「子どもがおなかが痛いと泣いています」
腹痛相談は、便秘のような“よくある原因”から、腸重積・虫垂炎のような“急ぐ病気”まで振れ幅が大きく、薬局でも判断に迷いやすいテーマです。
【この記事の核】
「痛みが全体として消えていくか/増していくか」という一本の判断軸。この視点は保護者にも伝えやすく、自宅観察(様子見)と受診の分かれ目を作れます。
この記事では、薬局での聞き取りチェックリスト、受診すべき“赤旗”、そして便秘・腸重積・虫垂炎の見分けポイントを、会話例つきで整理します。
目次
まずはここから:薬局で使える「6つの質問」+追加2問
腹痛は原因より先に、重症感(危ないサイン)を拾うのが最優先です。
基本の6問(あなたの原稿をベースに改善)
| 全身状態 | 「いま歩けますか? ぐったりして寝たままですか? 痛みの合間に遊べますか?」 |
| 痛みの経過 | 「だんだん強くなっていますか? それとも全体として落ち着いてきていますか?」 |
| 痛む場所 | 「おへその周り? 右下? 触ると一番いやがる場所はどこですか?」 |
| 排便 | 「最後にうんちはいつ? 硬い便・コロコロ便は? 出した後に楽になりますか?」 |
| 嘔吐・下痢 | 「吐きましたか? 何回? 下痢は? 水分は摂れていますか?」 |
| 発熱 | 「熱はありますか? 何度くらい?」 |
“見逃し防止”の追加2問(重要)
- 嘔吐の色:「緑っぽい(胆汁の色)吐き方はありますか?」
→ 胆汁性嘔吐は腸閉塞など外科的疾患を疑う赤旗として扱われます。 - 下腹部+陰嚢(男児):「足の付け根や陰嚢が痛い・腫れている・赤いはありますか?」
→ 小児の急性腹痛では精巣捻転など“おなか以外が原因”も重要で、ガイドラインでも注意喚起されています。
聞き方のコツ:子どもは部位をうまく言えないことが多いので、保護者には「どこを押すと一番いやがりますか?」をセットでお願いすると、情報の質が上がります。
受診勧奨の判断:いちばん使えるのは「増していく痛み」
腹痛の“危険側”を拾うのに有効なのが、あなたの原稿の核であるこの整理です。
すぐ受診(当日中〜至急)を勧める:「増していく痛み」+赤旗
次のどれかがあれば、様子見より受診に倒すのが安全です。
- 痛みがだんだん強くなる/局在化する(特に右下腹部)
- 触ると強く嫌がる・おなかが硬い(腹膜刺激を疑う:ガード・板状硬など)
- 痛みが先で、その後に嘔吐が出る(外科的疾患で示唆されやすい所見として挙げられます)
- 胆汁性(緑色)の嘔吐
- 血便(鮮血〜粘血便)
- 顔色不良、ぐったり、反応が鈍い
- (男児)陰嚢の痛み・腫れ・赤み

ポッポ先生
腹痛は“原因当て”よりも、悪化しているかが大事です。
「全体として軽くなっていますか? それとも強くなっていますか?」
ここが“強くなっている”なら、受診をおすすめします。
家庭で様子見しやすい:「消えていく痛み」
次がそろうなら、短時間の経過観察が現実的なことが多いです(ただし赤旗がない前提)。
- 痛みの波はあるが、全体として落ち着いてきている
- 水分は摂れる
- 痛みの合間に遊べる/普段の反応がある
- 触っても「飛び上がるほど」ではない
“痛いと言うけど遊べてる”は様子見寄り?

