調剤報酬改定2026(令和8年度)で、薬局の「賃上げ対応」が追加される方向です。ポイントは、調剤基本料を丸ごと上げるのではなく、医科で先に導入された「ベースアップ評価料(Ⅰ)」に近い“賃上げ専用の評価”を、調剤にも持ち込むという発想です。
誤解されやすいので先に言うと、これは「薬局の利益を増やす」ための点数というより、賃上げに充てる前提の“目的財源”です。私ならまず、ここを混同しないように整理します。
この記事では、資料に出てくる「処方箋1枚あたり中央値3.9点」が何を意味するのか、そして月1200枚・薬剤師2人+事務1人の現実的な試算で、どこまで賃上げに回せそうかを、できるだけ具体的に書きます。
目次
調剤報酬改定2026の賃上げ対応は「基本料アップ」ではない

今回の案は、ざっくり言うと「賃上げ分を“専用の点数”として見える化し、届出・報告で実効性を担保する」方向です。
ここ、心当たりありませんか?
- 「結局、基本料が上がるならラッキーだけど…」
- 「評価料? 届出? 事務負担だけ増えそう…」
このモヤモヤ、自然です。現場だとここで詰まりがちです。
でも…また届出が増えるんですよね? 正直、手が回らないです。

オカメインコ

ポッポ先生
そこが最大の論点ですね。だから“算定できる薬局を増やすために簡素化する”という要望が強く出ています。まずは、最終的な届出様式がどうなるかを待ちつつ、今のうちに給与総額と対象者の切り分けだけ準備しておくのが現実的です。
私の理解では、制度設計の狙いは次の3つです。
- 賃上げ原資を確保する(改定率の中で枠を取る)
- 賃上げに使ったかを確認できる仕組みにする(届出・報告)
- 病院・診療所と同じ土俵の評価体系に寄せる(公平性の観点)
ただし、ここから先は「案」です。点数や対象者、運用は詰めの段階で動き得ます。断言よりも判断の筋道で読み進めてください。
「中央値3.9点」って何? 図の読み方を整理

図は、“賃上げに必要な点数(処方箋1枚あたり)”が薬局ごとにどれくらい散らばるかをヒストグラム(度数分布)で示したものです。
- 横軸:処方箋1枚あたりの必要点数(点)
- 縦軸:その点数レンジに入る薬局数
- 25パーセンタイル:2.9点
- 中央値:3.9点
- 75パーセンタイル:5.1点
つまり、半分の薬局は「3.9点以下」で、残り半分は「3.9点超」という意味です。
逆に言うと、「3.9点」は“平均的な薬局”を狙った設定の候補であって、すべての薬局にピッタリ合う魔法の数字ではありません。給与水準や職種構成、在宅の比率などで必要点数は動きます。
それってつまり…うちは3.9点じゃ足りない可能性もある?

オカメインコ

ポッポ先生
可能性はあります。だからⅡ(追加的に厚めに評価する区分)を用意する考え方が、医科と同じくセットで議論されます。まずは自施設の“必要額”を試算して、Ⅰで足りるのか/Ⅱが必要なのかを見立てるのが安全です。
ここで押さえたいのが、3.9点は“賃上げ目標(薬剤師3.2%、事務職員5.7%)”を満たすための必要点数分布の中央値として計算された、という点です。しかも計算には、給与だけでなく法定福利費も勘案するとされています。
「中央値がそのまま採用される?」医科(前回改定)の前例

