目次
はじめに:なぜ、今、薬局薬剤師に不安が広がっているのか
「給料、下がるって聞いたんですけど…」 「うちの薬局、大丈夫でしょうか…」
2025年の秋、全国の薬局薬剤師から、こうした声が増えています。理由は単純です。薬局を取り巻く環境が、構造的に変わり始めたからです。
厚生労働省の最新データが示す現実は、これまでの薬剤師の常識を覆すものでした。それは、薬剤師という職業そのものが、大きな転換期を迎えているということを、数字で示しているのです。
今、薬局薬剤師に求められているのは、「このままでいいのか」という問いに真摯に向き合うこと。そして、その問いの先にある選択肢を、冷徹に検討することです。

ポッポ先生
「給料が下がるかもしれない」という心配も大切ですが、その背景にある構造的な変化を理解することの方が、もっと大事なんですね。今、薬剤師の職場環境は、どう変わろうとしているのか。その流れを見えるようにしましょう。
データが示す不都合な真実:薬剤師の「供給過剰」時代へ
薬剤師の数は増え続けている
令和6年の厚生労働省データから、一つの驚くべき事実が読み取れます。それは、薬局の薬剤師は、ここ数年、毎年大幅に増え続けているということです。
具体的には
- 薬学部数及び入学定員が大幅に増加(新設大学の参入など)
- 薬剤師国家試験の合格者は、年1万人程度のペースで推移
- 特に薬局に就職する薬剤師が増加傾向
一方で、処方箋の発行枚数はどうでしょう?
平成16年を境に、処方箋枚数の伸び < 薬局薬剤師数の伸びという逆転現象が起きています。つまり、1人の薬剤師が処理する処方箋数が、年々減少しているという意味です。
え、でも人口が増えてるわけじゃなくて、高齢者が増えてるから、薬も増えてるんじゃ…

オカメインコ

ポッポ先生
そう思いますよね。確かに高齢者の医療ニーズはあります。ただ、同時に医療全体が効率化しているんです。オンライン診療の普及や、医療DXによる処方の最適化が進んでいるんですね。だから、高齢者数は増えているのに、処方箋枚数の伸びは緩やかになってきているんです。
結果:「薬剤師の過剰感」が業界全体に広がっている
厚労省も明言しています:薬剤師の需給見通しについて「供給が需要を上回る見込み」と。
この過剰感は、薬局経営に直結します
- 処方箋が少ない = 1薬局あたりの収益が減少
- 薬局数は多いまま = 薬局間の競争が激化
- 利益が減る = 薬剤師の給与原資が減少
シンプルな経営の法則ですが、あなたの給料は、この流れの中で減少圧力を受けているということです。
薬価差益の縮小:薬局の採算性を蝕む「静かな危機」
「薬価差」とは何か
薬剤師の皆さんなら、この言葉は耳にしたことがあるかもしれません。薬価差益とは、公定薬価と実際の仕入れ価格の差のこと。これが薬局経営の利益の大きな柱でした。
ところが、この薬価差が、年々縮小しているのです。
逆ザヤ品目の増加
さらに深刻なのが、逆ザヤという現象です。これは、仕入れ原価の方が、医療機関への売価(公定薬価)より高いという異常な状態。
例えば
- ある医薬品や医療材料では、1処方箋あたり数百円~数千円の赤字
- 高額薬品の場合、決済手数料が技術量を上回る場合も
- この逆ザヤ品目は、年々増加傾向
えっ、赤字で処方して、薬局って成り立つんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
良い質問ですね。実は、社会貢献という名目で、ある程度は受け入れるしかないというのが業界の現状なんです。ただ、その赤字は誰が埋めるかというと、結局、薬局の利益からカットされるわけです。つまり、あなたの給料の原資が減ることになるんですね。
薬価改定ごとに「調整」されている現状
過去の薬価改定では、こうした不均衡を是正しようという動きが見られています。ただし、根本的な解決には至っていません。なぜなら、医療費抑制という国家的な方針が優先されるからです。
つまり、薬価差益の縮小は、一時的な問題ではなく、構造的に避けられない流れなのです。
薬局薬剤師の現実:「調剤者」から「何か」へのシフトが避けられない
調剤業務だけでは足りない理由
薬剤師の供給過剰 + 薬価差益の縮小 = 調剤という業務だけでは、薬局経営が成立しにくくなってきたということです。
逆に言えば、診療報酬改定の方向性も明確です。それは
「対人業務(患者への薬学的指導)」の比重を高める
という流れです。処方箋を数こなすだけでなく、患者さんの薬歴を活かした指導、ポリファーマシー対策、在宅医療への対応—こうした「付加価値」を提供できる薬剤師に、報酬が集中していくわけです。
問題は:今の薬局で、それは可能か?
ここで重大な問いが生じます。
現在、あなたの薬局は
- 毎日、処方箋に追われていないか?
- 患者さんに落ち着いて話を聞く時間があるか?
- ポリファーマシー対策に取り組む余裕があるか?
- 在宅医療に対応できる体制があるか?
- 医療機関との連携は深いか?
これらに「いいえ」が多ければ、あなたの薬局は、これからの報酬体系に対応しにくいという意味です。
でも、そういう環境を作るのって、薬剤師1人の力じゃ無理じゃ…

