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転居転職は”給料”より”生活コスト”で差が出る
転居を伴う転職、考えたことはありますか。
求人票に並ぶ年収の数字だけ見ると、都市部のほうが魅力的に映ることがあります。逆に、「地方は年収が高い」という話を耳にして、ちょっと気になっている方もいるかもしれません。
でも、ここで一つ押さえておきたいことがあります。年収が上がっても、生活が苦しくなるパターンは実在します。そして逆も然りです。
この記事では、転居転職を検討中の薬剤師に向けて、「給与」ではなく「可処分所得」と「生活のしんどさ」で判断するための考え方を整理します。家賃、通勤、車、保育──見落としやすい項目を一つずつ拾い上げて、内定前にやっておくべき現地確認まで、具体的にお伝えします。
転居転職の相談でよくある誤解が、「年収が上がれば暮らしは楽になる」という思い込みです。
私ならまず確認するのは年収ではなく、「転居先で毎月いくら出ていくか」のほうです。なぜなら、年収が50万円上がっても、家賃と通勤費で月5万円増えたら、年間60万円の支出増。差し引きマイナスです。
薬剤師の場合、年収の地域差には独特のクセがあります。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の全国平均年収は約599万円。ただし都道府県別で見ると、都市部の東京都は約585万円で全国平均とほぼ同水準。一方、薬剤師の充足率が低い地方県では600万〜700万円台の提示も珍しくありません。
ここ、意外に思いませんか。一般的な職種では「東京=高年収」のイメージが強いですが、薬剤師はむしろ逆転しやすい構造を持っています。需給バランスの影響が大きく、薬剤師が不足しがちなエリアほど年収が高くなる傾向があるからです。
じゃあ年収だけ見れば地方一択じゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
年収”だけ”なら、そう見えますね。でも年収は入口。出口、つまり支出のほうも見ないと判断がブレます。大事なのは「手元にいくら残るか」ですよ。
年収と手取りは違います。そして手取りと「自由に使えるお金」も違います。転居転職では、この三段構えで見ないと現実とのギャップが生まれます。
地方→都市:年収が上がっても苦しくなるパターン

地方の調剤薬局から都市部への転職。年収は維持か微増、でも生活が苦しくなった──こういうケースがなぜ起きるのか、構造を分解してみます。
一番のインパクトは家賃です。2025年の調査データによると、東京の単身世帯の住宅費は月約8.5万円。地方では約4万円。夫婦・パートナー同居世帯だと、東京が約12.5万円に対して地方は約6万円です。この差だけで、年間50万〜80万円の支出増になります。
さらに、地方では当たり前だった「車通勤10分」が、都市部では「電車通勤40分+徒歩10分」に変わることがあります。通勤時間が30分延びると、月に約10時間の時間コストが増える計算です。「時間はお金じゃない」と言う方もいますが、その10時間で何ができたかを考えると、無視できない負担です。
いまの状況だと、こんな逆転が起きやすいです。
| 項目 | 地方(現状) | 都市(転居後) | 差額(年間) |
|---|---|---|---|
| 家賃 | 月5万円 | 月10万円 | +60万円 |
| 車維持費 | 月2万円 | 0円(手放す) | −24万円 |
| 通勤費 | 月0.5万円(ガソリン) | 月1.5万円(定期) | +12万円 |
| 保育料 | 月2万円 | 月4万円 | +24万円 |
| 差額合計 | +72万円 |
年収が50万円上がっても、支出が72万円増えたら手残りは減ります。ここ、迷いやすいところです。「都市部のほうがキャリアの幅が広がるから」という判断は間違いではありません。ただ、生活コストの増加を織り込んだうえでの判断かどうかが分かれ目になります。
でも、都市部のほうが求人の種類も多いし、病院薬剤師とか専門性を積めるチャンスもありますよね?

