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ボルズィ錠は「運転禁止ではない睡眠薬」——その意味を正しく理解していますか?

2025年、国内4番目のオレキシン受容体拮抗薬として登場したボルズィ錠(一般名:ボルノレキサント)。多くの薬剤師が注目しているのは「添付文書に運転禁止の記載がない」という点ではないでしょうか。

「運転できる睡眠薬が出たらしい」——そんな声を現場で聞くことも増えてきました。ただ、ここで立ち止まって考えてほしいのです。本当にそういう意味なのでしょうか?

私自身、このニュースを聞いたとき「なぜボルズィだけが?」と疑問に思いました。デエビゴやベルソムラ、クービビックは運転禁止なのに、なぜ同じオレキシン拮抗薬のボルズィは違うのか。その答えは、2022年に厚生労働省が通知したガイドラインと、2025年1月に発出された「補遺」、そして各薬剤の承認時期にありました。

この記事では、ボルズィの運転に関する注意喚起がどのような科学的根拠と制度的背景に基づいているのか、そして私たち薬剤師が患者さんにどう説明すべきかを整理します。結論を先にお伝えすると、「運転禁止ではない」は「運転しても安全」とイコールではありません。

1. 2022年ガイドラインと2025年「補遺」——添付文書記載が変わった理由

従来の添付文書記載の問題点

これまで、向精神薬の多くは添付文書で「服用中は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないこと」と記載されてきました。私たち薬剤師はこの記載に基づき、患者さんに運転中止を指導しています。

でも、ここで素朴な疑問が浮かびませんか?「実際にどの程度、運転に影響するのか」という科学的なデータは、多くの薬剤で十分に検討されていなかったのです。

でも、眠くなる薬なんだから、運転禁止にしておいた方が安全じゃないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

その考えは一理あります。ただ、自動車が運転できないことは患者さんの社会生活に大きな影響を与えるという現実もあります。地方では車がないと通院すらできない方も多いですよね。科学的に評価して、適切な注意喚起を行う方が、患者さんにとっても安全なんです。

2022年12月のガイドライン通知

厚生労働省は2022年12月27日、「向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン」を通知しました。このガイドラインの特徴は以下の通りです。

  • 向精神薬の運転への影響を「科学的に評価する方法」を標準化
  • 実車試験または運転シミュレーターによる評価を推奨
  • 主要評価項目として「SDLP」(車線内でのふらつき)を使用
  • 「臨床的に意味のある障害」の基準として、血中アルコール濃度0.05%相当の影響を閾値に設定

ここ、迷いやすいところです。このガイドラインは「運転禁止を外すため」のものではありません。「根拠に基づいて最適な注意喚起を行うため」の枠組みなのです。

2025年1月の「補遺」——添付文書記載の4カテゴリー分類

2025年1月31日、厚生労働省は重要な「補遺」を発出しました。これが添付文書の記載を決定づける具体的な分類基準です。

カテゴリー運転への影響添付文書記載
カテゴリー0影響なし運転に関する制限記載なし
カテゴリー1影響の可能性あるが、臨床的に意味のある障害なし禁止ではないが、影響の可能性を説明
カテゴリー2投与初期に臨床的に意味のある障害あり(その後解消)投与初期は運転禁止
カテゴリー3投与期間を通じて臨床的に意味のある障害あり投与中は運転禁止

この補遺では、添付文書の記載について以下のように明記されています。

“添付文書の自動車運転等に関する注意喚起は…製造販売後調査や副作用報告を含む疫学研究、そして類薬の状況も考慮して総合的に判断し規定することが適切である”

承認時期が決定的に重要

ここが核心です。各オレキシン拮抗薬の承認時期を見てください。

薬剤名承認日ガイドライン・補遺との関係
ベルソムラ2014年9月ガイドライン通知前
デエビゴ2020年1月ガイドライン通知前
クービビック2024年9月24日補遺発出前
ボルズィ2025年8月25日補遺発出後

ボルズィは、4カテゴリー分類の「補遺」が発出された後に承認された初めてのオレキシン拮抗薬なのです。だから添付文書の記載方式が他の3剤と異なっています。

2. 添付文書の記載を正確に比較する——「運転禁止」と「慎重に判断」の違い

4剤の添付文書記載(重要な基本的注意8.1項)

