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プラセボ効果を知り抜く薬剤師の技術

「この薬、飲んだら気持ちが楽になりました」。患者さんからそう言われたとき、あなたはどう受け止めていますか。薬の効果なのか、それとも「気のせい」なのか。実は、この「気のせい」こそが、医療において非常に重要な現象——プラセボ効果——です。

そしてもう1つ、その裏側にある「ノセボ効果」——副作用が出ると思うから本当に体調が悪くなる現象——も、薬剤師の日常に深く関わっています。2025年の医学雑誌「Medicina」では「薬剤とプラセボ効果・ノセボ効果」の特集が組まれ、治療関係が両効果に与える影響の大きさが改めて注目されています。

この記事では、プラセボ効果とノセボ効果を正しく理解し、服薬指導に活かすための実践的な視点をお伝えします。


プラセボ効果とは何か——「気のせい」では片付けられない

プラセボって、『偽薬』のことですよね。つまり、騙されてるってことじゃないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

誤解されやすいので先に言うと、プラセボ効果は”騙されている”というより”心と体がつながっている”証拠なんです。脳内でエンドルフィンが放出されたり、免疫系が活性化したりする実在の生理現象です

プラセボ効果は、臨床試験でホメオパシー(有効成分を含まない砂糖玉)を使った研究で詳しく解明されてきました。ホメオパシーが「効くように見える」のは、薬理作用ではなく以下の要素が組み合わさるためです。

プラセボ効果の構成要素:

要素説明臨床場面の例
自然経過症状は時間とともに改善する風邪は薬なしでも治る
回帰平均極端な値は平均に戻る痛みが最も強い日に受診→以後は軽くなる
期待効果「効く」と信じることで改善新薬への期待で症状が軽減する
治療者効果医療者の言葉や態度が作用「よく効きますよ」と言われると実際に痛みが減る
条件付け過去の経験による学習白い錠剤=鎮痛剤という無意識の連想

重要なのは、プラセボ効果は「偽の効果」ではないということです。脳内でオピオイド系の物質が実際に放出されることが画像研究で確認されており、生理的に実在する現象です。

ただし、プラセボ効果には限界があります。がんの腫瘍を縮小させたり、骨折を治したりすることはできません。自覚症状(痛み、吐き気、不安、倦怠感など)に対して効果が大きく、客観的な指標(血液検査値、画像所見など)に対する効果は限定的です。

実務での活かし方:

  • 患者の「効きました」を否定せず受け止める——それはプラセボ効果を含め、治療の一部
  • 「薬の作用と、あなたの体の回復力が組み合わさった結果です」と伝えることで、患者の自己効力感を高める
  • プラセボ効果を”欺瞞”ではなく”治療資源”として理解する

ノセボ効果——薬剤師が防げる”もう1つの副作用”

プラセボ効果の逆もあるんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

あります。ノセボ効果と言います。そして実は、こちらの方が薬剤師の日常に大きく関わるかもしれません

ノセボ効果とは、治療への不安や否定的な期待によって、薬理作用とは無関係に有害事象が出現する現象です。

典型的な例を挙げましょう。降圧薬の臨床試験で、プラセボ群(偽薬を飲んでいる群)にも一定の割合で「頭痛」「倦怠感」「消化器症状」が報告されます。これらはプラセボを飲んでいるだけなので、薬の副作用ではありません。しかし、「薬を飲んでいる」と思っているだけで体調不良が生じるのです。

2024年の研究では、ノセボ効果は以下のような要因で増幅されることが報告されています。

  • 副作用の「過度な説明」: 添付文書の副作用をすべて読み上げると、患者の不安が高まりノセボ効果が増幅する
  • 否定的なフレーミング: 「この薬には〇〇という副作用があります」→ 不安↑
  • インターネット情報: 「薬名 副作用」で検索して不安になる
  • 過去の服薬体験: 以前に副作用を経験した薬と似ている → 「今回も出るだろう」

ここ、心当たりありませんか? 服薬指導で副作用説明をした直後に患者さんの表情が曇ること。その瞬間、あなたは意図せずノセボ効果を生み出しているかもしれません。

実務での活かし方:

  • 副作用説明は「頻度」と「対処法」をセットで伝える
  • 「まれに○○がありますが、気になったらすぐご連絡ください。対応できます」
  • ネガティブフレーミングではなくポジティブフレーミングを使う

服薬指導の”言い方”が効果を変える

私たち薬剤師も、プラセボ効果やノセボ効果に影響を与えているんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

ええ。実のところ、薬剤師の説明の仕方によって、患者の症状改善は確実に変わります。”どういうふうに治療が行われるか”が重要なんです

研究で示されているプラセボ/ノセボ効果に影響する要因を整理すると、薬剤師が直接コントロールできるものがいくつかあります。

薬剤師がコントロールできる要因:

