日々の業務のなかで、「あれ、この薬の使い方で本当にいいのかな」「この組み合わせ、大丈夫だろうか」と感じる瞬間がありませんか。でも、いざ調べようとすると何から手をつけていいかわからず、結局そのままにしてしまう。ここ、心当たりありませんか。
そのモヤモヤを「調べられる疑問」に変えるための道具が、PICOフォーマットです。PICOは臨床疑問を整理するための枠組みで、EBMの最初のステップにあたります。
この記事では、PICOの使い方を薬局の現場に即して解説します。難しい統計の話は出てきません。疑問の「立て方」を変えるだけで、情報の探しやすさが変わる。その感覚をつかんでもらえればと思います。
目次
背景疑問と前景疑問 ― 2種類の「わからない」を区別する
臨床疑問には、大きく分けて2種類あります。この区別が最初のポイントです。
背景疑問(Background question)
「〜とは何か」「〜はどのような機序か」といった基礎的な知識に関する疑問。
- リナグリプチンはどんな薬か?
- CKDのステージ分類はどうなっているか?
- ワルファリンの作用機序は?
前景疑問(Foreground question)
「AとBではどちらが良いか」「この治療は効果があるか」といった、比較や判断を含む疑問。
- 2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬を追加すると、DPP-4阻害薬と比べてHbA1cはどのくらい下がるか?
- 高齢のCKD患者にNSAIDsを使うと腎機能悪化リスクはどの程度か?
でも、背景疑問って調べるまでもなくない? 教科書を見ればわかるし…

オカメインコさん

ポッポ先生
背景疑問は教科書や添付文書で解決できることが多いです。一方、前景疑問は教科書だけでは答えが出にくい。PICOが力を発揮するのは、この前景疑問のほうですね
私ならまず、「いま自分が持っている疑問は背景と前景のどちらか?」を確認します。この仕分けだけで、次に何を調べればいいかが変わってきます。
PICOとは何か ― 4つの要素で疑問を整理する
PICOは前景疑問を構造化するためのフォーマットで、4つの要素の頭文字です。
| 要素 | 英語 | 意味 | 考えるポイント |
|---|---|---|---|
| P | Patient / Problem | どんな患者・問題か | 年齢、性別、疾患、重症度など |
| I | Intervention | 何をするか(介入) | 薬剤、用量、治療法など |
| C | Comparison | 何と比べるか | 別の薬、プラセボ、無治療など |
| O | Outcome | どうなるか(結果) | 改善、副作用、死亡率など |
たとえば「高齢の2型糖尿病患者に、メトホルミンにSGLT2阻害薬を追加するのと、DPP-4阻害薬を追加するのでは、心血管イベントのリスクはどちらが低いか」という疑問なら、次のように整理できます。
- P:メトホルミンを服用中の高齢2型糖尿病患者
- I:SGLT2阻害薬の追加
- C:DPP-4阻害薬の追加
- O:心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)の発生率
どうですか? 疑問がぐっと具体的になりませんか。
それってつまり、4つの枠に当てはめるだけってこと? 簡単そうだけど…

オカメインコさん

ポッポ先生
枠組みは単純です。ただ、“何をOutcomeにするか”で検索結果がかなり変わります。ここは押さえたいです。HbA1cの数値改善を見たいのか、心血管イベントを見たいのかで、必要なエビデンスが違ってきますね
薬剤師の現場で使うPICO ― 具体例で感覚をつかむ
PICOは概念を知るだけでなく、実際に使ってみて初めて身につきます。薬局の現場で遭遇しやすい疑問をいくつかPICOに変換してみます。
例1:服薬指導で生まれる疑問
「睡眠薬を長期服用している高齢患者さんに、減薬を提案したい。でも、急にやめて不眠が悪化しないだろうか?」
- P:ベンゾジアゼピン系睡眠薬を長期服用している高齢者
- I:段階的な減薬
- C:現行用量の継続
- O:不眠の再燃率、転倒リスク、離脱症状の発生率
例2:疑義照会で生まれる疑問
「腎機能が低下した患者にメトホルミンが処方されている。どの程度のeGFRまでなら使えるのか?」
- P:eGFRが低下した2型糖尿病患者
- I:メトホルミンの使用
- C:メトホルミンの中止(他剤への変更)
- O:乳酸アシドーシスの発生率、血糖コントロール
例3:処方提案で生まれる疑問
「心不全患者にループ利尿薬が出ているが、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を追加提案すべきか?」
- P:ループ利尿薬を服用中の心不全患者(LVEF低下)
- I:MRA(スピロノラクトンなど)の追加
- C:MRAなし(ループ利尿薬のみ)
- O:全死亡率、心不全による入院率、高カリウム血症の発生率
例4:DI業務で生まれる疑問
「医師から”この患者さん、ワルファリンとミコナゾールゲルを併用しても大丈夫か”と問い合わせがあった」
- P:ワルファリン服用中の患者
- I:ミコナゾール口腔用ゲルの併用
- C:ミコナゾール以外の抗真菌薬の使用
- O:INR上昇の程度、出血イベントの発生率
正直、難しくないですか? Outcomeを複数設定するのがちょっと…

