目次
はじめに
2024年以降、後発品メーカーに対する企業評価が本格化し、業界の構造改革が急速に進んでいます。この評価制度により、メーカー各社は生き残りをかけて大胆な戦略転換を迫られており、その影響は薬局の日常業務にも大きな変化をもたらしています。
2024年5月現在、医薬品全体の23%に当たる実に3,906品目に出荷停止または限定出荷による供給不安が発生しており、そのうち後発医薬品は2,589品目(約66%)を占めています。この状況下で実施される企業評価は、メーカーの行動を根本的に変化させつつあります。
結論:企業評価項目の導入により、後発品メーカーは「低シェア品目の撤退」「品目統合の加速」「薬価優遇を狙った品質・安定供給体制の強化」に舵を切り、薬局は採用品目の大幅な見直しと新たな供給体制への適応を余儀なくされています。
企業評価項目がメーカー行動に与える影響
評価制度の構造と減点要因
2024年5月に公表された国の「後発医薬品の安定供給の実現に向けた産業構造の在り方に関する検討会」報告書の中では、今後5年程度の集中改革期間で「製造管理・品質管理体制の確保」「安定供給能力の確保」「持続可能な産業構造」の3つの柱が掲げられています。
この評価制度は単なる査定ではなく、メーカーの事業戦略そのものを変える強力な政策ツールになっているんですね。

オカメインコ
現在の業界構造と問題点
2023年9月時点で後発医薬品企業の上位9社が全体数量の半数を製造しており、残りは約180社が低いシェアで競争している状況です。さらに、後発医薬品の789成分中、多くの成分で過度な競争が発生しています。
結果として、需要に限界がある後発医薬品を多数抱えることになり、業界全体として少量多品目生産でないと企業活動が維持しにくい状態に陥っているといえます。
メーカーの具体的行動変化
1. 低シェア品目からの大量撤退
メーカーの戦略転換
企業評価で「持続可能な産業構造」が重視される中、メーカーは以下の行動を取り始めています:
撤退対象となりやすい品目
- 市場シェア5%未満の品目
- 採用医療機関が限定的な品目
- 原薬調達コストが高い品目
- 製造ラインの稼働率が低い品目
シェアが低いと評価が下がるなら、メーカーとしては当然その品目から手を引きたくなりますよね。

オカメインコ
薬局への影響
即座に発生する問題
- 採用していた後発品の突然の供給停止
- 代替品確保の困難
- 患者への説明負担の増加
- 在庫管理の複雑化
中長期的な変化
- 選択できる後発品メーカーの大幅減少
- 残存メーカーへの依存度上昇
- 価格交渉力の低下
2. 品目統合と規格集約の加速
メーカーの統合戦略
安定供給の課題に対して、安定供給および品質確保に関する各企業の情報収集や公開制度を整備し、この結果を薬価設定に活用する仕組みを試験導入するなどの動きが進んでおり、将来的な薬価優遇措置にもつながっていくものと考えられます。
この薬価優遇を狙い、メーカーは以下の統合を進めています:
統合パターン
- 同成分・同規格での企業間統合
- 異なる規格の製造中止(例:10mg錠のみ残し、5mg錠は中止)
- OEM生産への移行(自社ブランドは維持しつつ製造は他社委託)
薬局への影響
在庫管理の変化
- 従来の備蓄品目の大幅見直しが必要
- 複数規格から単一規格への変更対応
- 患者の服薬指導内容の変更

ポッポ先生
例えば、これまで5mg錠と10mg錠を使い分けていた患者さんが、10mg錠のみになった場合、分割服用の指導が必要になるケースも出てきますね。
処方変更への対応
- 医師への情報提供業務の増加
- 代替調剤の提案頻度上昇
- 疑義照会件数の増加
3. 薬価優遇を狙った品質・安定供給体制の過度な強化
メーカーの投資戦略
評価項目で高得点を獲得するため、メーカーは以下に重点投資しています:
品質管理体制の強化
- 東和薬品では、信頼される企業を目指して、製品の研究開発から製造、営業、製造販売後に至るまで、全社を挙げて品質管理に取り組み、医療用医薬品に必要な品質保証体制を確立しています
- 品質管理部門の人員大幅増強
- 製造設備への過剰投資
- 第三者認証の取得競争
安定供給体制の構築
- 安定供給ガイドラインには、先ず安定供給に寄与する組織と責任者について定めています。会社内において安定供給にかかわる部門は、研究開発部門から購入部門、生産部門、営業部門、物流部門に至るまで、多くの部門がかかわり
- 原薬の過剰在庫確保
- 複数拠点での製造体制構築
薬局への影響
コストの転嫁
- 品質管理・安定供給投資コストの製品価格への反映
- MRの訪問頻度増加による間接的コスト上昇
- 情報提供資料の過度な充実
メーカーが頑張って品質を上げてくれるのは良いことですが、そのコストは結局どこかに転嫁されるんですね。

