2026年3月、ドラッグストアチェーン「コクミン」で管理薬剤師の無許可兼務が発覚しました。
でも、これは「コクミンだけの問題」ではありません。
SNS上では「ひどい」「業界のイメージが下がる」という声が相次ぎましたが、私がいちばん引っかかったのは別の声でした。「他人事じゃない」「うちの職場も…」という、業界人らしき投稿の数です。
2018年には東邦ホールディングス傘下のファーマみらい(全国350店超)と新潟のエヌ・エム・アイ(37店舗)が、同じ薬機法違反で行政処分を受けています。大手も中小も、同じ問題を繰り返してきた。それがこの問題の実態です。
この記事では、過去の行政処分事例を整理した上で、「なぜ繰り返されるのか」という構造を読み解き、あなたの職場で今すぐ確認すべきことと、問題を発見したときの動き方を具体的にお伝えします。
📋 この記事でわかること
- 2018年に起きた2件の行政処分事例(大手・中堅チェーン)の詳細
- 「なぜ大手でも繰り返されるのか」という構造的な理由
- 薬機法上のルールとグレーゾーンの見極め方
- 自職場のリスクを確認するチェックリスト
- 内部通報制度の使い方と通報前に準備すること
目次
1. 2018年に何が起きていたか——大手チェーンでも同じことが起きていた
ファーマみらい事件(東京都・2018年4月)
まず、「大手だからコンプライアンスは厳しいはず」という前提を、一度外してください。
2018年4月9日、東京都は大手薬局チェーン「ファーマみらい」(東邦ホールディングス傘下、全国350店超)に対して、薬機法第72条の4第1項に基づく改善措置命令を出しました。東京都内だけで50店が開設許可を受けていた同社で確認された違反は、3層構造になっていました。
🔴 第1層:管理薬剤師の無許可兼務
都内27店舗で、管理薬剤師が所属店舗を不在にして他店舗に「ヘルプ」として派遣され、薬事業務に従事していました。
🔴 第2層:届出外薬剤師による調剤・服薬指導
15店舗では、管理者および届出薬剤師がいない状況で、届出のない薬剤師が調剤と服薬指導を行っていました。管理薬剤師の兼務問題とは別の違反が重なっていたことを意味します。
🔴 第3層:薬剤師配置届出の不備
処方箋の応需枚数に応じて配置すべき薬剤師数の届出がない薬局が25店舗ありました。
誤解されやすいので先に言うと、ファーマみらいの問題は「管理薬剤師を他店に派遣した」という一点ではありませんでした。薬剤師の配置・届出という業務の根幹が、複数の店舗で同時に崩れていたのです。
でも…350店舗以上ある大手が、こんな状態になっていたってことですか? コンプライアンス部門とか、監査機能はなかったんでしょうか。

オカメインコ

ポッポ先生
大手は確かに内部監査機能を持っていることが多いです。ただ、「仕組みがある」ことと「機能している」ことは別の話ですね。店舗数が増えると、エリアマネージャーへの権限委譲が大きくなる。現場単位で問題が処理されると、本社の目には届きにくくなります。今回のコクミンもエリアマネージャー2人が指示していた構図です。大手の構造リスクは「スケールが大きい」だけでなく、「現場管理職に意思決定が集中しやすい」点にあります。
この問題は2018年で終わっていない——ファーマみらいのその後
さらに重要なのは、ファーマみらいがその後も処分を受け続けたことです。
- 2018年4月:東京都が改善措置命令。都内50店舗のうち違反確認が多数。
- 2021年8月:富山県魚津市の運営薬局が調剤報酬の不正請求で保険薬局の指定取消処分。
- 2021年12月:東邦HDが公式発表。「当事者および当時の代表取締役をはじめとする責任者を処分」「組織変更による指揮命令系統の見直し」を実施と説明。
- 2022年3月:別の2店舗で「付け替え請求」(他薬局で行った調剤を自薬局で行ったように付け替え)が判明。保険指定取消相当の処分。
「一度指導されれば組織は変わる」——残念ながら、そうとは限らないことを、この事例は示しています。
エヌ・エム・アイ事件(新潟県・2018年11月)
同じ年の11月、今度は新潟県が動きました。対象は株式会社エヌ・エム・アイ(新潟県長岡市、現ALPHASグループ傘下)。新潟県内に37店舗を展開する薬局チェーンです。
🗂 違反の概要
- 新潟県が違反を確認した店舗:27店舗
- 新潟市内10店舗についても新潟市が同様の違反として行政指導
- 違反内容:県知事の許可を受けずに管理薬剤師を複数薬局で薬事業務に従事させた(薬機法第7条第2項・第3項違反)
- 薬剤師の勤務時間数の届出も適切に行われていなかった
37店舗中37店舗が対象という、事実上の全店規模での違反でした。
2018年という一年だけで、全国350店超の大手チェーンと地方37店規模の中堅チェーンの、両方が同じ違反で処分されています。「大手だから安全」でも「中小だから仕方ない」でもなく、構造的な問題として繰り返されている——そう見るほうが現実に近いです。
2. なぜ繰り返されるのか——「違法と知りながら」が起きる構造

