2026年(令和8年)6月施行予定の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会(中医協)での議論が進んでいます。今回注目されているのが、「調剤基本料1」の算定要件見直し。特に「特別区(東京23区)」が名指しで議論されている点は、該当エリアで働く薬剤師にとって気になる話ではないでしょうか。
「うちの薬局、影響を受けるの?」「転職を考えたほうがいい?」と不安に感じている方もいるかもしれません。ただ、改定内容が確定するのは2026年2月の答申後です。現時点では「議論されている」段階であり、最終的にどうなるかは誰にもわかりません。
この記事では、中医協で何が議論されているのか、なぜ東京23区が注目されているのか、そして今の段階で何を考え、準備しておくべきかを整理します。
目次
中医協で議論されている「調剤基本料1」の見直しとは

支払側から出ている要望の中身
2025年12月26日の中医協総会で、支払側(健康保険組合など)から次のような意見が出されました。
「処方箋受付回数600回超かつ集中率85%超の薬局は、特に都市部において調剤基本料1の対象から除外すべき」
でも、600回って結構少ないですよね? うちの薬局も該当しちゃうかも…

オカメインコ

ポッポ先生
600回超は月あたりの処方箋受付回数です。日数換算だと1日20〜30枚程度。都市部の門前薬局なら普通に該当しますね
ここ、迷いやすいところです。現行ルールでは、処方箋受付回数が1,800回以下なら集中率が高くても調剤基本料1を算定できます。しかし支払側は「枚数が少なくても、集中率が高いなら機能が限定的」と問題視しています。
現行の調剤基本料の算定要件を整理すると、以下のようになります。
| 区分 | 受付回数 | 集中率 | 点数 |
|---|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 調剤基本料2・3、特別調剤基本料以外 | 45点 | |
| 調剤基本料2 | 1,800回超〜2,000回 | 95%超 | 29点 |
| 2,000回超〜4,000回 | 85%超 | ||
| 4,000回超 | 上位3機関から70%超 | ||
| 特定医療機関から4,000回超 | ー | ||
つまり、1,800回以下の薬局は現状どれだけ集中率が高くても基本料1を算定できるわけです。支払側はここを「抜け穴」と見ており、「600回超かつ集中率85%超」まで対象を広げるべきと主張しています。
診療側の反論
一方、日本薬剤師会の森昌平副会長(中医協委員)は「中小の薬局は経営基盤が脆弱であり、これまでの方針を踏襲すべき」と反論しています。東京都薬剤師会や大阪府薬剤師会も「絶対に許さない」と強く反対しており、議論は平行線をたどっています。
私ならまず確認するのは、「議論」と「決定」は別物だという点です。現時点では支払側の「意見」に過ぎず、最終的な改定内容は2026年2月の答申まで確定しません。
なぜ「特別区(東京23区)」が名指しされているのか

中医協資料に示されたデータ
中医協に提出された資料(第25回医療経済実態調査)によると、特別区の薬局には以下のような傾向があります。
| 項目 | 特別区(集中率85%以上の薬局) | 特別区全体 |
|---|---|---|
| 地域支援体制加算の届出率 | 約24% | 約53% |
| 在宅薬学総合体制加算の届出率 | 約25% | 約51% |
地域支援体制加算を取っていない薬局が多いってこと?

オカメインコ

ポッポ先生
そうです。集中率が高い薬局は、かかりつけ機能や在宅対応といった”地域への貢献”が弱い傾向にあると指摘されています
誤解されやすいので先に言うと、「地域支援体制加算を取っていない=悪い薬局」ではありません。ただ、国が掲げる「患者のための薬局ビジョン」では「門前から地域へ」の移行を目指しています。そのビジョンに沿っていない薬局が多いエリアとして、特別区が名指しされているわけです。
東京23区内の調剤基本料1算定薬局の現状
参考までに、東京23区内で調剤基本料1を算定している薬局は約3,300あるとされています。このうち地域支援体制加算1の届出が約730、加算2の届出も約730程度。つまり、約半数弱が地域支援体制加算を算定しています。
ただし、処方箋集中率や受付枚数の詳細は公表されていないため、「3,300全部が影響を受ける」とは言えません。ここ、心当たりありませんか? 自分の薬局の集中率や届出状況を把握していない方は、この機会に確認しておくと安心です。
基本料が変わると何が起きるのか

調剤基本料の連動性
仮に調剤基本料1から調剤基本料2に変わった場合、影響は基本料だけにとどまりません。地域支援体制加算も連動して区分が変わります。
| 調剤基本料 | 地域支援体制加算 |
|---|---|
| 基本料1(45点) | 加算1(32点)または加算2(40点) |
| 基本料2(29点) | 加算3(10点)または加算4(32点) |
つまり、基本料が下がると加算も下がる?

