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薬剤師がペット医療に関わる新しいカタチ——猫の飼い主への「中毒予防」から始めてみませんか

私たちの手元にある知識が、実は”待たれている”という話

「ペット医療に薬剤師が関わる」と聞いて、どんなイメージを持ちますか。動物病院の門前薬局? 獣医師と一緒に働く? 正直、まだまだ遠い話のように感じる方がほとんどではないでしょうか。

私もそうでした。調剤業務に追われる日々の中で、「ペット医療」という言葉は、どこか別世界の話に思えていたのです。でも、ある調査結果を見て、ちょっと考えが変わりました。

東京薬科大学の櫻井浩子教授らが2025年に実施した猫の飼い主360名を対象とした調査によると、「薬剤師から猫の健康や中毒に関する情報を得た経験がある」と答えた人はわずか2名(0.6%)。一方で、薬剤師による情報提供や啓発活動について「良いと思う」「とても良いと思う」と回答した人は77.8%にのぼったのです。

ここ、ちょっと立ち止まりたいところです。ニーズはあるのに、届いていない。私たち薬剤師が普段扱っている「医薬品の成分知識」や「家庭用品に含まれる物質の情報」——これって、実はペットの飼い主さんが切実に必要としている情報なのかもしれません。

猫と人用医薬品——「代謝できない」という決定的な違い

でも、動物の薬のことなんて、薬学部で習ってないですよね? いきなり関わるのは無理じゃないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そう思いますよね。ただ、ここで押さえたいのは”人用医薬品が猫にどう影響するか”という視点です。これなら私たちの守備範囲内ですね。

私ならまず、アセトアミノフェンの話から確認します。これ、薬剤師として見落としてはいけないポイントです。

猫は肝臓でのグルクロン酸抱合能が極めて低いため、アセトアミノフェンをほとんど代謝できません。犬の中毒量が体重1kgあたり150mgなのに対し、猫は50mg/kg。市販の風邪薬1錠(200〜500mg含有のものが多い)でも、体重4〜5kgの猫にとっては致死量になりうるのです。

摂取後30〜60分で血中濃度が最大になり、体内でN-アセチル-p-キノネミンという毒性物質に変化します。これが赤血球を酸化し、メトヘモグロビン血症や溶血性貧血を引き起こす。症状としては、顔面浮腫、チアノーゼ、呼吸困難、黄疸などが現れ、治療が遅れると18〜36時間後には死亡する可能性もあります。

ここ、迷いやすいところです。「猫が風邪っぽいから」と飼い主さんが自己判断で人用の風邪薬を与えてしまい、中毒を起こして動物病院に駆け込む——獣医師のブログ等では、そうしたケースが実際に報告されています。私たちが服薬指導の場で「ご家庭にペットはいますか?」と一言添えるだけで、防げる事故があるかもしれない——そう考えると、関わり方の入り口が見えてきませんか。

飼い主の認知には「偏り」がある——チョコは知っていても、鎮痛薬は知らない

櫻井教授の調査で興味深かったのは、飼い主さんの「中毒リスク認知」に明らかな偏りがあったことです。

有害物質認知率
ネギ類74.2%
チョコレート67.8%
殺虫剤65.3%
ユリ科植物59.7%
アロマオイル43.1%
アセトアミノフェン28.1%
NSAIDs27.8%

どうですか? チョコレートやネギ類は広く知られている一方で、アセトアミノフェンやNSAIDsの認知度は3割にも満たない。これって、私たちが毎日扱っている医薬品そのものですよね。

でも、患者さんに”猫飼ってますか?”って聞くのも変じゃないですか? 唐突すぎません?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

たしかに、いきなりは難しいかもしれませんね。ただ、初回問診票にペットの有無を追加している薬局も出てきています。自然な流れで聞けるタイミングを作るのがコツです。

誤解されやすいので先に言うと、ここで求められているのは「獣医師と同じことをする」ではありません。私たちの強みは、医薬品の成分や家庭用品に含まれる物質について専門的な知識を持っていること。その知識を「予防」の文脈で活かす——これが、現実的な第一歩だと思います。

