薬剤師の対人業務評価の重要性が高まる中、医療機関や介護支援専門員との連携を評価する「服薬情報等提供料」の算定が注目されています。2024年度調剤報酬改定で一部要件が見直されたこの点数項目について、算定要件から実践的なポイントまで解説します。
目次
服薬情報等提供料とは?基本情報と2024年度改定のポイント
服薬情報等提供料は、保険薬局において調剤後も患者の服用薬や服薬状況に関する情報を把握し、医療機関や介護支援専門員に情報提供することで、医薬品の適正使用を推進することを目的とした薬学管理料です。いわゆる「トレーシングレポート」による情報共有を評価する点数項目といえます。

ポッポ先生
服薬情報等提供料は単なる点数項目ではなく、薬剤師の対人業務における専門性発揮を評価するための重要な項目です。患者さんの服薬状況を継続的にフォローアップし、医師との連携を深めることで、より良い薬物療法の実現につながります!
2024年度改定のポイント
2024年度の調剤報酬改定では、服薬情報等提供料について以下の変更点がありました
- 患者・家族等への情報提供のみでは算定不可に: これまで患者やその家族等への情報提供のみでも算定できていた服薬情報等提供料2について、2024年度改定では文書による情報提供が必要となりました。
- 介護支援専門員への情報提供が明確化: 服薬情報等提供料2の区分として「ハ:介護支援専門員に必要な情報を文書により提供した場合(20点)」が明確に位置づけられました。
- リフィル処方箋への対応: 服薬情報等提供料2の区分として「ロ:リフィル処方箋による調剤後、処方医に必要な情報を文書により提供した場合(20点)」が新設されました。
患者さんへの情報提供だけでは算定できなくなったのはなぜですか?

オカメインコ

ポッポ先生
服薬情報等提供料の本来の目的は「医療や介護に関わる他職種と保険薬局の連携」です。患者さんへの情報提供は薬剤師の通常業務の一環として位置づけられ、医療機関等との文書による情報連携をより重視する方向に見直されました。もちろん患者さんへの情報提供自体は引き続き重要な業務ですよ!
服薬情報等提供料の種類と点数
服薬情報等提供料は、情報提供の性質や対象によって、大きく3つの区分に分かれています。
服薬情報等提供料1:医療機関からの求めに応じた情報提供(30点)
医療機関から情報提供の求めがあった場合に、患者の同意を得た上で文書により情報提供を行った場合に算定します。月1回に限り算定可能です。
服薬情報等提供料2:薬剤師の判断による情報提供(20点)
薬剤師がその必要性を認めた場合に、患者の同意を得た上で文書により情報提供を行った場合に算定します。提供先によって以下の3つに区分されます
- イ:保険医療機関に必要な情報を文書により提供した場合 (20点)
- ロ:リフィル処方箋による調剤後、処方医に必要な情報を文書により提供した場合 (20点)
- ハ:介護支援専門員に必要な情報を文書により提供した場合 (20点)
それぞれ月1回に限り算定可能です。
服薬情報等提供料3:入院予定患者の服薬情報提供(50点)
入院予定の患者について、保険医療機関から求めがあった場合に、患者の同意を得た上で入院予定の保険医療機関に対して服薬情報等を文書により提供した場合に算定します。3月に1回に限り算定可能です。