オカメインコ

ポッポ先生
その通り。これは経営層の判断と投資にかかっているんです。つまり、薬局によって対応スピードに大きな差が出ているわけです。準備できている薬局と、できていない薬局。そして、働く薬剤師の給与格差も、そこから生まれてくるんですね。
地域による供給バランスの崩壊
薬局数は地域で大きくばらつきがある

全国で約6万軒の薬局が存在していますが、その分布は極めて不均等です。
- 都市部(特に東京など):薬局が過剰気味
- 地方都市:ある程度のバランス
- 過疎地:薬局が不足
この地域格差は、今後さらに拡大する見通しです。なぜなら、新規開設ハードルが低いため、採算性の高い都市部への集中傾向が続くからです。
地域による給与格差も拡大
当然ながら、薬局の採算性が低い地域では、薬剤師の給与も低い傾向にあります。逆に、採算性が高い都市部でも、競争が激しいため給与が必ずしも高いとは限りません。
つまり、どちらに転んでも、薬局薬剤師の給与は下方圧力を受けているのです。
「このままでいいのかな」と感じたら:今、考えるべき3つのこと
1. 自分の薬局の実態を知る
まず必要なのは、現実認識です。
- 処方箋枚数の推移(過去3年):増えているか、減っているか?
- 薬局の経営状況:利益は出ているか、赤字傾向か?
- 逆ザヤ商品への対応:どの程度の赤字が発生しているか?
- 対人業務への取り組み:在宅医療、ポリファーマシー対策は実施されているか?
- DX投資の状況:業務効率化に向けた投資はされているか?
これらが分からなければ、あなたの薬局の将来は見えません。経営陣に聞きにくければ、間接的に情報を集めることもできます。ただし、このモヤモヤした状態では判断ができないというのが現実です。
2. 自分のキャリアについて、正直に問い直す
次に必要なのは、自分自身への問い直しです。ただし、ここで考えるべきは「薬剤師としてのキャリア」だけではありません。あなたがどのような人生を送りたいのか、というライフキャリア全体を見つめることが重要です。
薬剤師としてのキャリアについて
- 5年後、あなたはどんな薬剤師になりたいですか?
- 今の薬局で、それは実現可能ですか?
- 給与・待遇に満足していますか?
- やりがいを感じながら働いていますか?
- 専門性を高める環境が整っていますか?
より大切なのは、ライフキャリアの視点
- 10年後、どのような生き方をしていたいですか?
- 仕事と生活のバランスについて、今の職場で実現できていますか?
- 子育て、親の介護、やりたいことなど、人生上の優先順位は何ですか?
- その優先順位を実現するために、今の給与水準は十分ですか?
- 5年後、10年後、経済的に自分たちの人生設計は成り立ちますか?
あ、給料だけじゃなくて、人生全体で考えるってことですね。

オカメインコ

ポッポ先生
その通りです。薬剤師という職業は手段に過ぎないんです。大切なのは、その職業を通じて、あなたがどんな人生を作っていくか、ということなんですね。
\ 今の職場でこれから10年働き続けられますか?/
現実:賃金アップは国の基本方針だが、進んでいない
ここで直視すべき現実があります。それは、給与が上がるはずなのに、現場では上がっていないという矛盾です。
令和6年度の調剤報酬改定では、賃上げを目的とした基本料の加算が行われました。国としても「薬剤師の処遇改善」を掲げ、明確に給与引き上げを指示しました。
ところが現場では、どうでしょう?
多くの薬局で、その加算分が薬剤師の給与に反映されていません。理由は、経営が厳しい、他の投資を優先する、など様々ですが、「上がった報酬が、あなたの給料になっていない」という事実は変わりません。
つまり
- 国が「賃上げしろ」と指示する
- 薬局には上乗せ報酬が入る
- でも、あなたの給料は上がらない
この現実が、2025年のタイミングで、多くの勤務薬剤師に重くのしかかっているのです。
都市部での報酬引き下げの可能性
さらに懸念される情報があります。それは、来年の改定では、都市部など薬局が過剰な地域での報酬引き下げが検討されているという点です。
理由は明確です
- 都市部では薬局が過剰感
- 供給が需要を上回っている
- それなのに、報酬はこれまで通りという不均衡
この不均衡を是正するために、過剰地域での報酬調整が議論されているわけです。
つまり、もしあなたが都市部の薬局に勤めていれば、給与引き下げのリスクはより高いということを意味します。
でも…給料が下がるって…どうやって生活設計するんですか?

