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10年越しの「薬局ビジョン」、いよいよ本気の締め付けへ

2015年、当時の塩崎恭久厚生労働大臣が「医薬分業の原点に立ち返り、57,000の薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編する」と宣言してから、もう10年が経ちました。あのとき掲げられた「患者のための薬局ビジョン」のキャッチフレーズは「『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ」。私自身、調剤薬局で働きながら「立地から機能へ」「対物業務から対人業務へ」という言葉を何度も耳にしてきました。
でも、正直に言います。現場の景色は、あまり変わっていません。
2026年度の調剤報酬改定は、地域偏在の解消と門前薬局のあり方の見直しが大きなテーマです。特に「門前から地域へ」という薬局ビジョンが達成されていない現状が厳しく指摘されています。厚労大臣自身が「薬局ビジョン未達」と明言するなか、今回の改定で登場したのが「門前薬局等立地依存減算」という新たな仕組みです。
この記事では、この減算がどんなものなのか、どんな薬局が該当するのか、そしてなぜ「既存薬局ひいき」という批判が出ているのかを整理していきます。いまの状況を踏まえて、私たち薬剤師がどう判断すべきか、一緒に考えてみませんか。
「門前薬局等立地依存減算」とは何か──新規開設薬局への事実上の参入規制

減算の対象となる2つのパターン
まず、今回新設された「門前薬局等立地依存減算」がどんなものか、短冊(個別改定項目)から要点を整理します。
新規開設する薬局で、既に多数の薬局がある地域(許可病床200床以上の病院から100m以内で他薬局が2つ以上ある等)や、医療モール内に立地する場合、所定点数から減算されます。
私ならまず「都市部」かどうかを確認します。今回の減算には「都市部」という地理的限定があり、その対象は東京23区と政令指定都市に限られています。
都市部だけって、地方は関係ないってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
そうですね。ただし、都市部に該当するのは札幌から熊本まで全国16地域です。東京・大阪だけの話じゃありません。自分の薬局が該当地域か、まず確認が必要です。
具体的な要件を見てみる
短冊を読み解くと、減算対象となるのは次の2パターンです。
【パターン1】大病院門前・薬局密集地域
次の3条件をすべて満たす場合:
- 都市部(別表第●に掲げる地域)に所在し、かつ水平距離500m以内に他の薬局がある
- 集中率が●%超(※具体的な数値は未公表)
- 次のいずれかに該当:
- 200床以上の病院から100m以内に所在し、その区域内および病院敷地内に他の薬局が2軒以上ある
- 薬局から50m以内に他の薬局が2軒以上ある
- 薬局から50m以内にある他の薬局が上記に該当する(いわゆる「端っこ対策」)
【パターン2】医療モール内
- 集中率が●%超
- 医療機関が所在する建物・敷地と同一の建物内または敷地内に所在
ここ、迷いやすいところです。「200床以上の病院から100m」と「薬局から50m」、それぞれ距離の基準が違います。また、医療モールの場合は距離要件がなく、同一建物・敷地内であれば該当します。
具体例で考える──こんなケースは該当するのか
私がよく相談を受ける想定事例を挙げてみます。
| ケース | 該当? | 理由 |
|---|---|---|
| 東京都内の大学病院(500床)から80mの新規開設、周囲に既存薬局3軒 | ○ 該当 | 都市部+200床以上病院から100m以内+他薬局2軒以上 |
| 名古屋市の内科・整形外科・皮膚科が入る医療モール内に新規開設 | ○ 該当 | 都市部+医療モール内+集中率が高くなりやすい |
| 札幌市の150床病院から50mに新規開設、周囲に薬局1軒 | △ 条件次第 | 200床未満なので病院門前基準は非該当。ただし50m以内の薬局数次第 |
| 地方の300床病院の真正面に新規開設 | × 非該当 | 都市部でないため対象外 |
でも、集中率って具体的に何%なんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
現時点で●%と伏せ字になっています。おそらく85%前後と予想されますが、確定値は告示を待つしかありません。不確実な点は不確実と認識しておくのが安全です。
なぜ「新規開設のみ」なのか──既存薬局への経過措置という構図

