目次
はじめに
2025年8月14日より、ヘパリン類似物質外用液の一般名処方マスタが大幅に改訂されました。これまで単一コードで登録されていた「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%」が、「乳剤性」と「水性」の2つの剤形に分離され、それぞれ別コードで管理されることになります。
この改訂により、調剤時の確認事項、疑義照会の判断、選定療養の適用など、日常業務に直接影響する重要な変更が生じています。患者により適切な製剤を提供し、安全で効果的な薬物療法を支援するために、薬剤師として正確な理解と適切な対応が求められます。
今まで通りに調剤していたら問題が起きちゃうってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです!別剤形として扱われるようになったため、従来のように「どれでも同じ」という調剤はできなくなりました
ヘパリン類似物質外用液マスタ改訂の重要ポイント
改訂内容の概要
令和7年8月14日付の一般名処方マスタ改訂により、ヘパリン類似物質外用液は以下のように変更されました。
項目 | 改訂前 | 改訂後(2025年8月14日以降) |
---|---|---|
登録名 | 【般】ヘパリン類似物質外用液0.3% | ・【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性) ・【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(水性) |
一般名コード | 単一コード | 剤形ごとに別コード |
処方箋への剤形記載 | 記載不要 | 剤形の明記が必要 |
「剤形」とは、製剤の形状・性状(例:乳剤性・⽔性・ゲル状など)を指し、「剤型」 (例:錠剤・カ
プセル・軟膏・液剤など)とは異なります。混同のないようご留意ください。とのこと。
改訂の背景
この改訂は日本皮膚科学会からの要望を受けて実施されました。ヘパリン類似物質外用液には乳剤性(ローションタイプ)と水性の2種類があり、それぞれ使用感や適用部位が異なります。医師が患者の症状や好み、季節に応じて適切な剤形を選択できるよう、明確に区分することが必要とされました。
新しい剤形分類「乳剤性」「水性」の違いと特徴
乳剤性ヘパリン類似物質外用液の特徴
乳剤性は一般的に「ローション」と呼ばれる剤形で、以下の特徴があります
- 使用感:しっとりとした保湿感が持続
- 適用部位:顔や首など、デリケートな部位に適している
- 季節:秋冬の乾燥が気になる時期に好まれる
主な製品一覧(乳剤性)
- ヒルドイドローション0.3%(準先発品・マルホ)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ラクール」(後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」(後発品)
水性ヘパリン類似物質外用液の特徴
水性は比較的さらっとした使用感の外用液で、以下の特徴があります
- 使用感:べたつきが少なく、さらっとした仕上がり
- 適用部位:体幹や四肢など、広範囲への塗布に適している
- 季節:春夏の汗をかきやすい時期に好まれる
主な製品一覧(水性)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「日医工」(後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「YD」(後発品・陽進堂)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニットー」(後発品・東亜薬品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニプロ」(後発品・ニプロ)

