「このまま調剤業務を続けるだけでいいのだろうか」——そんなモヤモヤを抱えながら、毎日処方箋と向き合っていませんか。
私も調剤薬局で働く薬剤師です。正直に言うと、同じことを何度も考えてきました。でも、転職サイトを眺めても「今より良くなる保証」なんてどこにもない。かといって、現状維持でいいとも思えない。
そんなとき出会ったのが、「プロティアン・キャリア」という考え方です。転職ありきではなく、今の職場にいながら「組織内キャリア」から「自律型キャリア」へシフトしていくという発想。これが、私のモヤモヤを言語化してくれました。
この記事では、薬剤師が今の環境を活かしながら「個」で立てるようになるための具体的な戦略をお伝えします。ここ、迷いやすいところですよね。最後まで読んでいただければ、「まず何から手をつけるか」が見えてくるはずです。
目次
プロティアン・キャリアとは?——薬剤師にこそ必要な「変幻自在」の働き方

「プロティアン」という言葉、聞き慣れないかもしれません。ギリシア神話に登場する海神プロテウスが語源で、火にも水にも変幻自在に姿を変えられる神様です。
プロティアン・キャリアは、1976年にボストン大学のダグラス・ホール教授が提唱したキャリア理論。ポイントは、「キャリアの所有者は会社ではなく、あなた自身」という考え方です。
| 従来型キャリア | プロティアン・キャリア | |
|---|---|---|
| キャリアの所有者 | 会社・組織 | 個人 |
| 目指すもの | 昇進・地位・給与 | 心理的成功・自己実現 |
| 成功の基準 | 他者からの評価 | 自分自身の満足度 |
| 変化への姿勢 | 組織内で適応 | 社会全体に適応 |
どうでしょうか。薬剤師のキャリアって、どちらかというと「従来型」に近くありませんか? 管理薬剤師になる、エリアマネージャーになる、本部に行く——。組織が用意したレールの上を歩くイメージ。
でも、そのレールがいつまで続くかわからない時代になりました。薬剤師の有効求人倍率は2015年の7.18倍から、2024年には2.34倍まで低下。「資格があれば安泰」とは言えなくなっています。
でも、自律型キャリアって言われても、具体的に何をすればいいのかわからないんですけど…

オカメインコ

ポッポ先生
大丈夫です。まずは「自分の立ち位置を知る」ことから始めましょう。次の章で「3S分析」という方法を紹介しますね
薬剤師の「3S分析」で自分の立ち位置を知る

プロティアン・キャリアを実践するうえで、私ならまず「3S分析」から始めます。Self(自己)、Setting(状況)、Society(社会)の3つの視点で、自分の立ち位置を整理する方法です。
Self(自己):自分の「キャリア資本」を棚卸しする
まずは自分が持っているものを言語化します。誤解されやすいので先に言うと、これは「資格の数を数える」作業ではありません。
棚卸しすべき3つの資本
- ビジネス資本:スキル、知識、資格、経験(在宅経験○年、疑義照会○件/月など具体的に)
- 社会関係資本:人脈、ネットワーク(医師との関係性、他職種との連携経験など)
- 経済資本:年収、貯蓄、投資(今の生活を維持するために必要な金額の把握)
たとえば「在宅訪問をしている」という一行。これを分解すると、「認知症患者への服薬支援経験」「ケアマネとの連携スキル」「残薬整理のノウハウ」など、複数の資本に分けられます。こうして言語化すると、自分の強みが見えてきます。
Setting(状況):自店舗の「地域での立ち位置」を分析する
次に、自分の働いている環境を客観視します。
- 自店舗は「門前薬局」か「面対応」か?
- 地域医療において、どんな役割を担っているか?
- 会社は研修制度や資格取得支援に力を入れているか?
- 在宅や健康サポート機能への取り組みは進んでいるか?
ここ、心当たりありませんか。「忙しすぎて考える余裕がない」という人ほど、自分の環境を俯瞰できていないことが多いです。
Society(社会):業界のトレンドと自分を照らし合わせる
最後に、社会全体の動きを見ます。薬剤師業界で言えば、「対物業務から対人業務へ」という流れが最重要トレンドです。
2015年に厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」で示されたこの方針。2022年度の診療報酬改定では、対人業務(服薬管理指導料など)の評価が引き上げられました。逆に言うと、「対物業務だけやっていては経営が成り立たない」時代に入りつつあります。
対人業務って大事なのはわかるけど、現場は対物業務だけで手一杯なんですよね…

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。だからこそ、今後はAIやDXで対物業務が効率化される流れが加速します。逆に言えば、「対人業務に強い薬剤師」は市場価値が上がるチャンスでもあります
3S分析で「自分」「環境」「社会」を整理すると、「今の自分に足りないもの」と「伸ばすべきもの」が見えてきます。ただし、自分一人で分析するには限界があります。転職エージェントに登録して、客観的なフィードバックをもらうのも有効な方法です。転職するかどうかは別として、「自分のスキルが市場でどう評価されるか」を知っておくことは、今後のキャリア判断の材料になります。
\ 今の職場でこれから10年働き続けられますか?/
組織を「利用」して専門性を磨く——会社のリソースを使い倒す

