2026年6月から、エンシュア・リキッドやラコールNFといった「栄養補給を目的とする医薬品」の保険給付が大きく変わる見込みです。中医協の資料や財務省の予算資料では、「経管栄養の場合等を除き保険給付除外」という方向性が示されており、経口摂取できる患者への処方は原則として保険適用外になる可能性があります。
この記事では、制度改正の対象となる医薬品、見直しの理由、中医協での賛否、そして薬局薬剤師が今から準備できる実務対応を整理します。制度の詳細はまだ確定していませんが、“例外要件”の定義が曖昧なままスタートすると現場が混乱します。誤解されやすいので先に言うと、「医師が必要と認めた場合は保険適用」という運用が本当に機能するのかは、最終通知次第です。
- 見直しの対象品目と背景(なぜ経口摂取できる人が保険外になるのか)
- 「例外」の範囲と不透明さ(医師の判断はどこまで有効か)
- 現場で起きそうな困りごと(患者負担・疑義照会・在宅継続性)
- 薬局が今からできる準備(患者リスト・処方意図確認・代替導線)
目次
「経口で摂取できる人は保険外に」――見直しの対象と背景

対象となる医薬品は6品目
中医協の資料では、薬効分類325「たん白アミノ酸製剤」のうち、以下の6品目が「食品に類似した医薬品」として挙げられています。
- エンシュア・リキッド
- ツインラインNF配合経腸用液
- ラコールNF配合経腸用液
- エネーボ配合経腸用液
- イノラス配合経腸用液
- エンシュア・H
これらは「手術後患者の栄養保持」や「経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給」を効能・効果としていますが、実際には通常の食事と同様に経口投与されるケースも少なくありません。
なぜ見直しが議論されているのか
中医協資料によれば、理由は明快です。同程度の栄養価を持つ市販食品が存在するため、通常の食事による栄養補給が可能な患者への”追加的な栄養補給”は食品で代替できるという整理です。
でも、患者さんが自分で栄養食品を買うって、けっこう高くないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
そこが現場の懸念ですね。市販の栄養食品は1本200〜300円前後のものもあり、継続購入の負担は無視できません。ただし制度上は、”保険で賄うべき医療”と”自費で賄うべき食費”の境界を整理する、という論点で進んでいます。
財務省の予算資料では、この見直しによる削減見込みは▲100億円とされています(一部で「400億円」という数字が流れていますが、政府資料上は確認できません)。
「経管栄養の場合等を除き保険給付除外」の意味
財務省資料には、2026年6月以降、経管栄養の場合等を除き保険給付除外と明記されています。逆に言うと、経管栄養で使用している患者は引き続き保険適用という整理です。
「医師が必要と認めた場合」はどう扱われるのか――例外要件の不透明さ

中医協での賛否:診療側は「医師の判断」を強調
中医協総会(2025年12月12日)では、診療側委員から強い反対意見が出ています。
江澤委員の主張
「クローン病、ベーチェット病、周術期、低栄養状態など、医師が治療の一環として特に必要と認めて使用するケースは多々ある。必要性は医師のみが判断できるものであり、医師が必要と認めた場合は確実に保険給付対象とすべき」
小坂委員の主張
「高齢者のフレイル対策が重要視される中、十分な量が食べられない患者を”治し、支える”ための武器を奪うべきではない。市販の栄養食品は価格が高く、特に在宅医療において患者が自費で購入し続けることは困難」
支払側の主張:効能・効果に沿った厳格運用を
一方、支払側の松本委員は、「医薬品と同等以上の栄養価を持つ食品が存在するため、給付の適正化は現実的である。効能・効果に明記されている”手術後”や”経口的食事摂取が困難な場合”に限定すべきであり、単なる低栄養というだけで漫然と処方されることがないよう、運用ルールの厳格化を求めたい」と述べています。
つまり、”医師が必要と認めた”だけでは保険適用にならない可能性もあるってことですか?