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。コストだけで決める話ではないですね。ただし「キャリアへの投資」と「生活コストの増加」は分けて考えたいところです。投資なら回収の目処が立つかどうか。それを確認せずに飛び込むと、ただの出費になりかねません。
ただし、こんな場合は都市への転居が合理的になります。
- 専門薬剤師の資格取得を目指していて、研修認定施設が都市部にしかない場合
- パートナーの転勤に帯同する場合
- 在宅・緩和ケアなど、都市部に症例が集中する領域でキャリアを積みたい場合
状況によって「正解」は変わるので、一律に「地方のほうが得」とは言えません。
都市→地方:年収が下がっても楽になるパターン

逆のケースも見てみます。都市部から地方への転居転職です。
先ほどのデータの裏返しになりますが、家賃が月5万円以上下がるケースは珍しくありません。東京23区のファミリー向け物件の平均家賃は、2024年12月時点で月約21.7万円という数字もあります。地方の同等の広さなら月7〜10万円程度で借りられる地域も多いです。
加えて、薬剤師は地方ほど年収が高くなりやすい構造があります。薬剤師不足の地域では年収600万〜700万円台の求人も出ています。つまり、「年収は維持 or 微増」「支出は大幅減」という両取りが起きる可能性があるわけです。
ここ、心当たりありませんか。都市部で年収550万円、家賃12万円で「なんとなくカツカツ」だった方が、地方で年収580万円、家賃6万円になると、月の手残りが一気に6万円以上増えます。
ただし、地方への転居には見落としやすい落とし穴があります。
車の維持費を甘く見ない
地方では車がほぼ必需品です。軽自動車でも年間の維持費は約25〜30万円(自動車税、保険料、車検、ガソリン代含む)。普通車なら年間35〜50万円以上かかります。「家賃が安いから」と飛びついて、車の維持費を計算に入れ忘れる方は意外に多いです。
正直、車の運転にブランクがあると怖いです…。ペーパードライバーだと厳しいですか?

オカメインコ

ポッポ先生
ペーパードライバー講習は数回で受けられますし、地方は道が広くて運転しやすい面もあります。ただ、冬場の凍結路面がある地域かどうかは事前に確認しておきたいですね。それによって装備も変わりますから。
インフラコストの地域差も要チェック
もう一つ。プロパンガスの地域は光熱費が上がります。都市ガスと比べて月2,000〜5,000円程度高くなることがあります。水道料金も自治体によってかなり差があるので、「インフラのコストは全国一律」という思い込みは外しておくのが安全です。
住居・通勤・保育・車の有無で、可処分所得が変わる
ここまで見てきたように、転居転職の損得は「年収」一本では判断できません。可処分所得──つまり手元に残るお金──を左右するのは、以下の4つの変数です。
①住居費:最大のインパクト。同じ広さ・築年数でも、東京と地方で月4〜8万円の差が出ます。住宅ローンの場合は物件価格差がさらに大きくなります。
②通勤:都市部は電車定期代がかかる代わりに車が不要。地方は車が必要だが通勤時間は短い。時間コストも含めた「通勤の総負荷」で比較しないと見誤ります。
③保育・教育:保育料は世帯年収と自治体の基準で決まります。同じ年収でも自治体によって月1〜3万円の差が出ることがあります。待機児童の多い都市部では、認可外保育を利用せざるを得ず、費用がさらに跳ね上がるケースも。
④車の有無:車1台の維持費は年間30〜50万円。2台持ちなら倍です。都市部で車を手放せるなら、その分がまるまる浮きます。
全部考えると頭がパンクしそうです…。結局どこから手をつければいいんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
まずは家賃と車。この2つだけで可処分所得の8割方の差が決まります。細かい項目は後から調整できますが、この2つは転居先を決めた時点でほぼ確定するので、最初に押さえたいところですね。
どうですか? 年収の額面だけで転居先を選ぶのがいかに危ういか、少し実感が湧いてきたのではないでしょうか。
失敗しないための試算──家賃・通勤・税社保のざっくり計算
では、実際にどう試算すればいいのか。完璧な精度は求めません。「ざっくり月単位で比較できればOK」くらいの気持ちで大丈夫です。
私ならまず、以下の手順で進めます。
- 月の手取りを出す
年収から税金・社会保険料を引いた手取り額を確認します。ざっくりの目安として、年収500万円なら手取り約390万円(月約32.5万円)、年収600万円なら手取り約460万円(月約38万円)程度です。扶養の有無や住宅ローン控除で変わるので、源泉徴収票ベースで確認するのが確実です。 - 固定支出を書き出す
転居先の家賃(SUUMO等で相場を確認)、車の維持費(持つか持たないか)、通勤費、保育料。この4項目を月額で出します。 - 現住所と比較する
いまの固定支出と並べて、差額を出します。 - 差額を年収差と照らす
年収が上がる額と、固定支出の増減を比較する。ここで初めて「転居して得するか損するか」の大枠が見えます。
誤解されやすいので先に言うと、この試算は「だいたいの方向感」を掴むためのものです。住民税や社会保険料の地域差もありますが、薬剤師の年収帯(500〜700万円)だと、税・社保の地域差は年間で数万円程度。家賃や車の差に比べれば影響は小さいです。
でも、実際に計算してみると、思ったほど差がなかったりしません?

