「自分の管理ができない人に、他人の管理はできないと思う」
あるエリアマネージャーのSNS投稿を見かけて、私は思わず頷きました。薬局で10年以上働いてきて、私自身もそう感じる場面が何度もあったからです。
管理薬剤師への打診を受けたとき、「私に部下の指導ができるだろうか」「リーダーシップって生まれつきの素質じゃないの?」と不安になる方は少なくありません。どうですか?心当たりありませんか。
でも、考えてみると、いきなり「他人を率いる」ことに目を向けるから難しく感じるのかもしれません。この記事では、リーダーシップの起点は「まず自分を率いること」にあるという考え方を紹介します。北野唯我氏の著書や、リーダーシップ研究の知見をもとに、私なりに整理してみました。
目次
なぜ「自分を管理できない人に、他人の管理はできない」のか

リーダーシップの研究者である野田智義氏と金井壽宏氏は、著書『リーダーシップの旅』(光文社新書、2007年)の中で、リーダーシップには段階があると説明しています。
- リード・ザ・セルフ:まず自分を率い、目標を達成する
- リード・ザ・ピープル:次に仲間を率い、目標を達成する
- リード・ザ・ソサエティ:社会を率い、目標を達成する
ここ、迷いやすいところです。「リーダー」という言葉を聞くと、チームを引っ張る、部下を指導する、といった「他者への働きかけ」をイメージしがちです。でも、この段階論では「自分を率いる」ことがすべての起点だと位置づけられています。
北野唯我氏も著書『仕事の教科書』(日本図書センター、2022年)で同様の考え方を「リードWho?の法則」として紹介しています。変革の順番は「①自分 → ②仲間 → ③社会」であり、ビジネスでリーダーを目指すかどうかに関わらず、すべての人は「自分自身の人生をリードする存在」だという主張です。
でも、順番にこだわる必要あります?いきなり管理職になる人もいますよね?

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。実務では『段階を飛ばして』管理職になるケースもあります。ただ、研究でも『順番は唯一の正解ではないが、自己統制は全期間にわたり続く基盤』という整理がされています。起点として押さえておく価値はあります。
リード・ザ・セルフの具体的な意味

では「自分を率いる」とは、具体的に何をすることでしょうか。
北野氏は「リーダーの最初の条件」として「自分がご機嫌でいること」を挙げています。誤解されやすいので先に言うと、これは「いつもニコニコしていなさい」という精神論ではありません。
「自分で自分のご機嫌を取れること」、つまり感情の自己調整ができる状態を指しています。
愚痴や不満を最小限に抑え、周囲にエネルギーを与えられる状態です。なぜこれが重要かというと、「自分の感情さえリードできていない人(不機嫌な人)に、他人はついていきたいとは思わない」からです。
いまの状況だと、調剤業務に追われながら後輩の指導もして、在宅の依頼も増えて……という薬剤師の方は多いはずです。そんな中で「いつもご機嫌でいろ」と言われても難しい、という反論は当然あります。
正直、忙しいときにご機嫌でいるなんて無理じゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
そうですね。ポイントは『常にご機嫌でいる』ではなく『不機嫌を長引かせない』という技術です。北野氏はアンガーマネジメントやダウンマネジメントについても触れていて、大事なのは『長引かせないこと』だと書いています。
感情の自己コントロールがリーダーの土台になる理由

私ならまず確認するのは、「なぜ感情のコントロールがリーダーにとって重要なのか」という根拠です。
Wharton School(ペンシルベニア大学)の故Sigal Barsade教授らの研究によると、「感情伝染(emotional contagion)」という現象が職場で起こることが確認されています。リーダーの感情がチームメンバーに伝わり、メンバーのムードや意思決定、パフォーマンスに影響を与えるというものです。
現場だとここで詰まりがちです。「リーダーが不機嫌だと、チーム全体の雰囲気が悪くなる」というのは経験的にも納得しやすい。でも、逆に言うと、リーダーが安定した感情状態を保てれば、チームにもポジティブな影響を与えられる可能性があるということです。
ただし、注意点もあります。「いつも明るく振る舞う」ことを義務化すると、感情労働(emotional labor)のコストが増え、バーンアウトにつながるリスクがあるという研究もあります。だから「表面的に機嫌よく見せる」のではなく、「感情の自己調整スキルを身につける」という方向が健全です。
感情コントロールに関する考え方の整理
| 考え方 | ポイント |
| × 避けたい | 「いつもニコニコ」を演じ続ける → 感情労働の負荷が高い |
| ○ 目指したい | 感情の自己調整スキルを身につける → 不機嫌を「長引かせない」技術 |
管理薬剤師を目指す前にやるべき「自己点検」

管理薬剤師には、医薬品の管理や従業員の監督といった業務に加えて、リーダーシップやマネジメントスキルが求められます。薬局の責任者として「矢面に立つ覚悟」が必要だとも言われています。
でも、いきなり「リーダーシップを発揮しよう」と考えるのは順番が逆かもしれません。まず「自分を率いる」ことができているか、自己点検してみてはどうでしょうか。
私ならまず以下の点から確認します
- 自分の感情の状態を把握できているか(怒りやストレスのサインに気づけるか)
- 不機嫌になったとき、それを「長引かせない」工夫があるか
- 自分の行動や言葉が周囲にどんな影響を与えているか意識できているか
- 「辛くなったら休む」という選択肢を自分に許可できているか
それってつまり、完璧な人間になれってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
違います。完璧を目指すのではなく、『自分の状態を把握して、調整しようとしている』ことが大事です。リーダーも人間ですから、イライラすることはあります。それを自覚して対処しようとする姿勢が、チームへの良い影響につながります。
ただし、すべての状況でこの考え方が当てはまるわけではありません。チームで仕事をする中では、メンバー同士が互いに影響し合いながらリーダーシップが共有される場面もあります(shared leadership)。「まず自分を」という順番だけにこだわりすぎないほうが安全です。
まとめ:人の上に立つ前に、まず自分と向き合う

「自分の管理ができない人に、他人の管理はできない」——この言葉は、根性論ではなく、リーダーシップ研究や実務の知見に裏付けられた考え方です。
管理薬剤師を目指すとき、いきなり「どうやって部下を指導するか」「どうやってチームをまとめるか」に目が行きがちです。でも、その前に「自分を率いる」ことができているかを点検する価値はあります。
私自身、まだ完璧にできているわけではありません。忙しいときにイライラすることもあります。でも、「長引かせない」ことを意識するようになってから、周囲との関係が少し楽になった気がします。
次の一歩として、まずは「自分の感情の状態に気づく」ことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料(確認先)
- 北野唯我『仕事の教科書 きびしい世界を生き抜く自分のつくりかた』日本図書センター、2022年
- 野田智義・金井壽宏『リーダーシップの旅 見えないものを見る』光文社新書、2007年
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334033897 - Wharton Executive Education「Leadership Influence: Controlling Emotional Contagion」
https://knowledge.wharton.upenn.edu/article/leadership-influence-controlling-emotional-contagion/ - Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence. Bantam Books.
- Clarkson et al. (2020). Leadership and the contagion of affective phenomena. European Journal of Social Psychology.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ejsp.2615