ユリ科植物の怖さ——「花粉だけでも」という現実

もう一つ、押さえておきたいのがユリ科植物の毒性です。

猫はユリ科植物(テッポウユリ、カサブランカなど)に対して非常に高い感受性を持っており、花弁や葉を少しかじる、花粉が体についてグルーミングで舐める、花瓶の水を飲む——これだけでも急性腎不全を引き起こす可能性があります。

中毒成分は現時点で未解明ですが、水溶性であることがわかっており、摂取後12時間以内に嘔吐や食欲不振などの初期症状が出現。一時的に落ち着いたように見えることもありますが、腎臓では壊死が進行しており、24〜96時間後には乏尿・無尿から尿毒症へと至ります。

治療開始が18時間を超えると死亡率が極めて高くなるという報告もあり、早期発見・早期対応が予後を大きく左右します。

それ、薬剤師が言っても信じてもらえるんですか? 獣医師じゃないのに。

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

むしろ、”知らなかった”という飼い主さんが多いんです。英国のCATS Report 2024では、猫の飼い主の52%がユリの毒性を認識していないとされています。情報を伝えるだけでも価値がありますね。

ただし、ここで注意したいのは「診断や治療の領域には踏み込まない」ということ。私たちにできるのは、あくまで予防のための情報提供です。「ユリ科植物を家に持ち込まない」「解熱鎮痛薬は猫の届かない場所に保管する」——こうしたシンプルな助言が、事故を防ぐ力を持っています。

英国の事例から学ぶ——「ラベルを変える」という発想

ここで、英国の動きを紹介させてください。私ならここから学べることがあると思っています。

英国最大の猫保護団体「Cats Protection」が毎年発表している「CATS Report」は、英国全土の猫の飼育実態を調査した大規模レポートです。2024年版によると、英国では約1,060万匹の猫が飼育されており、約4世帯に1世帯(25%)が猫を飼っています。

このレポートで注目すべきは、ユリの毒性に関する認知度が「52%の飼い主が知らない」という結果が前年から改善していない点です。毎年啓発活動をしても、なかなか数字が動かない。心当たりありませんか? 私たちが患者さんに繰り返し伝えていることが、なかなか浸透しないあの感覚と似ています。

じゃあ、啓発しても意味ないってことですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そうではないんです。Cats Protectionは別のアプローチを取りました。”伝え方”を変えたんですね。

スーパーのユリに「警告ラベル」を——小売業者への働きかけ

Cats Protectionは、啓発だけでなく小売業者への直接的な働きかけを行いました。British Retail Consortium(英国小売協会)を通じて40社以上の花き小売業者と面談し、ユリのラベル表示の改善を要請したのです。

具体的には、以下のような提案をしています:

  • 推奨文言:「Caution: all parts of lilies are toxic to cats(注意:ユリのすべての部分が猫に有毒です)」
  • 配置:ラベルの裏面ではなく、表面の目立つ場所
  • 内容:「花粉だけが危険」ではなく、「すべての部分が有毒」と明記

この働きかけの結果、英国のスーパーマーケット「Morrisons」と「Marks & Spencer」が先行して対応。特にMarks & Spencerは、ユリの束に2つの警告ラベルを表示するようになったそうです。現在も「Sainsbury’s」「Tesco」「Waitrose」などと協議を続けているとのこと。

日本の薬局でもできること

この事例、私たちにも応用できないでしょうか。

たとえば、薬局の待合スペースに「猫を飼っている方へ」というPOPを掲示する。解熱鎮痛薬のコーナーに「猫には絶対に与えないでください」という注意書きを添える。お盆やお正月——ユリを飾る機会が増える季節には、「ユリは猫に危険です」というリーフレットを配布する。

現場だとここで詰まりがちなんですよね。「そこまでやる必要ある?」と思われるかもしれません。でも、英国の事例が示しているのは、啓発の”場所”と”タイミング”を変えるだけで、届く人が変わるということです。

薬局は、医薬品や家庭用品を「買う瞬間」に接点を持てる場所。ここで一言添えることの意味は、思っているより大きいのかもしれません。

でも、ユリを売ってるわけじゃないですよね、薬局は。

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そうですね。ただ、解熱鎮痛薬やアロマオイル、柔軟剤など、猫に有害な可能性のある製品は薬局でも扱っています。そこに注意喚起を添えるのは、十分に守備範囲内だと思いますよ。

