「有病率」「罹患率」「発症割合」——。論文やガイドラインを読んでいると、似たような言葉がたくさん出てきます。正直、どれも同じような意味だと思っていませんか?
実は「率(Rate)」と「割合(Proportion)」は、統計学的にはまったく別の概念です。日本語では両方「〜率」と訳されることが多いため、混同しやすいのですが、この違いを知らないまま数字を読むと、効果の大きさや副作用の頻度を誤解してしまうことがあります。
この記事では、率と割合の違いを「時間軸」というシンプルな切り口で整理します。難しい数式は使いません。読み終わるころには、論文の数字や添付文書の副作用頻度を、少しだけ正確に読めるようになっているはずです。
目次
そもそも「率」と「割合」は何が違うのか

一番の違いは「時間」が入っているかどうか
結論から言うと、率と割合の最大の違いは時間の概念が含まれるかどうかです。
| 用語 | 時間の概念 | 分子と分母の関係 | 例 |
|---|---|---|---|
| 割合(Proportion) | なし | 分子は分母の一部 | 100人中30人が改善 → 30% |
| 率(Rate) | あり | 分子は分母に含まれるとは限らない | 1,000人年あたり5件発症 → 5/1,000人年 |
割合は「ある瞬間の断面写真」、率は「一定期間の動画」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
「人年」って何ですか?1,000人を1年追跡したってこと?

オカメインコ

ポッポ先生
そうですね。「人年」は追跡期間の合計です。1,000人を1年追跡しても、500人を2年追跡しても、どちらも1,000人年になります。率はこの「観察時間の総量」を分母にするので、追跡期間がバラバラでも比較できるんです。
日本語訳が混乱を生んでいる
ここ、迷いやすいところです。英語では「Prevalence(有病率)」「Incidence Rate(罹患率)」「Incidence Proportion(累積罹患割合)」と区別されますが、日本語ではすべて「〜率」と訳されがちです。
混同しやすい用語の整理
- 有病率(Prevalence):ある時点で病気を持っている人の割合(時間軸なし)
- 罹患率(Incidence Rate):一定期間に新たに発症した人の率(人年あたり)
- 累積罹患割合(Cumulative Incidence):一定期間に発症した人の割合(時間軸は固定)
「有病率」は本来「割合」なのに「率」と呼ばれている——この翻訳のズレが混乱の原因です。私ならまず「この数字に時間の単位が入っているか」を確認します。「/年」「/人年」があれば率、なければ割合と判断できます。
なぜ医療現場で混同されやすいのか

「率」のほうが専門的に聞こえる問題
現場だとここで詰まりがちです。「改善割合30%」より「改善率30%」のほうが、なんとなく専門的に聞こえませんか? そのため、本来は割合であっても「率」と表記されることが多いのです。
添付文書の副作用頻度も、厳密には「臨床試験で観察された割合」ですが、「発現率」と書かれています。これ自体が間違いというわけではありませんが、時間軸が入っていない数字を「率」と呼んでいることは意識しておく必要があります。
正直、そこまで厳密に区別する必要ありますか?現場で困ることあります?

オカメインコ

ポッポ先生
実は困る場面があります。たとえば「発症率5%」と言われたとき、それが「1年で5%」なのか「5年で5%」なのかで意味がまったく変わりますよね。率と割合の区別は「時間軸を確認する習慣」につながるので、押さえておきたいです。
相対リスクと絶対リスクの落とし穴
もう一つ、混同しやすいのが相対リスク(Relative Risk)と絶対リスク(Absolute Risk)です。
たとえば、ある薬を飲むと心血管イベントのリスクが「50%減少」したとします。これだけ聞くと劇的な効果に見えますが:
- 対照群の発症割合:2%
- 介入群の発症割合:1%
- 相対リスク減少:50%
- 絶対リスク減少:1%(2% – 1%)
どうですか? 50%減少と聞くのと、1%減少と聞くのでは、印象がかなり違いませんか?
いまの状況だと、製薬企業のプロモーションや一部の論文では相対リスクが強調されがちです。患者さんへの説明では、絶対リスクも併せて伝えないと、過大な期待を持たせてしまう可能性があります。
論文を読むときに確認したい3つのポイント