「既存薬局ひいき」という声が出る理由
今回の減算で最も議論を呼んでいるのが、既存薬局には経過措置が設けられるという点です。
「門前薬局等立地依存減算の強化ルール」は主に「新規に開設する保険薬局」が対象で、既存薬局には現時点では経過措置が置かれる見込みです。
短冊には次のような経過措置が明記されています:
令和八年五月三十一日において現に健康保険法第六十三条第三項第一号の指定を受けている保険薬局については、当面の間、(門前薬局等立地依存減算に)該当しないものとする。
つまり、2026年5月末時点で既に開局している薬局は、同じ立地条件でも減算対象にならないということです。
どうですか?ここ、心当たりありませんか。「同じ場所にいるのに、新規と既存で扱いが違う」という状況です。
それって、新規参入を阻止しているだけじゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
厳しい見方をすれば、そう取れます。ただ、厚労省の意図は『これ以上の立地依存型薬局を増やさない』ということ。既存薬局をいきなり減算すると地域医療に影響が出るという判断もあるでしょう。賛否両論ある論点です。
「薬局の再編が遅れる」という懸念
逆に言うと、この制度設計には問題があります。
既存薬局が減算対象にならないということは、病院門前の「一等地」を既に押さえている薬局は既得権を維持できるということです。新規参入者だけが不利になるこの構図は、むしろ薬局の再編・統合を遅らせる可能性があります。
これまでは大病院の目の前や医療モールの中は、処方箋枚数が確保しやすい一等地とされてきましたが、今後は収益性が低下するリスクが発生します。
ただし、それは新規開設に限った話です。既存薬局にとっては、新規参入者が減ることで競合リスクが下がるとも言えます。
いまの状況だと、「立地から機能へ」という理念と、「既存薬局への配慮」という現実のあいだで、制度が引き裂かれているように私には見えます。
「病院前の景色を変える」──10年越しの理念は実現するのか
塩崎元大臣の「薬局ビジョン」を振り返る
2015年10月、塩崎厚労大臣(当時)は経済財政諮問会議で「医薬分業の原点に立ち返り、57,000の薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編する」と発言しました。
薬局ビジョンでは「立地から機能へ」「薬中心から患者中心へ」「バラバラから一つへ」という基本的な考え方が示されました。
当時の目標は「2025年までに、すべての薬局がかかりつけ薬局としての機能を持つこと」でした。
しかし現実はどうでしょうか。
薬局ビジョンが未達だったことを踏まえて、立地から機能へという方向性に点数を付けることが強化されている印象です。厚生労働大臣が薬局ビジョン未達と言っていましたものね。
正直、10年経っても変わらなかったのに、今回の改定で本当に変わるんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
良い質問です。私も完全に変わるとは思っていません。ただ、今回は『新規開設への事実上の規制』という、これまでにない強い手段が取られました。少なくとも『これから門前で開業しよう』という判断には大きく影響するはずです。
集中率計算の厳格化──医療モールの「抜け穴」が塞がれる
今回の改定では、門前薬局等立地依存減算だけでなく、集中率の計算方法そのものも見直されます。
同一建物・同一敷地内に複数の医療機関がある場合(医療モール等)、それらを「1つの保険医療機関」とみなして集中率を計算することになります。
これまで医療モール内の薬局は、内科・整形外科・皮膚科など複数のクリニックから処方箋を受けることで「集中率が低い」と計算上は見えていました。しかし今後は、同一建物・敷地内の複数医療機関を「1つ」とみなすため、実質的な集中率が正しく反映されるようになります。
現場だとここで詰まりがちです。レセコンが新しい計算方法に対応できるのか、という実務的な問題も出てくるでしょう。
私たち薬剤師はどう動くべきか──判断軸を整理する