人手不足と店舗数拡大の歪み
ここ、迷いやすいところです。「なぜ違法と知りながら続けるのか」と問うとき、「経営者の倫理観の問題」で片付けてしまうと、構造が見えなくなります。
背景にあるのは、薬局数の増加と薬剤師の絶対数のミスマッチです。厚生労働省の調査によれば、国内の薬局数は2017年度末時点で約5.9万店に達していました(その後も増加傾向)。一方、薬剤師の養成は短期間では増やせません。
この状況で急速に店舗を展開してきたチェーンが「管理薬剤師の確保が追いつかない」という実態に直面するのは、ある意味で数字上の帰結です。実際、厚生労働省は2019年度中にも管理薬剤師の複数薬局兼務を認める規制緩和を検討していました。行政側も「実態として兼務が起きている」という前提で政策を動かしていた、ということです。
「エリアマネージャー」という構造的弱点
今回のコクミンの件でも、ファーマみらいの件でも、問題が起きたのは「現場管理職レイヤー」です。
エリアマネージャーは複数店舗の数字を管理する立場です。欠員が出たとき、閉局すれば売上が消える。ヘルプで乗り切れば数字は守れる。その判断を繰り返すうちに、「やむを得ない措置」が「通常業務」にすり替わっていきます。
コクミンの件では、違法と知りながらエリアマネージャー2人が指示を続け、他人の印鑑まで使った偽装事例があったとされています。印鑑偽装は「ついやってしまった」ではなく、「隠蔽の意図があった」という意味です。この点は、単純な法令違反とは一段重みが異なります。
正直、うちも人が足りないとき似たようなことになりそうで…。でも断ったら「協調性がない」って思われそうで怖いんですよね。