実際の添付文書を確認してみましょう。心当たりありませんか?「運転禁止」と思っていた薬剤の記載を、正確に把握できているでしょうか。

薬剤名添付文書8.1項の記載(要約)実務上の解釈
ベルソムラ自動車の運転等…に従事させないよう注意すること運転禁止
デエビゴ自動車の運転等…に従事させないよう注意すること運転禁止
クービビック自動車の運転等…に従事させないよう注意すること運転禁止
ボルズィ自動車の運転等…の適否を慎重に判断し、危険を伴う作業等を行う場合には十分な注意が必要であることを適切に患者に指導すること一律禁止ではない

えっ、クービビックも『注意すること』って書いてあるなら、ボルズィと同じじゃないんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

いい質問です。実は『従事させないよう注意すること』は、実務上『運転禁止』として解釈されます。一方、ボルズィの『適否を慎重に判断し』という記載は、一律禁止ではなく、患者の状態に応じて判断するという意味なんです。言葉は似ていますが、意味が全く違います。

ボルズィの添付文書記載の全文

ボルズィの添付文書8.1項を正確に引用します。

8.1 不眠症あるいは本剤の影響により、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがある。「17. 臨床成績」の項を熟知し、患者の状態を十分に把握した上で、自動車の運転等の危険を伴う機械を操作することの適否を慎重に判断し、危険を伴う作業等を行う場合には十分な注意が必要であることを適切に患者に指導すること。また、眠気等があらわれた場合には、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作に従事しないよう、患者に指導すること。

この記載のポイントは3つです。

  • 一律禁止ではない:「適否を慎重に判断」という表現
  • 臨床成績の熟知を求める:「17. 臨床成績」の項を熟知し
  • 眠気が出たら運転禁止:眠気等があらわれた場合には従事しないよう指導

逆に言うと、薬剤師には「臨床試験データを理解した上で、患者ごとに判断する」という責任が課されているのです。

3. 運転試験データを読み解く——「閾値を超えたかどうか」が分かれ目

評価指標「SDLP」とは何か

運転試験で使用される主要な評価指標がSDLP(Standard Deviation of Lateral Position:車線逸脱の標準偏差)です。簡単に言うと「どれだけ車がふらついたか」を数値化したものです。
数値が大きいほど、ふらつきが大きい=運転パフォーマンスが低下していることを意味します。

「臨床的に意味のある障害」の閾値
各試験で「臨床的に意味のある障害」の閾値が設定されています。この閾値は、一般的に「血中アルコール濃度0.05%」で生じる影響を基準としています(日本の道路交通法上の酒気帯び運転の基準は0.03%)。
ただし、ここで注意が必要なのは、試験方法(実車か、シミュレーターか)やシミュレーターの種類によって閾値の数値自体が異なることです。

私ならまず、この点を確認します。「閾値の数値が違うから、薬剤間で数字だけを比較しても意味がない」ということです。

各薬剤の試験データ

薬剤名試験方法閾値初回投与時(Day 2)反復投与時閾値超え
ボルズィシミュレーター9.23 cm10mg: 0.77 cm
20mg: 2.13 cm
10mg: -0.42 cm
20mg: -0.04 cm
なし
クービビックシミュレーター2.6 cm50mg: 2.19 cm
100mg: 4.43 cm
50mg: 0.26 cm
100mg: 0.94 cm
初回であり
デエビゴ実車2.4 cm10mg: 0.73 cm10mg: 0.74 cmなし
ベルソムラ実車2.4 cm20mg: 1.01 cm20mg: 0.48 cmなし
(偏り傾向あり)
※数値はΔSDLP(プラセボとの差)の平均値

えっ、デエビゴも閾値を超えてないのに運転禁止なんですか?それっておかしくないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

鋭い指摘ですね。デエビゴのデータはボルズィと同等か、それ以上に良好です。ただ、デエビゴが承認されたのは2020年で、ガイドラインも補遺も存在しない時代でした。制度の枠組みがなかったので、従来通りの記載になったんです。

ボルズィの試験結果の詳細

ボルズィの運転シミュレーター試験の詳細を見てみましょう。

試験デザイン

  • 61名の健康日本人成人(非高齢者+高齢者)を対象
  • 10mgまたは20mgを8日間連続投与
  • 投与後9時間に運転シミュレーター評価
  • Day 2(初回投与翌日)とDay 9(反復投与後)で測定

主な結果

  • ボルノレキサント10mg:Day 2で ΔSDLP 0.77 cm(90%CI: -0.63~2.17)
  • ボルノレキサント20mg:Day 2で ΔSDLP 2.13 cm(90%CI: 0.73~3.53)

