新型コロナウイルス感染症への治療薬として、期待されているアビガン(ファビピラビル)について現状分かっていることを調べてみました。
目次
アビガン(ファビピラビル)ってどんな薬?
ファビピラビル(6-fluoro-3-hydroxy-2-pyrazine carboxamide)は,富山化学工業株式会社で抗インフルエンザウイルス活性を指標に化合物ライブラリーをスクリーニングし創製された薬剤である。
ファビピラビルは,RNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を選択的に強く阻害する新規な抗ウイルス薬であり,その作用機序は,細胞内に取り込まれたファビピラビルが細胞内酵素により代謝・変換され,ファビピラビル・リボフラノシル三リン酸体(favipiravir-ribofuranosyl-5′-triphosphate)となり,RdRpを選択的に阻害するものである。
また,ファビピラビルは広範囲なRNAウイルスにin vitroや動物モデルで効果を示すが,RdRpの触媒領域がRNAウイルス間で広く保存されることがこの現象を支持している。
ファビピラビルは,既存薬耐性株を含むすべての型のインフルエンザウイルスに対して活性を示すだけでなく,出血熱の原因となるアレナウイルス,ブニヤウイルス,およびフィロウイルスなどの広範囲なRNAウイルスに対しても効果を示すことから,治療法の確立されていないRNAウイルス感染症の薬剤として期待されている。
古田要介. “ウイルス RNA ポリメラーゼ阻害剤ファビピラビル (T-705) の創製.” MEDCHEM NEWS 28.3 (2018): 115-121.よち
またファビピラビルについては、以下のように紹介しているケースもあります。
- RNA合成酵素の必須部位に作用するので,耐性ウイルスを生じない!
- 流行のはじめから最後まで有効性が保たれる理想的な抗ウイルス薬!
- 米国が考えていたテロや致死性RNA感染症に対する危機管理薬!
- エボラ出血熱や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等の致死性RNAウイルス感染症にも有効性が期待できる薬剤!

るるーしゅ
確かに医中誌でもファビピラビルについて検索すると、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の記事がけっこうヒットしますからね
新型コロナウイルス感染症の治療薬として、一歩先へいっているレムデシビル同様にRNAポリメラーゼ阻害薬です。日本では2014年に新型インフルエンザ用で承認されていて、メカニズムを見る限りでは、とても有望な薬剤です。
実際にアビガン(ファビピラビル)は有効なの?

るるーしゅ
メカニズムが凄くても実際の臨床効果は大したことないって薬剤は、実は沢山あります。そのため、実際にヒトに投与したデータが重要になってきます。
理論上は効くはずだけど、実際使ってみたら効果はなかったという薬は、歴史の中にめちゃくちゃあります…
もし興味がありましたら、下の参考記事も読んでみてください
米国第Ⅱ相試験(US204 試験)
P:インフルエンザウイルス感染患者
E:①ファビピラビル低用量(1日目1000mg×2、2~5日目400㎎×2)n=134
②ファビピラビル高用量(1日目1200mg×2、2~5日目800㎎×2)n=195
C:プラセボn=201
O:インフルエンザ主要症状罹病期間
その他:他施設、プラセボ対照、ランダム化、二重盲検
評価項目 | 低用量 | 高用量 | プラセボ |
---|---|---|---|
主要症状罹病期間 | 100.4(82.4~119.8) | 86.5(79.2~102.1) | 91.9(70.3, 105.4) |
有害事象 | 35.6%(47/132 例) | 34.4%(65/189 例) | 40.1%(79/197 例) |
副作用 | 18.9%(25/132 例) | 19.6%(37/189 例) | 20.8%(41/197 例) |

るるーしゅ
プラセボと比較して、優越性を示せなかった…
米国第Ⅰ/Ⅱ相試験(US213 試験)
P:インフルエンザウイルス感染患者
E:①ファビピラビルBID群(1800mg/800mg BID)n=184
②ファビピラビルTID群(2400mg/600mg TID)n=182
BID群:1日目は1回1800mgを2回、2日目から5日目は1回800mgを1日2回
TID群:1日目初回は2400mg、2回目及び 3回目は 1回600mg、2日目から5日目は1回600mgを1日3 回
C:プラセボn=184
O:インフルエンザ主要症状罹病期間
その他:プラセボ対照、ランダム化、二重盲検