ポッポ先生
剤形の違いは単なる使用感だけでなく、患者さんのQOL向上に直結する重要な要素です。特に皮膚疾患の患者さんにとって、使用感の違いはアドヒアランスに大きく影響しますね。
調剤時の対応手順|疑義照会が必要なケースとは
※本セクションの内容は、日本薬剤師会発行「一般名処方マスタの更新について」(令和7年9月4日 日薬業発第203号)および東京都薬剤師会発行資料に基づいています。
類似事例との比較:ロキソプロフェンテープとの違い
過去にロキソプロフェンテープでも「温感」「非温感」の区分が設けられた際、旭川薬剤師会では剤形記載がない場合の対応が解説されていました。今回のヘパリン類似物質外用液の場合、日本薬剤師会の通知では剤形記載がない場合の疑義照会を明確に推奨していますが、これは法的義務ではなく、薬剤師会としての統一見解・推奨事項である点にご注意ください。
薬剤師会の通知だと必ず疑義照会しなければいけないんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
薬剤師会の通知は業務上の指針として非常に重要ですが、法的義務というわけではありません。ただし、現場の混乱を避け、適切な薬物療法を提供するためには、この指針に従うことが実務上は望ましいでしょうね。
疑義照会の法的位置づけと実務判断
薬事法上の疑義照会義務
薬剤師法第24条に基づく疑義照会は「処方箋中に疑わしい点があるとき」に義務付けられています。剤形記載の不備が直ちに「疑わしい点」に該当するかは解釈が分かれるところですが、患者の安全性と治療効果を考慮すると、確認することが適切な判断と考えられます。
薬剤師会通知の意義
今回の日本薬剤師会通知は、全国的な対応の統一化と現場での混乱防止を目的としており、実務上の重要な指針として位置づけられます。
基本的な調剤手順
- 処方内容の剤形確認
処方箋の記載内容を確認し、「乳剤性」または「水性」の記載があるかチェック - 該当製剤の調剤
記載された剤形に対応する製剤を選択して調剤 - 在庫管理
乳剤性・水性を別製品として管理(発注・保管・期限管理すべて別管理)
疑義照会が推奨されるケース
日本薬剤師会通知に基づく疑義照会の推奨基準
以下の場合は疑義照会の実施が推奨されています
ケース1:剤形記載なし(最重要)
- 処方箋に「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%」とのみ記載
- 乳剤性か水性かの明記がない場合
- 注意:法的義務ではないが、適切な薬物療法提供のため実施が強く推奨
ケース2:患者希望による剤形変更
- 処方は「乳剤性」だが、患者が「水性」を希望
- 使用感の違いを理由とした変更要望
ケース3:在庫切れによる代替
- 処方された剤形の在庫がない場合
- 他剤形での代替可否の確認
剤形別の製品選択指針
乳剤性処方時の選択肢
- ヒルドイドローション0.3%(準先発品)→選定療養対象の可能性
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ラクール」
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」
- ヘパリン類似物質ローション(一般名表記品)
水性処方時の選択肢
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「日医工」
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「YD」
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニットー」
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニプロ」
疑義照会って、どんな風に聞けばいいんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
「処方箋のヘパリン類似物質外用液ですが、乳剤性と水性のどちらをご希望でしょうか?」と具体的に確認するのが良いでしょう。ただし、これは薬剤師会の推奨であり、医師によっては「どちらでも良い」という回答もあり得ます。その場合は患者さんの使用部位や季節も併せてお伝えすると、医師も判断しやすくなりますよ。
疑義照会時の確認ポイントと実務対応
疑義照会の際は、以下の情報を医師に提供すると判断の参考になります
- 使用部位:顔・首(→乳剤性推奨)、体幹・四肢(→水性も選択肢)
- 季節・時期:乾燥時期(→乳剤性)、汗をかく時期(→水性)
- 患者の過去の使用歴:以前使用していた製剤の剤形
- 在庫状況:薬局の在庫状況(必要に応じて)
医師からの回答パターンと対応
- 「乳剤性で」「水性で」→そのまま調剤
- 「どちらでも良い」→患者の希望や使用部位を考慮して選択
- 「以前と同じもので」→調剤録から過去の剤形を確認
選定療養への影響|準先発品調剤時の注意点
選定療養の基本ルール
長期収載品の選定療養に関するルールは従来と変更ありませんが、剤形が分離されたことで適用の判断がより複雑になりました。
医療上の必要性がある場合(対象外)
以下の場合は選定療養の対象外となり、特別の料金は発生しません
- 処方箋の変更不可欄にチェックがある
- 乳剤性の後発品在庫がなく、水性への変更が医学的に不適当とされた場合
- 剤形の記載がなく、疑義照会の結果として準先発品が選択された場合
医療上の必要性がない場合(対象となる)
以下の場合は選定療養の対象となり、特別の料金が発生します:
- 「乳剤性」処方で準先発品(ヒルドイドローション)を患者希望により調剤
- 「水性」処方で医師確認後、患者希望により準先発品を調剤
具体的な選定療養適用例と薬価比較
例1:乳剤性処方でヒルドイドローション調剤
- 処方:【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)
- 調剤:ヒルドイドローション0.3%(薬価18.2円/g・患者希望)
- 後発品:ヘパリン類似物質ローション0.3%「ラクール」(薬価3.0円/g)
- 結果:乳剤性後発品在庫があれば特別料金発生、在庫なければ発生しない
例2:水性処方で後発品調剤
- 処方:【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(水性)
- 調剤選択肢:
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「日医工」(薬価3.7円/g)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「YD」(薬価3.7円/g)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニプロ」(薬価5.1円/g)
- 結果:いずれも後発品のため選定療養は発生しない
例3:剤形記載なしの場合
- 処方:【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(剤形記載なし)
- 対応:疑義照会→医師指示により乳剤性または水性を選択
- 結果:疑義照会結果に基づく調剤のため、原則として特別料金は発生しない

