最近、SNSで大手チェーン薬局に入社した新人薬剤師が1カ月で退職したという話題が駆け抜けました。「まだ保険薬剤師の登録も済んでいないのに」「薬剤師らしい仕事もしていないのに」——そんな声が飛び交う一方で、「さすが大手チェーンwww」と会社批判の空気も流れていました。
私自身、この話を見たとき正直に言えば「なぜ1カ月で?」と疑問に思いました。でも同時に、「大手だから辞めた」という単純な構図で片付けていいのかとも感じたんです。
薬剤師の離職率は年間約10%程度で、新卒社会人全体と同じ水準とされています。アインファーマシーズの2025年4月新卒採用数は553名という規模を考えると、統計的には一定数の早期退職者が出るのは避けられません。問題は、その退職が「会社の問題」なのか「個人の事情」なのか、あるいは「ミスマッチの構造」にあるのか——その見極めです。
- 入社1カ月退職の背景にある「母数の論理」と個人の事情
- 就職活動で見落としやすいミスマッチの3つの境界
- 早期退職を考えたときに確認すべき3つのポイント
- 新人を受け入れる側が見落としがちな定着支援の視点
目次
入社1カ月退職は「会社のせい」なのか——母数の論理と個人の事情

大手チェーンだから辞めたんでしょ?ネットでもそういう意見多いし

オカメインコ

ポッポ先生
母数が多ければ、早期退職者の「絶対数」も増えます。それを「大手だから」と結びつけるのは短絡的ですね
母数が大きいと「見える化」される現実
アインの新卒薬剤師採用数は553名、日本調剤も同規模で1000名を超える年もあります。対して、中小薬局では年間数名から数十名程度。仮に離職率が同じ10%でも、大手なら年間50人以上、中小なら1〜2人です。
SNSで話題になりやすいのは、どちらでしょうか。数字のマジックです。
「周りに流されて入社」は本当に多いのか
私が大学教員や採用担当者から聞く話では、「友人がアインに行くから自分も」「名前を知っているから安心」という理由で就職先を決める新人は確かにいます。逆に言うと、自分のキャリアを深く考えずに入社してしまうケースがあるということ。
ただしこれは、大手に限った話ではありません。中小でも「実家から近いから」「先輩に勧められたから」という流れで入社し、数カ月で「やっぱり違った」となる人はいます。
退職理由は多層的——会社だけの問題ではない
薬剤師の退職理由は、ライフイベントや契約満了が多く、職場環境への不満は薬局で4.7%程度というデータがあります。早期退職となると話は別ですが、それでも「会社が悪い」という一面的な見方は危険です。
でも、算定ノルマとか無理なジェネリック変更とか、実際にあるんでしょ?

オカメインコ

ポッポ先生
それは確かに問題です。ただ、それが「大手だから」ではなく「その店舗の運営方針」の問題である可能性もあります。大手内でも店舗ごとに差がありますからね
ミスマッチの構造——就職活動で見落としやすい3つの境界

就活生の7割以上がミスマッチに不安を感じている一方で、新卒3年以内離職率は32.3%という現実があります。不安を感じていても、実際には3人に1人が早期退職しているわけです。
境界①:「理想の薬剤師像」と「現場の業務」のズレ
大学で学ぶのは薬学の知識。でも現場で最初に求められるのは、レセコン入力、在庫管理、患者対応の流れ——いわゆる「オペレーション」です。
誤解されやすいので先に言うと、これは大手も中小も同じです。
ただ、大手はマニュアル化が進んでいる分、「自分の頭で考える余地がない」と感じる人もいます。逆に中小では「教えてもらえない」と悩む人もいます。
どちらが良い悪いではなく、「自分がどう学びたいか」の軸がないと、どこに行っても不満が残ります。
境界②:「会社の評判」と「配属店舗の実態」のギャップ
新卒採用のミスマッチ要因として、企業研究や自己分析の不足が指摘されています。特に薬局の場合、「会社」を見て入社しても、実際に働くのは「店舗」です。
就職活動では「会社の理念」や「研修制度」に目が行きがちですが、実際には「配属先の店長の人柄」「スタッフの年齢構成」「処方箋枚数」の方がよほど日常に影響します。
境界③:「辞めたい理由」と「辞めるべき理由」の線引き
正直、入社してすぐ辞めたいって思うこと、ダメですか?

オカメインコ

ポッポ先生
思うこと自体は自然です。問題は、それが「一時的なストレス」なのか「構造的な問題」なのかを見極めずに決断することですね
早期退職のメリットとして、目の前のストレスから解放されることが挙げられるのは事実です。ただしデメリットとして、転職活動での不利、新卒研修の恩恵を受けられないこと、生涯年収の低下リスクもあります。
- 体調面:不眠、食欲不振、朝起きられないなど身体症状が出ているか
- 時間軸:1週間単位で状況が悪化しているか、横ばいか、改善の兆しがあるか
- 相談先:誰かに相談したか、それとも一人で抱えているか
いまの状況だと判断を急ぎがちですが、最低でも上記3点を確認してから決めないと危険です。
早期退職を考えたとき、まず確認すべき3つのポイント

ポイント①:退職理由を「言語化」できるか
漠然と「合わない」「辛い」だけでは、次の職場でも同じことを繰り返すリスクがあります。
| 抽象的な理由 | 具体化すると |
|---|---|
| 人間関係が悪い | 上司の指示が矛盾している/先輩が教えてくれない/患者対応で孤立している |
| 業務がきつい | 処方箋枚数が多すぎる/残業が常態化している/休憩が取れない |
| やりがいがない | 調剤しかさせてもらえない/判断を任せてもらえない/学びの機会がない |
言語化できれば、「次はどこを重視するか」が見えてきます。できなければ、転職先でも同じ壁にぶつかります。
ポイント②:「今の職場で改善できるか」を試したか
でも、新人が「業務改善してください」とか言えないですよね?

