本内容については、動画でも解説しています。
子どもの咳が止まらない時、どのように対処しますか?
小児科にかかって咳止めをもらう人もいれば、家庭の治療法を試す人もいます。
その中で、ヴェポラッブを足の裏に塗ると咳が止まるという話を耳にしました。
「んなわけあるかい」と一蹴しようと思ったのですが、この方法は北米で特に人気があり、多くの家庭で代々受け継がれていると言われています。
今回は薬剤師の立場から、この方法がどれほど科学的に根拠があるのか、また、ヴェポラッブ自体の歴史、本来の使い方での有効性についても解説していきます。
目次
ヴェポラッブとは?
ヴェポラッブは、メントールを主成分とする塗り薬で、風邪や咳の症状緩和に広く使われています。
ちなみに海外では、筋肉や関節の軽い痛みに対しても使用されます。ヴェポラッブは、特に寝る前に胸や背中、喉に塗って使用することが推奨されています。
この商品は、1905年に初めて販売され、当初は家族経営のRichardson-Vicks, Inc.によって製造されていました。
社はノースカロライナ州グリーンズボロに拠点を置いていましたが、1985年にアメリカの大手消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブルに買収されました。
現在、ヴェポラッブは、Vicksブランドの一部として知られており、インドやメキシコでも製造・販売されています。
ヴェポラッブの起源は、フランスの薬剤師Jules Benguéにさかのぼります。彼はBen-Gayという、関節炎、痛風、神経痛の治療のためのメントールベースの薬を作りました。
ノースカロライナ州の薬剤師Lunsford Richardsonは、Ben-Gayを販売していたが、顧客からそれが鼻の通りを良くしたとの声を聞き、メントールをワセリンに混ぜて、最初はRichardson’s Croup and Pneumonia Cure Salveと名付け、後にVicks VapoRubに改名しました。
Vicksという名前は、Richardsonの義兄で、彼が製品を作るための研究所へのアクセスを手配してくれたJoshua Vick医師にちなんで名付けられました。
足の裏にヴェポラッブを塗ると咳が止まる?
咳症状に対してヴェポラッブを胸ではなく、足の裏に塗るという民間療法があるようです。
この方法は、ヴェポラッブを足の裏にたっぷりと塗り、その上から靴下を履くというものです。
足の裏に塗るという独特な方法は、様々な家庭やコミュニティで伝えられてきた民間療法の一部として広まっているようです。
いつから足の裏に使われていたのか?
足の裏にヴェポラッブを塗るという方法の起源は不明ですが、一部の報告では、20世紀初頭から使われていたとされています。
2007年にはインターネット上で話題になったことが海外の記事で紹介されています。
ヴェポラッブ自体が1905年に発売されたことを考えると、製品が市場に登場してから間もなくこの用途で使用されていた可能性があります。
なんでヴェポラッブを足の裏に塗るの?
ヴェポラッブは胸やのどに塗ることで、メントールなどのアロマ成分が鼻やのどから吸うことで効果が出ると考えられています。
そのため、薬剤師の見解としては足の裏に塗ったら、鼻やのどから吸収できないので効果は期待できません。
またヴェポラッブを足の裏になった場合の有効性を検討した研究もありません。
あるのは、足の裏に塗ったら、咳症状が改善したという経験談の情報だけです。
るるーしゅ
質の高いのエビデンスはなさそうです
では、なぜ、足の裏に塗ると咳症状に効くのでしょうか?
ヴェポラッブを足の裏に塗ると効果があるとされている仮説は以下の通りです。
足の裏は神経でいっぱいです。ヴェポラッブの成分であるカンファーとメントール(おそらくヴェポラッブの他の成分も)が足の感覚ニューロンを刺激すると考えられています。
これらはTRP(一過性受容体電位)チャネルと呼ばれています。
これらの神経が活性化されると、脊髄にメッセージが送られます。私たちは、脊髄のすぐ上にある咳の中枢が影響を受けるのではないかと推測しています。
これが、足にヴェポラッブを塗ることで咳がどのように素早く和らぐのかを説明する可能性があります。
なんかよく分からないなと思ったのですが、以下の記事にこの理論に至った情報がのっていました。そしてこの理論は、日本でもよく使われている漢方薬にも該当しそうな印象です。
咳をコントロールするための神経刺激の新しい理論
数週間前に筋肉のけいれんに関する新しい説明を読んで、Vicks VapoRubが咳を抑えるのにどのように働いているかについての私たちの考えが刺激されました。ノーベル賞受賞者であるRod MacKinnon博士と、彼の同僚であるBruce Bean博士は、世界的な神経科学者です。彼らは、筋肉のけいれんが神経の過剰刺激によって引き起こされることを示しました。
生姜、シナモン、辛味のエキスなどの強い風味を含む飲み物を飲むことで、口、喉、胃の神経が刺激されました。この神経刺激が2分以内に脊椎を影響させ、筋肉のけいれんを引き起こしている神経を圧倒しました。彼らは、このサイトの多くの訪問者がマスタードを少量摂取することで夜間の足のけいれんが和らぐ理由について、新しい説明を提供しました。
これは、強い風味の成分が神経を刺激し、その神経刺激が脊髄に影響を及ぼして筋肉のけいれんを引き起こす神経を抑制することを示しています。Vicks VapoRubと咳に関連して、同様のメカニズムが働いている可能性があります。Vicksの成分が神経を刺激し、この刺激が脊髄を通じて咳の中枢に影響を及ぼして咳を抑えるのかもしれません。