オカメインコ

ポッポ先生
それもありえます。試算して「ほぼ変わらない」となったら、年収以外の要素──通勤の快適さ、職場の教育体制、キャリアの方向性──で判断すればいい。試算の目的は”損しないこと”だけじゃなく、”年収に惑わされずに判断できること”です。
内定前に現地で確認すること──通勤導線・生活圏のチェック
数字の試算だけでは見えないものがあります。それが「生活のしんどさ」です。
内定を受ける前に、できれば一度は現地に足を運ぶことをおすすめします。私ならまず確認するのは、以下のポイントです。
- 通勤導線の実走確認
Googleマップの所要時間はあくまで目安です。朝のラッシュ時に実際に移動してみると、乗り換えの混雑度や待ち時間がまったく違うことがあります。車通勤なら、冬場の道路状況(凍結・積雪)も確認したいところ。 - 最寄りのスーパー・病院・薬局の位置
車がないと買い物に行けない距離感なのか。お子さんがいる場合、小児科までの距離はどうか。日常の動線が生活の満足度を大きく左右します。 - 保育園の空き状況
自治体の窓口やWebサイトで、直近の空き状況・待機児童数を確認できます。転入時期によっては入れないリスクもあるので、ここは早めに押さえたい。 - 職場の雰囲気
できれば見学をお願いしてみてください。処方箋枚数、薬剤師の人数、在庫管理の様子。現場の空気感は、求人票には載りません。
現場だとここで詰まりがちです──「内定をもらってから考えよう」と後回しにして、実際に引っ越してから「思っていたのと違う」となるパターン。転居を伴う転職はやり直しのコストが大きいので、事前の確認に時間をかけたほうが結果的に効率がいいです。
でも、現地に行く時間もお金もないんですよね…遠方だと特に。

オカメインコ

ポッポ先生
オンラインで代替できる部分もあります。自治体のハザードマップ、SUUMOの街情報、Googleストリートビューで周辺環境は確認できますよ。ただ、通勤の体感と職場の空気感だけは、できれば現地で。面接時に半日早く行って、周辺を歩いてみるだけでもだいぶ違います。
まとめ:転居転職は”手取り”で見る──判断軸を持って動く

ここまでの内容を振り返ります。
転居を伴う転職は、年収の額面ではなく「手取り」と「生活コスト」のバランスで判断する。これが一番の軸です。
- 地方→都市は家賃と保育で支出が膨らみやすい
- 都市→地方は車の維持費が新たに発生する
- どちらも「見落としやすい支出」をあらかじめ計算に入れておくことで、転居後のギャップを減らせる
次の一歩:まずは「いまの固定支出」と「転居先の固定支出」を並べて書き出してみてください。家賃と車──この2項目だけでも比較すれば、方向感はつかめます。
転居を伴う転職は、候補を広く集めて比較しないと判断がブレます。転職サービスで都市・地方それぞれの求人を並べて、条件と生活コストをセットで見ていくのが安全です。年収の数字に引っ張られず、「手取りベースで月いくら残るか」を軸に据える。それだけで、転居転職の精度はぐっと上がります。
確認先(一次情報)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(薬剤師の都道府県別年収)
- 総務省「家計調査」(地域別の消費支出・可処分所得)
- 各自治体の保育料一覧・待機児童情報
- 国土交通省「都道府県別の経済的豊かさ」資料


