病院薬剤師の離職理由は何でしょうか?
一般的には給与や職場環境が大きな要因とされていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
この記事では、200人以上の病院薬剤師を対象にした調査結果を基に、離職理由の真相を探ります。
また、職位が高いほど離職理由として研究活動への理解不足を挙げる傾向についても考察します。
さらに、薬局でのキャリアを検討する病院薬剤師へのアドバイスも提供します。
目次
病院薬剤師の離職理由:一般的な認識と現実
病院薬剤師の離職理由は多岐にわたります。一般的には給与や職場環境、キャリアパスの不明確さなどが大きな要因とされています。
しかし、これらの要因が全ての病院薬剤師に当てはまるわけではありません。実際の離職理由は個々の状況や価値観に大きく影響されます。
第1回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会の中で、ツルハの後藤さんが病院薬剤師の退職理由ではないという内容を受けて、私なりに検討したのですが、また面白い研究データがあったので共有いたします。
尚、前回の記事を読んでいない方がいたら是非ともこちらもお読みいただければ幸いでございます。
今回のお題論文
小串 興平、濃沼 政美、高木 彰子、宮﨑 美子、中村 均.”病院薬剤師における職務満足度と勤務継続意識の関係についての検討”Examining the Relation between Occupational Awareness and
Official Positions of Hospital Pharmacists
医薬品相互作用研究 42巻1号 Page23-31(2018)
それでは研究の内容を要約していきます
神奈川県病院薬剤師名簿に載っている2594人から無作為に491人を抽出し、自宅へ「病院薬剤師の働きやすい環境を作るためのアンケート調査」(神奈川県)を郵送。論文のアブストラクトで示している結果は、もしも現勤務先を辞めるとすればどのような理由だと思われますか?というところです。
るるーしゅ
病院薬剤師に対しての匿名アンケート調査(横断研究)だね
病院薬剤師の離職理由第一位:給与の問題
491人に郵送して、回答したのが230人で46.8%です。
気になる、「もしも現勤務先を辞めるとすればどのような理由だと思われますか?」の回答結果は…
ちなみにこのアンケートは選択式で複数選択が可能なものでした。
- 残業が多い
- 有給休暇が取得できない
- 給与が少ない
- 病院の方針と合わない
- 自分の技能・能力が生かされない
- 薬剤師がチーム医療に受け入れられていない
- 薬剤部門の希望業務に従事できない
- 薬剤部内の上下関係が悪い
- 研究活動に理解がない
- 仕事に対して誇りが持てない
- 薬剤部と病院管理者の仲が悪い
- 教育体制が整備されていない
- 評価、人事制度に不満がある
- キャリアアップのため
- 健康上の理由
- 家族の都合(転勤、介護、看護)
- 結婚、子育てのため
- 通勤が不便
- 進学のため
項目 | 一般職(132) | 指導的役割(67) | 管理職(31) |
---|---|---|---|
給与が少ない | 69(52.3%) | 27(40.3%) | 12(38.7%) |
結婚、子育て | 37(28.0%) | 14(20.9%) | 2(6.5%) |
家族の都合 | 25(18.9%) | 21(31.3%) | 6(19.4%) |
キャリアアップ | 34(25.8%) | 15(22.4%) | 11(35.5%) |
本調査では、離職理由の第一位は給与の問題でした。
これは、給与が職務の責任やスキルレベルに見合っていないと感じる薬剤師が多いことを示しています。
また、給与が生活費や家族の支えになるほど十分でないと感じる薬剤師もいます。
るるーしゅ
離職理由の第一位は、まさかの給与!!
次いで、一般職では結婚・育児。指導的役割の人では家庭の事情、そして管理職ではキャリアの向上があがった。
なんか以前、紹介していたデータと結果が異なりませんか?
メガネ
上記記事内で紹介している文献(PMID:29264063)での離職した理由は下記の通り。
項目 | 薬局薬剤師 | 病院薬剤師 |
給与 | 6.9% | 5.7% |
雇用条件 | 20.3% | 11.3% |
成長できなさそう | 14.5% | 32.1% |
対人関係 | 7.2% | 8.5% |
仕事内容の問題 | 7.5% | 4.7% |
過去研究と結果が異なるのはなぜか?
