「子どもが何回も吐いています」「水を飲ませてもすぐ吐いてしまって……」——嘔吐の相談は保護者が最も困るテーマの一つです。発熱と違い、嘔吐は「見た目に衝撃的」で、保護者のパニックは一層大きくなりがちです。
嘔吐への対応で大事なのは、吐いた直後に水分を与えないことと、嘔吐の原因を見極めるための情報収集です。私たちが伝えるべきは「今、何をすべきか」と「いつ受診すべきか」の2点です。
目次
まず確認すること——電話・窓口で聞くべき7項目
保護者から嘔吐の相談を受けたら、以下の7項目を必ず確認しましょう。
| 確認項目 | 聞き方の例 | 確認する理由 |
|---|---|---|
| 嘔吐の回数と内容 | 「何回吐きましたか?吐いたものの色や量は?」 | 回数で脱水リスクを推測。内容物で原因を絞る |
| 発熱の有無 | 「お熱はありますか?いつ頃から?」 | 感染症(胃腸炎、インフルエンザなど)の有無 |
| 下痢の有無 | 「下痢もありますか?回数は?」 | 胃腸炎の典型症状。回数で脱水リスク評価 |
| 腹痛の有無 | 「おなかを痛がっていますか?どの辺り?」 | 急性腹症(盲腸炎、腸重積など)の鑑別 |
| 水分摂取 | 「最後に水分を摂ったのはいつですか?」 | 脱水の進行状況を把握 |
| 全身状態 | 「ぐったりしていませんか?おしっこは出ていますか?」 | 脱水症状と全身状態の重症度評価 |
| 吐いたものの色 | 「緑色・血混じりではないですか?」 | 最重要。緑色は胆汁性嘔吐=緊急 |

ポッポ先生
嘔吐の色は重要な判断材料です。“吐いたものは何色でしたか?”は必ず聞いてください。緑色は胆汁性嘔吐を疑い、すぐ受診です。黄色がかった程度は胃液なので問題ありません。
嘔吐物の色と考えられる原因
| 色・性状 | 考えられる原因 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 緑色(黄緑〜深緑) | 胆汁性嘔吐 → 腸閉塞、腸重積 | 🔴 緊急(即受診) |
| 血混じり(鮮紅色・コーヒー状) | 消化管出血、メレナ | 🔴 緊急(即受診) |
| 黄色(胃液のみ) | 胃内容物のみの吐出 | 🟡 注意(観察) |
| 食べ物の色 | 通常の嘔吐 | 🟢 軽症(経過観察) |
| 噴水状(勢いよく) | 幽門狭窄(乳児) | 🔴 緊急(即受診) |
受診勧奨の判断——ここは迷わず「受診してください」
以下に一つでも当てはまる場合は、受診を強く勧めてください。
🚨 すぐ受診を勧めるケース(救急車を要検討)
- 吐いたものが緑色(胆汁性嘔吐) → 腸閉塞の可能性
- 吐いたものに血が混じっている → 消化管出血
- ぐったりして反応が鈍い → 重度脱水・敗血症
- 6時間以上おしっこが出ていない → 脱水の進行
- 噴水のように勢いよく吐く(乳児) → 幽門狭窄の可能性
- 激しい腹痛を伴う → 急性腹症
- 頭部打撲の後に嘔吐 → 頭蓋内出血
⚠️ 今夜中に受診を勧めるケース
- 4時間以上おしっこが出ていない → 中度脱水
- 水分が全く摂れない → 経口補水が不可能
- 嘔吐が10回以上 → 重度脱水・電解質異常のリスク
- 高熱(39℃以上)を伴う嘔吐 → 重症感染症の可能性
保護者に伝える水分補給の方法——「30分ルール」
「吐いた直後は30分〜1時間は何も飲ませず、お腹を休ませてください」
これは保護者にとって意外な情報です。「吐いたらすぐ水分を!」と思いがちなので、なぜ待つ必要があるのかも説明すると納得度が上がります。
経口補水のステップ(段階的アプローチ)
| タイミング | 何を | どのくらい |
|---|---|---|
| 吐いてから30分〜1時間 | 何も与えない(絶飲食) | — |
| 1時間後〜 | 経口補水液・イオン飲料 | ティースプーン1杯(5ml)ずつ、5分おき |
| 30分経過し、吐かなければ | 同上 | 量を倍に(10mlずつ) |
| 2〜3時間経過し、安定していれば | 経口補水液 + 軽食 | おかゆ・うどん・パンなど少量 |
“経口補水液がないんですが、水でもいいですか?”と言われたら?

