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高齢者の腎機能評価とラウンドアップ法——Cr 0.6代入が”意味していること”を考えたことはありますか?

「Crが低ければ0.6を入れる」、なんとなく使っていませんか

高齢の患者さんで血清クレアチニン(Cr)値が0.4 mg/dLだった。eGFRを計算したら妙に高い数字が出た。「こういうときは0.6を代入して計算し直す」——そう教わった方、多いのではないでしょうか。

いわゆるラウンドアップ法。現場では広く使われている方法です。私も薬局に入った頃、先輩から「Crが0.6未満なら0.6に置き換えてね」と言われ、深く考えずにそうしていました。

ただ、ここで一つ立ち止まって考えてみたいんです。推算式に、推算した代理の数字を入れる。これって、何をしている操作なのか。精度が高まると思って使っていないか。そもそも推算式自体の精度はどの程度なのか。この記事では、ラウンドアップ法を「ダメ」と言いたいわけではありません。ただ、「自分がいま何をしているのか」を理解して使いましょう、という話をしたいと思います。


ラウンドアップ法とは何か——まず定義を整理する

ラウンドアップ(round up)法とは、血清Cr値が0.6 mg/dL未満の患者に対し、Cr=0.6 mg/dLを代入して腎機能推算式(eGFRやCockcroft-Gault式)に入れる方法です。

目的はシンプルです。高齢者で筋肉量が減っている場合、Crの産生自体が少なくなります。すると血清Cr値が見かけ上低くなり、推算式に入れるとeGFRが高く出すぎてしまう。つまり腎機能を過大評価するリスクがある。これを防ぐために、Crに下限値を設定して「高く出すぎないようにする」のがラウンドアップ法の狙いです。

研修で『0.6を代入すると精度が上がる』って聞きました。違うんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

ここ、誤解されやすいので先に言っておくと、提唱者の平田先生ご自身が『腎機能の予測精度が上がることはない』と明記しています。安全方向に寄せるための操作であって、精度向上の手段ではないんです。

どうですか? ここ、心当たりありませんか。「精度が上がる」のと「安全マージンを取る」のでは、やっていることの意味がまったく違います。


そもそも推算式の精度はどのくらいか——±30%という現実

ラウンドアップ法の話に入る前に、もう一つ押さえたい前提があります。推算式そのものがどれくらいの精度なのか、という問題です。

日本人向けeGFR推算式(JSN eGFR)の正確度は、75%の症例が実測GFRの±30%の範囲に入る程度と報告されています。逆に言うと、4人に1人はそこから外れる。しかも「入る」と言っても±30%です。

たとえばeGFRが60 mL/min/1.73m²と出た患者さん。実測GFRは42〜78のどこかにいる可能性がある、ということです。

推算式P30(実測GFR±30%に入る割合)特徴
eGFRcreat(Cr基準・日本人式)約75%筋肉量の影響を受けやすい
eGFRcys(シスタチンC基準)約78%筋肉量の影響を受けにくい
eGFRcreat+cys の平均約82%両者併用で正確度が改善

※上記は代表的な報告値であり、対象集団や研究により幅がある

この±30%のブレを含む推算式に、実測値ではなく「0.6という代理の数字」を入れる。これで出てくる数字の意味を、あらためて考えてみてください。推算 on 推算。小数点レベルの精密さを追いかけているような操作ではない、ということが見えてくるはずです。

そんなにブレるなら、推算式を使う意味あるんですか…?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

もちろんあります。臨床現場でイヌリンクリアランスを毎回測るわけにはいきませんから。ただ、『推算は推算である』という自覚を持って使うのと、正確な数値だと思って使うのでは、その後の判断が変わってきますね。


ラウンドアップ法がやっていることの”正体”

整理しましょう。ラウンドアップ法は「精度向上」ではなく「安全方向へのバイアス」です。

Crを0.4から0.6に置き換えれば、計算上のeGFRは下がります。腎機能が「悪い側」に見積もられるので、薬の投与量は減量の方向に倒れます。過量投与のリスクは下がる。でも、薬が足りなくなるリスクは上がる。平田氏も「安全性は高くなるが、有効性を担保することはできない」と指摘しています。

ここ、現場だと詰まりがちなところです。安全方向に倒すこと自体は、治療域の狭い薬(バンコマイシンなど)では合理的な判断になりえます。問題は、その意図を自覚しないまま、すべての場面に一律適用してしまうことのほうです。

「CG式のほうが実態に近かった」という日本の報告

ところで、痩せた高齢者でeGFRが異常に高く出る問題に対して、Cockcroft-Gault式(CG式)のほうが実測値に近かったという日本の研究データがあります。

平田氏は「10の鉄則」改訂8版(2019年)で、活動度の低いサルコペニア高齢者において「推算CCr(CG式)はサルコペニア高齢者には意外と合っており、eGFRcysが最も優れていた」と報告しています。また、内海らの研究(日腎薬誌 2021)でも、Cr 0.6未満のサルコペニア患者11名で24時間蓄尿の実測CCrと比較したところ、eGFRcreatは顕著に過大評価したのに対し、CG式のほうが実測に近い傾向が確認されています。

