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【薬剤師のためのEBM講座】第11回_共有意思決定と服薬指導

「この薬は効きますよ」。服薬指導で、それ以上の説明ができていますか。効果をどのくらいの確率で期待できるのか、副作用のリスクはどの程度なのか。聞かれても数字で答えられない——そんな場面、ありませんか。

EBMの最終ステップは、エビデンスと患者の価値観を統合して判断することです。これは医師だけの仕事ではありません。薬剤師が行う服薬指導は、まさにこのステップの実践の場です。

ただし、ここで忘れてはいけないことがあります。私たちが根拠にしているエビデンスの多くは、RCT(ランダム化比較試験)から得られたもの。そしてRCTに参加している患者さんと、薬局の窓口に来る患者さんは、必ずしも同じではありません

そしてもう1つ、最初にお伝えしておきたいことがあります。エビデンスに「100%正しい」はありません。この前提を持てるかどうかで、患者さんとの対話がまるで変わってきます。


共有意思決定(SDM)とは何か ― 「お任せ」と「丸投げ」の間

共有意思決定(Shared Decision Making、SDM)とは、医療者と患者が情報を共有し、一緒に治療方針を決めるプロセスです。「先生にお任せします」でもなく、「自分で全部決めてください」でもない。その間にある、対話を通じた意思決定の形です。

でも、薬剤師がSDMに関わる場面ってありますか? 治療方針は医師が決めることでは…

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

処方が決まったあとでも、服薬を続けるかどうか、どの剤形を選ぶか、生活スタイルに合わせた飲み方をどうするかなど、薬剤師がSDMに関わる場面はたくさんありますね

どうですか? 服薬指導の場面を思い返してみてください。「この薬を飲みたくない」「副作用が心配」「費用が気になる」。こうした患者の声に対して、一方的に説得するのではなく、情報を共有して一緒に考える。それがSDMの本質です。

ただし、すべての場面でSDMが必要なわけではありません。緊急性が高い場合や、選択肢が実質的に1つしかない場合は、SDMの余地は限られます。SDMが特に重要になるのは、複数の選択肢があり、それぞれに利益と害のトレードオフがある場面です。

そしてSDMの大前提として心に留めておきたいことがあります。それは「100%正しい答えはない」ということです。エビデンスは確率の話であり、目の前の患者さんにとって何が最善かは、数字だけでは決まりません。「正解を教える」のではなく「一緒に考える」。この姿勢を持つだけで、患者さんとの会話の質がまるで変わります。


RCTの患者と薬局の患者は同じではない ― エビデンスの「ズレ」を意識する

これ、あまり語られないけれど大事なことです。RCTに参加する患者さんは、実は「選ばれた人たち」です。重い併存疾患がある人、高齢で多剤を服用している人、認知機能が低下している人——こうした患者さんは、多くの場合RCTの除外基準に引っかかって参加できません。

でも、薬局の窓口に来る患者さんは、まさにそういった方々が多いですよね。

え、それってエビデンスがそのまま使えないってことですか? それは困ります…

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

使えないわけではありません。ただ、「同じ効果が期待できるとは限らない」と意識しておく必要があります。RCTの結果はあくまで出発点であって、目の前の患者さんへの適用には判断が必要ですね

たとえば、ある糖尿病薬のRCTで平均年齢55歳、併存疾患なしの患者を対象にHbA1cが0.8%改善したとします。あなたの薬局に来た75歳の腎機能低下のある患者さんに、同じ0.8%の改善を期待できるでしょうか。薬物動態も異なれば、副作用のリスクも異なります。

だからこそ、服薬指導でエビデンスを伝えるとき、「研究では○○という結果が出ていますが、○○さんの状況では少し違う部分もあるかもしれません」という一言を添えることに意味があります。これは患者さんを不安にさせる言葉ではなく、誠実さの表現です。


NNTを「翻訳」する ― 数字を患者に伝えるリスクコミュニケーション

エビデンスを患者に伝えるとき、最大の壁は「数字の翻訳」です。NNT(Number Needed to Treat)やNNH(Number Needed to Harm)は、臨床的に意味のある指標ですが、そのまま患者に伝えても伝わりません。

私ならまず、NNTを「100人あたり何人が恩恵を受けるか」に変換します。

NNTの伝え方の例

  • NNT = 20の場合:「この薬を飲んだ20人に1人が、飲まなかった場合に比べて恩恵を受けます」
  • もう少しわかりやすく:「100人がこの薬を飲むと、飲まなかった場合に比べて5人がよくなります。残りの95人は、飲んでも飲まなくても結果は変わりません」

正直、難しくないですか? 患者さんに「100人中5人しか効かない」って言ったら、飲みたくなくなりませんか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

伝え方の問題ですね。「効かない」のではなく、「5人が追加で恩恵を受ける」と伝えること。そしてこの数字を害のリスクと比較して、患者さん自身に判断してもらうことがSDMです

ここで大切なのは、利益だけでなく害も同時に伝えることです。

利益と害を並べて伝える

「この薬を100人が1年間飲むと、心臓発作を起こす人が5人減ります(NNT=20)。一方で、胃腸障害が出る人が10人増えます(NNH=10)。この利益と害のバランスを、○○さんはどう感じますか?」