オカメインコ
業界再編が薬局に与える具体的影響
大手メーカーによる寡占化の進行
再編の実態
業務停止期間終了後も製造再開の見通しが立たずにいた小林化工は12月、サワイグループホールディングスに生産拠点と関連部門の人員を譲渡すると発表しました。
このような再編により、市場は大手数社による寡占状態に向かっています。
薬局への影響
選択肢の減少
- 価格競争の鈍化
- 交渉力の低下
- 供給リスクの集中
取引関係の変化
- 大手メーカーとの包括契約の重要性上昇
- 中小メーカーとの取引終了
- 卸業者経由での調達比率上昇
規制緩和による市場変化
政策的支援
2点目の「市場そのものの柔軟性向上」については規制を緩和し、ビジネス的にも魅力的な業界を醸成することが求められると考えられます。例えば医薬品の製造方法などの変更に係る薬事手続きや薬価削除プロセスの簡素化、後発医薬品は先発医薬品と同規格を取り揃える必要がある規格揃え原則の見直しなどが検討されています。
薬局への影響
規格の変化
- 従来の規格揃え原則の緩和による規格数減少
- 患者の服薬方法変更への対応
- 在庫の大幅見直し
薬局が取るべき対応策
短期的対応(1年以内)
1. サプライチェーンの多様化
具体的行動
- 主要品目について3社以上のメーカーとの取引確保
- 卸業者との緊急調達契約の締結
- 在庫日数の見直し(重要品目は30日分→60日分)
2. 情報収集体制の強化
収集すべき情報
- メーカーの撤退予定品目リスト
- 業界再編の動向
- 薬価改定の影響予測

ポッポ先生
特に、メーカーからの撤退通知は正式発表前に非公式に情報が流れることが多いので、MRや卸業者との関係性を大切にしておくことが重要ですね。
中期的対応(1-3年)
1. 採用品目の戦略的見直し
見直し基準
- 市場シェア上位3社の製品を優先採用
- 単一メーカー依存品目の洗い出しと代替品確保
- 不採算品目の段階的削減
2. 患者対応の標準化
対応マニュアルの整備
- 後発品変更時の説明テンプレート
- 供給停止時の代替薬提案フロー
- 規格変更時の服薬指導手順
患者さんへの説明も、その都度考えるのではなく、事前に準備しておいた方が良いということですね!

オカメインコ
長期的対応(3年以上)
1. 薬局経営モデルの転換
新しいビジネスモデル
- 在宅医療への特化
- 専門科特化型薬局への転換
- 地域連携薬局としての機能強化
2. デジタル化による効率化
導入すべきシステム
- AI予測による在庫最適化
- 自動発注システムの高度化
- 患者情報の電子化推進
まとめ:変革期を乗り切るために
後発品メーカーの企業評価制度は、業界の構造改革を加速させ、薬局業界にも大きな変化をもたらしています。
主要な変化の総括
メーカー側の変化
- 低シェア品目からの大量撤退
- 品目統合と規格集約の加速
- 品質・安定供給体制への過剰投資
薬局への影響
- 選択肢の減少と価格上昇圧力
- 在庫管理の複雑化
- 患者対応業務の増加
必要な対応策
- サプライチェーンの多様化
- 情報収集体制の強化
- 経営モデルの転換

ポッポ先生
この変革期は確かに大変ですが、結果として品質の高い医薬品が安定供給される体制が構築されれば、患者さんにとってもメリットは大きいはずです。
変化に振り回されるのではなく、先を見越して準備しておくことが大切ですね!

オカメインコ
必要な患者に品質の確保された後発医薬品を安定的に届けられる体制作りに向け、薬局薬剤師として柔軟かつ戦略的に対応していくことが、この変革期を乗り切る鍵となります。
継続的な情報収集と、患者様のためを第一に考えた対応を心がけながら、業界の変化に適応していきましょう。