2026年6月から、エンシュア・リキッドやラコールNFといった「栄養補給を目的とする医薬品」の保険給付ルールが変わります。
当初、「経管栄養の場合等を除き保険給付除外」という厳しい方向性が示され、経口摂取できる患者への処方は原則として保険適用外になるのではないか――そんな懸念が現場に広がっていました。私も正直なところ、「これは現場が相当混乱するな」と思っていました。
ただ、2025年1月の診療報酬改定案(いわゆる短冊)を見ると、最終的には”栄養治療の手段”がきちんと守られた形で着地しています。
誤解されやすいので先に言うと、「術後」「経管栄養」だけに限定されたわけではありません。「医師が必要と判断し、処方理由を記載すれば保険給付の対象になる」という運用ルールが明確化されました。
この記事でわかること
- 改定案の具体的な内容(何がどう変わるのか)
- 中医協での議論の経緯(なぜこの着地点になったのか)
- 薬局薬剤師が今から準備しておくべき実務対応
目次
見直しの対象となる医薬品と背景――なぜこの議論が始まったのか

対象となる医薬品は6品目
中医協の資料では、薬効分類325「たん白アミノ酸製剤」のうち、以下の6品目が「食品に類似した医薬品」として挙げられています。
| 対象品目 |
|---|
| エンシュア・リキッド |
| ツインラインNF配合経腸用液 |
| ラコールNF配合経腸用液 |
| エネーボ配合経腸用液 |
| イノラス配合経腸用液 |
| エンシュア・H |
これらは「手術後患者の栄養保持」や「経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給」を効能・効果としていますが、実際には通常の食事と同様に経口投与されるケースも少なくありません。
なぜ見直しが議論されたのか
中医協資料によれば、理由は明快です。同程度の栄養価を持つ市販食品が存在するため、通常の食事による栄養補給が可能な患者への”追加的な栄養補給”は食品で代替できるという整理です。
でも、漫然と処方されているケースって本当にあるんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
これは事実として認めざるを得ないですね。十分なアセスメントが行われないまま処方が継続されているケースがあることは、今回の議論でも指摘されていました。ただし、それは「医薬品ONSが不要」という話ではなく、「適切に使えば有効な治療手段」だという前提の上での話です。
財務省の予算資料では、この見直しによる削減見込みは▲100億円とされていました。いまの状況だと、「削減ありきで決まった」と思われがちですが、実際の経緯はもう少し複雑です。
中医協での議論――診療側と支払側の主張を整理する
診療側の主張:「医師の判断」を守るべき
中医協総会(2025年12月12日)では、診療側委員から強い反対意見が出ています。
江澤委員の主張
「クローン病、ベーチェット病、周術期、低栄養状態など、医師が治療の一環として特に必要と認めて使用するケースは多々ある。必要性は医師のみが判断できるものであり、医師が必要と認めた場合は確実に保険給付対象とすべき」
小坂委員の主張
「高齢者のフレイル対策が重要視される中、十分な量が食べられない患者を”治し、支える”ための武器を奪うべきではない。市販の栄養食品は価格が高く、特に在宅医療において患者が自費で購入し続けることは困難」
支払側の主張:効能・効果に沿った厳格運用を
一方、支払側の松本委員は、「医薬品と同等以上の栄養価を持つ食品が存在するため、給付の適正化は現実的である。効能・効果に明記されている”手術後”や”経口的食事摂取が困難な場合”に限定すべきであり、単なる低栄養というだけで漫然と処方されることがないよう、運用ルールの厳格化を求めたい」と述べています。
ここ、迷いやすいところです。診療側と支払側の主張は対立しているように見えますが、どちらも「漫然処方はダメ」という点では一致しています。争点は、“医師の判断”をどこまで信頼するかという点でした。
改定案(短冊)の内容――最終的にどう着地したか

