患者さんから「このサプリメント、本当に効くんですか?」と聞かれたとき、あなたはどう答えていますか。「メーカーさんの資料にはこう書いてあります」と伝えるだけで、本当にそれでいいのでしょうか。
エビデンスがあるかないかは、思ったほど単純な話ではありません。そもそも公表されている論文自体が、全体の一部でしかない可能性があるからです。製薬会社が資金提供した臨床試験の約85%は肯定的な結果を示すのに対し、政府資金の試験では50%程度という報告があります。ここにはすでに”歪み”が存在します。
この記事では、若手薬剤師が日常の処方対応で使える、エビデンスを読むための3つの視点をお伝えします。
目次
視点1:公表バイアスの存在を疑う
でも、論文って第三者査読があるし、嘘は書けないんでしょ?

オカメインコ

ポッポ先生
査読は”嘘”を防ぎますが、”都合の悪い結果が公表されない”ことは防げません。これが公表バイアスの厄介なところです
抗うつ薬レボキセチンの事例はこの問題を端的に示しています。プラセボと比較した臨床試験は計7件実施されました。うち1件だけが「効果あり」と公表され、残り6件は「効果なし」だったのに、一切公表されなかったのです。公表された1件だけを見れば「エビデンスあり」となりますが、全体を見れば話はまったく違います。
この「公表バイアス」は、現在でもあらゆる医療分野で確認されています。ポジティブな結果は約3.5倍公表されやすいという分析もあります。
ただし、対策も進んでいます。現在、臨床試験は開始前にClinicalTrials.gov(米国)やjRCT(日本臨床研究実施計画・研究概要公開システム)への登録が求められるようになりました。日本では2023年にJapicCTIやJMACCT-CTRがjRCTに統合され、臨床試験情報の一元管理が進んでいます。試験結果の公開義務化も強化されつつあり、以前よりも未公表データを隠すことが難しくなっています。
しかし、それでもすべての試験が公表されているわけではありません。制度があっても、結果の登録が遅れる、不完全な情報しか登録されないといった課題は残っています。
実務での活かし方:
- 患者に情報を伝えるときは「公表されているデータでは」という前提を自然に付け加える
- 単一の論文だけで判断せず、複数の情報源を確認する習慣をつける
- 興味のある薬剤について、jRCT(https://jrct.niph.go.jp/)やClinicalTrials.govで登録試験数と結果公表状況を確認してみる
視点2:研究の質の見分け方を知る
論文を読む時間もないし、どこを見ればいいかわからないんです…

オカメインコ

ポッポ先生
ここ、迷いやすいところですね。忙しい現場では、まず『ランダム化』『プラセボ対照』『二重盲検』というキーワードがあるかどうかを確認するだけでも大きな違いです
研究の質を見分けるのは簡単ではありませんが、最低限のチェックポイントを知っておくだけで情報判断の精度は上がります。
適切な臨床試験の基本設計は以下の通りです。
| 評価項目 | 質が高い研究 | 質が低い研究 |
|---|---|---|
| 対照群 | プラセボまたは既存治療薬 | 対照群なし、または不適切 |
| 割り付け | ランダム化(無作為化) | ランダム化なし |
| 盲検化 | 二重盲検(患者も医師も知らない) | 非盲検 |
| サンプルサイズ | 十分な症例数(検出力の計算あり) | 症例数が少なすぎ/根拠不明 |
| 資金源 | 公的資金または独立機関 | 製薬会社単独の資金(見るべきは偏り) |
| 試験登録 | 事前にjRCTやClinicalTrials.govに登録 | 登録なし/事後登録 |
ただし、「二重盲検でないから質が低い」とは限りません。治療法を比較する試験では盲検化が不可能な場合もあり、試験の目的に対してデザインが適切かどうかが本質的な判断基準です。この点については記事8で詳しく解説します。
実務での活かし方:
- DI(医薬品情報)依頼を受けたとき、論文のMethodsセクションを最初に確認する
- 「ランダム化」「double-blind」の記述があるかを素早くチェック
- 症例数が数十例しかない「画期的な研究」には特に注意を払う
- MR資料の根拠論文について「この試験の登録番号は?」と聞くのも有効
視点3:システマティック・レビューの重要性と限界
個別の論文を読むより、もっと確実な方法ってあるんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
あります。システマティック・レビューとメタ分析です。ただし、万能ではありません。そこを知っておくのが大切です
システマティック・レビュー(SR)は、特定の臨床疑問についてのあらゆるエビデンスを系統的に収集し、偏りなく評価・統合したものです。個別の臨床試験が「事件の目撃者」だとすれば、SRは「すべての証拠を集めた裁判記録」のようなものです。
レボキセチンの例で言えば、個別に公表された1件の論文を読めば「効く」と判断してしまいますが、SRの手法で未公表試験も含めて分析すれば「効果は不明確」という結論になります。個別論文の限界を補うのがSRの役割です。
CochraneライブラリはSRの最大のデータベースで、世界中の研究者が厳格な手法でレビューを行っています。日本語でも検索可能なものがあり、薬剤師にとって実用的な情報源です。
ただし、SRにも限界があります。
- 元の論文に公表バイアスがあれば、SRにも影響する(ゴミを集めてもゴミ)
- 古いSRは最新のエビデンスを反映していない可能性がある
- 異なる患者集団や介入を統合すると、臨床的に意味のない”平均”が算出されることがある
実務での活かし方:
- 患者から質問があったら、まずCochraneやPubMedのSRを検索する
- SRが見つかったら、「最終更新日」「対象となった試験数」「結果の一貫性」をチェックする
- 個別の論文よりもSRを優先して参照するが、SRの限界も頭に置く
- PubMedで検索するときは「[メッシュ用語] AND systematic review[pt]」のフィルターが便利
まとめ:明日からできる3つのこと
エビデンスを正しく読むために、明日から実践できることを3つまとめます。
1. 公表バイアスを意識する
「公表されている論文だけが存在するわけではない」という前提を持ちましょう。臨床試験登録制度(jRCT、ClinicalTrials.gov)で試験数と結果を照合するのが理想ですが、まずは「ポジティブな結果は出版されやすい」という構造を知っておくだけでも違います。
2. 研究の質を30秒でチェックする
Methodsの最初の段落で「randomized」「double-blind」「placebo-controlled」の3語を確認する。これだけで、質の高い試験かどうかの大枠がわかります。
3. システマティック・レビューを活用する
個別の論文に振り回されず、まずSRがないか確認しましょう。Cochraneライブラリは無料でアクセスできます。
正直、難しくないですか?こんなこと考えながら毎日の調剤やってられませんよ…

オカメインコ

ポッポ先生
その気持ち、よくわかります。でも、最初から全部やる必要はありません。まずは自分がよく扱う薬剤について1つだけ、『この薬のSRってあるのかな?』と調べてみてください。それだけで、次にMR資料を見たときの目が変わりますよ
エビデンスに基づく医療は、決して「論文に書いてあるから正しい」というものではありません。どのエビデンスをどう読むか、という「批判的な視点」こそが、若手薬剤師にとって最も重要なスキルです。今日から、処方箋を見るたびに「この薬のエビデンスは、本当に公正に評価されているだろうか」という問いを持ってみてください。
確認先(一次情報):
- Cochrane Library: https://www.cochranelibrary.com
- jRCT(日本の臨床試験登録): https://jrct.niph.go.jp/
- ClinicalTrials.gov: https://clinicaltrials.gov
- 『悪の製薬』ベン・ゴールドエイカー著
- 『デタラメ健康科学』ベン・ゴールドエイカー著