CATS Report 2024が示す「若い世代」へのアプローチ

もう一つ、CATS Report 2024で興味深かったのは、飼い主の世代交代が進んでいるという点です。

レポートによると、18〜34歳の若い世代で猫の飼い主が増加している一方、35〜54歳では減少傾向にあります。そして若い世代の飼い主には、いくつかの特徴があります:

  • 情報収集はソーシャルメディアが中心
  • ペディグリー(血統書付き)の猫を好む傾向
  • 購入時のリサーチをしっかり行う
  • ペットの健康への関心が高い

逆に言うと、従来の「動物病院での説明」だけでは、この層に情報が届きにくくなっている可能性があります。SNSでの発信や、購入時点での注意喚起——こうした「接点の多様化」が求められているのかもしれません。

日本でも、ペットフード協会のデータによると猫の飼育頭数は約906万匹(2024年)で、犬を上回っています。室内飼育が主流となり、飼い主と猫が家庭内で密接に暮らす環境が一般的になっています。だからこそ、家庭内にある医薬品や日用品のリスクを伝える意義は大きいのです。

「獣医療薬学認定薬剤師」という新しい選択肢

「興味はあるけど、何から始めればいいかわからない」——そんな方に一つ紹介したいのが、東京薬科大学が2025年10月に開講した「獣医療における薬学研修プログラム」です。

獣医療における薬学研修プログラム概要

  • 対象:薬局・ドラッグストア勤務の薬剤師
  • 形式:オンデマンド研修
  • 内容:獣医薬理学、機能形態学、適正飼養学、飼い主対応、服薬指導、法規・倫理など全9コマ(各90分)
  • 受講料:無料(今後は有料?)
  • 修了証:「獣医療薬学研修」修了証を発行

日本保険薬局協会(NPhA)会員向けに設けられた200名の枠は、募集開始からわずか2日で満席になったとのこと。関心の高さがうかがえます。

それを取ったら、すぐに動物の調剤ができるようになるんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

いいえ、そこは誤解しないほうが安全です。このプログラムは”最低限、動物病院と円滑にコミュニケーションが取れる程度の知識を身につける”ことが目的とされています。まずは基礎を固めて、そこから少しずつ関わりを広げていくイメージですね。

プログラムを設計した櫻井教授は、「地域の動物病院への情報提供や、飼い主向けイベントでの相談ブース、ニュースレターの配布などを通じてペット医療との接点を作り、少しずつ薬剤師にできることを見つけてほしい」と話しています。

まとめ——「いきなり全部」ではなく、「小さな一歩」から

ペット医療に薬剤師が関わる——というと、大きなキャリアチェンジを想像しがちです。でも、現場だとここで詰まりがちなんですよね。

実際には、もっと小さなことから始められます。たとえば:

  • 初回問診票にペットの有無を追加する
  • 解熱鎮痛薬を渡す際に「ご家庭に猫がいる場合は、手の届かない場所に保管してください」と一言添える
  • 待合スペースに「猫に有害な物質リスト」のリーフレットを置く
  • お盆やお正月などユリを飾る季節に、注意喚起のPOPを掲示する

こうした取り組みは、特別な資格がなくても今日から始められます。逆に言うと、いまの状況だと飼い主さんは「薬剤師がペットのことを知っている」とは思っていません。だからこそ、私たちから一歩踏み出す価値があるのではないでしょうか。

「猫を飼っているんですか? 解熱鎮痛薬は、猫には絶対に与えないでくださいね。1錠でも命に関わることがあるので」

この一言が、誰かの家族を守るかもしれない。そう考えると、私たちの仕事の可能性は、思っていたよりずっと広いのかもしれません。

参考資料・確認先

研究・調査

  • 櫻井浩子「猫の飼い主における有害物質リスク認識と家庭内管理:薬剤師の支援的役割の検討」アプライド・セラピューティクス 2025年20巻 P.54-65

研修プログラム

中毒情報

  • 公益財団法人 日本中毒情報センター
    公式サイト:https://www.j-poison-ic.jp/
    中毒110番(大阪):072-727-2499
    中毒110番(つくば):029-852-9999

動物中毒に関する情報源

飼い主による人用薬の誤投与に関する報告

関連ニュース・記事

  • 日経ドラッグインフォメーション「TREND:ペット市場に薬局が熱視線、なぜ?」(2025年12月)

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