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薬局の”見えないコスト”──コミュニケーション不全が生む医療リスク

薬局のコミュニケーション、なぜ「当たり前」では済まされないのか

調剤薬局で働いていると、ふと「なんだか最近、みんな会話が減ったな」と感じる瞬間はありませんか。忙しい日々の中で、必要最低限の申し送りだけで一日が終わる。ちょっとした違和感があっても「まあ、これくらいなら」と飲み込んでしまう。そんな小さな”諦め”が積み重なっていく職場環境に、私自身も心当たりがあります。

実は、こうした職場のコミュニケーション不全は、目に見えない形で業務の質を下げているかもしれません。そして薬局という閉鎖空間だからこそ、その影響は想像以上に大きい。今回は「なぜ薬局でコミュニケーションが特に重要なのか」を、エビデンスと現場の実態から考えていきます。

この記事を読むとわかること

  • 職場の小さな違和感が何を意味するのか
  • それが医療安全にどう影響するのか
  • 明日から始められる小さな一歩は何か

“無礼”は見えないコストを生む──HBRの衝撃データが示すこと

まず、職場のコミュニケーションがどれほど業務に影響するか、データから見てみましょう。

Harvard Business Review(2013年)に掲載されたPorath & Pearsonの研究では、17業界・約800人を対象に「職場で無礼な扱いを受けた人」の行動変化を調査しました。結果は以下の通りです。

  • 48%の人が、仕事にかける労力を意図的に減らした
  • 47%の人が、仕事にかける時間を意図的に減らした
  • 38%の人が、仕事の質を意図的に下げた

ここで言う「無礼(incivility)」とは、ハラスメントとまではいかないグレーゾーンも含みます。たとえば、冷たい返事、無視、皮肉、ため息、露骨な不機嫌──薬局でも思い当たる場面があるのではないでしょうか。

でも、これって海外の調査ですよね?日本の薬局にも当てはまるんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

その疑問、当然です。ただし、日本の医療現場でも「医療トラブルの30%は従業員間のコミュニケーション不足に起因する」という報告があります。文化は違っても、コミュニケーション不全が業務品質に影響する構造は共通しているんです。

薬局で起きる”見えないコスト”

このデータを薬局に置き換えると、どうなるでしょうか。

  • 疑義照会を躊躇する(労力を減らす)
  • ダブルチェックを形式的に済ませる(時間を減らす)
  • 患者さんへの服薬指導が淡白になる(質を下げる)

これらは全て、患者の安全に直結する行動です。そして厄介なのは、こうした変化が「本人も無自覚に」起こりうることです。

私ならまず、自分の職場で「最近、疑義照会の件数が減っていないか」「ダブルチェックが形骸化していないか」を確認します。数字やプロセスの変化は、見えないストレスのサインかもしれません。

なぜ薬局は”特に”コミュニケーションが重要なのか

閉鎖空間という特性

薬局は、多くの場合「少人数・固定メンバー・狭い調剤室」という環境です。調剤薬局では薬剤師2〜3人に事務スタッフ1〜2人、多くても数十人規模がほとんどでしょう。

この環境には、以下の特徴があります。

  • 物理的距離が近い:調剤室内で一日中顔を合わせる
  • 逃げ場がない:休憩も同じメンバー、異動も少ない
  • 関係がこじれやすい:一度ギクシャクすると修復が難しい

ここ、心当たりありませんか?

病院のように部署が分かれているわけでもなく、ドラッグストアのように勤務時間帯でメンバーが入れ替わるわけでもない。同じ顔ぶれで、同じ空間で、長時間過ごす。だからこそ、小さな違和感が大きなストレスに育ちやすいのです。

医療安全への直接的影響

さらに深刻なのは、薬局でのコミュニケーション不全が医療事故に直結する点です。

米国の医療安全評価団体Joint Commissionは、「医療事故の根本原因の約70%がコミュニケーションエラー」と報告しています。また、日本の医療現場でも「医療トラブルの最大要因はコミュニケーション不足」と指摘されています。

具体的には、以下のようなエラーが起こりえます。

エラーの種類薬局での具体例
伝達エラー電話での処方変更が正しく伝わらない
確認不足「言ったつもり」「聞いたはず」のすれ違い
報告の躊躇気づいた違和感を言い出せない雰囲気
チェック形骸化「どうせ言っても…」と思いながらのダブルチェック

正直、忙しいときはコミュニケーションまで気が回らないです…

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

わかります。ただし、忙しいときほど伝達ミスは起きやすいんです。そして、一度事故が起きると、対応にかかる時間はコミュニケーションに割く時間の何倍にもなります。つまり、「コミュニケーションを省く」は「リスクの先送り」なんです。

職場の”空気”が医療の質を左右する

アサーティブネスと処方適正化

興味深い研究があります。筑波大学の2025年の報告では、「薬局薬剤師のアサーティブネスが、医師の処方薬剤数削減と関連していた」ことが示されました。

アサーティブネスとは、「相手を尊重しながら率直に自己表現するコミュニケーションスキル」のことです。つまり、薬剤師が適切に意見を言える職場環境では、ポリファーマシーの解消など処方の適正化が進みやすいということです。

