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アスピリンの重大な副作用に追加された「Kounis症候群」、薬剤師が押さえるべきポイント

「アレルギー反応に伴う急性冠症候群」という言葉、聞いたことありますか?

2026年1月13日、厚生労働省からアスピリン含有製剤の添付文書改訂指示が発出されました。「重大な副作用」の項に追加されたのが、この「アレルギー反応に伴う急性冠症候群」——いわゆるKounis症候群(コーニス症候群)です。

正直なところ、私自身もこの改訂を知るまでKounis症候群という病態を深く意識していませんでした。アナフィラキシー対応の現場で、まさか心筋虚血まで起きているとは考えにくい。でも、それがまさに見逃されやすい理由でもあるんですね。

この記事では、Kounis症候群とは何か、なぜアスピリンで起きるのか、そして調剤や服薬指導の現場で私たちが気をつけるべきことを整理していきます。


そもそもKounis症候群とは——「アレルギー+心臓」の二重苦

基本的な病態

Kounis症候群は、1991年にギリシャの心臓内科医ニコラス・クーニス(Nicholas Kounis)によって報告された病態です。肥満細胞が活性化されてヒスタミンなどのメディエーターが放出され、それによって冠動脈攣縮やプラーク破裂が引き起こされ、急性冠症候群(ACS)を発症します。

でも、アナフィラキシーで心臓がやられるって、かなり珍しいんじゃないですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

たしかに報告数は限定的です。ただ、認知度が低いことで見逃されているケースも多いと考えられています。PMDAも「実際の患者数は報告された症例数よりも多い可能性がある」と指摘していますね。

3つのタイプ

厚生労働省の「医薬品・医療機器等安全性情報 No.387」によると、Kounis症候群は以下の3タイプに分類されます。

タイプ特徴頻度
タイプⅠもともと有意狭窄がない冠動脈に攣縮をきたす約70%(最多)
タイプⅡ既存の冠動脈プラークが破裂しACSをきたす
タイプⅢ冠動脈ステント留置例でステント内血栓症をきたす

ここ、迷いやすいところです。タイプⅠが最も多いということは、「もともと心臓に問題がない患者さん」でも発症しうるということ。アレルギー歴があるけど心疾患のない患者さんだからといって、油断はできません。


なぜアスピリンが原因になるのか——改訂の根拠を読み解く

添付文書改訂の経緯

PMDAが公表した資料によると、今回の改訂は「アスピリン含有製剤とアレルギー反応に伴う急性冠症候群との因果関係が否定できない症例が集積した」ことが理由です。

具体的な集積状況は以下の通りです(PMDAの資料より)。

国内症例:6例(うち因果関係が否定できない症例1例、死亡0例)

海外症例:18例(うち因果関係が否定できない症例7例、死亡1例)

症例数、そこまで多くないように見えますが…

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

数だけ見ると少なく感じるかもしれません。ただ、Kounis症候群自体の認知度が低く、「アナフィラキシー」または「急性冠症候群」として別々に診断されている可能性があります。PMDAはそこを踏まえて改訂を判断したんですね。

対象となる製剤

改訂の対象となったアスピリン含有製剤は多岐にわたります。

  • アスピリン(血栓・塞栓形成の抑制の効能を有する製剤):バイアスピリン錠100mg
  • アスピリン・ダイアルミネート:バファリン配合錠A81
  • アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩:キャブピリン配合錠
  • アスピリン・ランソプラゾール:タケルダ配合錠
  • クロピドグレル硫酸塩・アスピリン:コンプラビン配合錠
  • アスピリン(解熱鎮痛消炎の効能を有する製剤):アスピリン原末

いまの状況だと、循環器領域で長期処方されている患者さんから、OTC医薬品として頓用で使う方まで、幅広い層が対象になりやすいです。


現場で詰まりがちなポイント——治療のジレンマ

アドレナリンを使っていいのか問題

Kounis症候群の治療で最も悩ましいのが、「アナフィラキシーにはアドレナリン、でも冠攣縮にはどうか」という点です。

厚生労働省の安全性情報でも、「アレルギー反応に対する治療が急性冠症候群を増悪させる場合や、急性冠症候群に対する治療がアレルギー反応を増悪させる場合がありますので、薬剤の選択には注意が必要」と明記されています。