ポイント1:分母に「人年」が入っているか
率か割合かを見分ける最も簡単な方法は、分母の単位を見ることです。
- 「1,000人年あたり」「100人月あたり」→ 率
- 「100人中」「全体の」→ 割合
論文のMethodsやResultsで、アウトカムの定義を確認する癖をつけると、数字の意味を誤解しにくくなります。
ポイント2:追跡期間と脱落率
割合(累積罹患割合など)を見るときは、追跡期間の長さと脱落率を確認してください。
- 追跡期間が短いと、慢性疾患の発症は捉えにくい
- 脱落が多いと、割合の信頼性が下がる
逆に言うと、追跡期間が長くて脱落が少ない研究ほど、割合の数字は信頼できます。
ポイント3:比較対象が「率」なのか「割合」なのか
ここ、心当たりありませんか? 異なる研究の数字を比較するとき、一方が率でもう一方が割合だと、そもそも比較できません。
たとえば:
- 研究A「発症率:10/1,000人年」
- 研究B「発症割合:5%(2年追跡)」
この2つを直接比較して「Aのほうが発症しやすい」とは言えません。追跡期間や観察条件が異なるからです。
でも、論文ってそこまで丁寧に書いてないこと多くないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
おっしゃる通りです。だからこそ、読む側が「これは率?割合?」と問う習慣が大事になります。不明な場合は、その論文の結論を鵜呑みにしないほうが安全です。
患者さんへの説明で気をつけたいこと

「確率」と「頻度」の伝え方
患者さんに副作用の頻度を伝えるとき、「1%の確率で起こります」と言うのと「100人に1人くらい起こります」と言うのでは、受け取り方が変わることがあります。
数字の伝え方の選択肢
- パーセント表記:「約1%です」
- 自然頻度:「100人いたら1人くらいです」
- 比較対象を添える:「風邪薬の眠気と同じくらいの頻度です」
どれが正解というわけではありませんが、患者さんの理解度や不安の程度に合わせて使い分けることが大切です。私なら、不安が強い患者さんには自然頻度で伝えることが多いです。
ただし、時間軸の情報は省略しない
誤解されやすいので先に言うと、「1%」という数字だけでは、それが「服用1回あたり」なのか「1年間服用した場合」なのかわかりません。
特に長期服用が前提の薬では、累積リスクの概念を伝える必要があります。「1年で1%なら、10年続けたら10%近くになる可能性もある」——この感覚を持っておくことが、患者さんとの信頼関係につながります。
でも、そこまで説明する時間がないのが現実です……

オカメインコ

ポッポ先生
わかります。全員に詳しく説明する必要はないと思います。ただ、不安を感じている患者さんや長期服用の方には、時間軸を添えた説明を心がけると、納得感が違ってきます。
まとめ——数字の「意味」を問う習慣を

率と割合の違いを一言で
- 割合:ある瞬間の断面(時間軸なし)
- 率:一定期間の流れ(時間軸あり)
この区別を知っているだけで、論文や添付文書の数字を読む解像度が上がります。
明日からできる小さな一歩
- 分母の単位を確認する:「人年」があれば率、なければ割合
- 追跡期間を確認する:同じ「5%」でも1年と10年では意味が違う
- 相対と絶対を両方見る:「50%減少」だけで判断しない
完璧に使い分ける必要はありません。ただ、「この数字、率と割合どっち?」と問いかける習慣があるだけで、情報の受け取り方が変わってきます。
さらに学びたい方へ
疫学や統計の基礎を体系的に学びたい場合は、以下の資料が参考になります:
- 日本疫学会「疫学用語の基礎知識」
- 『基礎から学ぶ 楽しい疫学』(中村好一 著)
- Cochrane Libraryの「Understanding health research」
数字に騙されない薬剤師になるために、少しずつ知識を積み重ねていきましょう。