要因影響服薬指導への応用
説明の自信度自信ある説明→プラセボ効果↑「この薬はよく効くとされています」
共感的態度共感→ノセボ効果↓「つらい症状ですね。この薬で楽になる方が多いです」
情報のフレーミングポジティブ→プラセボ↑「90%の方は副作用なく使えています」
副作用説明の仕方過度→ノセボ↑副作用リストの羅列ではなく重要なものに絞る
フォローアップ継続関係→効果持続「次回来局時に効果を一緒に確認しましょう」

ポイントは、嘘をつくことなく、伝え方を工夫することです。

状況ノセボを増幅する伝え方プラセボを活かす伝え方
新薬の説明「副作用が出る場合があります」「多くの方に効果が認められています。まれに○○がありますが、対処法があります」
GE薬の変更「見た目は違いますが…」「成分は同じものです。効果は変わりません」
漢方薬「効くかどうかわかりません」「体質に合えば効果が期待できます。2週間ほど様子を見ましょう」
服用方法「飲み忘れると効きません」「決まった時間に飲むと、最も効果を発揮しやすいです」

実務での活かし方:

  • 副作用説明は「90%は問題なく使えています」のようにポジティブフレーミングで始める
  • 新薬や切り替え時は、不安よりも期待を先に伝える
  • フォローアップの声かけ(「次回、効き目を一緒に確認しましょう」)がプラセボ効果の持続に寄与する

プラセボ効果の倫理的側面

じゃあ、患者さんに『絶対に治ります』って言えばいいんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

ここ、迷いやすいところですね。でも、”絶対”という言葉は禁物です。プラセボ効果を活かしつつも、誠実さを失わないバランスが大切です

プラセボ効果の活用には倫理的なガイドラインがあります。

守るべき3原則:

1. 真実を伝える

薬の効果と限界を正直に説明する。過剰な期待は短期的にはプラセボ効果を高めるが、期待が裏切られたときの信頼喪失は取り返しがつかない。

2. 希望を与える(事実に基づいて)

「多くの患者さんで効果がありました」「適切に使えば症状の改善が期待できます」——これらは事実に基づいた希望の提供であり、嘘ではない。

3. 患者の主体性を尊重する

「一緒に治療を進めましょう」「変化を感じたら教えてください」——患者を治療の主体として位置づけることで、プラセボ効果の持続性が高まる。

プラセボ効果を適度に活用することは治療に有用ですが、その結果として投薬中止が困難になる場合があることも知っておくべきです。「この薬がないと不安」という心理的依存は、プラセボ効果の裏返しでもあります。減薬や中止の提案時には、この心理的側面に配慮した説明が必要です。


まとめ:プラセボ効果とノセボ効果を味方につける

プラセボ効果とノセボ効果を正しく理解し、服薬指導に活かすために、明日から実践できることを3つまとめます。

1. プラセボ効果を”治療の一部”として理解する

心と体のつながりを認め、患者の期待や信頼関係が治療効果に寄与することを受け入れましょう。「気のせい」で片付けず、「それも治療の一部です」と受け止めましょう。

2. ノセボ効果を防ぐ”伝え方”を意識する

副作用説明は不可欠ですが、伝え方で患者の体調は変わります。ポジティブフレーミング(「90%は問題なく使えています」)を意識し、必ず「対処法がある」ことをセットで伝えましょう。

3. フォローアップで効果を持続させる

「次回、効き目を一緒に確認しましょう」——この一言が、患者の服薬アドヒアランスとプラセボ効果の持続の両方に寄与します。2024年度の診療報酬改定で服薬指導加算が強化されたことも追い風です。


プラセボ効果って、科学的にはどう説明されるんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

脳画像研究の進歩で、プラセボ投与時にもドパミン系やオピオイド系が実際に活性化していることが確認されています。つまり”気のせい”ではなく、”心が体に働きかける”実在の生理現象です。最新の研究では、プラセボ効果の大きさは治療関係(ラポール)の質と強く相関することがわかっており、まさに薬剤師の服薬指導の価値を裏付けるエビデンスと言えます

患者が「気持ちが楽になりました」と言ったとき、それを「ただのプラセボ」で片付けるのか、「薬の効果と、あなたの心の力が組み合わさった結果です」と受け止めるのか。その違いが、患者中心の医療への一歩になります。

プラセボ効果を知り抜くことは、薬の知識と同じくらい価値のある薬剤師のスキルです。


確認先(一次情報):

  • Medicina 2025年6月号 特集「薬剤とプラセボ効果・ノセボ効果」(医学書院)
  • 『デタラメ健康科学』ベン・ゴールドエイカー著 第5章
  • Kaptchuk TJ. Placebo Studies and Ritual Theory. Phil Trans R Soc B 2011
  • Benedetti F. Placebo Effects. Oxford University Press, 2021
  • 日本ジェネリック製薬協会 プラセボ効果に関する解説

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