プロティアン・キャリアの誤解されやすいところを先に言うと、「組織から独立する」という意味ではありません。むしろ逆で、「組織にキャリアを預けるのではなく、組織と対等な関係を築く」という発想です。
具体的には、会社のリソースを「自分のキャリア資本を増やす手段」として活用することを意識します。
会社のリソースを使い倒す具体例
- 研修制度:会社負担で認定薬剤師の単位を取得できるなら、積極的に活用
- 資格取得支援:研修認定薬剤師、がん専門薬剤師、在宅療養支援認定薬剤師など
- 社内公募:在宅部門や新規事業への異動希望を出す
- eラーニング:業務時間内に学習できる環境があれば活用
現場だとここで詰まりがちです。「研修に行く時間がない」「人手不足で休めない」。その気持ち、よくわかります。
ただ、逆に言うと、「研修制度はあるのに使っていない」状態は、自分のキャリア資本を増やすチャンスを逃しているとも言えます。「時間がない」のか「優先順位をつけていない」のか、一度振り返ってみてください。
うちの会社、研修制度あんまり充実してないんですけど…

オカメインコ

ポッポ先生
その場合は、薬剤師会や製薬メーカーの無料研修を活用する手もあります。あるいは、「研修制度が充実している会社」を転職の判断軸に入れてもいいですね。転職エージェントに相談すれば、各社の研修制度の比較情報も教えてもらえます
調剤室から飛び出す「越境学習」——社会関係資本を広げる

プロティアン・キャリアで重要なのが、「社会関係資本」——つまり人脈やネットワークです。
薬局で働いていると、どうしても「同じ店舗のスタッフ」「近隣の医師・看護師」という限られた人間関係になりがちです。これを「同質ネットワーク」と呼びます。居心地はいいけれど、新しい視点や情報が入ってきにくい。
そこで注目したいのが「越境学習」という考え方です。自分の所属する組織の枠を越えて、異なる環境で学びを得ること。経済産業省も推進しており、VUCA時代(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高い時代)に対応できる人材育成の手法として注目されています。
薬剤師にできる「越境学習」の具体例
- 多職種連携の勉強会:医師、看護師、ケアマネと一緒に学ぶ場に参加する
- 地域の健康イベント:薬局外での健康相談会やセミナー講師を経験する
- 学校薬剤師:学校という「異業種」で薬剤師の専門性を活かす
- 薬剤師会や学会への参加:社外の薬剤師と情報交換する
- 副業・兼業:メディカルライター、講師業など本業以外の仕事を経験する
越境学習のポイントは、「行って終わり」ではなく「学びを持ち帰る」こと。異なる環境で得た視点を、自分の職場に還元する意識が大切です。
勉強会とか行ってみたいけど、土日は休みたいし、平日は仕事だし…

オカメインコ

ポッポ先生
わかります。いきなり大きなことをしなくても大丈夫です。まずはオンラインの勉強会や、SNSで他の薬剤師とつながることから始めてみては。それだけでも「同質ネットワーク」の外に出る一歩になりますよ
ただし、ここにも注意点があります。越境学習は「今の仕事から逃げる手段」ではありません。目的を持たずに参加しても、単なる交流で終わってしまいます。「何を学んで、どう活かすか」を意識することが大切です。
まとめ:転職の前に「判断軸」を持つ

この記事では、薬剤師が今の職場にいながら「個」で立つための戦略をお伝えしました。
プロティアン・キャリア戦略のポイント
- 3S分析で立ち位置を知る:Self(自己)、Setting(状況)、Society(社会)で自分を客観視
- 組織を「利用」する:会社のリソースをキャリア資本を増やす手段として活用
- 越境学習で視野を広げる:同質ネットワークの外に出て、社会関係資本を蓄積
プロティアン・キャリアで重要なのは、「アイデンティティ(自分は何がしたいのか)」と「アダプタビリティ(変化に適応する力)」です。転職するかどうかは、この2つが明確になってから考えても遅くありません。
今すぐ転職する必要はないですが、「自分のキャリア資本が市場でどう評価されるか」を知っておくことは、今後の判断材料になります。転職エージェントへの登録は無料ですし、面談だけでも「自分に足りないスキル」「伸ばすべき強み」が見えてきます。
最初の一歩として、まずは「3S分析」を紙に書き出してみてください。自分の立ち位置が見えると、次に何をすべきかが自然と浮かんできます。
\ 悪質な転職サイトは利用しないで /
薬剤師が転職する際に利用する人材紹介会社(転職エージェント)、どこも同じだと思っていませんか?
現在、国は医療の分野において紹介料目当てで頻繁な転職を促す悪質な人材紹介会社への対策を強化しています。

ポッポ先生
悪質な人材紹介会社の利用は、ミスマッチする可能性が高いです。
このような悪質な人材紹介会社には絶対に相談してはダメです!!(悪質とは言っても国の許可を得ているという矛盾もありますが…)
薬剤師が、キャリア相談や転職時に、転職エージェントを利用する場合は、適正な有料職業紹介事業者の認定を受けている転職エージェントを利用しましょう。
薬剤師の分野で優良認定を受けているところは、ファルマスタッフ、その他数社とまだ少ないです。
悪質な人材紹介会社がどこか分かれば対策しやすいのですが、そのような情報はなかなか表に出てきません。なので我々としては、優良認定を受けているところを優先するのが望ましいでしょう。

ポッポ先生
どこを選ぶかも重要ですが、転職エージェントをどのように付き合うかも重要です。
参考情報
- 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」(2015年)
- 一般社団法人プロティアン・キャリア協会
- 経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成」



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