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【薬剤師のためのEBM講座】第1回_EBMとは何か

「EBM(根拠に基づく医療)って、論文をバリバリ読める人のためのものでしょ?」——そう思っていませんか。私も以前はそうでした。忙しい日常業務のなかで、英語論文を読む時間なんてない。添付文書とインタビューフォーム、あとは先輩の意見で十分じゃないか、と。

でも実際のところ、EBMは「論文を読む技術」ではありません。患者さんのために、より良い判断をするためのプロセスです。そしてこのプロセスは、薬剤師が毎日やっている服薬指導や疑義照会、処方監査と直結しています。

もうひとつ先に言っておくと、EBMの本質には「情報をうのみにしない」という姿勢が含まれます。論文の結論もガイドラインの推奨も、100%正しいとは限りません。「そうかもしれないけれど、本当にそうだろうか」と立ち止まる。その一歩が、患者さんへの判断の質を変えていきます。

この記事では、EBMの定義と全体像を整理しながら、「薬剤師としてどこから始めればいいのか」を一緒に考えていきます。


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EBMとは何か ― 3つの要素の統合

EBMは1990年代にカナダのGordon Guyattらが提唱した考え方で、正式には「Evidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)」と呼ばれます。定義はシンプルです。

「最良のエビデンス」「臨床的専門性」「患者の価値観・状況」を統合して、臨床判断を行うこと。

ここ、迷いやすいところです。「エビデンス=EBM」と思われがちですが、エビデンスはあくまで3本柱のひとつにすぎません。

EBMの3要素内容薬剤師の実践場面
最良のエビデンス研究から得られた科学的根拠論文やガイドラインの情報
臨床的専門性実務で培った知識・技術・判断力処方監査、患者対応の経験
患者の価値観・状況患者の希望、生活背景、経済的条件服薬指導で聞く生活情報

でも、エビデンスが一番大事なんじゃないですか? 研究結果が全てというか…

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そう思われがちですが、エビデンスだけでは判断できません。たとえば、統計的に最も有効な薬があっても、患者さんが費用を払えなければ選べない。あるいは、1日3回の服用が必要な薬がエビデンス上最良でも、日中仕事で飲めない患者さんには1日1回の薬のほうが実効性が高い。ここは押さえたいです

どうですか? この3要素の統合、意外と薬剤師が普段やっていることに近くないですか。処方せんを受け取って、患者さんの状況を聞いて、手持ちの知識と照らし合わせて判断する。EBMは、そのプロセスをもう少し意識的にやりましょう、ということなのです。

「いや、でもそれなら今までと変わらないのでは?」と思うかもしれません。違いは「意識的に」という部分にあります。なんとなく経験で判断するのと、根拠を確認したうえで判断するのでは、同じ結論にたどり着いたとしてもプロセスの透明性が違います。疑義照会の場面を想像してみてください。医師に「なぜそう考えるのか」を説明する必要があるとき、根拠を言語化できるかどうかは大きいはずです。

ただし、3要素の比重はいつも同じではありません。緊急時はエビデンスを確認する余裕がないこともありますし、エビデンスが乏しい領域では臨床的専門性の比重が大きくなります。「常にバランスよく3つを揃えなければならない」というわけではない点も覚えておいてください。


なぜ今、EBMが必要なのか ― 従来の情報源だけでは足りない理由

「今までのやり方で困ってないけど?」という声もあるかもしれません。心当たりありませんか。たしかに、経験や教科書に頼る方法が完全にダメというわけではないのです。ただ、従来の情報源にはいくつかの弱点があります。

教科書・成書の問題:出版までに時間がかかるため、記載が古くなりやすい。執筆時点では正しくても、数年後にはガイドラインが変わっていることがあります。

専門家の意見の問題:経験豊かな専門家の意見は貴重ですが、個人の経験に偏ることがあります。ある医師がずっと使い続けている薬を「一番良い」と推すのは、その薬で成功した患者さんばかりが印象に残っているからかもしれません。これは「ひとりシステマティックレビュー」のようなもので、母集団が偏っています。忘れないでほしいのは、どんなに経験豊富な専門家であっても、自分が見てきた症例という「偏ったサンプル」に基づいて判断しているということです。

ガイドラインにも注意が必要:ガイドラインは重要な情報源ですが、すべてが同じ水準で作られているわけではありません。しっかりとしたシステマティックレビューに基づいて作られたものもあれば、実質的には専門家の意見をまとめただけの「名ばかりガイドライン」もあります。推奨の根拠がどの程度のエビデンスに支えられているかを確認する習慣は持っておきたいところです。