オカメインコ

ポッポ先生
その空気は現実にあります。否定しません。ただ押さえておきたいのは、「断ること」と「違反に加担すること」のリスクの非対称性ですね。断った場合のリスクは評価への影響。加担した場合のリスクは行政処分・調剤報酬返還・場合によっては薬剤師個人への法的責任です。「上司に言われた」は完全な免責にはなりません。私ならまず、指示を口頭で受けた場合でも、内容をメール・チャットで文書化するところから始めます。「〇〇の件、今日の指示通り△△店に行く形でよかったでしょうか」と送るだけで、記録として残ります。
「みんなやってる」が最も危険な感覚
SNSの反応の中に「ドラッグストアでは当たり前」「何十年も前からやってる」という声がありました。現場でこの感覚が生まれるのは理解できます。ただ——
「常態化している」は「合法化されている」とは違います。薬機法第7条は、「みんなやってる」を免罪符にしません。
発覚した場合、「業界慣行だった」という主張は通らず、行政処分・調剤報酬返還・保険指定取消という結果だけが残ります。いまの状況だと、感覚が鈍くなる前に「基準を確認する」習慣が大切です。
3. 薬機法上の基本ルールを整理する——グレーゾーンの見極め方
原則:1店舗専従
薬機法第7条は、薬局開設者に対して「薬剤師を管理者としなければならない」と定めています。そして管理薬剤師は、その薬局のみを管理することが原則です。
「原則」と書いたのは、例外が存在するからです。ただし例外は限定的で、都道府県知事の許可を受けた場合(へき地等で専任管理者の確保が困難な場合など)に限られます。
⚠️ ここが誤解されやすい境界条件です
宮城県では「薬局の管理に支障をきたさないよう、原則として3店舗まで」という兼務許可制度が存在しますが、これはあくまで許可制であり、無許可での兼務とは根本的に異なります。
「違法な無許可兼務」と「許可を受けた合法的兼務」は、見た目の行為は似ていても、法律上は別物です。
「応援」と「兼務」の線引き——どこまでがOKか
現場でよく起きる疑問として、「一時的に他店を手伝うのはどこまでOKか」があります。私ならまず、この2点から確認します。
確認ポイント①:在籍店の管理が実質的に空白になっているか
他店に行っている間、在籍店の調剤・薬歴管理・監査が誰によって担保されているか。「空白になっている」のであれば、管理業務の放棄として問題になる可能性があります。
確認ポイント②:「業務補助」か「管理者としての行為」か
他店での行為が「管理者としての業務」(処方箋受け取り・監査・調剤責任の帰属など)を含んでいる場合、単純な業務補助とは言えなくなります。
4. あなたの職場を確認するためのチェックリスト
心当たりありませんか。以下の項目を、いまの職場に当てはめてみてください。
| 確認項目 | 問題なし | ⚠️ 要注意 |
|---|---|---|
| 他店への応援・派遣の指示を受けたことがある | ない | ある(特に業務時間中) |
| 応援中、在籍店の管理業務が実質的に止まっていた | ない | あった |
| 他人の書類・印鑑を使って業務した、または指示された | ない | ある |
| 欠員時の閉局基準が明文化されている | 明確にある | 曖昧または「都度相談」 |
| 届出していない薬剤師が調剤・服薬指導を行っていた | ない | あった |
| 上司から口頭だけで「なんとかしてほしい」と頼まれた | ない | ある |
| 応需枚数に応じた薬剤師配置の届出を確認したことがある | ある | ない・わからない |
「要注意」が1つでもある場合は、現状を記録しておくことを勧めます。発覚した際、「知らなかった」よりも「知っていたが対応できなかった」状況のほうが、自己防衛の観点では記録があることが重要になります。
5. 内部通報制度——使い方と、使う前に知っておくこと
今回の発覚も「内部通報」だった
コクミンの件は、昨年末の内部通報によって発覚しました。SNSでも「内部通報が機能してよかった」という声が上がっていましたが、これは制度として機能した好例です。「言っても変わらない」という諦めの前に、選択肢を整理しておくことが大切です。
公益通報者保護法の基本(2022年改正)
- 従業員数300人超の事業者は、内部通報窓口の設置が義務(300人以下は努力義務)
- 通報者への解雇・不利益取扱いの禁止
- 通報者の氏名等を漏洩した担当者への刑事罰の可能性
内部通報って、バレたら職場にいられなくなる気がして。匿名でできるのかも、よくわからないし…。