全ての用量・時点で、90%信頼区間の上限が閾値9.23 cmを下回りました。
しかし、ここが重要です。ボルノレキサント20mgのDay 2では、90%信頼区間の下限が0を超えています(0.73~3.53)。これは統計学的にはプラセボと有意差があることを意味します。

つまり、「臨床的に意味のある閾値は超えなかった」けれども「初回投与時には何らかの影響がある可能性がある」という解釈になります。

クービビックとの決定的な違い

クービビックの試験結果を見ると、違いが明確になります。

  • Day 2(初回投与後)
    ダリドレキサント50mg:上限が閾値2.6 cmを超える
    ダリドレキサント100mg:明らかに閾値を超える
  • Day 5(反復投与後)
    両用量とも閾値未満

クービビックは反復投与後(Day 5)では閾値を下回りましたが、初回投与後(Day 2)では信頼区間の上限が閾値を超えました。
ただし、クービビックが「運転禁止」記載となった理由は、試験結果だけではありません。補遺が発出される前(2024年9月)に承認されたため、従来の記載方式が適用されたという制度的な要因もあります。

4. 「運転禁止ではない」の正しい解釈——PMDAの見解を読む

ボルズィの審査報告書を読むと、「運転禁止ではない=安全」ではないことが明確に示されています。

“9時間後の結果だけで『9時間空ければOK』といった線引きを支持するのは難しい”

つまり、「投与後9時間以降なら運転しても大丈夫」という単純なルールは設定できないということです。

医薬品第一部会での議論

さらに重要なのは、医薬品第一部会での部会委員からの意見です。

  • “十分に注意すれば自動車運転等をしてもよいという記載ではなく、リスクがあることを理解できる記載とすべき”
  • “自動車運転技能評価試験の結果解釈に誤解が生じないよう、添付文書及び資材において試験成績の詳細を注意喚起及び情報提供すべき”

現場だとここで詰まりがちです。「運転禁止ではない」という情報だけが一人歩きすると、患者さんが「運転しても大丈夫」と誤解するリスクがあるのです。

眠気の副作用は「ある」

ボルズィの臨床試験では、傾眠(眠気)の発現率は決して低くありません。

長期投与試験(最大52週間)

  • ボルノレキサント5mg群:3.8%
  • ボルノレキサント10mg群:11.5%

いまの状況だと、10mg群では「約10人に1人が眠気を感じる可能性がある」という説明になりますね。

正直、それって結構多くないですか?運転禁止じゃないのに、10人に1人は眠くなるって…

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

そうなんです。だからこそ、『禁止ではない』と『安全』は違うということを患者さんにしっかり伝える必要があります。眠気が出た人は運転してはいけない、それは変わらないんです。

5. 既存のオレキシン拮抗薬の記載は変わるのか?

2025年1月の補遺では、「既承認の向精神薬を評価する場合も本ガイドラインを参考にされたい」と明記されています。
これは何を意味するでしょうか。今後、デエビゴやベルソムラ、クービビックについても、製造販売業者が申請すれば、添付文書の記載が見直される可能性があるということです。

各薬剤の現状データから見た可能性

デエビゴ(レンボレキサント)
実車試験では、レンボレキサント2.5~10mgのいずれの用量でも、ΔSDLP平均値は0.74 cm以下と小さく、95%信頼区間の上限も閾値2.4 cmを下回りました。
誤解されやすいので先に言うと、デエビゴのデータはボルズィと同等か、それ以上に良好です。運転試験データだけを見れば、カテゴリー1(禁止ではない)に該当する可能性があります。

ベルソムラ(スボレキサント)
実車試験では、平均ΔSDLPは閾値未満でしたが、symmetry解析で「悪化側に偏る傾向」が示され、試験中止例(眠気による)も複数報告されています。
このタイプの結果だと、「平均はOKでも個人差がある」という解釈になり、添付文書の記載変更は慎重になる可能性があります。

クービビック(ダリドレキサント)
初回投与時に閾値を超えるデータがあります。補遺の4カテゴリー分類に当てはめると、カテゴリー2(投与初期に臨床的に意味のある障害あり)に該当する可能性があります。
反復投与後は閾値を下回っているため、「服用開始から一定期間は運転禁止、その後は注意」という段階的な記載に変更される可能性はあるかもしれません。

6. 薬剤師としての服薬指導——どう伝えるか

「禁止の記載がなくても運転のリスクが消えるわけではない」——この点は非常に重要です。
私自身、この指摘は非常に重要だと考えています。「運転禁止ではない」という情報を先に伝えると、患者さんは「運転していいんだ」と受け取りがちです。
しないほうが安全です、その順番で説明するのは。