オカメインコ

ポッポ先生
現時点では不透明です。最終的な通知で、”医師の判断”をどこまで尊重するのか、それとも”効能・効果に明記された条件”に厳格に限定するのか、が決まります。私なら、まず通知の文言を確認してから判断します。
例外要件の定義が肝になる
制度設計の最大の論点は、“等”の範囲です。経管栄養以外に、どんな患者が保険適用対象になるのか。
不透明な境界条件の例
- 手術後は何日まで保険適用か?
- フレイルや低栄養状態は対象になるのか?
- 嚥下障害がある患者は?
- 認知症で食事摂取量が不安定な患者は?
現場で起きそうな困りごと――患者負担・疑義照会・在宅継続性

① 患者負担の増加と相談対応
経口摂取で栄養補助として処方されていた患者が、保険適用外になると自費または市販食品への切り替えを迫られます。市販の栄養補助食品は1本200〜300円前後。月30本使用すると6,000〜9,000円の負担増です。
正直、患者さんから「なんで急に自費なの?」って言われたとき、どう説明すればいいんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
まず、制度改正があったこと、保険適用の条件が厳格化されたことを伝えます。その上で、”医師に相談すれば、治療上必要と認められた場合は保険適用になる可能性がある”と補足するのが現実的です。ただし、この”可能性”が本当に機能するかは通知次第なので、断言しないほうが安全です。
② 処方意図・適応背景の確認ニーズ
「手術後」「経管栄養」「他で代替不能」など、医学的必要性を示す情報が処方箋にないと、薬局側は判断できません。中医協でも「運用ルールの明確化」が議論されており、処方理由の記載や疑義照会の必要性が高まる可能性があります。
③ 在宅・介護領域での継続性
在宅患者の場合、市販食品を継続的に購入することが物理的・経済的に困難なケースがあります。小坂委員が指摘したように、在宅医療で「治し、支える」ために使っているケースが保険外になると、栄養管理そのものが破綻するリスクがあります。
どうですか?ここ、心当たりありませんか。在宅で訪問している患者さんの中に、エンシュアやラコールを使っている方、いらっしゃいませんか。
薬局が今から準備できること――患者リスト・処方意図確認・代替導線

制度の詳細は確定していませんが、今からできる準備はあります。私なら、まず以下の3つから手をつけます。
① 影響患者の棚卸し
エンシュア等が処方されている患者を抽出し、以下を整理します。
患者棚卸しのチェックポイント
- 経管栄養か経口か(保険適用の可能性を判断)
- 食事摂取状況・介護状況(代替の現実性を把握)
- 診断名・処方理由(「治療上の必要性」の有無)
この棚卸しをしておけば、制度スタート時に慌てずに済みます。
でも、忙しくてそんな時間ないです…

オカメインコ

ポッポ先生
全患者を一度に整理する必要はありません。まずレセコンで該当薬剤の処方患者をリストアップして、訪問薬剤管理や服薬指導のタイミングで少しずつ確認していくのが現実的です。
② 医療機関との合意形成ポイント整理
処方理由の記載や説明材料を事前に整えます。支払側が「運用ルールの明確化」を求めている以上、処方箋への記載(手術後、経管栄養、嚥下障害など)が必要になる可能性があります。
③ 代替導線の設計
保険外の栄養補助食品への切り替えが生じる場合、費用感・選択肢・継続支援(栄養指導連携等)を院内外で整理します。
代替導線の準備例
- 市販の栄養補助食品の価格帯や栄養成分を比較表にまとめる
- 栄養士との連携体制を確認しておく
- 患者説明用のFAQを作成する
ただし、ここで重要なのは、「保険外になったから市販品を買ってください」と突き放すのではなく、「医師に相談すれば保険適用になる可能性もあります」と伝えることです。
まとめ:制度の詳細を待ちつつ、できる準備は今から

2026年6月から、エンシュア等の保険給付は「経管栄養の場合等を除き保険給付除外」の方向性です。ただし、”等”の範囲(手術後、フレイル、医師の判断など)は最終通知で確定します。
薬局薬剤師が今からできること
- 影響患者の棚卸し(経管/経口、食事状況、診断名の整理)
- 処方意図の確認(医師との合意形成ポイント整理)
- 代替導線の設計(市販品の価格比較、栄養士連携、FAQ作成)
制度が確定する前に準備を進めておけば、患者対応も疑義照会もスムーズになります。

ポッポ先生
最終的な要件は、厚生労働省の通知や中医協の議事録を確認してください。制度は変わります。その前提で、現場をどう守るか。私たち薬剤師の実務設計が試されています。