オカメインコ

ポッポ先生
怖さは現実的です。匿名通報が可能かどうかは職場の窓口によって異なります。社内窓口に不安がある場合は、外部通報という選択肢があります。薬機法違反であれば都道府県の薬務課・保健所が窓口になりますし、消費者庁の公益通報相談窓口(0570-090-110)では制度の使い方自体を相談できます。「社内に言えない」と「何もできない」の間には、必ず第三の道があります。
通報先の整理
| 通報先 | 対象 | 匿名可否 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 社内コンプライアンス窓口 | 社内違反全般 | 会社による | 対応が早い場合も、隠蔽リスクも存在 |
| 都道府県薬務課・保健所 | 薬機法違反 | 可(要確認) | 行政調査・改善措置命令につながる |
| 消費者庁 公益通報相談窓口 | 法令違反全般 | 可 | 制度相談も可能(0570-090-110) |
| 労働局・労働基準監督署 | 労働条件の問題 | 可 | 薬機法ではなく労働法の問題として対応 |
| 弁護士(医事・労働専門) | 全般 | — | 通報前の法的整理・リスク評価に有効 |
通報前に準備すること
逆に言うと、感情的なタイミングで動くのは避けたほうが安全です。内部通報は「怒り」ではなく「記録」で動くものです。
- 事実の記録:日時・場所・指示者・具体的な内容をメモする。「〇月〇日〇時、△△マネージャーから□□店への応援を指示された」という形で。
- 証拠の保全:メール・チャット・勤務記録など。ただし、会社のシステムへの不正アクセスや違法な録音は避ける。
- 「事実」と「推測」を分ける:通報内容は事実ベースで記述する。推測を混ぜると信頼性が下がる。
- 専門家への相談:弁護士(労働・医事法専門)への事前相談も選択肢。法的なリスクを整理した上で動くことで、通報後の身の守り方が変わります。
6. 「おかしい」と感じる感覚を鈍らせないために
職場に長くいると、「これが普通」という感覚が育ちます。現場だとここで詰まりがちです——「みんなやってる」「前からこうだった」という空気の中で、自分の感覚のほうがずれているように思えてくる。
その感覚は「法律が変わった」サインではなく、「違法状態への慣れ」サインです。「おかしい」と感じた直感は、意外と正確なことが多いです。その直感を流さないこと——それが最初の一歩です。
でも正直、毎日の業務でいっぱいいっぱいで、法律を確認する余裕なんてないんですよ…。

オカメインコ

ポッポ先生
その余裕のなさ自体が、構造的な問題を反映しています。だからこそ「定期的に確認する」より、「おかしいと感じたときに調べる」トリガー型の動き方が続きます。以下の確認先を、いまのうちにブックマークしておくだけでいい。手が動くのは、必要になったときです。
📌 確認先(一次情報)
- 消費者庁 公益通報者保護制度:https://www.caa.go.jp/
- 公益通報相談窓口(電話):0570-090-110
- 厚生労働省 薬機法関連法令:https://www.mhlw.go.jp/
- 日本薬剤師会(倫理規定・相談窓口):https://www.nichiyaku.or.jp/
- 各都道府県薬剤師会・薬務課(管轄ごとに異なるため各自で確認)
まとめ——問題は「他人事」のうちに考える

過去の行政処分事例と今回の問題から見えてくるのは、管理薬剤師の兼務問題が「特定の悪い経営者による例外的な事件」ではないということです。大手・中小を問わず、2018年に複数件、2026年にも再び——繰り返されてきた構造的な問題です。
📋 今回確認したこと
- 管理薬剤師の1店舗専従は薬機法の原則ルール(例外は都道府県知事の許可が必要)
- ファーマみらい(東邦HD傘下・全国350店超)が2018年4月、東京都内27店舗で違反、15店舗で届出外薬剤師による調剤・服薬指導も確認され改善措置命令
- エヌ・エム・アイ(新潟・37店舗)が2018年11月、実質全店対象規模で同種の違反により改善措置命令
- ファーマみらいは2021〜2022年にも不正請求で追加処分を受けている
- コクミン(2026年3月)では違法認識のうえで指示が継続し、印鑑偽装も確認された
- 今回の発覚は内部通報によるもので、制度が機能した事例である
あなたへの提案——小さな一歩から
- 自職場の欠員時対応ルールを確認する:「不在時は閉局」という基準が明文化されているか確認してください。
- 口頭指示を文書化する:「応援に行くよう言われた」は、チャットやメールで記録として残してください。
- 通報窓口を今日調べておく:消費者庁の電話番号(0570-090-110)と管轄都道府県の薬務課の連絡先を、いまのうちにメモしておくだけで十分です。
- 「一次情報」に触れる習慣を持つ:薬機法第7条の条文を年に一度読み直すだけで、基準の感覚が保たれます。
薬剤師の専門性は、患者の安全のためにあります。その安全を担保する制度が内側から崩れるとき、それを止める力は現場の薬剤師にしかない場面があります。「問題は他人事のうちに考える」——それが、自分を守ることにも、患者を守ることにもつながります。


