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「B型にはゾフルーザがいいらしい」――その話、どこまで本当?
2025/2026シーズン、年明けからインフルエンザB型の報告が増えています。窓口で「B型って言われたんですけど、ゾフルーザじゃなくて大丈夫ですか?」と聞かれた薬剤師の方、少なくないのではないでしょうか。
私自身、この冬は処方せんを受けるたびに「B型=ゾフルーザ一択」という空気をじわじわ感じています。SNSやニュースの影響もあるのでしょう。でも、ここは少し立ち止まりたいところです。誤解されやすいので先に言うと、「B型にゾフルーザが有利」というデータは確かにあります。ただ、「タミフルでは効かない」とイコールではありません。
この記事では、オセルタミビル(タミフル)とバロキサビル(ゾフルーザ)のインフルエンザB型に対するエビデンスを一つずつ確認しながら、現場で患者さんに説明するための判断軸を整理します。薬剤選択の根拠、注意すべき境界条件、そして「結局どう伝えればいいのか」まで、一緒に考えていきましょう。
この記事でわかること
- オセルタミビルはB型に「効かない」のか――データの実際
- ゾフルーザがB型に有利とされる根拠(CAPSTONE-2ほか)
- タミフルとゾフルーザの比較表で見る判断軸
- 「B型なのにタミフルで大丈夫?」への現場での答え方
- 耐性変異と薬価――見落としがちなもう一つの判断材料
そもそもオセルタミビルはB型に「効かない」のか

まず、土台になる話から確認します。
オセルタミビルのインフルエンザB型に対する効果がA型より小さく見える、という報告は実際にあります。Sugayaらの小児観察研究(2007年、Clin Infect Dis)では、オセルタミビル投与後の解熱までの平均日数がB型で2.18日、A(H3N2)で1.31日でした。特に1〜5歳の小児で差が顕著だったと報告されています。
日本感染症学会の提言(2019年)でも、「低年齢小児のB型インフルエンザでは、オセルタミビルの効果が減少した報告がある」と明記しています。
ここ、心当たりありませんか? 「B型の子、タミフル出したのに全然解熱しない」という経験。あの”体感”には、こうした臨床データの裏付けがあるわけです。
じゃあやっぱり、B型にはタミフルはダメなんじゃ…?

オカメインコ

ポッポ先生
「効果が減少した報告がある」と「無効」は別ですね。同じ提言の中で、10歳前後の小児ではオセルタミビルとザナミビルの効果にH1N1・H3N2・B型で有意差が見られなかったという報告にも言及しています。「B=タミフル無効」と断定するのは根拠過剰です。
私ならまず「効かない」ではなく「A型に比べて効果が小さめに出る場面がある」という表現に整理します。この違いは、患者さんへの説明で効いてきます。
ゾフルーザがB型に「有利」とされる根拠は何か

では、バロキサビル(ゾフルーザ)のB型に対する優位性を示すデータを確認します。
CAPSTONE-2試験(ハイリスク患者対象のRCT)
もっとも引用されるのがこの試験です。12歳以上のハイリスク外来患者を対象とした国際共同第III相試験(2020年、Lancet Infect Dis)で、インフルエンザB型患者のサブグループでは、症状改善までの時間がバロキサビル群で中央値74.6時間、オセルタミビル群で101.6時間でした。約27時間の差で、統計的にも有意差が出ています(p<0.05)。
逆に言うと、A(H3N2)のサブグループでは両群に大きな差はなく(バロキサビル75.4時間 vs オセルタミビル68.2時間)、B型に限って差が開くという構図です。
小児のデータ(日本での比較試験)
日本の6〜12歳未満を対象としたオープンラベルRCT(Ishiguro et al., 2025年、Infect Dis Ther)でも、B型感染者では症状改善までの時間がバロキサビル群で65.5時間、オセルタミビル群で90.5時間と、バロキサビルが短い傾向が報告されています。
日本小児科学会の2025/26シーズン指針
この指針では、「B型インフルエンザウイルスに対するバロキサビルの効果については、ノイラミニダーゼ阻害薬に比べて、有熱期間が比較的短いとの報告も複数存在する」と明記されています。さらに、B型では低感受性変異ウイルスの出現が稀であることにも触れています。
ということは、やっぱりB型はゾフルーザ一択ってことですよね?