オカメインコ

ポッポ先生
改善提案ではなく、「困っていることを伝える」レベルなら可能です。それすらできない環境なら、退職を考える材料になります
例えば:
- 「〇〇の業務で不安があるので、もう一度教えていただけますか」
- 「残業が続いていて体調が心配です。業務の優先順位を確認させてください」
これを伝えて改善の兆しがあれば、続ける価値があるかもしれません。伝えても無視される、あるいは「それくらいで弱音を吐くな」と返されるなら、環境の問題です。
ポイント③:「次の選択肢」を具体的に持っているか
明確な退職理由と次のキャリアプランがなければ、転職活動で不利になるというリスクは押さえておくべきです。
私が見てきた中で、早期退職後にうまくいった人の共通点は「次にやりたいことが具体的」だったこと。例えば「在宅医療に特化した薬局で経験を積みたい」「地域密着型の小規模薬局で患者さんとじっくり向き合いたい」など。
逆に「とにかく今の職場を辞めたい」だけだと、次の職場でも同じパターンを繰り返すケースが多いです。
新人を受け入れる側として——薬局が見落としがちな定着支援

ここからは少し視点を変えて、新人を受け入れる側の話をします。管理薬剤師や先輩薬剤師の立場で読んでいる方もいるかと思うので。
見落としがち①:「教えたつもり」と「伝わった」は違う
大手の研修プログラムは体系的で悪くないと私は思っています。でも、研修で学んだことと現場のギャップを埋めるフォローがないと、新人は混乱します。
逆に言うと、「何度でも聞いていいよ」という空気を作れていない職場は、新人が孤立しやすいです。
見落としがち②:「仕事を任せる」と「放置する」の境界
成長のために仕事を任せるのは大事ですが、それが「わからないことがあっても聞きづらい」状況を作っているなら本末転倒です。
見落としがち③:「辞めるかも」のサインを見逃す
薬剤師が辞めたいと考える主な理由として、人間関係、業務負荷、職場環境への不満が挙げられます。これらは突然現れるわけではなく、じわじわと蓄積していきます。
サインの例
- 挨拶の声が小さくなった
- 質問が極端に減った(諦めている可能性)
- 休憩時間に一人でいることが増えた
- 遅刻や欠勤が増えた
ここ、心当たりありませんか。新人が「辞めたい」と言い出す前に、こうしたサインに気づいて声をかけられるかが、定着率を左右します。
でも、忙しくてそこまで気を配れないです…

オカメインコ

ポッポ先生
人手不足だからこそ、新人が辞めると更に負担が増えます。短期的には手間でも、長期的には「定着支援」にコストをかけた方が安全です
まとめ:退職理由は多層的、判断は慎重に——でも逃げることも選択肢

入社1カ月で辞める新人薬剤師について、結論から言えば「大手チェーンだから」という単純な理由ではないと私は考えています。母数が多ければ早期退職者の絶対数も増えるのは統計的に自然ですし、退職の背景には個人の事情、ミスマッチの構造、職場環境の問題が複雑に絡み合っています。
大事なのは、「なぜ辞めたのか」を多面的に見ること
新人自身が判断を迫られたときは:
- 退職理由を言語化する
- 改善の余地を探る
- 次の選択肢を具体化してから決断する
ただし例外もあります。体調に明らかな異変が出ている、ハラスメントがある、法令違反の業務を強いられているなら、早期退職は「逃げ」ではなく「自己防衛」です。しないほうが安全、とは言えません。

ポッポ先生
最後に一つ。もし今、辞めるか悩んでいるなら、信頼できる先輩や大学の同期に相談してみてください。一人で抱えると判断が偏ります
まずは「自分が本当に困っていること」をノートに書き出してみることをおすすめします。それだけでも、判断の材料が整理されます。
もし周りに相談できる人がいなければ、転職支援サイトのキャリアアドバイザーに話を聞いてもらうのも一つの手です。
\ 悪質な転職サイトは利用しないで /
薬剤師が転職する際に利用する人材紹介会社(転職エージェント)、どこも同じだと思っていませんか?
現在、国は医療の分野において紹介料目当てで頻繁な転職を促す悪質な人材紹介会社への対策を強化しています。

ポッポ先生
悪質な人材紹介会社の利用は、ミスマッチする可能性が高いです。
このような悪質な人材紹介会社には絶対に相談してはダメです!!(悪質とは言っても国の許可を得ているという矛盾もありますが…)
薬剤師が、キャリア相談や転職時に、転職エージェントを利用する場合は、適正な有料職業紹介事業者の認定を受けている転職エージェントを利用しましょう。
薬剤師の分野で優良認定を受けているところは、ファルマスタッフ、その他数社とまだ少ないです。
悪質な人材紹介会社がどこか分かれば対策しやすいのですが、そのような情報はなかなか表に出てきません。なので我々としては、優良認定を受けているところを優先するのが望ましいでしょう。
判断は慎重に。でも、自分を守ることを最優先に。