ポッポ先生
服薬情報等提供料1〜3は、それぞれ別の情報提供であれば同一月内にそれぞれ1回ずつ算定可能です。ただし、同一の情報を同一保険医療機関に対して提供した場合は重複して算定できないので注意しましょう!
服薬情報等提供料の算定要件
基本的な算定要件
全ての服薬情報等提供料に共通する基本的な算定要件は以下の通りです
- 患者の同意: 情報提供前に必ず患者の同意を得ること
- 文書による情報提供: 医療機関や介護支援専門員等に文書で情報提供すること
- 記録: 情報提供の内容を薬剤服用歴に記録すること(提供した文書の写しを添付する等の方法でも可)
情報提供内容
服薬情報等提供料で評価される情報提供内容には、以下が含まれます
- 患者の服用薬及び服薬状況
- 患者に対する服薬指導の要点
- 服薬期間中の患者の状態の変化
- 患者の自覚症状がある場合は、その原因の可能性がある薬剤の推定
実際にどんな場面で算定するのが適切なんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
例えば、残薬の報告、副作用と思われる症状の発現、服薬アドヒアランスの問題、複数医療機関からの重複投薬の可能性、患者の状態変化など、医師の診療や処方設計に役立つ情報があるときに情報提供を検討します。トレーシングレポートは緊急性が低い内容を扱うことが一般的で、緊急性の高い疑義照会とは区別して考えましょう!
算定できないケース
以下の場合は、服薬情報等提供料を算定できません
- かかりつけ薬剤師指導料等を算定している場合: かかりつけ薬剤師指導料や包括管理料を算定している患者には算定できません(これらの料金に包括されています)
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定している場合: 同一月内は算定できません
- 特別調剤基本料Bを算定している薬局の場合: 算定できません
- 特別調剤基本料Aを算定している薬局が敷地内医療機関へ情報提供する場合: 算定できません
- 他の薬学管理料に係る情報提供の場合: 特定薬剤管理指導加算2、吸入薬指導加算、調剤後薬剤管理指導料、服用薬剤調整支援料2を算定する際の情報提供については、服薬情報等提供料は算定できません
トレーシングレポート(服薬情報提供書)の作成ポイント
作成の基本的な考え方
トレーシングレポートは、緊急性は低いものの医師に伝える必要がある内容を記載する文書です。疑義照会とは異なり、その場での回答を求めるものではなく、医師が次回の診療や処方設計の際に参考にできる情報を提供します。
効果的なトレーシングレポートの書き方
- 目的を明確にする: 何のために情報提供するのかを明確にしましょう
- 簡潔にまとめる: 医師が短時間で内容を把握できるよう、要点を簡潔に記載します
- 事実と提案を分ける: 客観的な事実と薬剤師としての提案は明確に区別しましょう
- 根拠を示す: 特に処方提案をする場合は、薬学的根拠を添えることが重要です
- 指示ではなく提案: 「〜すべき」などの指示的な表現は避け、提案型の表現を心がけましょう

