「ガイドラインに書いてあるから」——処方監査や疑義照会のとき、その一言で判断を終わらせていませんか。私自身、以前はガイドラインの推奨をそのまま受け取って、それで十分だと思っていました。
でも、ある日医師に「その推奨の根拠は何?」と聞かれたとき、答えに詰まったんです。ガイドラインの推奨には「強さ」があり、その背景には「エビデンスの質」がある。この2つを理解しているかどうかで、疑義照会や処方提案の説得力がまるで変わります。
この記事では、GRADEシステムを中心に、ガイドラインの推奨をどう読み解くかを整理します。読み終えたあと、「なぜその推奨なのか」を自分の言葉で語れるようになるはずです。
目次
ガイドラインの推奨は「すべて同じ重み」ではない
「ガイドラインで推奨されている」と聞くと、どれも同じくらい確かなものに感じてしまいます。心当たりありませんか。でも実際には、推奨によって確信度にかなりの幅があります。
ガイドラインの推奨には、大きく分けて2つの軸があります。
- 推奨の強さ:「強く推奨する」か「弱く推奨する(条件付き推奨)」か
- エビデンスの質:その推奨を支える研究の信頼度(高・中・低・非常に低)
この2つは独立した概念です。エビデンスの質が高くても、利益と害のバランスが微妙なら「弱い推奨」になることがあります。逆に、エビデンスの質が低くても、明らかに利益が害を上回る場合は「強い推奨」になることもあります。
でも、弱い推奨って、あまり信じなくていいってことですか?

オカメインコさん

ポッポ先生
そうではありません。弱い推奨は「患者の状況や価値観によって判断が変わりうる」という意味です。むしろ薬剤師の腕の見せどころになりますね
GRADEシステムの基本 ― エビデンスの質と推奨の強さを分けて考える
GRADEとは、Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluationの略で、ガイドラインの推奨を作るための国際的な枠組みです。いまの状況だと、世界100以上の組織がGRADEを採用しています。
GRADEの最大の特徴は、「エビデンスの質」と「推奨の強さ」を明確に区別していることです。
エビデンスの質(確実性)の4段階
| 質の評価 | 意味 | 実際の解釈 |
|---|---|---|
| 高(A) | 真の効果が推定値に近い確信がある | さらなる研究で結論が変わる可能性は低い |
| 中(B) | 推定値にある程度の確信がある | さらなる研究で推定値が変わりうる |
| 低(C) | 推定値への確信は限定的 | さらなる研究で大きく変わる可能性がある |
| 非常に低(D) | 推定値にほとんど確信がない | どんな推定値も不確実 |
ここ、迷いやすいところです。「エビデンスの質が低い=効果がない」ではありません。「まだよくわかっていない」ということです。この区別は処方提案のときに大事になります。
推奨の強さの2段階
- 強い推奨:ほとんどの患者に対してその介入が推奨される。利益が害を明らかに上回る(またはその逆)
- 弱い推奨(条件付き推奨):患者の価値観や状況によって最善の選択が異なる。利益と害が拮抗している、あるいは不確実性が大きい
それってつまり、弱い推奨のときは患者さんと相談しなさいってことですか?

オカメインコさん

ポッポ先生
まさにそのとおりです。弱い推奨は、共有意思決定(SDM)が特に重要になる場面ですね。ここは押さえたいです
ガイドラインの落とし穴 ― 「名ばかりガイドライン」と専門家バイアスに気をつける
ここで1つ、知っておいてほしいことがあります。世の中には「ガイドライン」と名がついていても、実質的にはシステマティックレビューに基づいていない、いわば「名ばかりガイドライン」が存在します。
えっ、そんなものがあるの? それって見分ける方法あるんですか?

オカメインコさん

ポッポ先生
はい。まず作成方法の記載を確認してください。システマティックレビューに基づいているか、GRADEなどのエビデンス評価法を使っているか。これが明記されていなければ、少し慎重に扱ったほうがいいですね
もう1つ気をつけたいのが、専門医の意見にもバイアスがあるという点です。ガイドラインの作成委員は各分野のエキスパートですが、専門家であるがゆえに自分の得意な治療法や経験に引っ張られることがあります。利益相反(COI)の開示がされているかも、チェックしておきたいポイントです。
ガイドラインの妥当性を見極める ― チェックすべき4つのポイント
「毎回そんなことまで確認するのは無理ですよ」——そう感じる方もいるかもしれませんね。わかります。でも、全部を毎回やる必要はありません。まずは、自分がよく使うガイドラインについて、1つだけでもチェックしてみるところから始めればいいんです。
1. すべての選択肢とアウトカムが明確に特定されているか
推奨が「薬Aを使う」だけで、「使わない場合」や「薬Bを使う場合」との比較がなければ、判断材料として不十分です。
2. エビデンスが適切に同定・選択・統合されているか
推奨の根拠となった研究がどのように集められ、どう統合されたか。システマティックレビューに基づいているのか、専門家の合意なのかで信頼度は変わります。
3. 利益・害・コストの判断方法は妥当か
利益だけでなく、害やコストも考慮されているか。現場だとここで詰まりがちですが、利益しか書かれていない推奨は、片手落ちの可能性があります。
4. 推奨の結論は内的・外的に妥当か
内的妥当性とは「論理に矛盾がないか」、外的妥当性とは「自分の患者集団にも当てはまるか」です。海外のガイドラインを日本の患者に適用するときは、特に外的妥当性の確認が必要です。
正直、難しくないですか? 毎回そこまでチェックする余裕ないんですが…

