2013年のオックスフォード大学の研究で「薬剤師の自動化率1.2%」と発表されて以降、私たちは少し安心していました。ところが2025年の今、状況は大きく変わっています。
生成AIの登場です。
そして、ここで驚くべき研究結果があります。JAMA Internal Medicineの研究で、ChatGPTの回答が医師の回答よりも78.6%のケースで好まれ、質と共感性の両方でAIが医師を上回ったのです。さらにがん患者を対象にした研究では、AIの回答が医師の回答よりも共感的だと評価されました。
「患者が医師よりAIを好む」—この事実をどう受け止めますか?
この記事では、最新の研究を踏まえながら、「AIによって薬剤師の仕事がどう変わるのか」を冷静に見つめ直し、私たち薬剤師が今何を準備すべきかを一緒に考えていきます。
- 2025年現在、薬局業務にAIがどこまで入り込んでいるか
- 「患者が好む説明」と「医学的に正確な説明」のギャップ
- AIと協働する際の3つのチェックポイント
- 今から準備すべき具体的な3つのこと
目次
2025年現在、AIはどこまで薬剤師業務に入り込んでいるのか

まず現状を整理します。
薬局の業務では処方せん受付と調剤が最も自動化が進んでおり、分包機、調合ロボット、分注機など、資金さえあればすべての調剤プロセスを自動化することも可能な状況になっています。さらにAIアシスタントが添付文書内を検索・回答したり、電子薬歴を音声やテキストで操作できるシステムも実用化されています。
実際のところ、私ならまず「自分の職場でどこまで自動化されているか」から確認します。いま使っているシステムに、すでにAI機能が組み込まれているかもしれません。
でも、うちの薬局は小規模だし、そんな最新システムは入れられないです…

オカメインコ

ポッポ先生
たしかに初期費用は課題ですね。ただし中小規模でも、薬歴の音声入力やクラウド型のAI監査システムなど、比較的導入しやすいものから始まっています。重要なのは、大手だけの話ではないと認識することです。
生成AIが変えたこと
元記事が書かれた2013年当時と決定的に違うのは、生成AIには社会的知能が備わっており、これまでのAIには備わっていなかったコミュニケーションスキルを持つようになった点です。
そして、冒頭で触れた研究結果です。AIの回答は平均211語だったのに対し、医師の回答は平均52語で、AIは質の評価で3.6倍、共感性で9.8倍高いスコアを獲得しました。
「患者が好む」と「正確」は別問題—見落とされがちな落とし穴

ここ、迷いやすいところです。
冒頭の研究結果だけを見ると、「AIのほうが優れている」と思えます。しかし、リウマチ学の研究では、患者はAIと医師の回答を同等に評価したものの、専門医はAIの回答を有意に低く評価し、特に正確性に問題があると指摘されています。
さらに重要なのは、患者の評価(読みやすさ・包括性・好み)と正確性の間に有意な相関がなかったという事実です。
患者が「良い」と感じる説明と、医学的に「正確な」説明は一致しない場合がある
えっ、じゃあAIの説明って、丁寧だけど間違ってることがあるってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。AIは「もっともらしく聞こえる説明」を生成するのが得意ですが、医学的な正確性は別問題。だからこそ、薬剤師による最終確認が必要なんです。
判断軸:「わかりやすさ」と「正確性」のバランス
私が考える境界線は以下です:
- 一般的な服薬説明の下書き → 薬剤師の役割:正確性の最終確認
- 疑義照会の判断材料の整理 → 薬剤師の役割:医学的妥当性の判断
- 薬歴記載の下書き → 薬剤師の役割:臨床判断の追記
- 患者の生活背景を踏まえた指導 → 薬剤師の役割:個別最適化
- 疑義照会での医師との交渉 → 薬剤師の役割:コミュニケーション
- 多職種連携のコーディネート → 薬剤師の役割:調整役
心当たりありませんか?患者さんに説明して「わかりやすい!」と言われたけれど、実は重要な注意点が伝わっていなかった—そんな経験です。
AIはまさにこれと同じリスクを抱えています。スタンフォードの研究では、医療記録の要約タスクで、最も理想的な設定でも35%のエラー率が存在することが判明しました。
「置き換わる」ではなく「協働する」—ただし正しい使い方で