正直、ガイドラインに従っていれば安心と思っていました…。添付文書とガイドラインだけ見てれば十分な気がしますけど

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

添付文書やガイドラインはもちろん基本です。ただ、ガイドラインが対応していない場面や、推奨同士が矛盾する場面では、もう一段深い情報が必要になりますね。それに、ガイドラインの推奨でも”根拠の強さ”は推奨ごとに違います。名前が”ガイドライン”だからといって、内容が均一とは限りません

ここで少し考えてみてください。「朝食を食べない子どもは学力が低い」という話を聞いたことがありませんか。これ、よく引用されますが、「だから朝食を食べさせれば学力が上がる」とは限らないのです。朝食を食べられない家庭環境(経済状況や親の関わり方)が、学力にも影響している可能性がある。つまり、朝食と学力は「相関」しているだけで、「因果」関係とは言い切れません

薬の世界でも同じことが起きます。「この薬を使っている患者さんのほうが予後が良い」とMR(医薬情報担当者)の資料に書いてあっても、もともと状態の良い患者さんにその薬が処方されやすいだけかもしれない。相関と因果を区別する目——これがEBMの出発点のひとつです。

誤解されやすいので先に言うと、EBMは「伝統的な知識を否定するもの」ではありません。経験知を大切にしつつ、そこに研究のエビデンスを重ねることで判断の質を上げよう、という考え方です。


EBMの5つのステップ ― 全体像をつかむ

EBMには実践のための5つのステップがあります。まずは全体像を把握するだけで大丈夫です。

  1. Step 1:疑問の定式化(Ask)
    臨床で生まれた疑問を、調べられる形に整理する。「PICOフォーマット」を使います(第2回で詳しく扱います)。
  2. Step 2:情報の検索(Acquire)
    整理した疑問に合った情報を探す。PubMedやUpToDateなどの情報源を使います(第3回で詳しく扱います)。
  3. Step 3:批判的吟味(Appraise)
    見つけた情報が信頼できるか、結果は臨床的に意味があるかを評価する。
  4. Step 4:患者への適用(Apply)
    エビデンスを目の前の患者さんの状況に当てはめて判断する。
  5. Step 5:自己評価(Assess)
    一連のプロセスを振り返り、次に活かす。

私ならまず、Step 1とStep 2から取り組みます。疑問を整理して、調べる。この2つができるだけで、日常業務の質はかなり変わります。たとえば、処方監査で「この併用、大丈夫かな」と思ったとき、その疑問を整理して(Step 1)、UpToDateやコクランレビューで調べてみる(Step 2)。それだけでもう、EBMを実践していることになります。

5ステップ全部できないとEBMとは言えないんですか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

いいえ。Step 3の批判的吟味はたしかにハードルが高いですが、信頼性の高い情報源を使えば、その負担は大幅に減ります。全部を一人で完璧にやる必要はないですね

ここ、心当たりありませんか。「論文を読んで批判的吟味しなければEBMじゃない」と思い込んで、ハードルが上がりすぎてしまうパターンです。実は、ステップの一部だけでも取り入れれば十分にEBMの恩恵は得られます。

ただし、Step 3(批判的吟味)を完全にスキップしていいわけではありません。ここで言う批判的吟味とは、簡単に言えば「その研究の結果は信じていいのか」を考えることです。研究にはバイアス(偏り)や交絡(結果の解釈を邪魔する要因)がつきもので、それらが結果をゆがめていないかを見極める作業とも言えます。


「論文を読む」と「批判的に吟味する」は違う ― 結果をうのみにしない視点

少し脱線しますが、病院の薬剤師や医師のあいだでは「抄読会」が行われることがあります。薬局にいると馴染みが薄いかもしれませんが、EBMの考え方を知るうえで押さえておきたいポイントがあります。

よくある抄読会では、担当者が論文のResultsとConclusionsを紹介して終わり、というパターンが少なくありません。でも、MethodsをすっとばしてResultsだけ読んでも、その結果が信頼できるかどうかはわかりません。研究の質を評価せずに結果だけを適用するのは、レシピの材料を確認せずに料理を作るようなものです。

それってつまり、論文を読むのと批判的吟味は別ものってことですか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

そのとおりです。論文をただ読む(内容を紹介する)のと、その結果が信頼できるかを評価する(批判的吟味)のは違います。実は”抄読会”と”ジャーナルクラブ(Journal club)”は本来は別ものなのです。違いは、批判的吟味をするかどうか。単に論文を紹介するだけの抄読会と、研究の方法を評価して議論するジャーナルクラブは、得られるものがまったく違いますね