ポッポ先生
医師へのトレーシングレポートは、「目的」「客観的事実・患者の状況」「薬剤師としての提案」という構成で作成すると伝わりやすくなります。残薬の報告の場合でも、単に「残薬がありました」だけでなく、残薬が生じた理由や今後の対策まで含めると医師の処方設計に役立ちますよ!
記載内容の例
残薬に関する情報提供
残薬に関する報告をする場合、以下の内容を含めると効果的です
- 残薬の薬剤名と残量
- 残薬が生じた理由(アドヒアランス不良の原因など)
- 患者の服薬状況
- 服薬指導の内容
- 今後の残薬解消のための提案
副作用が疑われる場合の情報提供
副作用が疑われる場合は、以下の内容を含めることが重要です
- 症状の詳細と発現時期
- 被疑薬とその服用状況
- 症状と薬剤の因果関係を疑う理由
- 患者への指導内容
- 改善のための提案
リフィル処方箋に関する情報提供
リフィル処方箋による調剤後の情報提供では、以下の内容を含めましょう
- リフィル処方箋の調剤回数・調剤日
- 患者の服薬状況や体調の変化
- 残薬の状況
- 次回の診察に向けた提案
服薬情報等提供料の算定実践
算定手順
服薬情報等提供料を算定するための基本的な手順は以下の通りです
- 対象患者の特定: 情報提供が必要な患者を特定します
- 患者の同意取得: 情報提供について患者の同意を得ます
- トレーシングレポートの作成: 必要な情報を盛り込んだトレーシングレポートを作成します
- 情報提供の実施: 医療機関や介護支援専門員に文書を提供します
- 薬歴への記録: 情報提供内容を薬歴に記録します(文書の写しを添付するなど)
- 情報提供後のフォローアップ: 次回来局時に情報提供後の状況を確認します
- 算定: 情報提供を行った際に算定します(服薬情報等提供料2の場合は次回来局時)
算定タイミング
服薬情報等提供料の算定タイミングは以下の通りです
- 服薬情報等提供料1: 医療機関からの求めに応じて情報提供した際に算定
- 服薬情報等提供料2: 情報提供後、患者の状態確認や指導を次回来局時に行った場合に算定
- 服薬情報等提供料3: 入院予定患者の情報提供を行った際に算定
算定例
【例1】処方医からの薬剤フォローアップ依頼(服薬情報等提供料1)
高齢の男性患者。腎機能低下時に注意が必要なバラシクロビルが処方され、処方箋備考欄に「服薬期間中のフォローアップと報告依頼」の記載あり。服薬期間中に患者に電話連絡し状態を確認。腎機能関連の副作用症状がないことを確認し、服薬状況と併せて文書で医師に報告。→服薬情報等提供料1(30点)を算定。
【例2】安全性情報に基づく患者フォローアップ(服薬情報等提供料2のイ)
70代女性患者。服用中の薬剤についてDSU(医薬品安全対策情報)で新たな副作用の注意喚起が発出。薬剤師の判断で患者に電話連絡し、副作用の初期症状がないか確認。問題がない旨を患者の同意を得て処方医に文書で情報提供。次回来局時に状態を再確認し、服薬指導を実施。→服薬情報等提供料2のイ(20点)を算定。
【例3】リフィル処方箋の2回目調剤後の情報提供(服薬情報等提供料2のロ)
50代男性患者。糖尿病治療薬のリフィル処方箋(3回)の2回目調剤時、HbA1c値の自己測定値を確認。患者の同意を得て、処方医へ服薬状況と数値の推移を文書で情報提供。次回来局時に情報提供後の状況を確認し、服薬指導を実施。→服薬情報等提供料2のロ(20点)を算定。
【例4】ケアマネージャーとの連携(服薬情報等提供料2のハ)
80代女性の在宅患者(居宅療養管理指導未算定)。薬の飲み忘れが増加。患者の同意を得て、介護支援専門員に服薬状況と管理に関する問題点を文書で情報提供。次回訪問時に情報提供後の状況を確認し、服薬指導を実施。→服薬情報等提供料2のハ(20点)を算定。
【例5】入院予定患者の服薬情報提供(服薬情報等提供料3)
65歳男性患者。来月の心臓手術のため入院予定。入院予定の病院から現在服用中の薬剤情報の問い合わせあり。患者の同意を得て、現在服用中の全薬剤情報をまとめ、文書で入院予定の病院に提供。→服薬情報等提供料3(50点)を算定。
患者さんの同意を得る時、何か決まった方法はありますか?

オカメインコ

ポッポ先生
特に決まった方法はありませんが、多くの薬局では「医療機関との情報共有に関する同意書」を薬局の利用開始時に取得したり、薬局内に情報共有についての掲示を行っています。ただし、個別の情報提供の際には口頭で「〇〇の内容を医師に伝えてもよいですか?」と確認することが望ましいでしょう。患者さんがメリットを感じるような説明を心がけることも大切です!
トレーシングレポートの活用と展開
地域支援体制加算との関連
服薬情報等提供料は地域支援体制加算の実績要件の一つとなっています。算定要件には以下が含まれます
- 服薬情報等提供料の算定回数
- 服薬情報等提供料に相当する業務の実施回数(かかりつけ薬剤師指導料算定患者への情報提供など)
- 特定薬剤管理指導加算2、吸入薬指導加算、調剤後薬剤管理指導料、服用薬剤調整支援料2の算定に係る医療機関への情報提供
地域支援体制加算を算定するためには、一定数の情報提供実績が必要です。
医療機関との良好な関係構築
トレーシングレポートを継続的に活用することで、医療機関との信頼関係を構築できます。情報提供を効果的に行うポイントは以下の通りです
- 事前に医療機関へのアプローチを行う: いきなり情報提供を行うのではなく、事前に医療機関に趣旨を説明することが重要です
- 医師のニーズを把握する: どのような情報提供が役立つかを医師に確認しておくと効果的です
- コンパクトで読みやすい文書を心がける: 医師の業務負担を考慮し、簡潔で要点を押さえた文書を作成します
- 提案は謙虚に: 処方変更などの提案をする場合は、根拠を示しつつも謙虚な表現を心がけます
業務効率化のためのヒント
服薬情報等提供料の算定を効率的に進めるためのヒントをご紹介します
- フォーマットの準備: よく使うパターンのトレーシングレポートをテンプレート化しておきましょう
- 対象患者の抽出: 服薬指導時に情報提供の必要性を判断できるよう、ポイントを押さえておきます
- 効率的なフォローアップ体制: 次回来局時の確認がスムーズに行えるよう、記録方法を工夫します
- ファイリングシステムの構築: 提供文書のコピーや医療機関からの返答を管理するシステムを整えます
- 電子化の活用: 電子薬歴システムなどを活用し、情報提供の記録や文書作成を効率化します

