調剤中に手が止まる。棚から取った薬を二度見する。監査で見落としがなかったか、帰宅してからも頭をぐるぐる回る。
――もし、いまそんな状態なら、まず伝えたいことがあります。「ミスが怖い」という感覚は、薬剤師としての責任感が正常に働いている証拠です。能力不足のサインではありません。
ただ、怖さを根性で押し込めようとすると、かえって集中が落ちます。不安そのものが次のヒヤリハットを呼ぶ――そんな悪循環に入りやすいんです。ここ、心当たりありませんか。
この記事では、「ミス不安」がなぜ膨らむのかを環境面・個人面の両方から整理し、明日からできる具体的な対策と、もし転職を考えるなら確認すべきポイントまでお話しします。私自身、調剤薬局で働いてきた30代の薬剤師として、同じ立場から書いています。
目次
ミス不安は真面目な人ほど強くなる(それは正常反応です)

怖さの正体は「責任感×想像力」
「ミスが怖い」という感情は、裏を返せば「患者さんに何かあったらどうしよう」と想像できているということです。
日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の報告書を見ると、ヒヤリハットの発生要因で最も多いのは「確認の怠り」、次いで「勤務状況の繁忙」です。つまり、怖くて何度も確認してしまう人より、確認を省略してしまう状況のほうがリスクは高い。
私ならまず、この事実を自分に言い聞かせます。「怖い」と思える自分は、まだ安全側にいると。
「怖い」が暴走するとき
ただし、不安が正常範囲を超えるラインがあります。
- 退勤後も調剤内容が頭から離れず眠れない
- ピッキング中に手が震えることがある
- 「自分は薬剤師に向いてない」と毎日思う
こうなると、不安が集中力を奪い、本来しないようなミスを誘発します。バーンアウト研究では、「情緒的消耗感」が高まると注意力が低下し、エラー発生率が上がることが指摘されています。几帳面で責任感の強い人ほど、この状態に入りやすいんです。
でも、怖いのを”気にしすぎ”って言われても困りますよね。怖いものは怖いし…

オカメインコ

ポッポ先生
そうですね。だから”気の持ちよう”ではなく、環境と手順で怖さの元になるエラー確率を下げるという話をこれからします。感情ではなく構造の問題として扱いたいです。
誤解されやすいので先に言うと、不安をゼロにすることは目標にしなくていいです。ゼロにしようとするとかえって苦しくなります。目指すのは、「仕組みでカバーできている」と実感できる状態です。
不安が増幅する職場の特徴を知っておく

ミスは「個人の注意力」より「環境の設計」に左右される
ヒヤリハット事例の分析結果を見ると、興味深い傾向があります。報告されたヒヤリハットの発生要因として「繁忙であった」が約3,900件にのぼり、「慣れ・慢心」の約3,700件と並んで上位に来ています(日本医療機能評価機構・第31回報告書より)。
どうですか? 「自分の注意が足りない」と思い込んでいた方、少し見え方が変わりませんか。
私がチェックしたい「不安が膨らみやすい職場」の特徴をまとめます。
| 要因 | 具体的な状況 | ミスへの影響 |
|---|---|---|
| 人員不足 | 薬剤師1人あたりの処方箋枚数が常時40枚超 | 確認時間が物理的に足りない |
| 中断の多さ | 調剤中に電話・患者対応・質問が頻発する | ワーキングメモリがリセットされる |
| ダブルチェック不在 | ピッキングと監査を同一人物が行う | エラーの網が1枚しかない |
| 整理不足 | 調剤室が雑然、類似名称の薬が隣接配置 | 視覚的な取り違えが起きやすい |
| 教育・共有の不足 | ヒヤリハット報告が形骸化、振り返りなし | 同じミスが繰り返される |
「中断」のダメージは想像以上に大きい
現場だとここで詰まりがちですが、調剤中に声をかけられて作業を中断すると、戻ったときに「どこまでやったか」がわからなくなる現象は、認知心理学で「タスク中断効果」として知られています。これは薬剤師個人の能力の問題ではなく、人間の脳の仕組みの問題です。
わかります…。電話取って戻ったら、いまどの患者さんの分を詰めてたか一瞬わからなくなること、ありますよね。