ここで知っておきたいのが「内的妥当性」と「外的妥当性」という2つの視点です。

  • 内的妥当性:その研究の結果自体が正しいかどうか。バイアスや交絡が少ないか
  • 外的妥当性:その結果が目の前の患者さんにも当てはまるかどうか

私ならまず内的妥当性から確認します。研究の方法に問題があれば、結果自体が怪しい。その研究が信用できるとわかって初めて、「では、うちの患者さんにも当てはまるだろうか」と外的妥当性を考える。この順番を意識するだけでも、情報の見方が変わります。


3つの実践モード ― 薬剤師は「活用モード」から始める

EBMの実践には、3つのモードがあるとされています。

  • 実行モード(Doing mode):自分で疑問を立て、検索し、批判的吟味まで行う。5ステップのフルコース。
  • 活用モード(Using mode):信頼できる人が吟味済みの情報(ガイドライン、システマティックレビューなど)を見つけて使う。
  • 模倣モード(Replicating mode):信頼できる同僚や指導者の判断に従う。

現場だとここで詰まりがちです。「EBMをやるなら全部自分でやらないと」と構えてしまう。でも、忙しい薬局薬剤師がいきなり実行モードを目指す必要はありません

私ならまず活用モードから始めます。具体的には、UpToDateやコクランレビューのような「事前に吟味されたエビデンス」を使うところからです。たとえば、疑義照会の前にUpToDateで最新の推奨を確認する。処方提案の根拠としてコクランレビューの結論を添える。そうした一つひとつが「活用モード」の実践です。


EBMの限界と誤解 ― 「レシピ本」ではない

最後に、EBMに対するよくある誤解を整理しておきます。

誤解1:「EBMはエビデンスだけで判断すること」

これは最も多い誤解です。先ほど述べたように、EBMはエビデンス・臨床的専門性・患者の価値観の統合です。エビデンスが「こうすべき」と言っていても、患者さんの状況に合わなければ採用しないこともあります。

誤解2:「EBMはRCTやメタ解析がないと成立しない」

質の高い研究がない領域でもEBMは実践できます。そのときは「今あるベストのエビデンス」を使うだけです。エビデンスが乏しいなら、乏しいなりの判断をする。それもEBMです。

誤解3:「EBMは画一的な”レシピ本”医療」

しないほうが安全です、この考え方は。EBMは「患者Aにはこの薬」と機械的に決めるものではありません。個々の患者さんに合わせた判断をするためのプロセスです。

でも、エビデンスに従わないと”根拠のない医療”になりませんか?

オカメインコ

オカメインコさん

ポッポ先生

ポッポ先生

エビデンスを”知ったうえで”患者の状況に合わせて判断を変えるのは、根拠のない医療とは違います。根拠を無視するのではなく、根拠を踏まえて判断する。ここは押さえたいです


まとめ ― EBMは薬剤師の判断を助けるプロセス

  • EBMとは、最良のエビデンス・臨床的専門性・患者の価値観を統合して臨床判断を行うこと
  • 論文を読む技術ではなく、患者のための判断プロセス
  • 相関と因果の違い、バイアスの存在に気づくことがEBMの出発点
  • 「論文を読む」と「批判的に吟味する」は別もの
  • 5つのステップがあるが、最初から全部できなくてよい
  • 薬剤師は「活用モード」(信頼できる情報源を使う)から始めるのが現実的
  • エビデンスだけで判断するものではなく、レシピ本的なアプローチでもない

EBMは、服薬指導・疑義照会・処方提案といった薬剤師の日常業務と直結しています。「患者さんにとって、この判断は妥当か?」を考えるとき、その判断材料を少しでも確かなものにするための道具がEBMです。

次の一歩として、まずは日常業務で「あれ? これで本当にいいのかな」と思った瞬間を書き留めてみてください。それがEBMの出発点です。そしてもうひとつ、MRの資料やガイドラインを目にしたとき、「この情報はどうやって得られたものだろう」と一瞬だけ立ち止まってみてください。その「一瞬の疑い」がEBM的な思考の始まりです。

次回は、臨床の疑問を「調べられる形」に整理する方法(PICOフォーマット)を解説します。

確認先(一次情報):Guyatt GH, et al. Users’ Guides to the Medical Literature(JAMA シリーズ)、Sackett DL, et al. Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM.

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