ポッポ先生
情報提供業務を定着させるためには、薬局内でのルール化が大切です。例えば「こういった状況の患者さんにはトレーシングレポートを検討する」という基準を設けたり、作成したレポートを薬剤師間で定期的に回覧して品質を高めたりすることが効果的です。最初は月に数件から始めて、徐々に拡大していくとよいでしょう!
服薬情報等提供料に関するQ&A
Q1: 同一月内に服薬情報等提供料1、2、3を併算定できますか?
A1: 可能です。服薬情報等提供料1、2、3はそれぞれ別の目的や条件で算定するものなので、同一月内にそれぞれ1回ずつ算定することができます。ただし、同一内容を同一保険医療機関に提供した場合は重複して算定できません。
Q2: 服薬情報等提供料2のイ、ロ、ハは同一月に併算定できますか?
A2: 可能です。服薬情報等提供料2のイ(医療機関への情報提供)、ロ(リフィル処方箋に関する情報提供)、ハ(介護支援専門員への情報提供)は、それぞれ別の対象への情報提供なので、同一月内に併算定することができます。
Q3: 処方箋がない日でも服薬情報等提供料は算定できますか?
A3: 算定できます。処方箋受付のない日でも、算定要件を満たせば次回の来局時に算定することが可能です。
Q4: 服薬情報等提供料の算定にはどのような書式を使えばよいですか?
A4: 厚生労働省が提示する「服薬情報等提供料に係る情報提供書」またはこれに準じた書式を使用することが望ましいとされています。地方厚生局によっては独自書式では算定が認められない場合もあるため、事前に確認することをお勧めします。
Q5: 過去に提供した内容と同じことを再度提供する場合、算定できますか?
A5: 同一の情報を同一保険医療機関に対して提供した場合は算定できません。ただし、前回の情報提供から状況が変化した場合や、追加的な情報がある場合は新たに算定可能です。
まとめ:服薬情報等提供料の活用で医薬連携を強化しよう
服薬情報等提供料は、薬剤師が調剤後も患者の服薬状況を継続的に把握し、医療機関等と情報共有することで、よりよい薬物療法の実現を目指す重要な点数項目です。2024年度の改定では文書による情報提供がより重視され、介護支援専門員への情報提供やリフィル処方箋に関する情報提供が明確に位置づけられました。
一見すると手間のかかる業務に思えるかもしれませんが、継続的なフォローアップと情報提供を通じて、以下のようなメリットが得られます
- 患者の治療効果の向上
- 医療機関との信頼関係構築
- 薬剤師としての専門性発揮
- 地域支援体制加算など他の加算取得
- 薬局の地域における存在価値の向上
薬剤師として患者さんの治療に積極的に貢献するためにも、服薬情報等提供料の仕組みを理解し、日常業務に取り入れていきましょう。

ポッポ先生
最後に一言!トレーシングレポートは点数算定のためではなく、患者さんのよりよい治療のために行うものです。薬剤師としての視点で気づいた情報を適切に医療機関等に伝えることで、チーム医療の一員として貢献していきましょう!