現場だとここで詰まりがちです。「AIは敵か味方か」という二元論で考えてしまうと、次の一歩が見えなくなります。
興味深いことに、スタンフォードの研究では、AI単独の判断の方が、医師とAIの組み合わせよりも良好な結果を示すケースがありました。なぜこんなことが起きるのか?医師たちがAIツールを検索エンジンのように使用する傾向があり、AIの特性を十分に理解し活用できていなかったからです。
AIを適切に使いこなせない人は、AIなしの人よりも悪い結果を出す可能性がある
正直、それって「AI頼り」にならないですか?自分で考えなくなりそうで怖いです。

オカメインコ

ポッポ先生
その警戒は正しいです。過度な依存は専門性の低下を招きます。重要なのは「AIの提案を鵜呑みにしない」姿勢。AIはあくまで”提案”で、最終判断と責任は薬剤師が負う—この線引きを明確にすることです。
AIとの協働で押さえるべき3つのチェックポイント
私ならまず、以下の判断軸で使い分けます:
1. 医学的正確性の確認(必須)
- AIが生成した説明の根拠を確認する
- 添付文書や信頼できる情報源とクロスチェック
- 特に用量・禁忌・相互作用は必ず自分で確認
2. 患者個別の文脈の追加(AIができない部分)
- 患者の生活背景や価値観を反映させる
- 「わかりやすいが不正確」な説明を修正する
- 患者が言わない情報(不安・疑問)を読み取る
3. AIの限界の認識
- 生成AIの活用に伴う最大の懸念は医療事故等が発生した際の責任の所在に関するもので、60.6%の回答者が懸念を表明
- ハルシネーション(事実でない情報を生成する現象)のリスクを知る
- 29%の人だけがAIによる基本的な健康アドバイスを信頼しているという患者側の不安も理解する
いまの状況だと、「AIが出した答えを確認もせず使う」リスクと、「AIを拒否して手作業で疲弊する」リスクの両方があります。どちらにも傾きすぎないバランスが求められています。
今から準備すべき3つのこと

では具体的に、私たち薬剤師は何をすればいいのか?
1. AIができない領域を意識的に伸ばす—ただし「説明上手」だけでは足りない
単なる薬の説明であればAIロボットで代替可能であり、これから薬剤師に求められるのは患者一人ひとりにあった服薬指導やアドバイスです。
ただし、ここで注意すべき例外があります。冒頭の研究が示すように、AIは共感性の評価で9.8倍高いスコアを獲得しました。つまり、「丁寧に説明する」だけでは差別化にならない可能性があります。
では何が必要か?
- 医学的正確性の担保:わかりやすさと正確性の両立
- 文脈理解力:患者の生活背景を踏まえた個別対応
- 信頼関係の構築:継続的な関係性の中での微妙な変化の察知
それって才能じゃないですか?コミュニケーション苦手な人はどうすれば…