オカメインコ

ポッポ先生
その問い、とても大切です。これが、多くの薬局薬剤師の心の奥底にある不安なんですね。「給料が下がるかもしれない」という不確実性の中で、人生設計をしなきゃいけない。その困難さを、正面から受け止める必要があるんです。
あなたの人生設計は、本当に大丈夫?
これらの事実を踏まえると、問うべき問いはこうなります
- 今のあなたの給与水準は、確実なものですか?
- もし給与が10%、20%低下したら、生活は成り立ちますか?
- 5年後、10年後、経済的な不安なく過ごせますか?
- そのためには、今、何をすべきですか?
これらに自信を持って「はい」と答えられない場合、あなたは今、人生設計上のリスク要因を抱えているということです。
そしてそのリスクに対して、何らかの対応が必要になってくる可能性が高いのです。
3. 複数の選択肢を持つために、情報を集める
「転職を考えている」わけではなくても、市場にはどんな選択肢があるのかを知ることは極めて重要です。
なぜなら
- 現在の環境での交渉力が高まる(「他に選択肢がある」という認識)
- 自分の市場価値を客観的に知ることができる
- 将来の判断時に、慌てずに決定できる
多くの薬剤師は、「今すぐ転職する気がないから」という理由で、情報収集をしません。でも、その判断は経営学的には間違っています。情報の非対称性は、常に不利をもたらすからです。

ポッポ先生
「情報収集」と「転職決定」は別の行為なんです。転職エージェントに登録することは、別に転職を意味しません。むしろ、「今の環境で本当に満足できているのか」「他に道はないのか」を冷徹に考えるための、情報基盤を整えることなんですね。
今、薬局薬剤師に必要なマインドセット
「報酬改定を待つ」思考から脱却する
多くの薬剤師は、無意識のうちに「報酬改定で状況は改善するだろう」と期待しています。でも、それは甘い見通しかもしれません。なぜなら
- 供給過剰という構造的問題は、報酬改定では解決しない
- 薬価差益の縮小も、根本的には止められない
- 報酬で上げられた部分も、いつ削られるか分からない
つまり、個々の薬剤師が「待つ」のではなく「動く」ことが、唯一の防御策なのです。
「自分は特別」という思い込みを捨てる
「でも、うちの薬局は大丈夫」「うちの給料は保証されている」
そう思っている薬剤師も多いでしょう。ただ、データが示しているのは、薬局業界全体が共通の課題に直面しているということです。
「特別」ではなく、「普遍的な流れの中にいる」という認識が、今、最も必要とされているマインドセットです。
「主体性」を取り戻す
給料が下がるかもしれない、職場の環境が変わるかもしれない—そうした外部環境の変化に対して、多くの薬剤師は「受け身」になっています。
でも、あなたにできることは、たくさんあるのです
- 自分のキャリアについて、真摯に考え直す
- 今の薬局の実態を知る
- 市場にどんな選択肢があるのか、情報を集める
- 必要に応じて、次の一歩を踏み出す
これらはすべて、あなた自身の判断と選択で可能なことです。
でも…本当に転職を考えてない人が、相談したりするのって変じゃないですか?

オカメインコ

ポッポ先生
全く変じゃありません。むしろ、「今は転職を考えてないけど、将来的にはどうなるか分からないので、情報を集めておきたい」という人の方が、冷静で合理的な判断ができるんです。大事なのは、タイミングですね。問題が深刻化する前に、情報を持つことです。
最後に:「このままでいいのかな」という問いは、とても大事
「給料が下がるって本当ですか?」「うちの薬局、これからどうなるんでしょう…」
こうした不安の声は、実はあなたが現状を疑い始めた証です。そして、その疑問を持つこと自体が、最も大事なファーストステップなのです。
なぜなら、疑問を持たずに流されるだけの薬剤師と、一度立ち止まって「本当にそうか?」と問い直す薬剤師では、5年後、10年後の人生が大きく異なるからです。
厚生労働省のデータが示している現実は厳しいものです。ただし、その現実の中でも、自分たちにできることはあるのです。
今、あなたに求められているのは
- 現実を受け入れること
- 自分のキャリアについて、真摯に考えること
- 必要に応じて、一歩を踏み出すこと
「このままでいいのかな」という問い。その答えは、あなた自身の中にある。そして、その答えを出すために、必要な情報は、すべてあなたの手の届くところにあります。
あなたの職業人生は、あなた自身の選択で決まります。
外部環境は変えられません。でも、それにどう向き合うか、どの選択肢を選ぶか—それは、完全にあなた次第です。
「このままでいいのかな」と感じたら。その瞬間が、あなたが変わるチャンスかもしれません。
人生にはどうしても自分の「これからの生き方を問い直すべきタイミング」が存在している
北野唯我, . これからの生き方。 自分はこのままでいいのか? 問い直すときに読む本より引用
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