正直、難しくないですか?アナフィラキシーならアドレナリン筋注が大原則ですよね。

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

その通りです。ただ、文献によるとタイプⅠのKounis症候群では、アドレナリンが冠動脈攣縮や不整脈を悪化させる可能性が指摘されています。一方で、アナフィラキシーショックを放置するわけにもいかない。実際にはバランスを見ながら対応することになりますが、これは医師の判断領域ですね。

避けたほうが安全とされる薬剤

文献情報をまとめると、Kounis症候群の治療において注意が必要な薬剤は以下の通りです。

タイプⅠで注意が必要なもの

  • アドレナリン(冠攣縮・不整脈リスク)
  • モルヒネなどのオピオイド(肥満細胞の脱顆粒を誘発)

タイプⅡで注意が必要なもの

  • β遮断薬(冠攣縮を悪化させる可能性、アドレナリンの効果減弱)

逆に言うと、ニトログリセリンやCa拮抗薬(非ジヒドロピリジン系)は冠攣縮の緩和に使われることがあります。ただし、確立した治療プロトコルは現時点で存在しないことも押さえておきたいところです。


服薬指導で伝えるべきこと——患者さんへの情報提供

「胸が痛い」はアレルギーだけじゃない

アスピリンでアレルギー反応が出た場合、蕁麻疹や呼吸困難に意識が向きがちです。しかし、Kounis症候群を念頭に置くと、「胸の痛み」「締め付けられる感じ」「左腕の痛み」といった症状も見逃せません。

私ならまず、こう伝えます。

「アスピリンを飲んで、もし蕁麻疹や息苦しさが出たら、すぐに受診してください。それに加えて、胸がギュッと締め付けられるような痛みや、冷や汗が出るようなら、心臓にも影響が出ている可能性があります。躊躇せず救急車を呼んでください」

でも、そこまで説明すると患者さんを怖がらせすぎませんか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

たしかに、全員に詳しく説明する必要はないかもしれません。ただ、過去にアスピリン製剤で蕁麻疹が出たことがある方、アレルギー体質が強い方には、念のため伝えておくほうが安全です。「可能性は低いけど、万が一のために」という言い方でいいと思います。

ただし、これに該当しない場合もある

誤解されやすいので先に言うと、Kounis症候群は「アレルギー反応を起こす可能性があるすべての医薬品」で起こりえます。アスピリンだけの問題ではありません。

PMDAの安全性情報でも、「医薬品としては抗生剤、造影剤、抗血小板剤、抗がん剤をはじめ、アレルギー反応を起こすいずれの医薬品も原因物質となる可能性があり」と記載されています。食物アレルギー、金属アレルギー、蜂刺傷なども原因になりえます。


算定の視点——特定薬剤管理指導加算1のロ(5点)

副作用情報の追加は算定のチャンス

ここ、見落としがちなポイントです。今回の添付文書改訂を受けて、患者さんにKounis症候群について説明・確認することで、特定薬剤管理指導加算1のロ(5点)が算定できる可能性があります。

え、継続処方でも算定できるんですか?

オカメインコ

オカメインコ

ポッポ先生

ポッポ先生

はい。特定薬剤管理指導加算1のロは「ハイリスク薬に係る副作用の発現状況、服薬状況等の変化」に基づき、保険薬剤師が必要と認めて指導を行った場合に算定できます。今回のような重大な副作用の追加は、まさに「副作用に関する状況の変化」に該当しますね。

算定要件を確認する

バイアスピリンやバファリン配合錠A81などの抗血小板薬は、「血液凝固阻止剤(内服薬に限る)」としてハイリスク薬に該当します。

項目内容
点数5点
算定タイミング用法・用量の変更、または副作用等の状況に応じた薬剤師の判断
必要な対応①「特に安全管理が必要な医薬品」である旨を伝える
②必要な指導を行う
③指導内容を薬歴に記載
記載事項特に指導が必要と判断した理由+指導の要点