るるーしゅ
何故、高用量群ではプラセボと有意差つかなかったのか・・・他の研究結果と合わせて考えると、BID群で有意差ついたのが偶然?
季節性インフルエンザウイルス感染症患者を対象とした国内第Ⅱ相試験(JP205 試験)
P:インフルエンザウイルス感染患者
E:①ファビピラビル高用量(1日目は600㎎×2、2~5日目は600㎎×1)55人
②ファビピラビル低用量(1~2日目は400㎎×2、3~5日目は400㎎×1)52人
C:オセルタミビル 53人
O:発熱持続期間(腋下温が36.9℃以下に24時間以上なったら解熱と定義し、発熱後から解熱までの時間)
その他:他施設、ランダム化、二重盲検、非劣性
オセルタミビルとの非劣性マージンはー28.9時間
評価項目 | 高用量 | 低用量 | オセルタミビル |
---|---|---|---|
発熱持続期間 | 40.2 時間 (31.5~42.8) | 42.2 時間 (37.3~62.1) | 28.8 時間 (19.8~41.5) |
対照との差 | −6.6 時間 (−15.7~2.5) | −13.2時間 (−23.5~−2.9) | ー |
有害事象 | 40.0%(22/55 例) | 38.5%(20/52 例) | 43.4%(23/53 例) |
副作用 | 25.5%(14/55 例) | 15.4%(8/52 例) | 24.5%(13/53 例) |

るるーしゅ
95%信頼区間の下限値が、-28.9時間上回っているから、非劣性なんだけど、これってプラセボより効果あるとは思えない…
インフルエンザウイルス感染症患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(312 試験)
P:インフルエンザウイルス感染患者
E:ファビピラビル(1日目1回目は1200㎎、2回目は400㎎、2~5日目は400㎎×2)379人
C:オセルタミビル 383人
O:インフルエンザ主要症状罹病期間
その他:他施設、ランダム化、二重盲検、非劣性
評価項目 | ファビピラビル | オセルタミビル |
---|---|---|
罹病期間 | 55.4(50.4~62.5) | 47.8(44.4~55.8) |
有害事象 | 31.7%(120/378 例) | 25.3%(96/380 例) |
副作用 | 19.8%(75/378 例) | 15.0%(57/380 例) |
薬剤効果のみの Cox 比例ハザードモデルによるオセルタミビルリン酸塩群に対する本剤群のインフルエンザ主要症状罹病期間のハザード比(95%信頼区間)は 0.955(0.815, 1.118)であり、ハザード比の 95%信頼区間の下限値はあらかじめ設定された非劣性マージンを上回った。
非劣性マージンは、オセルタミビルリン酸塩開発時のプラセボを対照とした試験、及び JP205試験の結果を踏まえて、オセルタミビルリン酸塩投与群の罹病時間中央値(70 時間)に許容差(19時間)を加えた罹病時間分布のハザード比 0.784 を非劣性マージンとして設定した。なお、許容差については、以下の理由から設定している。
- 複数の試験を併合した結果から得られたプラセボとの差(34.3 時間)の 95%信頼区間下限値(19.5 時間)以内であること
- 全ての試験の中で最も小さかったプラセボとの差(23.3 時間)よりも小さいこと
- 全ての試験の中で最も大きかったプラセボとの差(42.5 時間)の半分以下の値であること

るるーしゅ
非劣性は示したけどね、もう散々言ってきてるから言いたいことはわかるよね・・・
発症から来院 までの時間 | 投与群 | 被験者数 | 中央値 | ハザード比 (95%CI) |
---|---|---|---|---|
12 時間未満 | F群 O群 | 32 45 | 60.8 44.5 | 0.667 (0.411~1.083) |
12 時間以上 24 時間未満 | F群 O群 | 117 110 | 52.3 51.0 | 0.900 (0.689~1.174) |
24 時間以上 36 時間未満 | F群 O群 | 109 113 | 67.5 57.6 | 0.877 (0.670~1.149) |
36 時間以上 48 時間未満 | F群 O群 | 71 72 | 57.5 48.9 | 0.830 (0.593~1.162) |
アビガンって結局どうなの?
ここまで4つの人を対象とした研究を紹介し、アビガン(ファビピラビル)の臨床効果について考えてきたいと思います。
今回の結果を見ていただければ、理論上は耐性も生じない素晴らしい薬ですが、臨床効果はプラセボを上回る効果はないように感じます。尚、早期に治療すれば効果的なのでは?という仮説もたてられますが、第Ⅲ相の結果見る限りでは、その傾向もなし…
私見としては…
アビガンは季節性インフルエンザには効果はない!!
安全性に関しては、尿酸値の上昇および催奇形性について考えなければいけませんね
新型コロナウイルス感染症には効果ありそう?
季節性のインフルエンザには効果がないことは、皆さんも理解できたのではないでしょうか(だから承認もされていないのですが)
つづいて新型コロナウイルス感染症についてですが、こちらに関しては、有効性を評価するための研究が現在進行中のため、まだ結論は出せないかと思います。
3,600 mg (1,800 mg BID) (Day 1) + 1,600 mg (800 mg BID) (Day 2 以降)、最長14 日間投与
日本感染症学会より

るるーしゅ
作用機序に対してのインフルエンザの臨床結果や、同様のRNAポリメラーゼ阻害薬であるレムデシビルの臨床結果から、あまり期待はできないかなと(裏切ってくれることを祈りますが・・・)
- アビガン審査報告書
- アビガン申請資料概要