オカメインコ

ポッポ先生
「有利なデータがある」と「一択」は違います。CAPSTONE-2のB型データはサブグループ解析であって、事前に主要評価項目として設計されたものではないです。また、全体集団ではバロキサビルとオセルタミビルの差は統計的に有意ではありませんでした。ここは押さえたいです。
現場だとここで詰まりがちです。データの”強さ”をどう読むかで、説明のトーンが変わるからです。
じゃあ判断の分かれ目はどこにあるのか――選択の判断軸を整理する

いまの状況だと、「B型ならゾフルーザに変えたほうがいいのでは」と疑問を持つ場面が増えていると思います。でも、薬剤選択は一つの比較軸だけでは決まりません。以下に、私が現場で考える判断軸を整理します。
| 判断軸 | オセルタミビル(タミフル) | バロキサビル(ゾフルーザ) |
|---|---|---|
| B型への有効性 | Aより効果がやや小さい傾向(特に低年齢小児) | B型でNAIより有熱期間が短い報告が複数 |
| 使用実績・エビデンス量 | 最多。重症例のデータも豊富 | 蓄積中。重症例は成人データに限定 |
| 服薬回数 | 1日2回×5日間 | 単回投与で完結 |
| 低年齢小児への推奨 | 幼児に推奨(日本小児科学会) | 12歳未満は慎重に判断(低年齢ほど変異出現頻度↑) |
| 耐性変異のリスク | 低い(B型での耐性検出なし) | PA/I38X変異あり(臨床的影響は限定的。B型では出現稀) |
| 薬価 | 後発品あり。比較的安価 | 先発のみ。タミフル後発品と比べるとかなり高い |
| ウイルス排出期間 | 96時間程度(CAPSTONE-2) | 48時間程度(CAPSTONE-2) |
| アドヒアランス | 5日間飲み切れないリスクあり | 単回で確実に完結 |
どうですか? 一面的に「どちらが良い」と言い切れない構造が見えるのではないでしょうか。
正直、患者さんに全部説明するのは難しくないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
全部伝える必要はないです。ポイントは「B型でゾフルーザが有利なデータはあるが、タミフルでも治療効果はある」ということ。そのうえで、年齢・服薬アドヒアランス・費用面を加味して処方医が選んでいる、と説明できれば十分です。
ただし、以下の場合は判断が変わりうるので注意が必要です。
例外①:12歳未満の低年齢小児の場合
日本小児科学会の指針では、幼児にはオセルタミビルの投与が推奨されています。バロキサビルは12歳未満に対して「慎重に判断」という表現にとどまっています。低年齢ほど低感受性変異の出現頻度が高い傾向が示されているためです。
例外②:重症例・入院例の場合
集中治療管理が必要な重症例に対する使用経験が最も多いのはオセルタミビルです。バロキサビルの重症例に対する効果のエビデンスは成人の検討に限られています。FLAGSTONE試験では、NAI+バロキサビルの併用がNAI単独に対して優越性を示せなかったという結果もあります。
患者さんへの説明――「B型なのにタミフルで大丈夫?」と聞かれたら

ここが現場でいちばん実践的なパートです。
「B型なのにタミフルで大丈夫?」と聞かれたとき、私ならまずこう整理します。
使える表現(推奨)
「B型でもタミフルの効果は期待できます。ただ、A型に比べると解熱がやや遅いという報告があり、特にお子さんでは差が出やすいとされています。ゾフルーザのほうがB型では症状改善がやや早いというデータもありますが、先生がタミフルを選ばれたのは○○(年齢・費用・使用実績など)を考慮されてのことだと思います。」
避けたい表現:
- 「B型にはタミフルは効きません」(根拠過剰)
- 「ゾフルーザにしてもらったほうがいいですよ」(処方提案は別ルートで)
- 「どっちでも同じです」(差がないわけではない)
ここ、迷いやすいところです。疑義照会すべきかどうかの判断も含まれるからです。
でも、明らかにゾフルーザのほうが良いデータがあるなら、疑義照会すべきなのでは…?