オカメインコ

ポッポ先生
“遊べる=重症感が低い”ことが多いですね。
ただし、痛みが増す方向に転ぶなら、その時点で受診に切り替えましょう。
便秘:腹痛相談でいちばん多い“現実解”
腹痛=胃腸炎や虫垂炎を想像しがちですが、研究では小児の腹痛の原因として便秘が非常に多いことが示されています(プライマリケア集団で、急性腹痛の原因として便秘が最多だった報告など)。
便秘を疑うヒント(保護者に伝えやすい)
- 「最後の排便が数日ない/硬い/出すと痛い」
- 「便が出た後に楽になる」
- 「食事量が減っているが、水分は摂れる」
- 「おへその周りが痛いと言うことが多い」
薬局での対応:安全側に寄せた提案
- まずは 水分・トイレ環境(我慢していないか) の確認
- OTCを提案する場合も、“急ぐサインがない”ことを確認してから
- 便秘が反復する場合は、小児科での継続フォローを推奨(慢性化しやすい)
※浣腸や下剤の具体的用量は、製品・年齢・体格で変わるため、この記事では一般論に留め、実運用は添付文書・用法に従う前提にしています(薬局の安全性と再現性を優先)。
見逃したくない2大疾患:腸重積と虫垂炎
腸重積(0〜2歳は特に要注意)
腸重積は2か月〜2歳に多いとされ、典型は「間欠的な強い腹痛」です。
そして重要なのが、いちごジャム状便(赤い粘血便)は“後から出ることがある”点。三徴(腹痛・腫瘤・いちごジャム便)は全員に揃わない(約1/3)ため、「血便がないから否定」とはしないのがコツです。
疑うサイン
- 周期的に激しく泣く(痛い→少し落ち着く→また痛い)
- 嘔吐(初期は非胆汁性でも、進行で胆汁性になることも)
- ぐったり・顔色不良(“ずっと”元気がないこともある)
- 血便(遅れて出ることも)

ポッポ先生
0〜2歳で“泣いては落ち着く”を繰り返して、合間にぐったり。これは血便がなくても腸重積を疑って、受診です。
虫垂炎(学童期〜:痛みの“移動”がヒント)
虫垂炎の古典的な経過は、おへそ周りの痛み→右下腹部へ移動。小児でもこのパターンは重要な手がかりです。
疑うサイン
- 痛みが右下腹部に寄ってきた/右下が一番痛い
- 歩く・体を動かすと痛い(ジャンプで悪化なども“動作痛”として臨床で使われます)
- 食欲低下、発熱
- 痛みが先で、その後に嘔吐

ポッポ先生
“右下が痛い+痛みが増している”は、今日中の受診で伝えましょう。早いほど治療が小さく済む可能性があります。
薬局でのOTC対応:提案できること/避けたいこと
腹痛で来局されたら、何を出せばいいですか?

オカメインコ

ポッポ先生
“まず赤旗がないこと”が先です。原因が不明で強い腹痛には、鎮痛薬で痛みを隠すより、受診につなぐ方が安全です(評価が遅れるリスクを考える)。
判断フロー
- 便秘が濃厚:整腸・生活提案+必要に応じて便秘対策OTC(※用法は製品に従う)
- 軽い胃腸不調(元気はある・水分OK):整腸剤など
- 原因不明の強い腹痛/赤旗あり:OTCで粘らず受診勧奨
まとめ(保護者に伝える“1フレーズ”)
- 腹痛は「原因当て」より、悪化しているかが大事
- 増していく痛み+嘔吐(特に胆汁性)+血便/ぐったりは受診
- 0〜2歳の周期的な激しい泣きは腸重積を疑う(血便は遅れることも)
- 学童期の痛みの移動(へそ→右下)は虫垂炎の典型
- 便秘は現実に多い:排便状況の確認は最優先
保護者への最強の一言
「痛みは、全体として軽くなっていますか? それとも強くなっていますか?
強くなるなら受診、軽くなるなら短時間の様子見がしやすいです。」
参考情報
ガイドライン・総説
- PubMed: Acute Abdominal Pain in Children: Evaluation and Management(外科紹介を示唆する所見:痛み増悪、胆汁性嘔吐、血便など)
- Royal Children’s Hospital Melbourne: Acute abdominal pain(胆汁性嘔吐、腹膜刺激、陰嚢症状)
- Royal Children’s Hospital Melbourne: Intussusception(腸重積の典型と“全員に揃わない三徴”)
- NCBI StatPearls: Pediatric Appendicitis(痛み移動、嘔吐の順序など)
- PubMed: Constipation as cause of acute abdominal pain in children(便秘が急性腹痛の原因として最多だった報告)
あなたの原稿の出典
『これからの小児救急電話相談ガイドブック』(へるす出版)著者:福井聖子、白石裕子
この記事を「薬局の電話対応・カウンター対応」用に、①受付→②赤旗チェック→③便秘/胃腸炎/要受診の分岐→④保護者への説明テンプレ の1枚フローチャート(文章版)にして、スタッフ配布用の形にも整えられます。