私ならまず、薬歴にこう記載します。

「2026年1月の添付文書改訂により『アレルギー反応に伴う急性冠症候群(Kounis症候群)』が重大な副作用に追加されたため、その旨を説明。アレルギー症状(蕁麻疹、呼吸困難等)に加え、胸痛・胸部圧迫感が出現した場合は心臓への影響の可能性があり、直ちに受診するよう指導。患者は理解を示した」

ただし、算定には注意点も

誤解されやすいので先に言うと、「改訂があったから全例で算定できる」わけではありません。

あくまで「保険薬剤師が必要と認めて指導を行った場合」が要件です。患者の状況(アレルギー歴、心疾患リスクなど)を踏まえて、「この患者さんには特に説明が必要だ」と判断した根拠を薬歴に残すことが大切です。

形式的に「改訂があったので説明しました」だけでは、算定根拠として弱い可能性があります。


薬剤師としての次の一歩——情報収集と連携

副作用報告への協力

PMDAは「医薬品によるコーニス症候群が疑われる症例を経験された際には、報告いただくようご協力をお願いいたします」と呼びかけています。

現場だとここで詰まりがちです。「これってKounis症候群かな?」と判断に迷うことも多いでしょう。でも、判断がつかなくても「アレルギー反応と心症状が同時に出た」という事実があれば報告の対象になります。

報告先:

  • 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「医薬品副作用等報告」
  • または製造販売業者への情報提供

最新情報のフォロー

今回の改訂で重要なのは、「確立した診断基準もガイドラインもない」という現状です。つまり、今後も新たな知見が出てくる可能性があります。

どうですか? PMDAの「医薬品・医療機器等安全性情報」は定期的にチェックしていますか? 今回のような改訂情報は、日々の業務の中で見落としやすいものです。

私ならまず、PMDAのメール配信サービス(PMDAメディナビ)に登録しておくことをおすすめします。改訂情報がリアルタイムで届くので、「知らなかった」を防げます。


まとめ:見逃さないための4つのチェックポイント

Kounis症候群は、アレルギー反応と急性冠症候群が同時に起きる稀な病態です。しかし、認知度の低さから見逃されている可能性が指摘されています。

薬剤師として押さえておきたいポイント

  1. アスピリン含有製剤の添付文書が改訂された——「重大な副作用」に「アレルギー反応に伴う急性冠症候群」が追加
  2. アレルギー症状+胸痛の組み合わせに注意——アナフィラキシーだけでなく、心筋虚血の可能性も考慮
  3. 治療には薬剤選択のジレンマがある——確立したプロトコルはなく、アドレナリン使用にも慎重な判断が必要
  4. 算定のチャンスを逃さない——副作用追加を患者に説明・確認することで特定薬剤管理指導加算1のロ(5点)が算定可能

ここ、心当たりありませんか。日常的にバイアスピリンやバファリン配合錠を調剤している薬局は多いはずです。今回の改訂を機に、「アスピリンでもこういう副作用がある」ということを頭の片隅に置いておくだけでも、対応は変わってくるのではないでしょうか。


参考資料・確認先(一次情報)

  • 厚生労働省「使用上の注意の改訂について」(2026年1月13日付)
  • PMDA「アスピリン含有製剤(医療用)の『使用上の注意』の改訂について」(2026年1月13日)
    https://www.pmda.go.jp/files/000278549.pdf
  • 厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.387」(2021年11月)——Kounis症候群の解説
    https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000851823.pdf
  • 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和6年3月5日)——特定薬剤管理指導加算1の算定要件
    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001293314.pdf
  • Kounis NG. Kounis syndrome: an update on epidemiology, pathogenesis, diagnosis and therapeutic management. Clin Chem Lab Med. 2016; 54: 1545–59.

本記事の情報は2026年1月時点のものです。Kounis症候群には確立した診断基準・治療ガイドラインが存在しないため、今後の研究や規制当局の発表により情報が更新される可能性があります。個別の患者対応については、最新の添付文書およびPMDA情報を確認のうえ、医師との連携をお願いいたします。

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