「立地」から「機能」へシフトできるか
今回の改定のメッセージは明確です。
門前薬局の立地依存に対する強いメッセージが発出されたのが印象的です。これは、「病院門前や医療モールなど、立地だけで経営が成り立つような薬局の新規開設を抑制し、対人業務(患者への指導やサポート)を重視する」という国の強い意志が反映された新しい減算規定です。
私ならまず、自分の薬局が「立地」に依存しているのか、「機能」で選ばれているのかを冷静に見つめ直します。
チェックリスト:あなたの薬局は「機能」で選ばれていますか?
| 項目 | チェック |
|---|---|
| かかりつけ薬剤師指導料を月に何件算定しているか | □ |
| 在宅患者訪問薬剤管理指導の実績があるか | □ |
| 服薬情報等提供料(トレーシングレポート)を定期的に算定しているか | □ |
| 24時間対応・夜間休日対応の体制があるか | □ |
| 処方元以外の医療機関の処方箋も一定数受けているか | □ |
誤解されやすいので先に言うと、「門前薬局だから悪い」わけではありません。問題は「立地だけに依存して、対人業務を軽視していないか」という点です。
新規開設を検討している方へ
もし都市部で新規開設を検討しているなら、しないほうが安全です──というより、少なくとも今回の減算対象になるかどうかを徹底的にシミュレーションすべきです。
確認すべきポイント:
- 開設予定地は「都市部(別表第●)」に該当するか
- 200床以上の病院から100m以内か
- 周囲500m・50m以内に既存薬局が何軒あるか
- 医療モール内ではないか
- 集中率が高くなる構造ではないか
賃料が上がっている中で収益性は低下するわけですから、東京23区や政令指定都市など指定された地域では、いわゆる門前型薬局の新規出店は相当抑制されるのではないでしょうか。
既存薬局で働く方へ
経過措置があるからといって安心するのは早計です。今回は「当面の間」という表現にとどまっており、将来的に経過措置が終了する可能性は十分にあります。
経過措置っていつまで続くんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
『当面の間』としか書かれていません。次回改定で見直される可能性もあります。いまのうちに集中率を下げる取り組みや、対人業務の実績を積んでおくことが重要です。
ただし、「地域の医療機関が少なく、薬局が地域医療の最後の砦になっている」ようなケースもあります。そうした薬局まで一律に規制するのは現実的ではなく、制度も例外規定を設けています。たとえば、へき地の公的医療機関の敷地内薬局などは特別調剤基本料Aの対象外とされる見込みです。
まとめ──「景色を変える」のは制度だけではない

2026年度の調剤報酬改定で新設される「門前薬局等立地依存減算」は、都市部において、新規開設する薬局が大病院門前や医療モールに立地する場合に調剤基本料を減算するという制度です。
整理すると:
- 対象地域:東京23区および政令指定都市(全国16地域)
- 対象薬局:新規開設薬局(既存薬局には経過措置あり)
- 要件:200床以上病院から100m以内で薬局密集、または医療モール内、かつ集中率が高い場合
- 経過措置:2026年5月末時点で開局済みの薬局は「当面の間」対象外
「既存薬局ひいき」という批判には一定の根拠があります。同じ立地条件でも新規と既存で扱いが異なるのは、公平性の観点から疑問が残ります。一方で、既存薬局への急激な規制は地域医療に混乱をもたらすという現実的な判断もあるでしょう。
塩崎元厚労大臣が語った「病院前の景色を変える」という理念が、10年を経てようやく制度として形になりつつあります。しかし、制度だけで景色が変わるわけではありません。私たち薬剤師一人ひとりが「立地」ではなく「機能」で選ばれる存在になれるか──その問いが、いま突きつけられています。
確認先(一次情報)
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第644回)資料」(2026年1月23日)
- 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」(2015年10月23日)
次の一歩
- 自薬局が減算対象になりうるか、立地・集中率・周辺薬局数をシミュレーションする
- 対人業務(かかりつけ、在宅、服薬情報提供)の実績を数値で把握する
- 告示・通知が出たら、具体的な数値(集中率●%など)を確認する