オカメインコ

ポッポ先生
単に「B型だからゾフルーザに変更」という疑義照会は、現時点のガイドラインでは根拠として弱いです。日本感染症学会もIDSAも、B型に対してオセルタミビルを使わないよう求めてはいません。一方、「低年齢小児でB型、かつ服薬アドヒアランスに不安がある」といった具体的状況であれば、処方提案の材料にはなりますね。
しないほうが安全なのは、SNSの情報だけを根拠に「ゾフルーザのほうが絶対いい」と患者さんに伝えてしまうことです。あくまでエビデンスと処方意図を踏まえた対応を心がけたいところです。
耐性変異と薬価――見落とされがちな「もう一つの判断材料」

B型に対するバロキサビルの有効性ばかりに目が向きがちですが、現場で無視できない要素がもう二つあります。
低感受性変異(PA/I38X)について
バロキサビルの治療中に、PA/I38X変異を持つ低感受性ウイルスが出現することは臨床試験の段階から確認されています。特に若年小児で出現頻度が高い傾向があります。
ただし、日本小児科学会の指針では「変異ウイルスが出現しても、治療経過に与える影響は極めて小さく、野生株に置き換わることも認められていない」と整理されています。さらに、B型インフルエンザについては変異ウイルスの出現自体が稀とも記載されています。
つまり、B型に限れば耐性の心配は比較的小さいと考えてよさそうです。ただし、これは現時点のサーベイランスに基づく見解であり、今後の耐性動向は引き続きモニタリングが必要です。
薬価の問題
ここは患者さんの懐に直結するので無視できません。ゾフルーザは先発品のみで、タミフルには後発品があります。3割負担の患者さんでも、薬剤費の差は数百円〜千円以上になることがあります。
「1回飲めば終わり」の利便性に価値を感じる患者さんもいれば、「安いほうがいい」という患者さんもいます。この優先順位は一律には決められません。
結局、何を優先するかは患者さん次第ってこと?

オカメインコ

ポッポ先生
薬剤師としては、情報を整理して渡すところまでが役割ですね。「B型でゾフルーザのほうが少し早く良くなるかもしれないデータはあります。ただ薬の値段に差があります」。それだけでも、患者さんの意思決定の質は上がります。
まとめ:「B型=ゾフルーザ一択」ではないが、有利なデータは確かにある

ここまでの内容を整理します。
結論:インフルエンザB型に対して、バロキサビル(ゾフルーザ)がオセルタミビル(タミフル)より症状改善が早いことを示す臨床データは確かにあります。CAPSTONE-2試験のサブグループ解析や、日本の小児試験、そして日本小児科学会の指針が、いずれもこの方向を支持しています。
ただし:
- あくまでサブグループ解析が中心で、「B型にはゾフルーザ一択」と断言できるほどのエビデンスレベルではありません
- オセルタミビルがB型に「無効」なわけではなく、使用実績・重症例データ・薬価・低年齢小児への推奨といった点で優位な面があります
- 日本感染症学会もIDSAも、B型に対してオセルタミビルの使用を否定していません
次の一歩として:
- 日本小児科学会の「2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」は一度目を通しておくと、処方医とのコミュニケーションがスムーズになります
- 「B型にはタミフル効かないんですか?」と聞かれたときの回答を、自分の言葉で30秒にまとめておく練習をしておくと、繁忙期に慌てません
- 国立感染症研究所の抗インフルエンザ薬耐性サーベイランスも、シーズン中は定期的にチェックしておくと安心です
主な参考文献
- Sugaya N, et al. Lower clinical effectiveness of oseltamivir against influenza B contrasted with influenza A infection in children. Clin Infect Dis. 2007;44(2):197–202.
- Ison MG, et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2). Lancet Infect Dis. 2020;20:1204–1214.
- Hayden FG, et al. Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents. N Engl J Med. 2018;379:913–923.
- Ishiguro N, et al. Clinical and virologic outcomes of baloxavir compared with oseltamivir in pediatric patients with influenza in Japan. Infect Dis Ther. 2025;14:833–846.
- 日本感染症学会. 提言「抗インフルエンザ薬の使用について」(2019年).
- 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針(2025年10月7日).
- Jefferson T, et al. Oseltamivir for influenza in adults and children: systematic review. BMJ. 2014;348:g2545.
- CDC. Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians.
- WHO. Clinical practice guidelines for influenza(2024年).