オカメインコさん

ポッポ先生
全部を毎回やる必要はありません。まずは自分が頻繁に参照するガイドラインについて、この4つのうち1つだけでも確認してみるところから始めてみてください
SPINに注意 ― 結論が結果を正しく反映しているか
ガイドラインの推奨は、その根拠となった研究論文の結論に基づいています。ところが、論文の「結果」と「結論」が一致していないケースがあることをご存じですか。これをSPINと呼びます。
SPINとは、研究の結果が主要アウトカムで有意差が出なかったにもかかわらず、著者がサブグループ解析や副次アウトカムの結果を強調して、あたかも有効であるかのように結論を書いてしまう現象です。
たとえば、こんなケースです。ある降圧薬のRCTで、主要アウトカムである心血管イベントに有意差がなかったのに、「サブグループでは有意な傾向が見られた」「QOLスコアの改善が認められた」と副次的な結果を前面に出して、「本剤は有用である」と結論づけている。
こういう論文がガイドラインの根拠になっていることがあるのです。
そんなの、論文を読み慣れていない人にはわからないですよ…

オカメインコさん

ポッポ先生
完璧に見抜く必要はありません。ただ、ガイドラインで引用されている根拠論文のアブストラクトをさっと見て、「主要アウトカムで有意差は出ていたかな?」と一瞬立ち止まるだけでも違いますね
「キラーBs」で現場への適用を判断する ― RCTの患者はあなたの患者とは限らない
ガイドラインの推奨が妥当だとわかっても、そのまま目の前の患者に当てはめていいとは限りません。ここで役立つのが「キラーBs」と呼ばれる4つの判断基準です。
| キラーBs | 問いかけ | 具体例 |
|---|---|---|
| Burden(負荷) | この患者の疾患負荷は、研究対象と同程度か? | 軽症の患者に重症患者対象の推奨を当てはめてよいか |
| Beliefs(信念) | 患者の価値観や希望と、推奨は一致するか? | 薬物治療を避けたいと考えている患者への対応 |
| Bargain(取引) | コスト対効果は、この患者にとって妥当か? | 高額な治療の経済的負担は許容範囲か |
| Battle(闘い) | 推奨を実行することは現実的か? | 服薬管理が困難な患者への複雑なレジメン |
私ならまず、BurdenとBeliefsから確認します。疾患の重症度が研究対象と大きく異なる場合、推奨の効果がそのまま期待できない可能性があります。また、患者の希望を無視した推奨の押し付けは、アドヒアランスの低下につながります。
でも、ガイドラインと違うことをすると責任問題になりませんか?

オカメインコさん

ポッポ先生
根拠をもって判断したうえでの逸脱と、知らずに無視するのとは全く違います。判断の過程を記録に残すことが重要ですね
疑義照会・処方提案にガイドラインをどう活かすか
ここまでの内容を、実際の業務にどう落とし込むか。疑義照会や処方提案の場面で使える具体的なステップを整理します。
ステップ1:推奨の強さとエビデンスの質を確認する
処方監査でガイドラインを参照したとき、まず推奨文の後ろにある「推奨の強さ」と「エビデンスの質」を確認します。強い推奨+高いエビデンスなら、かなりの確信をもって処方提案できます。
ステップ2:弱い推奨の場合は背景を掘り下げる
弱い推奨(条件付き推奨)の場合、なぜ弱い推奨なのかを確認します。エビデンスの質が低いのか、利益と害のバランスが微妙なのか。ここがわかると、医師への伝え方が変わります。
ステップ3:ガイドラインの質自体を確認する
そのガイドラインがシステマティックレビューに基づいているか、GRADEなどの評価法を使っているかを確認します。「名ばかりガイドライン」の推奨を根拠にすると、説得力が弱くなる場合があります。
ステップ4:キラーBsで患者への適用を検討する
推奨が目の前の患者に合っているかを、キラーBsの4項目で確認します。RCTの対象患者とあなたの患者さんのプロフィールが異なる場合、それ自体が処方提案の根拠になります。
ステップ5:「なぜ」を添えて伝える
疑義照会や処方提案では、「ガイドラインでは○○と推奨されています」だけでなく、「この推奨は△△というエビデンスに基づいており、この患者さんの場合は□□の理由で検討が必要です」と伝えます。
どうですか? 「ガイドラインに書いてあるから」と「ガイドラインの推奨Aは強い推奨・エビデンスの質は中等度です。この患者さんの場合、腎機能低下があるため用量調整が必要です」では、伝わり方がまるで違いませんか。
そこまで言えたら確かにかっこいいですけど、医師に反論されたらどうしよう…

オカメインコさん

ポッポ先生
反論ではなく、情報共有です。「ガイドラインの推奨と患者の状況にギャップがあるので相談したい」というスタンスで伝えれば、対立にはなりにくいですね
まとめ ― 推奨の「なぜ」を語れる薬剤師になる
ガイドラインの推奨には「強さ」と「根拠の質」があります。GRADEシステムを理解すれば、推奨の確信度がわかり、弱い推奨では患者の個別性を考慮した判断が求められることもわかります。
- ガイドラインそのものにも質の差があること
- 専門家の意見にもバイアスが含まれうること
- 根拠論文にSPINの問題が潜んでいること
- 二次資料の要約には省かれた情報があること
これらを知っておいてください。「ガイドラインだから正しい」ではなく、「どのように作られたガイドラインで、どの程度の確信度の推奨なのか」まで踏み込む。その姿勢があれば、疑義照会や処方提案の質は確実に変わります。
キラーBs(Burden・Beliefs・Bargain・Battle)を使えば、推奨を目の前の患者に当てはめてよいかの判断ができます。RCTの患者と薬局の患者は同じではないかもしれないという視点を常に持ち、その判断を「なぜ」とともに伝えることで、疑義照会や処方提案の質が変わります。
確認先(一次情報):GRADE working groupの公式サイト、Minds(日本医療機能評価機構)のガイドライン作成マニュアル