オカメインコ

ポッポ先生
才能ではなくスキルです。たとえば「オープンクエスチョンを増やす」「患者の言葉を繰り返して確認する」「沈黙を恐れない」など、技術として学べます。ただし、それを「AIが生成した丁寧な説明」と組み合わせるのが、2025年以降のスキルセットです。
2. AIリテラシーを身につける—「使いこなす側」に回る
AIを使いこなすには、「AIが何をしているか」の基礎理解が必要です。
- AIの提案が妥当かを判断できる力
- AIの限界(ハルシネーション、正確性の問題)を知る
- AIの出力を「たたき台」として編集・改善する技術
医師がAIを検索エンジンのように使ってしまう問題を薬剤師が繰り返さないためには、「AIは何が得意で、何が苦手か」を理解する必要があります。
3. 専門性の”深掘り”を検討—ただし「汎用的な知識」は価値が下がる
AIがあればどの薬剤師が担当しても一定以上の水準を保つことができる時代になると、「誰でもできること」の価値は相対的に下がります。
自動化により定型的な調剤業務から解放されることで、薬剤師は服薬カウンセリング、薬剤レビュー、患者の懸念への対応など、より患者中心の活動に専門性を向け直すことができる—これが国際的なコンセンサスです。
専門性の深い領域の例
- 緩和ケア
- 精神科
- 小児
- がん薬物療法
- 在宅医療
これらの領域は、AIが学習しにくいノウハウと経験が求められます。認定薬剤師や専門薬剤師の取得も、選択肢の一つです。
「置きかわったら、どうしますか?」への私の答え

ここまで読んで、冒頭の問いに戻ります。
薬剤師の仕事がAIに置きかわったら、どうしますか?
私の答えは、「全部は置きかわらない。ただし、AIが『患者に好まれる』時代に、薬剤師の価値をどう再定義するか」です。
AIの真の力は薬剤師を置き換えるのではなく、増強することにある—これが2025年時点の国際的なコンセンサスです。2024年のASHP調査では、74%の病院で薬剤師が患者に最低8時間以上配置されるようになっており、2012年の38%から大幅増加しています。これはAIの導入により事務作業が減り、対人業務に時間を割けるようになったからです。
ただし、それは「何もしなくても大丈夫」という意味ではありません。
誤解されやすいので先に言うと、実際の患者調査では、人間の医師が最も好まれ、次が医師+AI、AI単独は最下位という結果もあります。つまり、「AIの説明が好まれる」のはオンライン掲示板のような限定的な状況であり、実際の患者-医療者関係では人間が好まれるのです。
しかし、それに安心してはいけません。厚生労働省は2045年までに最大で12万6千人の薬剤師が過剰になると予測しています。AI化と薬剤師過剰問題の二重の波の中で、「AIに対応できるスキルセット」を持つ薬剤師と、持たない薬剤師の差は、今後ますます開いていくでしょう。
結局、勉強しろってことですか?時間ないのに…

オカメインコ

ポッポ先生
全部一度にやる必要はありません。まずは「職場のAIシステムを一度使ってみる」「AIが生成した説明を自分で検証してみる」など、小さな一歩から始めて、徐々に広げていけば十分です。重要なのは、AIを「敵」としてでも「万能の味方」としてでもなく、「使いこなすべきツール」として捉えることです。
まとめ:次の一歩

AIは薬剤師の仕事を奪うのではなく、再定義しています。そして、時には「患者に好まれる」場合すらあります。だからこそ、私たち薬剤師が持つべき価値は、「AIより丁寧」ではなく「AIより正確で、かつ文脈を理解できる」ことです。
- 職場のAIシステム(薬歴、監査システムなど)を実際に使ってみる
- AIが生成した説明を一度確認し、正確性をチェックする習慣をつける
- 患者対応で「AIには把握できない」と感じる情報を意識的にメモする
- 興味のある専門領域や認定資格を1つ調べてみる
不確実な未来に備えるには、まず現実を知ることです。AIの進化は速いですが、専門医が正確性の観点からAIの限界を認識しているように、人間にしかできないことも確実にあります。その境界線を見極めながら、自分の立ち位置を調整していく—それが、これからの薬剤師に求められるスキルです。
参考文献:
- AIと医師の回答の質と共感性に関するJAMA Internal Medicine研究(2023年)
- がん患者によるAI回答の共感性評価に関するNature Digital Medicine研究(2025年)
- AIと医師の協働に関するスタンフォード大学研究(2024-2025年)
- 厚生労働省の薬剤師需給推計