日本の病院薬剤師の離職理由が二つの研究でなぜ異なる結果になったのか考えてみようと思います。
今回紹介した文献と、以前に紹介した文献で当たり前ですが研究対象者が異なります。
今回の文献の対象者:神奈川県病院薬剤師会の名簿にのっている病院薬剤師491名を無作為に抽出
前回の文献の対象者:徳洲会病院グループの病院薬剤師
神奈川県の病院薬剤師のほうが給与に関心が強かったとか?
メガネ
るるーしゅ
徳洲会グループでは、給与面が悪いのはわかりきってただったとか
(徳洲会グループの給与は知りませんが)
今回の文献の対象者:2015年11月時点で記載のある方なので研究は2015年以降にアンケート実施
前回の文献の対象者:2010年1月~3月
るるーしゅ
この5年で、病院薬剤師の働き方に対する認識が変わったという可能性もあるよね
るるーしゅ
一番は、神奈川県のは「もし辞めるとしたら理由はなんですか?」という if の話をしているところだね。
口では「給料が低い」と言っていても、実際にはそれが原因でやめる人は少ないってことでしょうね。
メガネ
職位と離職理由の関連性:研究活動への理解不足
職位が高いほど、離職理由として研究活動への理解不足を挙げる傾向がありました。
これは、高い職位の薬剤師が自身の専門性を活かす機会を求めていることを示しています。
しかし、その期待が現場で満たされない場合、離職を考える可能性が高まります。
離職理由の変化:時間とともに変わる傾向
離職理由は時間とともに変化します。
例えば、キャリア初期の薬剤師は給与や職場環境に重きを置く傾向がありますが、キャリアが進むと専門性や自己実現の機会を求めるようになります。
これは、薬剤師のキャリアステージやライフステージによって離職理由が変わることを示しています。
さいごに
今回は、病院薬剤師の離職理由第一位は、給与でした!という調査結果について共有いたしました。
ツルハの後藤さんは給与ではないと言っていましたし、それを示唆するデータもありましたが、「やっぱり給与の問題だ」というデータもあることが今回わかりました。
あと、今回紹介した研究で、職場の地位が高い程、より多くの回答者が離職理由として研究活動の無理解を挙げる傾向があったとのことです。
るるーしゅ
この研究活動の無理解という離職理由は、薬局、ドラッグストアでは絶対出てこないだろうな…
2020年9月より薬機法改正され、薬剤師を取り巻く環境が変化してきています。また新型コロナウイルス感染症の影響で都市部では薬剤師余りの状況が発生しています…
るるーしゅ
マジで免許だけの薬剤師もうイラネってなってきているよ…
ただ薬局も自分たちの行っていることをエビデンスとして示さなきゃという流れが起きてきているから、研究活動の無理解でとかいう病院薬剤師はウェルカムだろうな
ただこの人たちの研究活動が薬局というフィールドで出来るのか不明だけど
今後、薬局も専門化がすすむため資格をもっている病院薬剤師の人を欲しがっているチェーン薬局は多いと思います。今後のキャリアを検討する上で、薬局で先駆者として色々やってみたいなというのがあれば、今がチャンスかもしれないですよ。
\ 悪質な転職サイトは利用しないで /
薬剤師が転職する際に利用する人材紹介会社(転職エージェント)、どこも同じだと思っていませんか?
現在、国は医療の分野において紹介料目当てで頻繁な転職を促す悪質な人材紹介会社への対策を強化しています。
るるーしゅ
悪質な人材紹介会社の利用は、ミスマッチする可能性が高いです。
このような悪質な人材紹介会社には絶対に相談してはダメです!!(悪質とは言っても国の許可を得ているという矛盾もありますが…)
薬剤師が、キャリア相談や転職時に、転職エージェントを利用する場合は、適正な有料職業紹介事業者の認定を受けている転職エージェントを利用しましょう。
薬剤師の分野で優良認定を受けているところは、ファルマスタッフ、その他数社とまだ少ないです。
悪質な人材紹介会社がどこか分かれば対策しやすいのですが、そのような情報はなかなか表に出てきません。なので我々としては、優良認定を受けているところを優先するのが望ましいでしょう。
るるーしゅ
キャリアについて相談して、選択肢を広げておいてもいいかもしれないですね