域(がん、糖尿病、認知症)の認定、学会発表
- 運営タグ:施設基準の届出管理、実習生指導、地域活動(学校薬剤師など)
「小さな検証」で適性を見る
いきなり「認定を取る!」と意気込むと挫折します。私がおすすめするのは「お試し行動」です。
- 在宅に興味があるなら、まずは先輩の予製を手伝ってみる。
- 経営に興味があるなら、店長に「今月の損益計算書(P/L)」の見方を教えてもらう。
今の環境という「安全地帯」にいるうちに、小さく実験を繰り返すのが、最もリスクの低いキャリア戦略です。
なるほど…。『すごい実績』じゃなくて、『次の場所でも使える経験』を集める感覚ですね。

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。
ポケモン図鑑を埋める感覚でいいんです。『今回はトレーシングレポートの実績をゲットしよう』『次はマニュアル作成をやってみよう』。
そうやって集めたタグの組み合わせが、あなただけのキャリアになりますよ。
まとめ:目標は「未来の自分」へのプレゼント

ここまで、薬剤師の目標設定とキャリアについてお話ししてきました。
最後に、明日から使える要点を振り返りましょう。
- 「会社の数字」を利用する:会社の利益になることを目標にしつつ、それを自分の「職務経歴書に書ける実績」に変換する。
- 3階建てで整理する:日々の業務(1階)、対人スキル(2階)、再現性のある強み(3階)をバランスよく配置する。
- タグを集める:今の職場でしかできない経験を「つまみ食い」して、市場価値を高める。
目標設定シートを前にしてため息をつくのは、もう終わりにしましょう。
それは上司のためではなく、数年後のあなたが「選べる立場」でいるための、最強の武器を作るプロセスなのですから。
まずは手元のメモ帳に、「今の業務で、一番『得意かも』と思えること」を1つ書き出すところから始めてみませんか?