推奨する説明の順序

  1. まず眠気のリスクを伝える
    「この薬は眠気が出る方が一定数いらっしゃいます。特に飲み始めの数日間は注意が必要です」
  2. 翌朝の確認を促す
    「朝起きたとき、眠気やふらつき、集中力の低下が少しでもあれば、その日は運転を避けてください」
  3. その上で添付文書の記載を説明
    「添付文書上は運転禁止の記載はありませんが、これは『運転しても安全』という意味ではありません。ご自身の状態を確認した上で判断してください」
  4. 飲み始めの注意を強調
    「特に最初の1週間程度は、運転に対して慎重になってください」

特に注意が必要な患者群
臨床試験のサブグループ解析では、以下の傾向が示されています。

  • 高齢者:非高齢者と比較してΔSDLPがやや高い傾向
  • 女性:男性と比較してΔSDLPがやや高い傾向

統計的に有意ではないものの、これらの患者群では「より慎重に」という姿勢で指導するのが安全です。
また、睡眠時間が十分に確保できない場合や、飲酒・他の中枢抑制薬との併用時は運転リスクが高まります。

7. まとめ——ボルズィの位置づけを正しく理解する

ボルズィの特徴

  • 補遺後初の承認:2025年1月の「補遺」(4カテゴリー分類)発出後に承認された初のオレキシン拮抗薬
  • 添付文書記載の違い:「従事させないよう注意」(=運転禁止)ではなく「適否を慎重に判断」(=一律禁止ではない)
  • 試験結果:投与後9時間の運転シミュレーター試験で、臨床的に意味のある閾値を超えなかった
  • 眠気の副作用:長期投与で10mg群の約11%に傾眠が発現
  • 初回投与時の影響:統計学的には影響がある可能性があり、特に注意が必要

他剤との違いは「承認時期」による部分が大きいです。

薬剤名承認時期運転試験結果添付文書記載
デエビゴ補遺前閾値超えなし運転禁止
ベルソムラ補遺前閾値超えなし(偏りあり)運転禁止
クービビック補遺前初回で閾値超え運転禁止
ボルズィ補遺後閾値超えなし一律禁止ではない

デエビゴは運転試験データがボルズィと同等以上に良好ですが、補遺前の承認のため従来の記載になっています。今後、記載変更の申請がなされれば、添付文書が変わる可能性があります。

次の一歩として
ボルズィを処方・調剤する際は、「運転禁止ではない」という情報だけでなく、眠気のリスクと自己判断の重要性を併せて伝えること。特に服用開始時・増量時は慎重に観察するよう指導することが重要です。

どうですか?「運転禁止ではない睡眠薬」という言葉の裏側には、これだけの科学的検討と制度的背景があるのです。単純に「運転できる薬が出た」と捉えるのではなく、その意味を正しく理解した上で患者指導に臨みたいですね。

参考資料・一次情報

  • 厚生労働省「向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン」(令和4年12月27日)
  • 厚生労働省「向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン(補遺)」(令和7年1月31日)
  • ボルズィ錠 添付文書(2025年11月改訂 第2版)
  • クービビック錠 添付文書(2025年12月改訂 第4版)
  • PMDA審査報告書(ボルズィ錠)
  • Muehlan C, Brooks S, Vaillant C, et al. Driving Performance after Bedtime Administration of Daridorexant, Assessed in a Sensitive Simulator. Clin Pharmacol Ther. 2022;111(6):1334-1342. doi:10.1002/cpt.2592
  • Vermeeren A, Sun H, Vuurman EFPM, et al. On-the-Road Driving Performance the Morning after Bedtime Use of Suvorexant 20 and 40 mg: A Study in Non-Elderly Healthy Volunteers. Sleep. 2015;38(11):1803-1813. doi:10.5665/sleep.5168
  • Vermeeren A, Jongen S, Murphy P, et al. On-the-road driving performance the morning after bedtime administration of lemborexant in healthy adult and elderly volunteers. Sleep. 2018;42(4):zsy260. doi:10.1093/sleep/zsy260
  • Miyazaki Y, Iwamoto K, Kambe D, Imadera Y, Matsushita I, Ozaki N. Driving performance in the morning after bedtime vornorexant administration: A randomized clinical trial using a driving simulator. Psychiatry Clin Neurosci. 2025;79(11):757-764. doi:10.1111/pcn.13888

※本記事の内容は2025年時点の情報に基づいています。最新の添付文書・インタビューフォームを必ずご確認ください。

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