ポッポ先生
選定療養の判断は複雑ですが、基本的には「医師の指示に基づく調剤」なのか「患者希望による調剤」なのかが重要な判断基準になります。疑義照会をしっかり行うことで、トラブルを防げますよ。
患者への服薬指導|使用感の違いと使い分けの説明
服薬指導のポイント
患者への説明では、以下の内容を含めることが重要です
使用感の違いの説明
- 乳剤性:しっとり感が持続、保湿効果重視
- 水性:さらっとした仕上がり、べたつき軽減
使い分けの提案
- 使用部位による選択(顔→乳剤性、体→水性等)
- 季節による使い分け(冬→乳剤性、夏→水性等)
- 個人の好みに応じた調整
患者指導例
「今回処方されたヘパリン類似物質の外用液には、しっとりタイプ(乳剤性)とさらっとタイプ(水性)の2種類があります。今日お渡ししたのは○○タイプです。もし使用感が合わない場合は、次回受診時に医師にご相談いただくか、当薬局でもご相談をお受けできます。」
患者さんから「前回と違う感じがする」と言われたらどうしたらいいですか?

オカメインコ

ポッポ先生
まず前回調剤した製剤の剤形を確認しましょう。剤形が変わっていれば、その理由を説明し、必要に応じて医師への相談を提案します。患者さんの使用感の変化は重要な情報ですからね。
在庫管理と発注のポイント
在庫管理の注意点
- 乳剤性と水性を完全に別製品として管理
- 発注時は剤形を明確に指定
- 期限管理も剤形別に実施
剤形別在庫管理例
【乳剤性在庫】
・ヒルドイドローション0.3%(25g)×10本
・ヘパリン類似物質ローション0.3%「ラクール」(25g)×20本
・ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」(25g)×15本
【水性在庫】
・ヘパリン類似物質ローション0.3%「日医工」(25g)×15本
・ヘパリン類似物質ローション0.3%「YD」(25g)×10本
・ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニプロ」(25g)×10本

ポッポ先生
ただ供給状況を見る限り、乳剤性の供給は不安定です…
適正在庫の考え方
- 処方傾向の把握(皮膚科の処方が多い場合は乳剤性の需要高)
- 季節要因の考慮(冬期は乳剤性、夏期は水性の需要増)
- 患者の年齢層・疾患背景の分析
- 薬価差を考慮した効率的な在庫構成
まとめ:薬剤師として押さえておきたい実務のポイント
ヘパリン類似物質外用液の一般名処方マスタ改訂は、単なる事務手続きの変更ではなく、患者一人ひとりにより適切な治療を提供するための重要な改正です。
薬剤師として最重要ポイント
- 剤形記載の確認は必須:処方箋を受け取ったら、まず剤形の記載をチェック
- 疑義照会の適切な実施:剤形記載がない場合は、薬剤師会通知に基づき疑義照会を実施(法的義務ではないが実務上推奨)
- 患者指導の充実:使用感の違いを丁寧に説明し、継続的なサポートを提供
- 在庫管理の見直し:剤形別の需要予測と適正在庫の維持
- 選定療養への理解:複雑な適用条件を正確に把握し、適切な対応を実施
疑義照会に関する重要な注意点
今回の日本薬剤師会通知は、ロキソプロフェンテープの「温感」「非温感」問題と類似していますが、剤形記載がない場合の疑義照会をより明確に推奨している点が特徴です。ただし、これは薬剤師会の統一見解であり、法的義務ではないことを理解したうえで、患者の安全性と適切な薬物療法の観点から判断することが重要です。
この改訂を機に、ヘパリン類似物質外用液の特性をより深く理解し、患者さんの皮膚症状改善と生活の質向上に貢献していきましょう。日々の調剤業務において、小さな配慮の積み重ねが患者さんの治療満足度向上につながります。

ポッポ先生
今回の改訂は、薬剤師の専門性をより発揮できる機会でもあります。剤形の特性を理解し、患者さん一人ひとりに最適な提案ができる薬剤師を目指しましょう!
重要
本記事の疑義照会に関する対応基準は、日本薬剤師会発行「一般名処方マスタの更新について」(令和7年9月4日 日薬業発第203号)に基づいています。実際の運用については、必ず最新の通知内容をご確認ください。
参考資料
- 日本薬剤師会「一般名処方マスタの更新について」日薬業発第203号(令和7年9月4日)
- 東京都薬剤師会「ヘパリン類似物質外用液の一般名処方マスタ改訂に伴う取扱いについて」7都薬保発第11号(令和7年9月10日)
- 厚生労働省「一般名処方マスタ」(令和7年8月14日適用)
- 一般名処方マスタ(例外コード表)(令和7年8月14日適用)