こうした伝え方をすると、患者が自分の価値観に基づいて判断できるようになります。心臓発作の予防を重視する人は薬を選ぶかもしれませんし、胃腸障害を避けたい人は別の選択肢を希望するかもしれません。

数字の「見せ方」にも気をつける

実は、同じデータでも見せ方によって患者さんの受け取り方が大きく変わります。これをフレーミング効果と呼びます。

  • 「100人中5人が恩恵を受けます」(ポジティブフレーム)
  • 「100人中95人には効果がありません」(ネガティブフレーム)

どちらも同じ事実ですが、印象は全く異なります。意図的にどちらかに誘導するのではなく、両面を伝えることが大切です。


患者の価値観を引き出す ― 聞き方の工夫

SDMのもう一つの柱は、患者の価値観を引き出すことです。エビデンスの情報を伝えるだけでは、SDMにはなりません。患者が何を大事にしているかを聞き出して初めて、情報の統合ができます。

「でも忙しいのに、そんなことまで聞いている時間ないですよ」——そう思いますよね。わかります。だからこそ、聞くのは1問だけでいいんです

価値観を引き出す3つの問いかけ

  1. 「いま一番気になっていることは何ですか?」 ― 患者の関心の所在を把握する
  2. 「この治療について、心配なことはありますか?」 ― 不安や懸念を言語化してもらう
  3. 「日常生活で、特に大事にしていることはありますか?」 ― 生活の中での優先順位を知る

いまの状況だと、服薬指導の時間は限られています。3つ全部を毎回聞く必要はありません。私ならまず1番目の質問から始めます。患者が何を気にしているかがわかれば、そこに焦点を絞って情報提供ができます。

でも、聞いても「先生にお任せします」って言われたらどうするんですか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

その場合も、「お任せ」の裏にある気持ちを探ってみてください。「お任せ」は、信頼の表現のこともあれば、情報が多すぎて判断できないというサインのこともあります。「どちらでも構わないということですか、それとも判断が難しいですか?」と聞くだけで、会話が変わりますね

誤解されやすいので先に言うと、SDMは「患者に決めさせる」ことではありません。患者が「お任せ」を選ぶこと自体も、一つの意思決定です。大事なのは、十分な情報が提供されたうえでの「お任せ」かどうかです。


「100%正しい」はない ― 不確実性を共有するコミュニケーション

服薬指導で一番避けたいのは、「この薬は絶対に効きます」「副作用は心配ありません」という断言です。なぜなら、エビデンスに「100%」はないからです。

でも、不確実って言ったら患者さんが不安になりませんか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

「わからないことがある」と正直に伝えたうえで、「わかっていることはこれです」と情報を提供する。このほうが、根拠のない断言よりもむしろ信頼されますね

患者が不安になるのは「わからない」と言われたからではなく、「何もわかっていないのに何も教えてくれない」と感じたときです。情報を共有する姿勢自体が、患者の安心につながります。

不確実性を上手に伝える3つのコツ

  1. 「わかっていること」を先に伝える
    「この薬については、○○という大規模な研究で効果が確認されています」と、まず根拠があることを示す
  2. 「わからないこと」を正直に伝える
    「ただし、○○さんと同じ年齢層のデータは少ないので、効果が同じかはまだわかっていません」と、限界を伝える
  3. 「一緒に見ていきましょう」で締める
    「まず飲んでみて、○週間後の結果を見ながら考えていきましょう」と、寄り添う姿勢を示す

服薬指導でSDMを実践する ― 明日から使える3つのステップ

ここまでの内容を、日常の服薬指導にどう組み込むか。完璧を目指す必要はありません。以下の3ステップを意識するだけで十分です。

ステップ1:情報を「わかりやすい言葉」に翻訳する

  • 専門用語を日常語に置き換える
  • 数字は「100人あたり何人」の形に変換する
  • 利益と害をセットで伝える
  • フレーミング効果に注意し、両面を伝える

ステップ2:患者の気持ちを1つ聞き出す

  • 「いま一番気になっていることは何ですか?」
  • この1問だけでも、対話の質は変わる

ステップ3:選択肢があることを伝え、不確実性を共有する

  • 「こういう選択肢もあります」と提示する
  • 最終的な判断は患者と医師が行うが、選択肢の情報提供は薬剤師の役割
  • 「研究の対象とは状況が違う場合がある」ことも必要に応じて伝える
  • 「100%ではないけれど、わかっていることはこれです」という誠実な姿勢を忘れない

まとめ ― 数字の翻訳と対話で服薬指導を変える

共有意思決定(SDM)は、エビデンスの情報と患者の価値観を統合するプロセスです。薬剤師の服薬指導は、このプロセスの最前線にあります。

  • NNTやNNHを「100人あたり何人」に翻訳し、利益と害をセットで伝える
  • フレーミング効果に注意し、必要に応じて図を使って直感的に伝える
  • 患者の価値観を引き出す問いかけを1つ加える
  • RCTの患者と薬局の患者の違いを意識する
  • 「100%正しい」はなく、不確実性を共有する姿勢が信頼を築く

次の一歩として、明日の服薬指導で1人の患者さんに「いま一番気になっていることは何ですか?」と聞いてみてください。その答えが、エビデンスと患者をつなぐ出発点になります。

確認先(一次情報):日本薬剤師会の研修資料、Minds「患者・市民参画」のページ

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