オカメインコ

ポッポ先生
水だけだと電解質が不足します。“お水に少し塩を入れて、砂糖を加えたもの”で代用できます。目安は水1Lに塩3g+砂糖40g。ただし味が合わないとお子さんが飲まないので、イオン飲料があればそれでもOKです。
自家製経口補水液のレシピ
- 材料:水1L(500mlなら半分)、塩小さじ1杯(約3g)、砂糖大さじ3杯(約40g)
- 作り方:水を沸騰させ冷まし、塩と砂糖を加えてよく溶かす
- 味の目安:「薄いスポーツドリンク」程度。濃すぎると吐く原因に
- 注意:作り置きはせず、できたてを使用。飲み残しは捨てる
嘔吐時の薬に関する相談——坐薬が使えない場合
嘔吐中は飲み薬が使えません。保護者から聞かれやすいポイントです。
| 相談内容 | 対応・伝え方 |
|---|---|
| ナウゼリン坐薬がある | 「使用OK。嘔吐に効きます。30分以上あけてから解熱坐薬を」 |
| 飲み薬を吐いた | 「直後なら再投与、30分以降ならほぼ吸収済みなのでそのままでOK」 |
| 対症療法の薬が飲めない | 「飲めないなら無理に飲ませず、水分補給に専念してください」 |
| 解熱坐薬を使いたい | 「嘔吐が落ち着いてから。今は水分補給が先です」 |
脱水症状の見極め——保護者が確認できるポイント
脱水は嘔吐・下痢の最も危険な合併症です。保護者に早期発見のポイントを伝えましょう。
脱水の程度と症状
| 脱水の程度 | 症状 | 対応 |
|---|---|---|
| 軽度(3〜5%体重減) | 口渇、少し元気がない、尿の色が濃い | 経口補水で対応可能 |
| 中度(6〜9%体重減) | 4〜6時間おしっこが出ない、目がくぼむ | 積極的経口補水または受診 |
| 重度(10%以上体重減) | 6時間以上おしっこが出ない、ぐったり、意識障害 | 即受診(救急) |
保護者が確認できる簡易チェック「指で確認する3つのポイント」
- 口唇 → 乾燥していないか?つやがあるか?
- 皮膚のツヤ → つまんで離したらすぐ戻るか?(遅いと脱水)
- 目 → くぼんでいないか?涙は出るか?
保護者が安心できるクロージング——最後にこう伝える
- 「今は嘔吐が落ち着くのを待つことが大切です。30分は何も飲ませず、そのあとティースプーン1杯ずつ経口補水液を試してください」
- 「おしっこが出た、または機嫌が良くなったら回復のサインです」
- 判断に迷う場合は、#8000(小児救急電話相談)への案内も有効です

ポッポ先生
保護者は“子どものためにできることがある”とわかると安心します。”30分待って、それから少しずつ飲ませてあげてくださいね”——これだけでも行動の指針ができて、焦りが減りますよ。
まとめ——この相談で押さえるべきポイント
- 吐いたものの色を必ず確認 ——緑色は緊急(腸閉塞の可能性)、血も緊急
- 直後は30分〜1時間絶飲食、そのあと少量ずつ ——ティースプーン1杯から開始
- 6時間以上おしっこが出ない → 脱水 → 受診 ——脱水の最も確実なサイン
- 経口補水液を勧める(なければ塩+砂糖水で代用) ——自家製レシピも伝える
- 坐薬の順番はナウゼリンが先、解熱剤はあと ——30分以上の間隔をあける
- 判断に迷ったら#8000を案内 ——小児科医や看護師が24時間対応
参考情報
#8000 小児救急電話相談
- 📞 電話番号: #8000(プッシュ回線・携帯電話)
- ⏰ 対応時間: 都道府県により異なります
- 💰 相談料: 無料(通話料は自己負担)
本記事は薬剤師向けの実践マニュアルとして作成しました。保護者のパニックを和らげつつ、適切な医療行動を促す——そのバランスが、質の高い薬局業務につながります。