「この中央値、結局そのまま行くの?」——ここ、迷いやすいところです。
医科では令和6年度改定で、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)が新設されました。点数は、初診6点/再診2点(ほか訪問診療の区分あり)という形で、比較的シンプルに提示されています。
さらに重要なのは、点数設定の考え方です。
- 医科では、医療機関ごとに“賃上げに必要な点数”を算出
- その分布の中央値を取って(Ⅰ)を設定
つまり「中央値で(Ⅰ)を決める」という思想自体は、すでに前例があります。
では調剤でも、3.9点が“そのまま”採用されるのか。
私なら、次のように見ます。
- 方向性:中央値を採用する設計は、かなり踏襲されやすい
- ただし:端数調整(3.9→4.0点など)、届出実績の差、算定単位(処方箋単位固定か否か)などは変わる余地あり
だから私は、「3.9点“前後”を暫定で置いて、収支インパクトを先に見ておく」のをおすすめします。
でも…点数が確定してから考えた方がよくないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
確定を待つのは正しいです。ただ、確定してからだと“賃金改善計画・報告”の準備が間に合わない薬局が出ます。今できるのは、(A)対象職員の棚卸し、(B)現在の給与総額の把握、(C)3.9点での仮試算までですね。
月1200枚・薬剤師2人+事務1人:3.9点でどこまで賃上げできる?(試算)

ここからは、皆様が一番知りたいところだと思います。どうですか?
1) まず「評価料収入」をざっくり出す
- 想定:処方箋 1200枚/月
- 点数:3.9点/枚
- 1点=10円
月の増収見込み=1200 × 3.9 × 10円 = 46,800円(約4.7万円)
2) 次に「賃上げに必要なコスト」を出す(ここが本丸)
ここ、誤解されやすいので先に言います。
「評価料で入ってくるお金(収入)」と、「賃上げで出ていくお金(コスト)」を同じものさしで比較しないと、話が混ざります。
まず、賃上げ率の前提(案)
資料の想定(案)は次の通りです。
- 薬剤師:+3.2%
- 事務職員:+5.7%
ただし、対象が“40歳未満の薬剤師”などに限定される可能性があります。対象が減ると、必要コストも減ります。ここは確定情報待ちです。
- 薬剤師:3.2%
- 事務職員:5.7%
ただし、対象が「40歳未満の薬剤師」などに限定される可能性や、法定福利費(事業主負担)も考慮する必要があります。
そこで、「平均賃金を置いた参考試算」を2パターン作りました。
計算はシンプルです(2ステップ)
賃上げコストは、次の順に出します。
ステップA:まず「給与がいくら増えるか」を計算
職種ごとにこれだけです。
- 薬剤師の給与増=(薬剤師の月給)× 3.2% × 人数
- 事務の給与増=(事務の月給)× 5.7% × 人数
- 合計(給与増)=薬剤師分+事務分
ステップB:次に「法定福利費(事業主負担)」を上乗せ
給与が上がると、社会保険などの会社負担も増えます。そこで、
- 法定福利費込みコスト=給与増 × 1.15
(※ここでは“ざっくり15%”と仮置き。実際は保険料率・雇用形態で上下します)
だから「賃金の置き方」を2パターンにした
「月給」をどう置くかで結果がブレます。読者が自分の薬局に当てはめやすいように、2つの置き方を並べました。
- パターン①:求人賃金(月額)を基準(控えめな置き方)
- パターン②:年収平均→月換算(高めに出やすい置き方。賞与等の影響を含みやすい)
※どちらが正しいという話ではなく、“レンジ感”を掴むための両建てです。
参考試算(薬剤師2人+事務1人の場合)
パターン① 求人賃金(月額)を基準(薬35.6万/事19.5万)
(A) 給与増(賃上げ額)
- 薬剤師:35.6万 × 3.2% × 2人
- 事務:19.5万 × 5.7% × 1人
→ 合計が 3.39万円/月
(B) 法定福利費込みコスト
- 3.39万 × 1.15 = 3.90万円/月
(C) 評価料収入との差
- 4.68万 − 3.90万 = +0.78万円/月(足りる)
パターン② 年収平均→月換算(薬49.9万/事19.5万)
(A) 給与増(賃上げ額)
- 薬剤師:49.9万 × 3.2% × 2人
- 事務:19.5万 × 5.7% × 1人
→ 合計が 4.31万円/月
(B) 法定福利費込みコスト
- 4.31万 × 1.15 = 4.95万円/月
(C) 評価料収入との差
- 4.68万 − 4.95万 = ▲0.27万円/月(少し足りない)
| 前提(賃金の置き方) | 賃上げ額 (給与増) | 法定福利費込み (※コスト) | 評価料収入 (4.68万円)との差 |
|---|---|---|---|
| 求人賃金(月額)を基準 薬:35.6万/事:19.5万 | 3.39万円 | 3.90万円 | +0.78万円 (足りる) |
| 年収平均→月換算 薬:49.9万/事:19.5万 | 4.31万円 | 4.95万円 | ▲0.27万円 (少し足りない) |
ここで言いたいことは1つです。
“3.9点で足りるか”は、あなたの薬局の給与水準と対象者で簡単にひっくり返る、ということ。
3) 私ならこう計算して判断します(チェックリスト)
- 対象職員を確定する(薬剤師は何人が対象? 事務は?)
- 対象職員の賃金総額(賃上げ前)を出す
- 目標賃上げ率(薬剤師3.2%、事務5.7%)を掛ける
- 法定福利費(事業主負担)を上乗せしてコストを出す
- 処方箋枚数×3.9点×10円で収入側と比べる
「賃上げしたいけど赤字になる」設計にはしないはずですが、あなたの薬局が分布の“右側(必要点数が高い側)”にいるなら、Ⅰだけでは厳しいかもしれません。この現実は、先に見ておいたほうが安全です。
事務負担がネック:森委員の指摘はここが核心