オカメインコ

ポッポ先生
だからこそ、中断が多い環境では「中断後に最初からやり直す」ルールが有効です。面倒に見えて、実はこれが最も確実な方法ですね。
ただし、人員が少なくて中断を減らしようがない場合は、個人の工夫だけでは限界があります。そのケースについては、転職の項目であらためて触れます。
今日からできる「ミス確率を下げる」習慣(短時間版)

全部やらなくていい。1つ選んで1週間試す
「ミスを防ぐために○○しましょう」系の話は世の中に溢れていますが、正直、忙しい現場で全部やるのは無理です。いまの状況だと、新しい習慣を5つも6つも足すと、それ自体がストレスになりやすいです。
なので、私なら「まず1つだけ選んで、1週間だけ試す」ことを勧めます。効果がなければやめていい。効果を感じたら続ける。それくらいの温度感で十分です。
具体的に試しやすい5つの習慣
① 指差し+声出し確認(3秒ルール)
薬を棚から取るとき、シートの薬品名を指で差して小声で読む。たった3秒です。声に出すことで、視覚だけでなく聴覚のチェックが加わります。
② 中断時の「付箋マーク」
作業中断を余儀なくされたとき、処方箋の「いま作業中の行」に付箋を貼る。戻ったときの再開ポイントが明確になり、ワーキングメモリの負担が減ります。
③ 類似薬チェックシートの手元配置
よく間違える類似名称薬のリストを、調剤台の見える位置に貼る。日本医療機能評価機構が「名称類似」の事例をまとめていますので、それをベースにするのが効率的です。
④ 1日の終わりの30秒振り返り
「今日ヒヤリとした瞬間はあったか? あったなら何が原因だったか?」を30秒だけ考える。ノートに書く必要はありません。頭で回すだけでも、翌日の注意ポイントが変わります。
⑤ ピッキング前の「一呼吸」
処方箋を受け取ったあと、棚に向かう前に1回深呼吸する。わずかな間ですが、「急いでるときほどミスする」という自分への警告になります。
正直、忙しいと深呼吸する余裕すらない日もあるんですけど…

オカメインコ

ポッポ先生
わかります。全部の処方箋でやる必要はないです。「ハイリスク薬のとき」や「中断後の再開時」だけでも効果は出ます。完璧にやろうとしないほうが安全ですね。
ここ、迷いやすいところですが、「習慣を増やす」のではなく「リスクが高い場面だけ手順を厚くする」のが現実的なアプローチです。すべての処方箋に同じ密度の注意を注ぐのは、人間の認知資源の限界を考えると合理的ではありません。
管理側に求めたい最低条件(個人の努力だけでは限界がある)

「気をつけます」で終わらせない職場かどうか
ヒヤリハットが起きたあと、「次から気をつけます」で終わっている薬局は少なくありません。でも、「気をつける」は対策ではないです。
日本薬剤師会の対応マニュアルでも、調剤に起因する問題が発生した際には、当事者のメンタルケアを行うことや、事例の収集・分析による再発防止を求めています。つまり、「個人の反省」ではなく「組織のシステム改善」が本来の対応です。
管理薬剤師や経営者に確認・提案してみたいこと
しないほうが安全なのは、「不満を爆発させる」形で伝えること。代わりに、「ミスの確率を下げるための環境整備」という文脈で伝えると、建設的な議論になりやすいです。
- ダブルチェック体制の確保:ピッキングと最終監査は別の薬剤師が担当する。エラー防止の基本中の基本だが、人員不足で実現できていない薬局も多い。
- 調剤監査システムの導入・運用改善:バーコード照合やピッキングサポートシステムは、ヒューマンエラーの確率を物理的に下げる。ただし運用ルールが曖昧だと効果が半減するケースも。
- 中断を減らす仕組み:電話対応を事務スタッフに一次対応してもらう、ピーク時間帯は調剤に集中できるシフトを組む、など。
- ヒヤリハット報告の「分析と改善」サイクル:報告して終わりではなく、原因分析→改善策→実施→振り返り、まで回す。
それってつまり…管理薬剤師に「体制を変えてください」って言うってことですよね。正直、言いにくいです…