私なら、この結果をこう読みます。CG式が「優れていた」のではなく、eGFRcreatが「この集団で特にダメだった」ということ。CG式は計算に体重が入る分、低体重の患者では値が下がりやすく、結果的に実態との乖離が小さくなった——という構造です。

じゃあ、こういう患者さんにはCG式を使えばいいんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

選択肢のひとつにはなります。ただしCG式にも限界があります。肥満では過大評価しますし、そもそもJaffe法時代のデータで作られた式です。ベストはやはりシスタチンCや実測CCrですが、使えない場面でCG式を参考にするのは理にかなっています。

ただし、この研究の対象は11名と少数であること、また別の報告(日腎薬誌 2018)では「ラウンドアップが意外と合っている」という結果もありつつ、対象に強制栄養で体重が増加した患者が含まれていた可能性も指摘されています。どちらか一方を鵜呑みにするのではなく、それぞれの限界を理解したうえで使い分けるのが大事です。


「そこまで厳密に評価すべき場面か?」を先に考える

いまの状況に当てはめて考えてみてください。あなたが腎機能を評価しようとしているその場面、本当にeGFRの数字を小数点まで詰める必要がありますか?

場面によって、必要な精度は違います。 私ならまず「いま何を判断したいのか」から確認します。

① 治療域の狭い腎排泄型薬の投与設計(バンコマイシン、カルボプラチンなど)

→ ここはラウンドアップで済ませず、シスタチンCや実測CCrの検討を提案する場面です。過量投与も過少投与も命に関わります。

② 添付文書の用量調整表で「減量すべきか」を確認する場面

→ eGFRの±30%のブレを考慮して、境界域ならワンランク下を選ぶ。ラウンドアップは「安全方向に倒す」手段として使える場面です。

③ 処方監査で「この患者さん、腎機能は大丈夫そうか」のざっくり確認

→ 推算値の限界を知ったうえでの大まかなスクリーニングで十分なことが多い。Crの経時的な推移のほうが、1回の数字より有益です。

シスタチンCがいいのはわかるけど、保険上は3ヶ月に1回しか算定できないし、そもそも測ってない患者も多いです…

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そうなんですよね。だからこそ、手持ちのCrで何ができて何ができないのかを理解しておくことが先なんです。ツールの限界を知ることが、いちばんの”精度向上”だと私は思います。

あなたの施設では、シスタチンCの測定は可能ですか? もし可能なら、ハイリスク薬の場面で「シスタチンCでの評価も確認しませんか」と提案する。医師には「薬の安全性の確認のためです」と伝えれば、動いてもらいやすいです。


ラウンドアップ法と”上手につきあう”ために

最後に、Cr値が0.6未満の患者さんに出会ったときの「考える手順」を整理しておきます。

  • Step 1:患者さんを自分の目で見る
    Cr低値の理由は何か。サルコペニア? 低栄養? 長期臥床? それとも活動的で本当に腎機能が良い可能性もある? Barthel Indexや歩行状態、体重の推移を確認する。「痩せている=筋肉量が少ない」とは限りません。毎日農作業をしている高齢者もいます。
  • Step 2:いま扱っている薬のリスクを確認する
    治療域の狭いハイリスク薬か、それとも安全域の広い薬か。ここで必要な精度が変わります。
  • Step 3:使える評価手段を確認する
    シスタチンCは測定可能か。過去のCrの推移はあるか。蓄尿は可能な状況か。すべてが使えないなら、ラウンドアップ法は「安全方向に寄せる次善の策」として選択肢に入ります。
  • Step 4:「精度を上げた」と思い込まない
    ここがいちばん大事です。ラウンドアップ後の数字は、実測値に近づいたわけではありません。「安全マージンを取った」という自覚を持つこと。この一点の認識があるかないかで、その後の判断の質が変わります。

まとめ——「何のために計算しているか」に立ち返る

ラウンドアップ法は「間違った方法」ではありません。薬物の過量投与を防ぐ安全策として、臨床現場で一定の役割を果たしてきました。

ただし、3つのことは押さえておきたいところです。

  1. 一つ目。 ラウンドアップ法は「精度向上」ではなく「安全方向へのバイアス」です。
  2. 二つ目。 推算式そのものが±30%のブレを含みます。そこに推算値を入れて計算しても、精密な腎機能評価にはなりません。
  3. 三つ目。 すべての場面で同じ精度が必要なわけではありません。「いま何を判断したいのか」「この薬のリスクはどの程度か」——そこから逆算して評価方法を選ぶほうが、現場では実用的です。

次にCr 0.6未満の患者さんに出会ったら、計算機を叩く前に3秒だけ考えてみてください。「いま自分は、何のためにこの計算をしようとしているのか」。それだけで、数字との向き合い方が変わるはずです。


確認先・一次情報

  • 平田純生「腎機能を正しく評価するための10の鉄則」改訂8版(2019年)
  • 内海紗良ほか「サルコペニア患者の腎機能予測における血清クレアチニン値0.6 mg/dLへのround upの妥当性評価」日腎薬誌 2021; 10(1): 3-12
  • 日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第11章
  • 日本腎臓病薬物療法学会「eGFR・CCrの計算」ツール(https://www.jsnp.org/egfr/)
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