今回、現場目線で一番重いのは「事務負担」です。
森委員(日本薬剤師会副会長・中医協委員)の発言からも、以下の論点が出ています。
- 公平性の観点から新たな評価を設けることに賛同
- 書類作成の負担で算定を躊躇する薬局が出ないよう、様式の簡素化を要望
- 同一法人に複数薬局がある場合の法人単位の計算・按分にも賛同
でも…法人一括で按分って、逆に揉めそうじゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
揉めない設計にするには、按分ルールを“先に”決めておくことですね。たとえば『処方箋枚数比』か『対象職員給与総額比』か。どちらにしても、後出しで決めないのが重要になります。
私なら、制度が確定する前でも、次の“下準備”だけは先にやります。
- 対象職員の一覧(年齢、雇用形態)
- 対象職員の月次賃金(基本給・手当の区分が取れる形)
- 法人内で按分するなら、按分キーの候補(枚数/給与総額/FTE)
⚠️ やらないほうが安全なこと
点数が確定していないのに、賃金改善の具体額を社内外に約束してしまうこと。
先に数字が独り歩きすると、後で制度が変わったときに回収が大変になります。
まとめ:3.9点は「ゴール」ではなく、あなたの薬局の試算を始める“基準点”

調剤報酬改定2026の賃上げ対応は、基本料アップではなく、医科で先に走ったベースアップ評価料に近い枠組みを、調剤に持ち込む案です。
私が押さえたいポイントは3つです。
- 中央値3.9点は“必要点数分布の真ん中”で、全薬局に最適化された数字ではない
- 医科の前例から見て、中央値で(Ⅰ)を決める設計は踏襲されやすいが、端数・届出実績の差などは動き得る
- 月1200枚なら収入は約4.7万円。賃上げコストは給与水準と対象者で勝負が決まる
次の一歩として、あなたが今日できるのはこの2つです。
- まずは対象職員の棚卸し(年齢・雇用形態)
- つぎに“3.9点前後”で仮試算し、Ⅰで足りるか見立てる
最後に。ここまでの内容は「案」を含みます。確定情報は、中医協資料や厚労省の告示・通知、地方厚生(支)局の届出様式で必ず確認してください。私なら、確定版が出た瞬間に動けるよう、今は“準備8割”で止めておきます。