オカメインコ

ポッポ先生
言い方がポイントですね。「私がミスしそうで怖い」ではなく、「この体制だとヒヤリハットが増えるリスクがある」という客観的な伝え方のほうが動いてもらいやすいです。自分のヒヤリハット報告を2〜3件持っていくだけでも説得力が違いますよ。
ただし、何度提案しても改善が見込めない場合、それは職場の構造的な問題です。個人の努力ではどうにもならない段階に来ているなら、環境を変える選択肢も視野に入れてよいと私は考えます。
転職時に確認すべき項目(監査体制・調剤補助・人数配置)

「年収」より先に聞くべきことがある
ミス不安を抱えた状態で転職を考えるとき、つい年収やアクセスに目が行きがちです。でも、いまの悩みの根っこが「ミスが怖い」なのであれば、最優先で確認すべきは「ミスを防ぐ体制が整っているかどうか」です。
逆に言うと、年収が上がっても体制がさらに悪い職場に移ったら、不安は増すだけです。
面接・見学で確認したい5つのポイント
| 確認項目 | 具体的な質問例 | チェックの目安 |
|---|---|---|
| 監査機器の有無 | 調剤監査システムは導入されていますか? | バーコード照合型があると安心 |
| ダブルチェック体制 | ピッキングと最終監査は別の薬剤師ですか? | 「常時」別人かどうかが鍵 |
| 調剤補助員の有無 | 調剤補助員は何名いますか? | 2019年通知以降、ピッキング補助が可能に |
| ピーク時の薬剤師数 | 最も忙しい時間帯の薬剤師は何名体制ですか? | 1人あたり処方箋25枚以下が目安 |
| ヒヤリハット対応 | ヒヤリハット発生時の対応フローはありますか? | 「報告→分析→改善」サイクルがあるか |
見学時に自分の目で見るべきこと
面接で聞く情報に加えて、薬局見学ができるなら調剤室の状態を観察してください。
私ならまず確認するのは、調剤室の整理整頓です。棚が雑然としていたり、監査スペースが異様に狭かったりする薬局は、ミスが起きやすい構造になっている可能性があります。類似名称の薬が隣接して配置されていないかもチェックポイントです。
あとは、働いているスタッフの表情や雰囲気。余裕のない職場は、スタッフの動きや挨拶にそれが出ます。
でも、見学や面接でそこまで突っ込んだ質問していいんですか? 嫌がられそうで…

オカメインコ

ポッポ先生
転職エージェント経由なら自然に確認できますよ。事前に「ミス不安があるので監査体制が整った薬局を希望します」と伝えておくのが有効です。自分で直接聞きにくいことを代わりに聞いてもらえます。
ただし、エージェントの情報だけで判断しないほうが安全です。最終的には自分の目で見学し、実際の体制を確認することを強くおすすめします。体制が整っているように見えても、実際の運用が追いついていないケースはゼロではありません。
まとめ:ミスの怖さは「環境×手順」で確率を下げられる

ここまでの話を整理します。
「ミスが怖い」は、薬剤師としての責任感の表れであり、正常な反応です。ただし、不安が過度に膨らんで集中力を奪っている場合は、感情の問題ではなく構造の問題として扱う必要があります。
まず、自分の職場がミスを誘発しやすい環境かどうかを客観的に確認してみてください。人員不足、ダブルチェック不在、中断の多さ――これらは個人の注意力では補えない構造的リスクです。
次の一歩として:
- 今日できること:5つの習慣から1つ選んで、1週間だけ試してみる
- 今週できること:自分のヒヤリハット傾向を振り返り、原因が「個人」か「環境」かを切り分ける
- 改善が見込めない場合:転職先の体制を「監査機器」「ダブルチェック」「人員配置」の3点で評価する
不安をゼロにする必要はないです。「仕組みでカバーできている」という実感が持てれば、怖さと共存しながら働けるようになります。
最後に、もうひとつだけ。
いまの職場で頑張り続けるのも選択肢です。
でも、比較対象がないまま耐えると「これが普通」と思い込みやすい。
まずは転職サービスで相場と条件を見て、自分の状況を客観視してみてください。応募しなくても大丈夫。判断材料を増やすだけで、気持ちはかなり軽くなります。
次の職場を探すなら、「監査機器の有無」「調剤補助の体制」「ピーク時の人数」を聞けるルートを確保してください。エージェントに「ミス不安があるので監査体制が整っている薬局がいい」と先に伝えると、合わない案件を避けやすくなります。
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