オカメインコ

ポッポ先生
はい。基本料1+加算1の薬局が基本料2+加算3になると、処方箋1枚あたり38点(約380円)の減収になりえます
現場だとここで詰まりがちです。「基本料が16点下がるだけ」と思っていたら、加算も22点下がって合計38点減。たとえば月1,000枚の薬局なら月38万円、年間約456万円の減収試算になります。
もちろん、これは「基本料1+加算1」から「基本料2+加算3」に変わった場合の試算です。実際の改定内容や経過措置によって大きく変わりますし、加算4を取得できれば影響は抑えられます。煽るつもりはないのですが、「連動して下がる」構造を知っておくことは大事です。
該当しない薬局でも知っておきたい「業界再編」の可能性
「うちの薬局は集中率が低いから関係ない」「基本料1を維持できそうだから大丈夫」と思っている方もいるかもしれません。ただ、もう少し視野を広げて考えておいたほうがいいかもしれません。
自分の薬局が該当しなければ、影響ないんじゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
直接的にはそうですね。ただ、経営が厳しくなる薬局が増えると、業界全体で再編が進む可能性があります
基本料の引き下げで収益が悪化すれば、経営を続けられなくなる薬局も出てきます。そうなると、倒産や大手チェーンへの身売り(M&A)という動きが加速する可能性があります。
これは該当薬局に勤めている薬剤師だけの話ではありません。
- 近隣の薬局が閉局すれば、そこの患者が流れてきて業務量が増える
- M&Aで経営母体が変われば、異動や待遇変更の可能性
- 業界全体で人員整理が進めば、転職市場の競争が激化する
逆に言うと、再編が進む時期は「良い条件で転職できるチャンス」でもあります。人手不足の薬局が増えれば、経験のある薬剤師の需要は高まります。どちらに転ぶかはわかりませんが、「自分には関係ない」と思い込まず、業界全体の動きを見ておくほうが安全です。
今からできる準備と判断軸

確定していない段階で何をすべきか
「改定内容が確定していないのに、何を準備すればいいの?」と思う方も多いでしょう。私ならまず、以下の3つを確認します。
- 自分の薬局の届出状況を把握する
調剤基本料の区分、集中率、地域支援体制加算・在宅薬学総合体制加算の届出有無 - 「機能強化」の流れは不可避と捉える
仮に今回の改定で基本料1が維持されても、将来的な見直しは続く可能性が高い - 自分のスキルの棚卸しをする
かかりつけ薬剤師指導料の算定経験、在宅業務の経験、服薬情報等提供料の実績など
正直、在宅やる時間なんてないんですけど…

オカメインコ

ポッポ先生
その気持ちはわかります。ただ、いきなり件数を増やす必要はありません。まずは1件でも経験しておくと、次のキャリアを考えるときの判断材料になりますよ
いまの状況だと「急いで転職」「急いで在宅を始める」というより、情報収集しながら選択肢を増やしておくほうが安全です。逆に言うと、改定内容が確定してから動くと選択肢が狭まる可能性もあります。
判断軸の整理
転職や異動を考える際の判断軸を整理しておきます。
- 負荷:今の業務量に加えて対応できるか
- 成長:新しいスキルが身につくか
- 回収:かけた時間や労力に見合うリターンがあるか
- 安全性:リスクをどこまで許容できるか
「絶対に転職すべき」とも「現状維持が正解」とも言えません。ただ、判断軸を言語化しておくと、改定内容が確定したときに慌てずに済みます。
まとめ:不確定な情報に振り回されず、準備だけは進めておく

令和8年度診療報酬改定に向けた中医協の議論では、処方箋受付回数600回超かつ集中率85%超の薬局を調剤基本料1から除外すべきという意見が出ています。特に東京23区が名指しされており、該当エリアの薬剤師にとっては気になる話題です。
ただし、これはあくまで「議論」であり「決定」ではありません。改定内容が確定するのは2026年2月の答申後です。
今の段階でできることは、自分の薬局の届出状況を確認し、自分のスキルの棚卸しをしておくこと。そして「機能強化」の流れは今後も続くという前提で、選択肢を増やしておくことです。
確認先(一次情報)
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会」資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html - 第25回医療経済実態調査の結果
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryokeizai.html
どうですか? まだ確定していない話に振り回される必要はありませんが、情報をキャッチしておくだけでも気持ちの余裕が違います。この記事が、次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。