オカメインコさん

ポッポ先生
Outcomeは複数あってかまいません。ただ、検索するときは”自分が一番知りたいOutcome”を1つ決めておくと効率的ですね。あとから追加しても大丈夫です
「でも、こんなに丁寧にPICOを作る時間がないよ」と思いませんか。わかります。完璧なPICOを作ることにこだわりすぎないほうがいいです。まずはざっくりでもPICOの形に当てはめてみる。それだけで「何を調べればいいか」が見えてきます。
Outcomeの選び方で見える世界が変わる ― 「何を測るか」の落とし穴
PICOの4要素のなかで、実はOutcomeの設定がいちばん奥が深い。ここ、迷いやすいところです。
たとえば、ある降圧薬の効果を見たいとき、Outcomeを「血圧の低下幅」にするか「脳卒中の発生率」にするかで、意味合いがまったく違います。血圧が下がっても脳卒中が減らなければ、患者さんにとっての意味は限定的です。
このように、Outcomeには「代用指標(サロゲートエンドポイント)」と「真のエンドポイント(ハードエンドポイント)」があります。
- 代用指標:HbA1c、血圧値、LDLコレステロール値など。測定しやすいが、患者さんにとって直接的な意味があるとは限らない
- 真のエンドポイント:死亡、心筋梗塞、脳卒中など。患者さんにとって直接的に意味がある結果
でも、HbA1cが下がれば合併症も減るんじゃないですか?

オカメインコさん

ポッポ先生
多くの場合はそうですが、”必ず”ではありません。代用指標が改善しても、真のエンドポイントが改善しなかった薬もあります。ここは押さえたいです
PICOを使いこなすコツ ― よくある疑問タイプを知る
臨床疑問には、治療以外にもいくつかのタイプがあります。PICOは主に治療の疑問に使いますが、他のタイプも知っておくと整理がしやすくなります。
| 疑問タイプ | 内容 | PICOの適用 |
|---|---|---|
| 治療(Therapy) | 「AとBではどちらが効くか」 | PICOが最も活躍する場面 |
| 害(Harm) | 「この薬で副作用は増えるか」 | PICOで整理可能 |
| 診断(Diagnosis) | 「この検査でどの程度正確に診断できるか」 | PICOの変形を使う |
| 予後(Prognosis) | 「この疾患の経過はどうなるか」 | Cが不要なこともある |
| 病因(Etiology) | 「何が原因でこの疾患が起きるか」 | 観察研究が中心 |
しないほうが安全です、すべての疑問を無理にPICOに押し込めるのは。「この患者さんの検査値が異常な理由は何か?」のような疑問は、PICOよりも教科書を開くほうが早いです。
まとめ ― モヤモヤをPICOに変換する習慣をつける
- 臨床疑問には「背景疑問」と「前景疑問」があり、PICOは前景疑問を整理する道具
- PICOの4要素:Patient(患者)、Intervention(介入)、Comparison(比較)、Outcome(結果)
- 薬剤師の服薬指導・疑義照会・処方提案・DI業務の場面で、PICOは日常的に使える
- Outcomeの設定が大切。代用指標と真のエンドポイントの区別を意識する
- 完璧なPICOを最初から作る必要はない。まずはPとIだけでも整理してみる
- PICOは疑問の整理だけでなく、見つけた情報を批判的に見るための基準にもなる
次の一歩として、今週の業務中に「あれ?」と思った疑問を1つだけ、PICOの形に書き出してみてください。ノートの端でもスマートフォンのメモでも構いません。「書き出す」だけで、疑問が調べられる形に近づきます。
次回は、PICOで整理した疑問を実際にどう調べるか——忙しい薬剤師のための情報検索術を解説します。
確認先(一次情報):Richardson WS, et al. The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP J Club. 1995;123(3):A12-A13.