「術後・経管」だけでなく、「医師が必要と判断した場合」も保険適用
2025年1月に公表された診療報酬改定案では、以下の患者に対する使用に限り、理由を処方箋及び診療報酬明細書に記載することで保険給付の対象とすることが明確化されました。
保険給付の対象となる患者(改定案より)
- 手術後の患者
- 経管により栄養補給を行っている患者
- 必要な栄養を食事により摂取することが困難な患者であって、医師が当該栄養保持を目的とした医薬品の投与が必要であると判断した患者
3番目の条件がポイントです。当初の方向性では「術後」と「経管栄養」だけに限定される可能性が懸念されていましたが、最終的には「医師が必要と判断した場合」も保険適用になるという運用が残りました。
それってつまり、フレイルや低栄養の患者さんも対象になるってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
「必要な栄養を食事により摂取することが困難」という要件を満たし、かつ医師が必要と判断すれば対象になります。ただし、処方理由の記載が必須になるので、漫然処方は認められなくなりますね。
実際の改定案の条文(要約)
- 栄養保持を目的とした医薬品を投薬した場合は、原則として調剤料・処方料・処方箋料等を算定しない
- ただし、以下の場合は算定可能
- 手術後の患者である場合(その旨を記載)
- 経管により栄養補給を行っている患者である場合(その旨を記載)
- 必要な栄養を食事により摂取することが困難な患者等であって、医師が投与が必要と判断した場合(その理由を記載)
私なら、まず「理由の記載方法」がどこまで具体的に求められるのかを確認します。「低栄養」とだけ書けばいいのか、それとも「GLIM基準で中等度低栄養と診断」のような詳細が必要なのか。この点は疑義解釈や事務連絡を待つ必要があります。
学術団体からの意見書――なぜ”手段”が守られたのか
今回の着地点に至った背景には、関係学会からの強い働きかけがありました。
日本老年医学会、日本臨床栄養学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本在宅医療連合学会をはじめとする学術団体から、見直しを求める意見書が提出されました。また、パブリックコメントにも多くの意見が寄せられています。
どうですか?ここ、心当たりありませんか。現場で「医薬品ONSは漫然処方が多い」と言われる一方で、「本当に必要な患者には絶対に必要」という声もある。そのバランスをどう取るかが議論の焦点でした。
医薬品ONSの位置づけを再確認する
在宅医療に携わる佐々木淳医師(悠翔会)は、今回の着地について「栄養治療の手段が守られた」と評価しつつ、以下のような整理をしています。
- 国際的には、成人の低栄養は介入すべき疾患としてフォーカスされている
- 日本でもGLIM分類(低栄養診断の国際基準)の運用が本格的に始まっている
- 医薬品ONSは、いわゆる通常の栄養補助食品よりも治療の実効性が高いことが示されている
- しかし、医薬品ONSの処方はあくまで手段の1つに過ぎない
- 目的は、治療可能な低栄養に効果的な支援を行い、肺炎や骨折などの脆弱性疾患の発症および入院・死亡のリスクを低減すること
正直、今回の議論で「低栄養に対する関心」って高まるんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
それは私も期待したいところです。今回の件で、”処方理由を記載する”という運用が定着すれば、アセスメントの質も上がる可能性があります。ただし、それは現場の努力次第ですね。
薬局薬剤師が今から準備できること――3つの実務対応

制度改正は2026年6月からですが、今から準備できることはあります。私なら、まず以下の3つから手をつけます。
① 影響患者の棚卸し
エンシュア等が処方されている患者を抽出し、以下を整理します。
| 確認ポイント | 確認の意図 |
|---|---|
| 経管栄養か経口か | 保険適用の可能性を判断 |
| 食事摂取状況・介護状況 | 代替の現実性を把握 |
| 診断名・処方理由 | 「治療上の必要性」の有無 |
でも、忙しくてそんな時間ないです…

オカメインコ

ポッポ先生
全患者を一度に整理する必要はありません。まずレセコンで該当薬剤の処方患者をリストアップして、訪問薬剤管理や服薬指導のタイミングで少しずつ確認していくのが現実的です。
② 医療機関との情報共有
改定案では、「理由を処方箋及び診療報酬明細書に記載すること」が条件になっています。つまり、処方箋に理由が記載されていなければ、疑義照会が必要になります。
今のうちに、「この患者はなぜエンシュアが必要か」を医師と共有しておくと、6月以降の対応がスムーズです。逆に言うと、理由が明確でない処方については、今のうちに確認しておくほうが安全です。
③ 患者説明の準備
保険適用の条件が厳格化されたことで、「なぜ今まで保険で出ていたのに、急に説明が必要になるの?」という患者からの疑問が出る可能性があります。
患者説明で押さえておきたい3つのポイント
- 制度改正があったこと
- 処方理由の記載が必要になったこと
- 医師が必要と判断した場合は引き続き保険適用であること
断言しないほうが安全ですが、「医師と相談すれば、治療上必要な場合は保険適用になります」という案内は可能です。
まとめ:制度の趣旨を理解し、適切なアセスメントにつなげる

2026年6月から、エンシュア等の保険給付には「理由の記載」が必要になります。ただし、「術後」「経管栄養」だけに限定されたわけではなく、「医師が必要と判断した場合」も保険適用の対象です。
薬局薬剤師が今からできること
- 影響患者の棚卸し(経管/経口、食事状況、診断名の整理)
- 医療機関との情報共有(処方理由の確認)
- 患者説明の準備(制度改正の趣旨、保険適用の条件)
今回の議論を通じて、低栄養に対するアセスメントの重要性が改めて認識されています。医薬品ONSは”手段”であり、目的は患者さんの栄養状態を改善し、脆弱性疾患のリスクを低減すること。その視点を忘れずに、6月以降の運用に備えておきたいところです。

ポッポ先生
最終的な運用の詳細は、厚生労働省の通知や疑義解釈を確認してください。制度は変わります。その前提で、現場をどう守るか。私たち薬剤師の実務設計が試されています。
一次情報の確認先
- 中医協 総-2「個別事項(その15)食品に類似した医薬品の薬剤給付の適正化について」(2025年12月12日)
- 令和8年度診療報酬改定に係る答申書別紙(2025年1月)
- 財務省「令和8年度予算のポイント」
- https://x.com/junsasakimdt/status/2014549136402796880