逆に言うと、「言いにくい空気」が、患者にとって最適ではない処方を放置する原因になりうるのです。

心理的安全性の欠如が招くもの

「心理的安全性」という言葉を聞いたことがありますか?これは「チーム内で率直に意見を言っても、罰せられたり拒絶されたりしない」と感じられる状態のことです。

医療現場では、この心理的安全性が医療安全に直結します。厚生労働省の「安全な医療を提供するための10の要点」でも、「職員間のコミュニケーション」が重要項目として挙げられており、特に「チーム内でお互いが指摘し、協力し合える関係」が強調されています。

どうですか?いまの職場だと、疑問に思ったことを気軽に口に出せますか?

明日から始められる小さな一歩

想定反論への先回り

理屈はわかります。でも、ギクシャクした関係をいきなり変えるのは無理じゃないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

その通りです。人間関係を一気に変えるのは現実的ではありません。ただし、「コミュニケーションの質」ではなく「コミュニケーションの構造」を少し変えるだけなら、明日からでも可能です。

具体的な実装ステップ

以下は、個人でもチームでも始められる小さな改善策です。

ステップ①:復唱を習慣化する

  • 口頭での指示や変更は、必ず復唱する
  • 「〜ですね」と確認する一言を加える
  • 航空業界や海運業界で実証済みの手法です

ステップ②:「2回チャレンジルール」を導入する

  • 1回目の主張が無視されたら、少なくとも2回は懸念を伝える
  • 「しつこい」ではなく「医療従事者の責任」と捉える

ステップ③:SBAR法で報告する

危機的状況を伝える際の構造化された方法です。

  1. Situation(状況):何が起きているか
  2. Background(背景):患者背景や経緯
  3. Assessment(判断):自分の考え
  4. Recommendation(推奨):どうしてほしいか

この順で伝えると、緊急性が伝わりやすくなります。

ステップ④:朝の1分ミーティング

  • 全員で「今日気をつけたいこと」を共有
  • 調剤室に入る前の30秒〜1分でOK
  • 「今日は〇〇さん休みなので、確認を厳重に」など

例外と境界条件

ただし、以下の場合は注意が必要です。

  • ハラスメントが常態化している職場:個人の努力では限界があります。まずは外部の相談窓口(産業保健スタッフ、労働局など)への相談を検討してください。
  • 人員が極端に少ない薬局:薬剤師1人体制など、構造的にリスクが高い場合は、経営層への働きかけや転職も選択肢です。

私ならまず、「変えられるもの」と「変えられないもの」を切り分けます。職場の構造自体が問題なら、それは個人の努力の範囲外です。しないほうが安全です、自分を責めるのは。

コミュニケーションは”コスト”ではなく”投資”

ここまで読んで、「結局、忙しいのにコミュニケーションにまで気を配れというのか」と感じた方もいるかもしれません。

でも視点を変えてみましょう。コミュニケーションエラーによる医療事故が起きた場合、その対応にかかる時間・精神的負担・信頼の損失は、日頃のコミュニケーションに割く時間の何倍にもなります。

つまり、コミュニケーションは「余裕があればやるもの」ではなく、「業務の一部」なのです。

でも、管理薬剤師じゃないと職場の空気は変えられないのでは?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

確かに、管理者の影響力は大きいです。ただし、「復唱する」「気づいたことを言う」「SBARで報告する」は、役職に関係なく今日から実践できます。そして、一人が始めることで、周囲も変わることがあります。

まとめ:気づかないうちに失われているものを、取り戻す

職場で無礼な扱いを受けた人の約半数が、労力や時間を意図的に減らす。医療事故の約70%がコミュニケーションエラーに起因する。薬局という閉鎖空間では、小さなコミュニケーション不全が大きなリスクに育ちやすい──これらは、全てエビデンスに基づく事実です。

そして、私たちが日々感じている「なんとなくの違和感」は、決して気のせいではありません。それは、職場のコミュニケーション不全が生み出している”見えないコスト”のサインかもしれないのです。

次の一歩

  1. 自分の職場を観察する:疑義照会の頻度、ダブルチェックの丁寧さ、会話の質を振り返る
  2. 小さく始める:復唱、2回チャレンジ、朝の1分ミーティングなど、できることから
  3. 必要なら外部に相談する:限界を感じたら、産業保健スタッフや転職エージェントなど第三者の視点を借りる

確認先(一次情報)

  • 日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」
    https://www.med-safe.jp/
  • 厚生労働省「安全な医療を提供するための10の要点」
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/
  • 筑波大学「薬剤師のアサーティブネスと減薬研究」(2025年3月)
    https://www.tsukuba.ac.jp/journal/

コミュニケーションは、余裕があるときにやるものではありません。患者の安全を守り、自分たちの働きやすさを守るための、日々の業務の一部です。

いまの状況だと、「変えられない」と諦めていたことが、実は小さな一歩から変わるかもしれません。まずは、明日の朝、復唱から始めてみませんか?

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