はい、こむら返りへの芍薬甘草湯も、もしかしたらこの理論で効いているのかもしれませんね。
ただ、現在、芍薬甘草湯の流通も難しいようなので、代替は粒マスタードでいいと思います(怒られそう)
海外では結構ヴェポラッブ神話があるので紹介
ラテンアメリカ系コミュニティでは、Vicks VapoRubに対して特別な愛着が見られます。このコミュニティでは「Bibaporru」、「Beep Vaporú」、「El Bic」、「El Bix」、「El Vickisito」など、多くの愛称で親しまれています。
Vicks VapoRubは、風邪や筋肉痛の緩和のみならず、多くの創造的な用途が試されています。
たとえば、足の裏に塗ることで咳を和らげるとされているほか、水虫、妊娠線、胃痛、耳痛の治療に使われたり、涙を誘うためにテレノベラ俳優が目に塗ったりすることもあると言われています。
るるーしゅ
スースーするから目の周りに塗れば、涙出そう。
また、この軟膏はラテンコミュニティにおいて、一種のカルチャーアイコンとなっており、Tシャツ、絵画、ピンバッジ、キャンドル、グリーティングカードなど、様々な商品にデザインとして取り入れられています。
インターネット上ではVicks VapoRubの効果を称える無数の投稿が存在し、ハッシュタグやミーム、コメディスケッチ、説明動画などが作成されています。
家族間での逸話や感慨深い思い出の一部として語られることも多く、幅広い年齢層に親しまれています。
特に感動的なエピソードとしては、キューバ出身の祖母がVicks VapoRubを非常に愛用していたことがあり、彼女はそれを「Vickisito」と呼んでかわいがっていました。この祖母は、爪の強化、髪のコンディション改善、肌の保湿などのためにも使用していたと言われています。
また、Vicks VapoRubの強い香りは、人々に懐かしい記憶を呼び起こすことがよくあり、肯定的な感情が多く、これは「ケアされている」という感覚や「癒されている」という感覚に結びついていることが多いです。
るるーしゅ
日本で言うオロナイン軟膏に近い感じかもしれないですね。
足の裏にヴェポラッブを塗るのは薬剤師的にどうなの?
これにて、足の裏にヴェポラッブを塗ることへの検討は終了します。
実際問題、この足の裏にヴェポラッブを塗る方法については、薬剤師としてどう思うか、私なりの見解をお伝えしたいと思います。
臨床データに基づいた根拠があるか?
有効性を判断する上で質の高い臨床研究はなく、個人の体験談ばかりです。そのため効果があるのかないのか客観的な判断できるません。
理論的根拠はあるか?
つづいて理論上ですが、これはメントールのアロマ成分による理論は通じませんが、独自理論もあるようですし、日本でも芍薬甘草湯がこむら返りに効くっていって、みんな信じているじゃんと言われると否定しづらいですよね。→理論的根拠も、う~んって感じです。
健康被害のリスクは?
足の裏に塗ることでの一次的健康被害は考えられないです。二次的健康被害も考えましたが、あまり反医療といった感じでもないので、足の裏に塗ることでの健康被害はほとんど無視できるのではないかと思います。
あえて、オススメするものではない(ヴェポラッブの本来の使用法でもないですから)が、患者さんなどが好んでやっているようなら、否定するほどのことではないかと個人的には思います。
足の裏ではない通常の使い方の時はどうなのか?
足の裏のヴェポラッブはこのあたりにして、本来の使い方(胸やのどに塗る)の有効性について解説します。
本来の使い方では、有効性を検討する上で妥当性の高いランダム化比較試験が行われていますので紹介します。
Paul IM, Beiler JS, King TS, Clapp ER, Vallati J, Berlin CM Jr. Vapor rub, petrolatum, and no treatment for children with nocturnal cough and cold symptoms. Pediatrics. 2010 Dec;126(6):1092-9. doi: 10.1542/peds.2010-1601. Epub 2010 Nov 8. PMID: 21059712; PMCID: PMC3600823.
2歳から11歳までの138人の子供が風邪の症状に苦しんでいる間に2日間の研究に参加しました。
この138人はヴェポラッブを塗る群、ワセリンを塗る群、なにもしない群と3つのグループにランダムに分けられました。
ヴェポラッブを塗る群は、何もしない群と比較して、咳の頻度、咳の重症度、鼻詰まり、子供の睡眠能力、親の睡眠能力を改善したよという結果がでました。
咳の症状や夜間の子ども、親の睡眠時間が改善しているようなので、私は咳がひどい子どもにはオススメしています。
子どもに処方される咳止めや、市販の咳止めも有効と言えるほどのデータがあるものはほとんどありませんからね。
るるーしゅ
盲検化が少し気になりますが・・・
まとめ
今回は、ヴェポラッブを足の裏に塗ると効果があるという情報が目に留まったので深堀してまとめてみました。
正直、「足の裏に塗ると効果があるとかバカ言ってんじゃないよ」と思ったのですが、同じ口で「こむら返りに芍薬甘草湯が効果があります」と言ってるのも、オカシイ気がするなと思いました。
「足の裏に塗るといいですよ」と患者さんにアドバイスする気にはなれませんが、もし患者さんが好んでやっていたとしても別に否定する気にはなれないかなと思いました。
るるーしゅ
健康被害は起きなさそうですからね